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UAEツアー2022 プレビュー

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Jsports初登場! 今年最初のワールドツアーレース、UAEツアーがいよいよ開幕する。

平坦スプリントステージ、個人TT、そして2つある山頂フィニッシュなど、非常にバランスの取れたステージ構成で個人的にはグランツールに次ぐ魅力的なステージレースであると感じている。

そして中東マネーを活用し、出場選手も豪華・・・のはずだったのだが、新型コロナウィルスの影響などもあり、早速出場できない選手が出てきたり各チームの人数も減ったりと、混乱はみられる。

それでも昨年ツール・ド・フランス総合優勝者タデイ・ポガチャルに、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合4位アダム・イェーツ、ツール4勝のマーク・カヴェンディッシュに今年いきなり2勝を挙げているディラン・フルーネウェーヘンなど、各方面の注目選手たちが集まるこの7日間の中東レースを、コース詳細および注目選手に分けて紹介していこう。

 

目次

 

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コース詳細

第1ステージ マディナ・ザイード〜マディナ・ザイード 184㎞(平坦)

アブダビ首長国最西端かつ最大の地域であるアルガルビアにおける最大の都市ザイード(マディナは都市の意味)。

そこから南のリワ・オアシスまで砂漠の中を突っ切り、到達後同じ道を今度は逆に戻って再びザイードの街に辿り着いたところでフィニッシュとなる。

直線かつオールフラット。完璧なスプリンターのための戦いが演じられることになるだろう。UAEツアーの前身であるアブダビ・ツアーでは2017年と2018年に同じ地域でレースが行われ、それぞれマーク・カヴェンディッシュとアレクサンデル・クリストフが勝利している。

一方で、砂漠の中を突っ切るレイアウトは当然、横風に注意したい。昨年のUAEツアー第1ステージも横風によって集団が大分裂し、先頭集団はわずか23名に。その中で、マチュー・ファンデルプールが勝利を飾っている。

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今年は平穏に終わるのか。それとも。

 

 

第2ステージ フダリアット島〜アブダビ・ブレイクウォーター 176㎞(平坦)

昨年の個人TTや2019年のチームタイムトライアルの舞台となった、アブダビ首長国の人工島アル・フダリアットから、昨年の最終日の舞台となりカレブ・ユアンが勝利したアブダビ中心部アブダビ・ブレイクウォーターまで。

途中、F1アブダビグランプリの舞台であり、昨年はマックス・フェルスタッペンの劇的逆転優勝のドラマが描かれたヤス・マリーナ・サーキットも通過する、アブダビの繁栄を象徴するステージとなっている。

今年も昨年同様に大集団スプリントが繰り広げられ、今期最強スプリンターを占うことになるだろう。砂漠の中を突っ切った前日と比べれば、横風の影響は比較的少ないはずだ。

昨年ツール4勝のマーク・カヴェンディッシュ、昨年ブエルタ2勝のジャスパー・フィリプセンのほか、エリア・ヴィヴィアーニ、アルノー・デマール、パスカル・アッカーマン、サム・ベネット、そしてシーズン開幕直後2勝をいきなり叩き出している移籍組ディラン・フルーネウェーヘンなど・・・。

今年のトップスプリンター争いもいよいよ本格化していく。

 

 

第3ステージ アジュマーン~アジュマーン 9㎞(個人TT)

アラブ首長国連邦を構成する7つの首長国の中で最小となるアジュマーン首長国の首都アジュマーンを舞台とした「超短距離・ド平坦」個人TT。コースも非常に単純で、ゆるやかなカーブをいくつか経て終端まで突き進んだ末に180度カーブで折り返してフィニッシュするだけ。

横風には注意すべきだが、それ以外では単純な出力勝負となることだろう。

昨年の13㎞個人TTはフィリッポ・ガンナがさすがの力を見せつけて勝利。そして今年もここまでのレースで登場している2つの超短距離個人タイムトライアルでどちらもガンナが優勝している。今回も間違いなく最大の有力候補となるだろう。

もちろん、ほかにも注目の選手はいる。昨年大ブレイクし、このUAEツアーの個人TTでも2位となった(そして3月のパリ~ニースではついに優勝した)シュテファン・ビッセガー、エドアルド・アッフィニ、ミッケル・ビョーグ、さらには総合系としてジョアン・アルメイダやタデイ・ポガチャル、東京オリンピック銀メダリストのトム・デュムランなども勝負に絡んできそうである。

