りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2020年シーズンのUCIレースカレンダーを【UCIプロシリーズや一部1クラスレースも含めて】徹底解剖

 

新型コロナウイルス騒動も少しずつ落ち着きを見せ始め、各国のサッカーや野球などスポーツ界もおそるおそる再開に向けての道程を見せ始めている。

それはもちろん、サイクルロードレース界も同様。むしろ一足先に、といった感じで、7月からのUCIレースカレンダーが発表されている。

 

www.uci.org

 

このカレンダーについて、様々なメディアやSNSで、早速「予想」が展開されている。

私もそこに乗っていこうと考える。

 

ただし、UCIワールドツアーレースばかりに注目していても芸はない。

むしろ、3つのグランツールをはじめとした各種注目レースにおいて、重要なのはその「前哨戦」とも呼ばれる大小のレース群である。

 

よって今回は、3つの区分に分けつつ、全UCIワールドツアーレースと全UCIプロシリーズ、そしてとりわけ重要な一部の1クラスレースとを混ぜ合わせたカレンダーを作成したので、それをもとに各シーズンのレース構成を立体的に解説していく。

 

 

新型コロナウイルスで滅茶苦茶になってしまった2020シーズン。

それを再びリアルにイメージしながら開幕を待ち構える礎になれればと思う。

 

 

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ツール・ド・フランスに向けたレースたち(7~8月)

まず注目していきたいのは、8/29から開幕予定のツール・ド・フランスと、その前哨戦として考えられるレースたちである。

7月下旬から8月にかけての、全UCIワールドツアーおよび全UCIプロシリーズ、そして特に注目すべき1クラスのレースたちをまとめた以下の表を参考にしてほしい

黄色=UCIワールドツアー、緑色=UCIプロシリーズ、青色=1クラス

f:id:SuzuTamaki:20200613105310j:plain

 

まず、ツール・ド・フランスの前哨戦として普通にイメージできるのは8/12(水)〜8/16(日)の5日間で開催されるクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ。

本来8日間開催されるはずのこのレースが、前半の第2〜第4ステージを省略し、第1ステージの翌日から怒涛の山頂フィニッシュ4連発をかましてくる恐ろしいスケジュールとなっている。

当然、ツール制覇を目指すクライマーたちはこぞって参戦することになるだろう。とくに今年は、ツール・ド・スイスが中止になった分、例年以上の豪華な顔ぶれとなることも予想されている。

 

とはいえ、1チーム7名しか出場できないクリテリウム・ドゥ・ドーフィネは、それ単体ではツールの完璧な前哨戦にはなりえない。5日間に短縮されていることも、要因の1つだ。

 

そこで、注目しておきたいのが次のレースだ。

 

7/28(火)〜8/1(土)  ブエルタ・ア・ブルゴス(2.Pro) 

8/1(土)〜8/4(火)  ルート・ドクシタニー(2.1)

8/5(水) ミラノ~トリノ(1.Pro)

8/6(木)  モンヴァントゥ・チャレンジ(1.1)

8/7(金)〜8/9(日) ツール・ド・ラン(2.1)

8/15(土) イル・ロンバルディア(1.WT)

 

ブエルタ・ア・ブルゴスは本来、ブエルタ・ア・エスパーニャの前哨戦として開催されるステージレースである。

過去の総合優勝者の顔ぶれはホアキン・ロドリゲスやナイロ・キンタナ、アルベルト・コンタドール、ミケル・ランダなど・・・ここ2年はイバン・ソーサが連勝している。スペイン系の選手・チームが多く活躍している。

ルート・ドクシタニーはかつてはルート・ドゥ・スッドと呼ばれていたオクシタニー地域圏(=フランス南部のピレネー山脈沿いの地域圏)を舞台としたレースであり、1クラスながら伝統的にドーフィネ/スイスと並ぶ「ツール前哨戦」の1つ。ナイロ・キンタナやアレハンドロ・バルベルデなど、モビスター系の選手が活躍するほか、コンタドールもこのレースで総合優勝している。

そしてツール・ド・ランもまた、1クラスの小さいレースでありながら、グランツールライダーにとっては重要なレースの1つである。例年であればジロ・デ・イタリアの裏側で開催されるこのレースは、他の国籍の選手以上にツール・ド・フランスに本気を注ぐフランス人チーム・選手たちによって愛され、過去にはロマン・バルデやティボー・ピノらが総合優勝を飾っている。

