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2022シーズン 2月主要レース振り返り(前編)

 

南フランスとスペイン、そして中東で繰り広げられる定番のシーズン序盤レースたち。その中でキンタナ、コカール、ヴィヴィアーニ、クリストフといったベテランたちの活躍もあれば、マキシム・ファンヒルス、カルロス・ロドリゲス、トビアスハラン・ヨハンネセン、マティアス・スケルモース、マライン・ファンデンベルフなど注目の若手選手たちも活躍。

まだまだシーズン序盤の小さなレースたちばかりではあるが、実に見ごたえのあるレースが揃った2月前半の5レースを振り返る。

 

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2021年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

 

目次

   

参考:昨年の1月~2月「主要レース振り返り」

www.ringsride.work

 

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サウジ・ツアー(2.1)

ヨーロッパツアー1クラス 開催国:サウジアラビア 開催期間:2/1(火)~2/5(土)

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中東サウジアラビアで開催される5日間のステージレース。初開催は1999年だが、2001年を最後に開催されず。

だが、2020年に復活。昨年は新型コロナウィルス流行の影響で中止となったため、今年は復活後2回目の開催となった。

なお、2020年大会はスプリンターのためのステージレースといった様相だったが、今年は第2ステージと第4ステージがパンチャー/クライマー向けの登りフィニッシュレイアウトに。さらに第4ステージは横風分断も巻き起こり、総合争いは波乱に満ち溢れることとなった。

 

最終的に総合優勝したのは、ロット・スーダルの若き才能マキシム・ファンヒルス。プロ初勝利からの総合優勝で、チームとしても第1ステージのカレブ・ユアンの勝利と合わせこれで早くも5勝を達成。昨年ワールドツアーチームランキングワースト2位だった苦しい状況から、一気に今期ここまでで最多チームへと変貌した。

ファンヒルスや彼の出身チームであるロット・スーダルU23などについては以下の記事で詳しく書いている。

www.ringsride.work

 

なお、勝ったのはファンヒルスだが、その実力においてはもしかしたら第2ステージを勝利したサンティアゴ・ブイトラゴの方が上かもしれない。

彼もこれがプロ初勝利となったバーレーン・ヴィクトリアス3年目の若手である彼は、第4ステージでは横風分断に巻き込まれて後方に取り残されてしまった。

それでも終盤は執念で追走集団にまで追いついたものの、最終的には36秒差でファンヒルスに追い付けずに終わった。

ファンヒルスはクラシカ・サンセバスティアン12位などどちらかというとパンチャータイプの選手のように思えるが、ブイトラゴはよりグランツールなど純粋な山岳に強いタイプのように感じる。

なお、第2ステージでも最後の登りでブイトラゴに追い付きながら2位、第4ステージでも登りでファンヒルスと共に抜け出した唯一の選手であったアンドレア・バジョーリこそが、実力で言えば最強だったかもしれない。

それこそ第1ステージでのあの落車さえなければ・・・レムコ・エヴェネプールとジョアン・アルメイダに匹敵する才能とすら言える彼の走りに、今後も注目である。

 

そしてスプリントでは初日こそジャスパー・デブイストの超牽引によって圧勝したユアンだったが、第3ステージではこのトレインが崩壊。代わりにルカ・メズゲッツとのコンビネーションを早速発揮して見せたディラン・フルーネウェーヘンが新チームでの第1勝目を早速飾ることとなった。

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そして第5ステージではユアンがフィニッシュ直前にパンクで後退したことにより、ライバル不在となったフルーネウェーヘンが2勝目。

元々出場予定だったサム・ベネットが直前に調子が上がり切らずに不参加となったのは残念だが、今年はフルーネウェーヘンが明確な復活を遂げられるか。

 

 

エトワール・ド・ベセージュ(2.1)

ヨーロッパツアー1クラス 開催国:フランス 開催期間:2/2(水)~2/6(日)

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先月末のグランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズに続き、南仏で開催される1クラスのステージレース。

