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シクロクロス界の「新星」エリ・イゼールビットと、立ち塞がる「怪物」

 

エリ・イゼールビットが強い。

22歳のベルギー人。2度のU23世界王者を経て、今年から本格的にエリート入りした期待の「新星」は、その期待を遥かに超えた活躍を見せている。

 

すなわち、3大シリーズ戦と呼ばれるシクロクロス界の「グランツール」にて、現時点で出場した全6レースで優勝。

マチュー・ファンデルポールもワウト・ファンアールトもいない中とはいえ、昨年のベルギー王者かつワールドカップ覇者のトーン・アールツすら寄せ付けない安定の走りは、もはや現代シクロクロス界のトップに君臨するレベルといっても過言ではない。

 

 

今年は昨年のベルナルに続き、タデイ・ポガチャルやレムコ・エヴェネプールなど、ロードレース界は若き才能の台頭に湧いた。

 

しかし、シクロクロスの世界においても、その流れが来ていると言える。

昨今のシクロクロス界の才能のロードレースでの影響の高さを思えば、この動きを決して、見逃すべきではないだろう。

 

 

エリ・イゼールビット。シクロクロス界の大いなる「新星」。

今回はそんな彼のここまでの走りを振り返りつつ、彼の前に立ちふさがるであろうあの「怪物」の動向についても、確認していきたい。

 

 

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「全戦全勝」の男

エリ・イゼールビットは、1997年10月22日にベルギーのコルトレイクに生まれた。

11歳でシクロクロスを始めた彼は、またたく間に国内のレースで勝利を重ね、ジュニア時代の2年間は共にベルギーの国内王者となった。

ジュニア2年目の17歳のときには、世界選手権で2位。

そして18歳のとき、U23カテゴリ1年目にしてその世界王者に輝いた。

Embed from Getty Images

 

20歳のときには2度目のU23世界王者となり、その他にも、U23カテゴリでのUCIワールドカップやDVVトロフェーでの総合優勝を果たしている。

彼が今後台頭してくる若手最強クラスの選手であることは誰の目にも明らかであった。

 

 

それでも、今年はエリートクラスでの1年目である。

いくらワウト・ファンアールトがツール・ド・フランスの怪我で今シーズンの復帰が絶望的だったとしても、いくらマチュー・ファンデルポールがロード世界選手権での疲れからの回復が遅れていたとしても、昨年ワウトと接戦を繰り広げワールドカップを初制覇したトーン・アールツやマイケル・ファントーレンハウト、クインテン・ヘルマンスらの強豪選手は揃っている。

この中で、上位数名の中に常に入り込むことができればイゼールビットには上出来。

そんな風に、思っていた。

 

 

 

しかし、9月14日に開幕した今年のUCIワールドカップ緒戦「アイオワシティ」および9/22の「ウォータールー」。

例年通りの北米開幕2連戦にて、エリ・イゼールビットが昨年王者のトーン・アールツを鮮やかに打ち破った。

www.ringsride.work

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十分に驚くべきことではあったが、昨年も、必勝と思われていたワウト・ファンアールトがここでアールツに2連敗している。

アールツもまだまだ本調子ではないのだろう。イゼールビットが強いのは間違いないが、ここだけではまだ何もわからない。そんな風に思っていた。

 

 

しかし、10/20に行われたUCIワールドカップ第3戦ベルン。ここでもまた、イゼールビットの強さは衰えを見せることがなかった。

www.cyclingnews.com

 

レースの序盤はなかなかリズムに乗ることができず、適切な空気圧を見つけるために何度もバイクを交換したというイゼールビット。

先頭集団はイゼールビットのほかにはチームメートのマイケル・ファントーレンハウトと、トーン・アールツ率いるテレネット・バロワーズの面々。数的不利な状態の中で、イゼールビットとファントーレンハウトは「お互いを理解するうえで多くの言葉はいらない」とイゼールビットが語るコンビネーションでもって、なんとかライバルチームの抜け出しを抑え込んでいた。

 

そして、レースが中盤に差し掛かると、ついに集団からイゼールビットがアタック。アールツが食い下がろうとするも、残り4周に差し掛かったところで突き放され、独走が始まった。

 

前日のスーパープレスティージュ第2戦ボームをスキップし「絶好調」だったというファントーレンハウトも、終盤に驚くべき走りを見せて単独でイゼールビットにブリッジを仕掛けようとする。

だが、この試みも最終的には失敗に終わり、彼もアールツとの間で2位争いをするのが精いっぱいとなってしまった。

 

「彼はいまや全く別のレベルに到達してるね」と、2年前の世界選手権銀メダリストのファントーレンハウトに言わせるほどの走りを見せたイゼールビット。

彼の実力がフロックでも何でもなく本物であることが、これで証明された。

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ワールドカップだけではない。

10/13から始まったスーパープレスティージュも、出場しなかった第2戦ボーム以外の2つで優勝。

さらに昨日開幕戦を迎えたDVVトロフェーも、開幕戦コッペンベルフクロスで致命的なメカトラブルに見舞われ、1分近いタイム差をつけていたトム・ピドコックに追いつかれるという危機的状況に見舞われるが、そこから結局は最終的に30秒以上のタイム差をつけて勝利。

