りんぐすらいど

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ロンド・ファン・フラーンデレン2020 プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:ベルギー

Region:フランデレン地域

Organiser:フランダース・クラシックス

First edition:1913年

Editions:104回

Date:10/18(日)

 

6ヶ月の延期を経て、ついに開幕する「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレン。

石畳と17の急坂に彩られたこの世界最高峰クラシックで、今年のクラシックシーズンは一つの頂点に到達する。

果たして今年、「戴冠」するのは誰か。

コース詳細と見所となるポイント、そして注目選手5名を紹介していく。

 

 

↓春にYouTube実況したものを予習にどうぞ!↓

youtu.be

 

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ロンド・ファン・フラーンデレンとは

ロンド・ファン・フラーンデレン、別名ツール・デ・フランドルは、1913年に初開催され、ペテル・サガンが優勝した2016年に第100回を迎えた伝統あるワンデーレースである。

格式の高いワンデーレースを意味する「クラシック」の中でも特に格式の高い5つの「モニュメント」と呼ばれるレースの1つであり、「フランドル1周」を意味するその名の通り、ベルギーの北部フランドル地方を舞台とする。

又の名を「クラシックの王様」。同時期に開催されるヘント〜ウェヴェルヘムやE3ビンクバンク・クラシックなどのフランドル・クラシックの総決算とも言えるレースになっており、その走行距離は250㎞を超え、全部で17もの石畳含む急坂(ミュール)が用意され、石畳を難なくこなせるパワーとテクニック、そして急坂で引き千切られない瞬発力とが同時に必要とされる、非常に高度なレースである。

 

それだけにその優勝者はグランツール制覇や世界選手権制覇にも劣らない至高の名誉を手にすることとなる。

地元ベルギー人はもちろん、世界中のクラシックレーサーにとっての頂点の1つ。

それがこの、キングオブクラシック、ロンド・ファン・フラーンデレンである。

 

 

コース詳細・見所

日本でも有名な「カンチェラーラ爆発」は2010年のロンド・ファン・フラーンデレンである。ただ、そのときとはコースが違っており、当時はゴール前10数キロの地点に置かれていたカペルミュールは現在残り100㎞地点に置かれることとなっている(当時のロンド・ファン・フラーンデレンのコース設定は現在のオンループ・ヘットニュースブラッドに引き継がれている)。

ただし、今年は新型コロナウイルスの影響により、このカペルミュールがカット。

残り100㎞地点であり、レースに影響を与える要素は決して高くはないものの、やはり象徴的な登りが消えることは残念ではある。

 

ただ、毎年の「勝負所」は今年も健在であり、以下、そのいくつかの注目ポイントを過去のレースを振り返りつつ紹介していく。

 

残り60㎞「2回目オウデクワレモント」

全長2,200m / 平均勾配4.0% / 最大勾配11.6%

全部で3回登ることになる2013年以降の大会の象徴「クワレモント旧道」。

勾配は決して厳しくはないが荒れた石畳の登りがひたすら延々と続き、本当の実力者だけがじりじりと前へ進むことのできるセクションとなる。

この時点ではまだ2回目で、ゴールまでも距離があるため、基本的にはそこまで決定的な動きは作られないのだが、2017年にはまさにここでジルベールの独走が始まった。

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2019年においてもステイン・ファンデンベルフとセップ・ファンマルクがここで逃げに乗り、のちのベッティオル優勝への伏線を作り上げた。

決して油断のできないポイントだ。

 

 

残り30㎞「クルイスベルグ」

全長2,500m / 平均勾配5.0% / 最大勾配9.0%

大会最長の石畳激坂は、ゴールまで残り30㎞という絶妙な位置にあることもあって、これまでも数多くの決定的な動きを作ってきた。

2018年もまさにそうだった。この10㎞手前に位置する「ターインベルグ」で30名ほどに絞り込まれたメイン集団の中で、クイックステップはジルベール、スティバル、ランパールト、そしてテルプストラと最も多くの選手を残していた。しかもその全員が、エース級だったのだ。

まず動いたのはスティバルだった。数々のレースで「先鋒」としての役割を果たし、その結果勝利を得ることもある男だ。このときも彼がきっかけを作った。

スティバルの攻撃に対してサガン、クウィアトコウスキー、ニバリが反応。後続が追いついたところでニバリがカウンターアタック。これについていったのがテルプストラだった。

 