本格的な山岳は登場せず、最終日のTTも特徴とするこのレースは全体的にはパンチャー/ルーラー向きのステージレース。直近ではティム・ウェレンス、ブノワ・コヌフロワ、クリストフ・ラポルトなどが総合優勝を果たしている。

第1・第2ステージはいずれも登りスプリント。第1ステージは10%弱の急勾配スプリントであり、ピエール・ラトゥールのアシストを受けたトタルエナジーズのクリス・ローレスが先行するも、これを追い抜いた元世界王者マッス・ピーダスンが、残り200mでローレスらを突き放し、圧勝。

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ラスト1㎞の平均勾配が12%という、第1ステージ以上の厳しさとなった第2ステージでは、アルベルト・ベッティオルや昨年ラヴニール覇者トビアスハラン・ヨハンネセンらを退けて再びピーダスンが抜け出す。

このままピーダスンの連勝なるか――と思っていたところで、何とブライアン・コカールがこれに食らいつき、並び立ったかと思うと最後は粘り切って先頭でフィニッシュラインを突き抜けた。

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だが、総合争いに影響を及ぼしたのは第3ステージ。レース名の由来ともなっている街ベセージュを発着するこのコースは、昨年もティム・ウェレンスの逃げきりが決まりそのまま総合優勝へと結びついたステージ。

今年はやや昨年よりは易化しているとはいえ、やはりサバイバルな展開が続き、最終的に抜け出したバンジャマン・トマが、現フランスTT王者の独走力を武器に逃げ切りを決めた。

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だが、総合2位ベッティオルとのタイム差はまだ7秒。油断できない状況で迎えた第4ステージは、ラストに1級山岳モン・ブケ(登坂距離4.8㎞、平均勾配9.1%)が控える、ベセージュにしてはかなり厳しい登りフィニッシュ。

このラスト2㎞で集団から飛び出した選手の1人が、前日の3位、昨年のツール・ド・ラヴニール総合優勝者のトビアスハラン・ヨハンネセン。

第2ステージの登りフィニッシュでも3位に入っており今大会絶好調であった彼が、最後はジェイ・ヴァインやクレマン・シャンプッサンらとの小集団スプリントも制し、早くも今季初勝利。ラヴニール覇者の強さをしっかりと証明してみせた。

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だが、第1ステージで大きく遅れてしまっていたヨハンネセンは、この勝利でトマを逆転することは叶わず。

最終日TTではトマがさらにリードを広げることに成功し、無事総合優勝を達成することとなった。

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そんな最終日TTを制したのはやはりこの男。世界選手権2連覇中の現世界最強TTスペシャリスト、フィリッポ・ガンナ。

昨年はシーズン前半、イマイチなところも見られていたが、それはやはりすべて東京オリンピックに向けての調整の結果であったのか。それもなくなった今年は序盤から絶好調で、彼にとって最も得意というわけではないはずのこの短距離TTでもしっかりと2位以下を圧倒する走りをしてみせた。

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ヨハンネセンの活躍については以下の記事を参照のこと。

www.ringsride.work

 

 

ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ(2.Pro)

プロシリーズ 開催国:スペイン 開催期間:2/2(水)~2/6(日)

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南フランスキャンペーンが進行する中、スペインの方でも1月のチャレンジ・マヨルカに続くスペインキャンペーンが。

マヨルカ島の「対岸」に位置するイベリア半島東海岸、バレンシア州を舞台に、実にスペインらしい山岳レースが展開された。

その第1ステージ、ラスト10㎞から始まる登りでバーレーン・ヴィクトリアスやモビスター・チームによる牽引、そしてラスト5㎞からのアントワン・トールク(トレック・セガフレード)やヤコブ・フルサン(イスラエル・プレミアテック)らのアタックなど、出入りの激しい展開が続いていたが、それらの隙を突いて飛び出したのがレムコ・エヴェネプールだった。

決して逃がしてはならない男を逃がしてしまったプロトンはもはやどうしようもなく。そのまま2位アレクサンドル・ウラソフに16秒差をつけて圧勝することとなった。

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だが、クイーンステージとなった第3ステージ、登坂距離9.8%・平均勾配7.5%、しかもラスト3㎞から1㎞にかけて凶悪なグラベル区間が待ち構えているという難易度の高いステージで、波乱が巻き起こる。