そして、今年のツール・ド・フランスで初めて「山頂フィニッシュ」となる名峰グラン・コロンビエ。この山を初めてコースに組み込んだのがこのツール・ド・ランであった。

昨年のツール・ド・ランの最終日は今年のツール・ド・フランス同様にこのコロンビエ峠山頂フィニッシュ。そこで勝利を飾ったティボー・ピノが、昨年マイヨ・ジョーヌに手が届きかねない活躍を見せたことは記憶に新しい。

Embed from Getty Images

 

また、ワンデーレースとして注目しておきたいのがミラノ~トリノ。

例年であればイル・ロンバルディアに至る前哨戦イタリアンクラシック「最終戦」にあたるこのレースは、とはいえ他のイタリアンクラシックとは少し経路が違う、場合によってはイル・ロンバルディアとも違いさえする、「純粋クライマー向けワンデーレース」である。

過去の優勝者にはティボー・ピノ、ミゲルアンヘル・ロペス、リゴベルト・ウランなど、グランツール総合表彰台候補たちの名がずらりと並ぶ。

例年であればシーズン終盤戦のレースでしかないこのレースが、今年は「シーズン開幕」を告げる、最高峰の「ツール前哨戦」となってくれるだろう。

なお、最近の追加で15日にイル・ロンバルディアも追加された。こちらも同様にクライマー向けのワンデーレースなので、同様にツール前哨戦として機能するだろう。ただ、前哨戦にしては格が高すぎるレースであることと、ミラノ~トリノと比べて山頂フィニッシュではないという点がちょっと違う。

 

そしてもう1つ、モンヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジ。

昨年初開催となったこのレースは、その名の通りモンヴァントゥーの山頂フィニッシュという実に堂々としたレースである。

モンヴァントゥーに至るまでのアップダウンも激しく、まさにクライマーのためのワンデーレース。昨年はロマン・バルデも出場し注目を集めたが、直前のツール・ド・ルクセンブルクも総合優勝し絶好調だったヘスス・エラダが最後の最後でバルデを力でねじ伏せて優勝。その年のブエルタ・ア・エスパーニャでも1勝するなど、強さを見せつけていた。

 

ドーフィネだけではない。レース数が少ない今年だからこそ、この「より小さなレース」に集まるトップクライマーたちの活躍にも注目しておきたい。

 

 

また、ツール・ド・フランスはクライマーたちだけのものではない。

世界最強のスプリンターたちが鎬を削り合う舞台であることも間違いなく、そんな彼らにとっての「前哨戦」にあたるのが「ラ・プリマヴェーラ」・・・いや、今年は「ラ・エスターテ」と呼ぶべきミラノ~サンレモである。今年のドーフィネが例年以上にスプリンターに優しくないだけに、このミラノ~サンレモが果たすべき役割は例年とは一味も二味も違う。

 

なお、今年のツール・ド・フランスはそれ自体も「(ピュア)スプリンターに優しくない」とも言われている。平坦にカテゴライズされたステージがいずれもアップダウンに富んでおり、スプリンターといえどある程度のアップダウンに耐えうるだけの丘陵体制を必要とするのである。

ミラノ~サンレモは元よりやや「登れるスプリンター」向けなところはあるほか、その裏側で開催されるツール・ド・ポローニュもパンチャー向けのステージレースと言ってもよいレイアウトである。

そしてジロ・デッレミリアやブルターニュクラシックもまた、(前者はクライマー寄り、後者は北のクラシック寄りというグラデーションはあるものの)パンチャー向けのワンデーレース。

今年のツールで活躍するスプリンターたちは例年とはちょっと異なった傾向を見せる可能性があるが、それを予見するうえでこれらのレースは重要な意味を持つかもしれない。

 

その役割が読めないのがグラン・ピエモンテ。

このレースは、毎年結構大きくコースレイアウトが変わる。昨年はミラノ~トリノばりの山頂フィニッシュレイアウトでエガン・ベルナルが勝ったかと思えば、それ以前はジャコモ・ニッツォーロやソンニ・コルブレッリなどの、起伏に強いイタリアンスプリンターたちが勝利を飾っている。