個人的には昨年のU23カテゴリで国内・欧州・世界の3冠を達成している世代最強TTスペシャリストのヨハン・プリース=パイタスン(トレック・セガフレード)がどんな走りを見せてくれるのかも期待である。

 

 

第4ステージ フジャイラ要塞~ジュベル・ジャイス 181㎞(山岳)

アラブ首長国連邦最古にして最大の要塞を出発し、UAEツアー名物の2つの山頂フィニッシュの1つ、ジュベル・ジャイスがフィニッシュに待ち構える。

標高1,941mのジュベル・ジャイスの頂上はアラブ首長国連邦で唯一雪が観測されている場所でもある。もちろん、選手たちがフィニッシュする最高地点はそこまでではなく、標高1,491m。それでも、シーズン序盤においては十分すぎるほどの山頂フィニッシュである。

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登坂距離21.1㎞、平均勾配5.4%。ただしラスト3㎞に最大勾配9%が含まれ、この区間の平均勾配は7%を超える。

まるで月を登るかのように不毛で岩の多いロケーションの中で、2019年にここで勝利したのはプリモシュ・ログリッチ、そして昨年はのちにツール・ド・フランスで世界中を驚かせた天才ヨナス・ヴィンゲゴーが勝利している。

今年、ユンボ・ヴィスマのエースとして参戦するのは3年前にログリッチに敗れたトム・デュムラン。今年、ジロ・デ・イタリアで(おそらくは)エースの片割れとして参戦する予定の男が、総合エースとしての復活を見せることができるか。

 

 

第5ステージ ラアス・アル・ハイマ・コーニッシュ~アル・マルジャン島 182㎞(平坦)

アラブ首長国連邦の北東端に位置するラアス・アル・ハイマ首長国の首都を巡る都市型平坦スプリントステージ。

フィニッシュ地点は珊瑚の形をした人工群島。UAEツアーの前身レースの1つである「ドバイ・ツアー」時代から何度か使われており、2017年にはマルセル・キッテル、2018年にはマーク・カヴェンディッシュ、そして昨年はサム・ベネットといった、その時代時代の最強スプリンターが勝利を飾ってきている。

昨年は怪我やチームとのいざこざでシーズン後半の存在感を失っていたサム・ベネット。今年のデビュー戦となるはずだったサウジ・ツアーも直前で欠場している彼が、今回こそその強さを見せつけられるか。

毎年のように主役が代わる「スプリンター戦国時代」。その戦乱の時代に終止符を打つものは誰だ。

 

 

第6ステージ EXPO2020ドバイ~EXPO2020ドバイ 180㎞(平坦)

現在絶賛開催中の中東初の大規模博覧会「EXPO(万国博覧会)ドバイ2020」を記念した、ドバイ市中を駆け巡るお祭りレース。ドバイ名物の(そしてドバイ・ツアーから続くこのレースの名物でもある)パーム・ジュメイラも通過する。だが、パーム・ジュメイラがフィニッシュ地点ではなく途中に通過するだけというのはもしかしたら初かも?

ただ、勝利するのは変わらず最強スプリンターであろう。過去、ドバイで勝利しているのはエリア・ヴィヴィアーニ(2015年と2016年)、マルセル・キッテル(2017年)、ディラン・フルーネウェーヘン(2018年)、サム・ベネット(2019年と2021年)、パスカル・アッカーマン(2020年)。

今年は誰が勝つのか。過去に勝っていない、実力ある選手としては、昨年ブエルタ2勝に加えツール・ド・フランスでも2位を3回、3位を3回と絶大なリザルトを残しているジャスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス)に注目したいところ。ただ、マーク・カヴェンディッシュとの相性は最悪なので果たして・・・。

 

 

第7ステージ アル・アイン~ジャベル・ハフィート 148㎞(山岳)

満を持して登場するのが、このUAEツアーの(前身アブダビ・ツアー時代から続く)象徴とも言える、元祖にして至高の山頂フィニッシュ、ジャベル・ハフィート。今年は7日間のクライマックスを飾る、最高の登場の仕方をしてくれる。