グラベル区間自体は何とか先頭付近でこなせていたエヴェネプールも、区間終了後、さすがに体力を使い果たしてしまったのか、一気に失速してしまう。

逆にここから飛び出したのが第1ステージ2位だったアレクサンドル・ウラソフ。集団からは第1ステージ3位、まだ21歳の昨年ラヴニール総合2位カルロス・ロドリゲス(イネオス・グレナディアーズ)が単独で追いかけるが、勢いに乗ったウラソフを止めることはできなかった。

最後はロドリゲスに14秒差をつけて勝利したウラソフ。エヴェネプールが41秒遅れでフィニッシュしたこともあり、総合逆転優勝。

今年からボーラ・ハンスグローエへと移籍した彼にとって、「激戦区」たるチーム内エース争いに向けて良い一歩目を踏み出すことができたと言えるだろう。

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第2・第4・第5ステージは集団スプリント勝負に。第2・第5ステージはファビオ・ヤコブセンが相変わらずの強さを発揮して危なげなく勝利。今年初出場を目指すツール・ド・フランスに向けて、好調さをアピールした。

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一方、第4ステージではアシストが少なく先頭に上がれないまま最終ストレートで囲まれてしまったヤコブセンは5位に沈み、代わってここ2年怪我で苦しみ続けてきたマッテオ・モスケッティが、実に2年ぶりの勝利を果たした。

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元ポーラテック・コメタ(現EOLOコメタ)。プロ1年目となる2019年からジロ・デ・イタリアで上位に入るなど強さを見せつけ、2020シーズンにはチャレンジ・マヨルカでパスカル・アッカーマンらを退けて2勝するなど、さらなる期待を感じさせる走りを披露していた直後の、落車による長期離脱。

この勝利が彼の復活の端緒となりうるか。

 

 

ツール・ド・ラ・プロヴァンス(2.Pro)

プロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:2/10(木)~2/13(日)

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グランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズから続く南フランスのレース群も、いよいよプロシリーズのレースへと突入する。

今年で7回目とまだ歴史は浅いが、本格的な山頂フィニッシュも登場し、出場選手も豪華な魅力的なレースである。

初日は7.1㎞の平坦プロローグ。エトワール・ド・ベセージュ最終短距離TTでも勝利したフィリッポ・ガンナが早くも今期2勝目。昨年はうまくいかない時期もあったが、やはり東京オリンピックトラックレースに向けての調整だったのか、それがなくなった今年はシーズン序盤から飛ばしまくっている。

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実際、ガンナはその後も強かった。第2ステージの登りスプリントでは、チームメートのフィリッポ・ガンナもエリア・ヴィヴィアーニもルーク・ロウもイーサン・ヘイターも脱落してたった一人になりながらも冷静に最終スプリントに参加。最後はさすがに加速力で叶わず勝利には届かなかったが、それでもジュリアン・アラフィリップに続く区間3位、ピエール・ラトゥールやアルノー・デマールを退けているのは素直に凄い。

だがそんなガンナも、さすがに最終日モンターニュ・ド・リュール山頂フィニッシュ(登坂距離13.4㎞、平均勾配6.74%)では崩れ落ちてしまった。過去、パリ~ニースで2度使われて、アルベルト・コンタドールとリッチー・ポートという、錚々たる顔ぶれが勝利している本格的山岳で、総合争いのフィナーレを演じたのは復活のナイロ・キンタナと、昨年総合2位の世界王者ジュリアン・アラフィリップ。

残り4㎞で飛び出したキンタナにアラフィリップがすぐさま食らいつくが、ここからのキンタナが非常に強かった。

ここ数年、キレのあるアタックを繰り出したかと思えば、それ以上は続くことなく、すぐさまタレてしまう場面の多かったキンタナが、この日は何度アラフィリップに食らいつかれようとも、繰り返し繰り返しアタックを繰り出し続けた。