今年のレイアウトは公式サイトでもまだ発表されておらず、不明(どこかにすでに出ているのかもしれないが・・・)。

これが昨年のようなクライマー向けになるのか、それともその前年のような(登れる)スプリンター向けになるかで、その役割は大きく変わることになるだろう。

 

 

ツール・ド・フランスが始まる8月下旬まではドーフィネしか見るべきレースはないかな?と思ったら大間違い。

実際、日本で見られるレースはドーフィネくらいかもしれないが、その他のレースの動向もしっかりと注目すべきであることは間違いないだろう。

 

 

ツール・ド・フランスの裏側(9月)

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さて、ある意味例年以上に盛り上がること間違いなしな今年のツール・ド・フランス。

しかし、そこに出場できるのは各チーム8名までであり、UCIプロチームに至っては、ごく一握りのチームしか参加を許されない。

 

よって、その「裏側」のレースについても、白熱した戦いが演じられるのは間違いない。例年であればこの時期はあまりレースがなく、ツール・ド・フランスに出場しないチームや選手たちにとっては束の間の「夏休み」となる期間ではあるものの、当然今年はそんなことを言っていられる時期ではない。

 

まず当然注目すべきがティレーノ~アドリアティコである。例年であればパリ~ニースと並び、シーズン最序盤の「ジロ・デ・イタリア前哨戦」とも言えるこのレース。今年はジロ開幕2週間前という、まさに正真正銘の前哨戦となった。

今年は伝統的な「チームTT開幕戦」を脱ぎ捨て、また、昨年は省略されていた「山頂フィニッシュ」も復活。

最終日の個人TTの存在は今年も昨年に続き3日間のTTを用意している*1ジロ・デ・イタリア前哨戦としてはこのうえなく相応しいものと言えるだろう。

 

なお、そのティレーノ~アドリアティコの直前に開催されている、同じくイタリアを舞台としたステージレース、セッティマーナ・インテルナツィオナーレ・コッピエ・バルタリも、小さいながらもイタリアの伝統的な「キングメーカー」なレースである。

過去にはダミアーノ・クネゴやカデル・エヴァンス、ルイ・メインティスなどの総合優勝者を輩出しており、昨年もミケル・ランダの活躍のほか、今年ブエルタ・ア・エスパーニャのエースを担う予定もあるというミッチェルトン・スコットのルーカス・ハミルトンが総合優勝している。

 

 

もう1つの注目軸がカナダ・ケベック州で開催されるグランプリ・シクリスト・ド・ケベックとグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルの「カナダ2連戦」である。

例年であればペテル・サガンやグレッグ・ファンアーヴェルマート、マイケル・マシューズなどの一流パンチャーたちが鎬を削り合うこのレースだが、今年は「ツール・ド・フランスの裏側」というかなり特異な存在となっている。

まず間違いなくサガンとファンアーヴェルマートはツールに出場するだろう。マシューズもおそらくそうだし、アラフィリップも昨年良い走りをしていたが同様にツールに出場することは間違いない。

では一体誰が活躍するのだろうか?

ツールに出るほどの揺るぎないエース中のエースではないものの、その成長速度においては比類ない若手、次代のエース候補たちが活躍しうる、そんな「ものすごく面白く楽しみな」レースになる気がしてならない。

 

個人的に最も注目しているのはチーム・サンウェブのマルク・ヒルシ。

昨年のクラシカ・サンセバスティアンでもファンアーヴェルマートに次ぐ集団2位、全体では3位という驚異のリザルトを残した2018年U23世界王者である。

Embed from Getty Images

 

丘陵レースも石畳レースも本格的な山岳レースもこなせるこの男は、このカナダ2連戦の約2週間後に開催される世界選手権男子エリートロードレースにおける優勝候補の1人でもあると睨んでいる。何しろ今年は彼の母国であるスイスでの開催なのだから。

U23世界王者となったインスブルックも今年と似たクライマー向けレイアウトだった世界選手権。

まさかの22歳による戴冠もまた・・・決して夢物語ではないだろう。そのためにも「カナダ2連戦」で勢いをつけてほしい。

 

 

その他、ユーロメトロポール・ツアーやグランプリ・ド・フルミー、プリムス・クラシックなどの「小さな北のクラシック」たちは、ツール・ド・フランスに出場できないような北フランス・ベルギー系の小さなUCIプロチームの選手たちにとって栄光を掴み取るための非常に大きなチャンスであり*2、この1か月後の「北のクラシック」本戦に向けた重要な前哨戦となるだろう。