メカトラブル分を踏まえれば、2位に1分半以上のタイム差をつけたことになり、それこそ昨年のマチュー・ファンデルポールを思い起こさせるような圧勝ぶりを見せつけた。

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これにて、今年の3大シリーズ戦の、出場した全レースにおいて優勝するという完全試合を更新中。

今や、現シクロクロス界における最強のライダーであると言っても過言ではない位置に、エリート1年目にしてのし上がったのである。

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いや、もちろんそう宣言するには早すぎる。

なぜならば、あの男がまだ、彼の前に現れていないのだから。

 

 

 

「怪物」の復帰

昨年、3大シリーズ戦のうち、「スーパープレスティージュ」は全戦全勝で圧倒的総合優勝し、「DVVトロフェー」は初日のコッペンベルフクロスで大崩れして4分という絶望的なタイム差をつけられたにも関わらずその後の劇的な快進撃で逆転総合優勝を果たしたという「怪物」マチュー・ファンデルポール。

宿敵ワウト・ファンアールトを下し2度目の世界王者にも輝いた彼は、今年、ロードレース世界選手権での激闘を経て、長い休息期間の末にいよいよシクロクロスに「復帰」する。

 

10月中旬からトレーニングを再開した。もちろん、シクロクロスシーズンを視野に入れているけれども、とくにシクロクロスに限ったトレーニングをしているわけではない。今のところクロスバイクに乗ったのは4回くらいかな*1

 

それでも、彼は「すぐにでも勝ちたい」とも宣言している。

 

シクロクロスでは、レースに出るからには勝つ以外のことは考えられない。自分がトップレベルのコンディションに戻るためには、レースを本気で戦うことが絶対に必要だから

 

 

9月末のロードレース世界選手権での「大敗」を経て、彼は8月の東京オリンピック・マウンテンバイクに向けて、再び力を取り戻していく必要に迫られている。

そのためにも、このシクロクロスシーズンは、休息明けからフルスロットルで飛ばしていくに違いない。

そんな彼が最初に挑む舞台は明日のスーパープレスティージュ第4戦ロッデルヴォールデである。

 

 

この数週間のレースを見て、僕は2人の選手に注目している。一人はもちろん、エリ・イゼールビット。今年はファンアールトがいないことがとても残念ではあるけれど、イゼールビットはその代わりになりうる選手だと思っている*2

 

ファンデルポールも日曜日のレースにおいてイゼールビットが最大のライバルとなり、最終局面において最も競り合うことになるであろう選手だと考えている。

 

あっという間に世界の頂点に近づいた「新星」イゼールビットと、「怪物」ファンデルポール。

世紀の対決の行方はいかに。

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一方、先のリンクにおいて、ファンデルポールはもう1人の注目人物を挙げている。

その名は、トム・ピドコック。

昨年のU23世界選手権でイゼールビットを打ち破った弱冠20歳の「天才」である。

 

 

 

もう1人の「新星」

トム・ピドコック(もしくはトーマス・ピドコック)はすでにロードレースの世界においても有名な人物である。

2017年ベルゲン世界選手権のジュニア個人タイムトライアル種目にて優勝。同年のパリ~ルーベジュニアでも勝利を獲得し、今年のツール・ド・ラヴニールでは、序盤のステージでチームメートのイーサン・ヘイターとともに圧倒的なスプリント力を見せつけた。

 

ロード界でも注目される新鋭も、今最もその実力を発揮しているのがシクロクロスである。

昨シーズンはヨーロッパ選手権・世界選手権ともに、エリ・イゼールビットを打ち破って優勝。

ある意味で、イゼールビット以上に注目される中、今年、早くもエリート1年目に挑むこととなった。

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その実力は間違いなく、スーパープレスティージュ第2戦ボームで3位、第3戦ガーフェレで4位、そして昨日のDVVトロフェー第1戦コッペンベルフクロスでは2位につける世界トップクラスの走りを見せ続けている。

 

が、今年のイゼールビットは今のところその上をいく実力を発揮。

コッペンベルフクロスでは終盤、ピドコックがイゼールビットと抜きつ抜かれつの激戦を繰り広げる場面もあった。

しかし、それは前述したように、イゼールビットが1分近いタイムロスを経たうえでの出来事であり、最終的には実質1分半以上、彼に突き放されての敗北であったのだ。

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今のところ、イゼールビットvsピドコックの新世代対決は、イゼールビットが数段上手といった状況。

とはいえ、ピドコックがアールツらと比べても圧倒的な実力をこのコッペンベルフクロスで見せつけたのは間違いなく、彼がイゼールビットと並び、シクロクロスの新たな時代を創り上げていくことは間違いない。

 

マチュー・ファンデルポールもまた、実際にイゼールビットと並びこのピドコックを注目選手として挙げた。

 

日曜日はきっと、エリと競り合うことになるだろうね。ピドコックもまた、粘り強い走りをみせてくれると思っている。さらに言えば、彼らはその力を惜しむことなく使い果たして見せるタイプの選手であり、その意味で彼らは僕に似ていると思っている。だからきっと、日曜日のレースはすごくタフなものになるだろうね・・・正直言って、楽しみだよ

 

 

「怪物」のお墨付きを得た2人の「新星」。

この3人が激突する、今夜のスーパープレスティージュ第4戦ロッデルヴォールデは、決して見逃すことのできない戦いとなりそうだ。

 

 

シクロクロスの新しい時代が幕を開ける。

 

 

 

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