アラフィリップが決して万全のコンディションでなかったのは確かで、本来の彼の実力通り鋭いカウンターを決められていればもしかしたらキンタナの足も止まったかもしれないが、この日はアラフィリップもついていくのがやっと――むしろ、無理にキンタナのペースに合わせてしまったことで失速し、後方から追い付いてきた昨年総合優勝のイバン・ソーサに抜かれ、最後は区間7位に沈んでしまう。

そして、ナイロ・キンタナ、昨年の5月のブエルタ・アストゥリアス以来となる勝利。そして総合でも逆転し、2020年以来2年ぶり2度目の総合優勝を果たした。

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そして、区間2位・3位に入ってきたのは、何と最後の最後でイバン・ソーサを追い抜いたマティアス・スケルモース(トレック・セガフレード)とマッテオ・ヨルゲンソン(モビスター・チーム)という、それぞれ21歳、22歳の若者。アメリカ人のヨルゲンソンは2019年ツール・ド・ラヴニールのポイント賞獲得者であり、昨年のパリ~ニースで総合8位。ラヴニールでのポイント賞ということで、それこそジュリアン・アラフィリップの後輩とも言える存在だ。スケルモースはレオパード・プロサイクリング出身のデンマーク人で、昨年のUAEツアーでは総合6位。

最終的にスケルモースは総合3位、ヨルゲンソンは総合4位となり、いずれも若くして才能豊かな、期待の存在であることを今大会でも見事に証明して見せてくれた。

 

そしてスプリントでは、横風により大混乱に陥った第1ステージの集団スプリントで、古巣復帰となったエリア・ヴィヴィアーニが圧倒的な力を見せつけて勝利。

さらにはブライアン・コカールも、1週間前のエトワール・ド・ベセージュ第2ステージに続く、強い勝ち方での見事な勝利。

コカールについては以下の記事で熱く語っているので是非読んでほしい。

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キンタナ、ヴィヴィアーニ、コカールといった懐かしい中堅~ベテラン選手たちが活躍すると同時に、ソーサやガンナも含んだ次世代の選手たちも活躍する4日間となった。

 

 

クラシカ・ドゥ・アルメリア(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:スペイン 開催期間:2/13(日)

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マヨルカ、バレンシアナとスペインを遍歴するプロトンはさらに南下し、イベリア半島南東部のムルシア、そしてアルメリアへ。

1クラスのブエルタ・ア・ムルシアは昨年のジロ・デ・イタリアの「ストラーデ・ビアンケ」ステージで悔しい2位を味わっていた若き期待のイタリア人パンチャー、アレッサンドロ・コーヴィが優勝。

そして続くスプリンター向けのこのクラシカ・ドゥ・アルメリアでは、一流スプリンターたちがガチンコの集団スプリント勝負を繰り広げた。

 

例年は強い横風で混乱することの多いこのアルメリアだが、今年は風も少なく至って平穏な形でフィニッシュへ。よって、上位5名は実力相応というべきか、昨年からの実績で独自に集計したポイント「通りの」メンバーが上位に入り込んだ印象だ。そんな中、チーム移籍を果たしたアレクサンデル・クリストフが移籍後初勝利。

シーズン初戦となったトロフェオ・アルクディアでは登りで遅れてチームメートのビニヤム・ギルマイに勝利を奪われたが、今度はしっかりとフィニッシュまで辿り着き、アンドレア・パスクアロンのアシストを受けながらチームに早くも3勝目をもたらした。昨年はジロ・デ・イタリアまで勝利のなかったチームが、今年はかなり好調を維持している。

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さて、番狂わせの少ない上位5名ではあったが、注目すべきは7位に入り込んだマライン・ファンデンベルフ。昨年のツール・ド・ラヴニールで2勝、ポイント賞も獲得した、今シーズン最も注目すべき若手平坦系ライダーである。

その才能はエリートでも通用するのか・・・と思っていた中で、いきなりこの面子の中で7位に入り込むというのは、間違いなく本物。しかもアシストの少ないEFで・・・荒れた展開でも強そうなので、今後が本当に楽しみだ。

 

 

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