登坂距離10.8㎞。平均勾配は6.6%。そのプロフィールだけ見れば第4ステージのジャベル・ジャイスよりも難易度が低いように見えるが、フィニッシュ前3㎞地点に最大勾配11%区間を含み、そこに至るまでの6㎞(ラスト10㎞を過ぎてから3㎞近くに至るまで)の平均勾配は8%と、部分的な難易度はジャベル・ジャイス以上。

そして何よりラスト3㎞の緩やかかつ登っては下る細かなレイアウトが過去、いくつものドラマを生んできた。

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過去のジャベル・ハフィート優勝者は、アブダビ・ツアー時代を含みエステバン・チャベス、タネル・カンゲルト、ルイ・コスタ、アレハンドロ・バルベルデ(2回)、アダム・イェーツ、そしてタデイ・ポガチャル(2回)。

今年も昨年総合優勝者にしてジャベル・ハフィートを2回制している男、タデイ・ポガチャルが圧倒的有利と見られているが、直前に新型コロナウィルスに罹患している彼が、果たしてどこまでその実力を出せるかというと・・・。

もしポガチャルが実力を発揮できなければ、昨年はそのライバルであった総合3位のジョアン・アルメイダが輝きうるだろう。もちろん昨年総合2位でこのジャベル・ハフィートでも勝利している相性ばっちりのアダム・イェーツも期待大であり、先日のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナで圧倒的強さを見せて新チームでいきなりの総合優勝を決めたアレクサンドル・ウラソフにも注目したい。

ただ、気になるのは新型コロナウィルスの行方。すでに開幕前から、多くの選手の出場を阻害して混乱せしめているその病が、今回もいくつかの優勝候補を含むチームを途中撤退させる可能性は十分にありえる。過去にはこのレース自体がそれで途中終了という憂き目にもあっているので。

 

落車や病魔での優勝候補撤退は非常にやるせない。それ以上に選手たちの健康も含め、どうか無事に終わってくれることを願ってはいるのだが・・・。

 

アマビエ置いときます。

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注目選手

※年齢表記は2022/12/31時点のものとします。

※身長・体重表記は2022/2/19現在のPro Cycling Statsを参照しております。

 

タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)

スロベニア、24歳、176㎝、66㎏

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「地元チーム」UAEチーム・エミレーツのエースは当然この人。

現役最強のグランツールライダーにして昨年はツール・ド・フランスだけでなくリエージュ~バストーニュ~リエージュとイル・ロンバルディアも同時に制した、最強のクライマーと言ってよい。TT能力も高く、このUAEツアーとの相性もばっちりだ。

万全の状態であれば、10人に聞いて10人が答えるほどの優勝候補。だが、今回、不安点があるとすれば、直前の新型コロナウィルス罹患。

トレーニング不足、呼吸器系への後遺症等々・・・これまでも数多くの選手が影響を受けているこの疾患が、今回のこの「無敗の帝王」を苦しめる可能性はある。

だが、さすがに地元チームは気合が違う。もしポガチャルが厳しければ、ということで2の矢として、今年チームに迎え入れた昨年までのポガチャルのライバルであり、昨年の総合3位でもあるジョアン・アルメイダ(ポルトガル、24歳)が控えている。

彼もTT能力も高くUAEツアーとの相性はばっちり。昨年のUAEツアー時点ではパワー不足により重要な場面で遅れアダム・イェーツにも敗れて総合3位に終わっていたが、その後のジロ・デ・イタリアではサイモン・イェーツに突き放されたあとも一定ペースで食らいつき最後はこれを抜き去るなど総合的な成長が著しく見られている。

今年はポガチャルのアシストとしてツール・ド・フランスに出場する予定で、UAEツアーはその練習の一環ではあるようだが、上記のようにチャンスもありうるため、全力で頑張ってほしい。

その他、今回のUAEチーム・エミレーツはジョージ・ベネットやパスカル・アッカーマンなど、新獲得のキーライダーを多く連れてきており、必勝を狙うとともに、新体制での具合を確かめる機会と位置付けているようだ。