アムステル、LBL、ロンド、ルーベ・・・一部の選手にとってはグランツール以上に重要なこの記念碑的なレースでの勝利を目指し、ツール・ド・フランス出場を自ら辞退したクラシックライダーたちの9月からの「胎動」にも注目していきたい。 

 

 

ジロとクラシック、そしてブエルタ(10月・11月)

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ジロ・デ・イタリア、そして春の・・・いや、「秋の」クラシックたち。

さらにはジロと重なる期間をもって開幕するブエルタ・ア・エスパーニャ。

この時期は「ジロ組」「ブエルタ組」そして「石畳クラシック班」との3チーム体制で動くことにはなるだろう。必然的にファンアーヴェルマート、セップ・ファンマルク、オリバー・ナーセンなどはジロにもブエルタにも出ることはなさそうだ(代わりにツール・ド・フランスに出場する可能性は高そう)。

 

なお、「アルデンヌ・クラシック班」はむしろブエルタ・ア・エスパーニャへの前哨戦としてそれらのレースを活用できそうだ。ティム・ウェレンスやマイケル・マシューズ、ダニエル・マーティンやマイケル・ウッズなどはアルデンヌ3連戦で足を温めつつブエルタ・ア・エスパーニャでもエース級の活躍を期待してもよさそうだ。

 

 

ブエルタの前哨戦としては9月末から続くビンクバンク・ツアー、昨年もアダム・イェーツが総合優勝(過去にはヴィンツェンツォ・ニバリが総合優勝)しているクロ・レースにも注目だ。

ビンクバンク・ツアーはあまりクライマー向けという感じのレースではないが、昨年このレースで3勝したサム・ベネットがその後のブエルタ・ア・エスパーニャでも圧倒的な強さを見せるなど、スプリンターたちにとっての「ブエルタ前哨戦」にもなりうるレースだ。

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逆に、これだけ豪華な「10月」であることは、昨年イル・ロンバルディアの1週間後開催であるがゆえに例年以上に白熱した展開を見せてくれたジャパンカップにとっては喜ばしいとはいえない事態となる。

何しろ「ジロ・ブエルタ・クラシック」3チーム体制の裏側なのだ。トップライダーどころか、ワールドツアーチームの選手も満足に来てくれるか・・・

 

ただ、その1週間後にはツアー・オブ・グアンシーも開催される。こちらも例年以上に選手集めに苦労はしそうだが、それでも(財力によってか*3)毎年注目選手が集まる傾向にあるこの中国のレースの「おこぼれ」に預かる希望を持ちたいところである。

最近の変更でツアー・オブ・グアンシーがシーズン最終版に移動してしまった! おこぼれに預かることが不可能になり、かなり危機的な状況に・・・。

ただ、ほぼ同時期に開催されるF1日本GPも中止が決まったため、そもそもジャパンカップも厳しいんじゃないかと言えばそれはそう。

 

そして11月になっても続くブエルタ・ア・エスパーニャ。

例年の「酷暑」を避けられるという意味では悪くない時期かもしれないが、この時期までグランツールが続くことは、翌年に向けての悪影響も決してないとは言えないところが不安ではある。

 

またもちろん、レースが上記の予定通り行われることは楽しみではあるが、最も重要視すべきなのはあくまでもあくまでも選手・スタッフの安全である。

まだまだ新型コロナウイルスの状況も「収束/終息」したわけではない。

安全を蔑ろにした開催にはならないことがまずは第一である。

 

 

それでも、このスポーツを深く愛する者として、希望を抱くことくらいは許してもらえればと思い、この記事を書かせてもらった。

焦らず、ほのかな期待を抱きつつ、状況の推移を見守っていこう。

 

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*1:とはいえ、ハンガリー開幕ではなくなったはずなので、TTはもしかしたら2日間だけになるかもしれない。

*2:昨年もユーロメトロポールで勝ったピート・アレハールトが今年コフィディス・ソルシオンクレディに移籍してプロ4年目待望のワールドツアーチームデビューを果たしている。

*3:あるいはワールドツアーという格と時期的なメリットか・・・それは今年に限ってはメリットとならないわけではあるが。

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