クイックステップの全ての攻撃に逐次反応するわけにはいかない。とくに前年覇者ジルベールや、直前のドワーズ・ドール覇者ランパールトの動きは認められない。しかしE3でも独走勝利していたテルプストラもまた、逃してはいけない選手だった。結局は、クイックステップのカードの枚数が多すぎて、ライバルチームはどうしようもなかったのだ。

ニバリとともに抜け出したテルプストラは、そのまますぐに彼を突き放し、勝利へと至る独走を開始した。

 

ちなみにこのクルイスベルグは、2015年にもテルプストラがアタックして抜け出している。

しかしそのときはアレクサンドル・クリストフが食らいついてきてしまい、最後はスプリントで敗れてしまった悔しい思い出があり、2018年は見事なリベンジの舞台となったわけだ。

 

今年もこのクルイスベルグが見逃せない展開を生みそうだ。

 

なお、2016年はサガンがファンマルク、クウィアトコウスキとともにこのクルイスベルグの手前の舗装路で抜け出してカンチェラーラを置き去りにしている。

2019年も同じ舗装路区間でマチュー・ファンデルポールとワウト・ファンアールトが積極的な攻撃を見せ、これを抑え込むために動いたゼネク・スティバルが脱落している。

すでに2017年覇者ジルベールもこの時点で脱落しており、この年のクイックステップ敗北の予兆が確かに刻まれていた。

 

よって、この残り30㎞地点から始まるエリアについては、急坂クルイスベルグ以外も含め、常に警戒すべきポイントとなっている。

 

 

残り17㎞「3回目オウデクワレモント」

全長2,200m / 平均勾配4.0% / 最大勾配11.6%

残り14㎞「2回目パテルベルグ」

全長360m / 平均勾配12.9% / 最大勾配20.3%

いよいよクライマックス。ゴール前に用意された2つの登りの連続。

オウデクワレモントは長く荒れた石畳、パテルベルグは短い代わりに、前輪が浮いてしまいそうになるくらいに強烈な激坂となっている。

 

パテルベルクを「ペテルベルク」と名付けてしまいたくなるくらいに鮮烈な勝ち方を見せたのが2016年のペテル・サガンであった。

すでにクルイスベルグ手前で集団から抜け出していたサガンは、この「3回目オウデクワレモント」で加速を開始したカンチェラーラに追いつかれることもなく、最後に「2回目オウデクワレモント」で同行者ファンマルクを突き放した。

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2019年もベッティオルが抜け出して独走を開始したのがこの3回目オウデクワレモントであり、確実に勝負を決する最終ポイントなのである。

 

 

ラスト13㎞「王の道」

最後の登り「2回目パテルベルク」を越えたあと、残されたのは13㎞にわたって続く平坦路である。

私はここを勝手に、「王の道」と呼んでいる。

 

2016年のサガン独走、そして2019年のベッティオル独走は共に、決して逃げ切り確定と言えるような状況ではなかった。

2016年のサガンは後方からあの世界最強TTスペシャリストのファビアン・カンチェラーラが迫ってきているのであり、2019年もクリストフやナーセン、サガン、ファンアーフェルマートなどを含む15名もの強力な追走集団が迫ってきていたのである。

いずれも、独走するにはあまりにも厳しいーーそんな予感とは裏腹に、いずれの「王」も堂々としたペダリングで後続を寄せ付けることなく、まるで凱旋式でもあるかのように、黄金色に輝く最終ストレートを単独で走り抜いている。

  

この最後の13㎞は、まさに新王のための凱旋ロード。

今年も、オウデクワレモントとパテルベルクという最後の2つの登りを乗り越えた選手を、この13㎞は迎えてくれるに違いない。

 

 

 

注目選手紹介

アルベルト・ベッティオル(EFプロサイクリング)

イタリア、27歳

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昨年優勝者。しかし、それは決して大本命ではなく、意外な勝利でもあった。

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何しろ彼は北のクラシックスペシャリストというよりはパンチャーという印象の強い選手だったから。ロンド・ファン・フラーンデレンやパリ〜ルーベというよりは、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュなどの丘陵系クラシックの方が強いイメージだったから。

ただ、なんだかんだロンド・ファン・フラーンデレンも17の急坂の存在が、彼のような脚質にもチャンスを与える(そしてそれがロンドとルーベの大きな違いだ)。

そして今年も彼は決して調子は悪くない。ストラーデビアンケでは4位、直近のヘント〜ウェヴェルヘムでも4位だ。

ヘント〜ウェヴェルヘムでは終盤のシュテファン・キュングやマッテオ・トレンティンのアタックにいち早く反応してしっかり飛び乗るなど、重要な局面での判断力も素晴らしい。

弱点があるとすれば、純粋なスプリント勝負となったときは、他のルーラータイプの選手たちと比べて一歩劣る部分があること。

昨年は独走で勝利したからよかったものの、ヘント〜ウェヴェルヘムでも終盤にスプリント勝負に持ち込みたくなかったがゆえに積極的に攻撃に出ていた側面はある。

だから今年も、仕掛けるとしたら3回目オウデクワレモントやパデルベルクか。

さすがにディフェンディングチャンピオンとして警戒される部分はあるだろうから、なかなか難しいところである。

 

 

マチュー・ファンデルポール(アルペシン・フェニックス)

オランダ、25歳

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直近のヘント〜ウェヴェルヘムではたしかに、ロードレース特有の駆け引きに敗れ、9位という悔しい結果に陥ったファンデルポール。

彼はたしかに強く、その単独での力は軍を抜いてはいるが、しかしロードレースではまだまだ最強ではない、ということを思い知らしめたレースだった。

しかし、ロンド・ファン・フラーンデレンはまさにそういった個の実力も大きくモノを言うレースでもある。本当に強い者でないと勝てないレースとでも言おうか。そして「カペルミュールを4回登る」ビンクバンクツアー第5ステージでも、彼はしっかりと強さを見せて勝ち切った。

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とはいえ、ビンクバンクツアーでも「圧倒的」ではなかった。一時は1分半近いタイム差をつけて独走していた中でも、最後はわずか4秒にまで迫られていた。

だからこそ、仕掛け時が大事だ。周りを出し抜いて抜け出せるそのチャンスを掴み取った上で、あとは「ファンデルポール劇場」を実現させるだけ。

 

 

ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィズマ)

ベルギー、26歳

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ヘント〜ウェヴェルヘムではファンデルポール同様、沈んでしまった。

ただ、彼は終盤のキュングのアタックなど、重要な局面でしっかりと前に乗る的確な動きは見せていた。だが、彼を強くライバル視するファンデルポールが単身捕まえに来続けたために、最後のトレンティンのアタックのときには彼もまたファンデルポールを見てしまった。

世界選手権のときも同様だ。最後の登りでアラフィリップに食らいつけなかったばかりに、最後のイモラ・サーキットで、自分を警戒し続けるライバルたち相手に牽制、牽制の繰り返しで勝負を手繰り寄せることができなかった。

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まさに、「強者」のジレンマに陥りつつあるファンアールト。ここからいかにして勝ちを紡いでいけるか。偉大なる先達ペテル・サガンなどはここからが強かった。

この夏、彼がロードレース界における規格外の存在であることは十分に知らしめることに成功した。

あとは、そこから一段階さらに強くなるための、走り方を身につけることだ。

 

 

オリバー・ナーセン(AG2Rラモンディアル)

ベルギー、30歳

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バルデ、ラトゥールが抜けたAG2Rで、屋台骨を支える重要な選手が彼だ。

強いのは間違いないが、一方でなかなか勝てないこの男は、同じような立場である(そして来年は同じチームメートである)グレッグ・ファンアーヴェルマートに決して劣らない実力を持ちながらも、どうしても大きな結果には届かずにいる。

もしかしたら今回も勝てないかもしれない。だが、その調子が決して悪くないことは、ビンクバンクツアー第5ステージで最終盤に残っていたことからもよく分かる。

大事なのは、タイミングを掴み取ること。中途半端ではいけない。うまく歯車が噛み合えば、いつだってビッグレースを勝つことのできる男だ。

 

 

イヴ・ランパールト(ドゥクーニンク・クイックステップ)

ベルギー、29歳

ドゥクーニンクには今年フランドル初挑戦の世界王者ジュリアン・アラフィリップがいる。そうでなくとも、ブルターニュ・クラシック3位、ヘント〜ウェヴェルヘム2位と着実に成績を重ねてきているフロリアン・セネシャルもいる。

それでも、今年まだ勝ててないランパールトを推す。オンループ・ヘットニュースブラッドの2位、ビンクバンクツアー第5ステージの7位、ヘント〜ウェヴェルヘムの7位。目立たないかもしれないが、重要なところにたしかに彼はいた。ドゥクーニンクの「誰もが勝てる」走りの中で、今回抜け出してチャンスを掴むのはきっと、最後に「最も強い」この男だと思っている。

昨年のパリ〜ルーベでは大先輩のフィリップ・ジルベールのロンド制覇を支え、自らも3位。誇りに満ちた表情の影に、悔しさもたしかに滲み出ていた。

今度はこの男が主役になる番だ。

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