実際、ベネットとマイカはガチガチの山岳アシスト、アッカーマンにはマキシミリアーノ・リケーゼをつけ、TTではミッケル・ビョーグという選択肢も用意するなど、あらゆる局面での「勝利」を本気で狙いに来ているUAEチーム・エミレーツ最強体制。

果たして成功を掴めるか。

 

アダム・イェーツ(イネオス・グレナディアーズ)

イギリス、30歳、173㎝、58㎏

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2020年のこのUAEツアーではタデイ・ポガチャルを倒して彼自身初のワールドツアーステージレース総合優勝を果たす。そして昨年はイネオス入りし、総合2位。ブエルタ・ア・エスパーニャでは総合4位となるなど、躍進を遂げていた。

昨年はシーズン序盤の好調ぶりから「やっぱりツール・ド・フランスに出たらいいのでは?」という声も囁かれながら、初志貫徹でブエルタに出場し成功したと言える結果を出したアダム。今年も今のところはグランツールのスケジュールは不明だが、層の厚いチームに守られながら、彼が伸び伸びと走れる機会をもたらしてもらえるはずだ(ベルナルの負傷が何らかの影響を及ぼすかもしれないけれど・・・)。

今大会もチームメンバーは非常に豪華。最強のアシストであるミハウ・クフィアトコフスキとアンドレイ・アマドールに加え、若手超有望株のルーク・プラップ、そして今期ここまで2勝と調子の良いエリア・ヴィヴィアーニに横風職人ルーク・ロウ、さらにTT最強の優勝候補のフィリッポ・ガンナ。

アダム・イェーツの総合上位は期待されているだろうが、決してそれが重圧にならないような布陣でもあり、ぜひ気兼ねなく全力を尽くしてほしい。

 

トム・デュムラン(ユンボ・ヴィズマ)

オランダ、32歳、185㎝、69㎏

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昨シーズン冒頭に衝撃の活動休止を宣言したトム・デュムラン。しかしその後、チームの支えによるものか、半年ほどで復帰し、東京オリンピック個人タイムトライアルでは銀メダルを獲得。その他、ベネルクス・ツアーのロンド・ファン・フラーンデレンステージでも最後ソンニ・コルブレッリのアタックに唯一食らいついて3位に入るなど、順調に復帰を進めていた。

今年はジロ・デ・イタリアに出場を宣言。それがエースとして走るのか、またそうだとしても単独エースなのかトビアス・フォスとのダブルエース体制なのかはまだ不明だが、まずは彼が自転車ロードレースに再び復帰し、そして彼なりにまた未来に向かって前向きに進もうとしている姿勢を素直に喜びたい。

そのうえで、2022シーズンの開幕戦に選んだのがこのUAEツアー。2017年のアブダビ・ツアーでは総合3位。2019年の第1回UAEツアーではジャベル・ハフィート山頂フィニッシュでプリモシュ・ログリッチに続く区間2位。相性は悪くないこのレースで、おそらくは単独エースとしてシーズン開幕戦を飾る(一応、クリス・ハーパーがダブルエースとして機能する可能性はある)。

決して大きな成果は期待しない。だが、得意のTTも含め、全力で戦い爪痕を残す姿が見られたらそれだけで嬉しい。

なお、チームメートのダヴィド・デッケル(オランダ、24歳)も、ネオプロ1年目の初日レースだった昨年のUAEツアー第1ステージでいきなりの2位。しかもそのあと第4ステージでもまた2位になりポイント賞も獲得するなど大活躍をして見せていた。

その後はそこまででもないシーズンだったが、今年またこのUAEツアーで勢いを取り戻して見せることも期待したい。

 

マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファヴィニル)

イギリス、37歳、175㎝、70㎏

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昨年は誰もが驚き、感動したツール・ド・フランス4勝を叩き出した復活の英雄。一方で、その奇跡はあくまでも奇跡であるという思いも捨てきれないことは確かで、今年のツール・ド・フランスに彼が出場できるかどうかはまだ不透明である。

だが、そんな声をすべて吹き飛ばすかのように、今年の初戦となったツアー・オブ・オマーンで早速1勝。今回もミケル・モルコフを引き連れて引き続き絶好調であることを証明しにやってくる。

実績ベースでの最大のライバルはジャスパー・フィリプセン。だが、フィリプセンとの相性は良く、昨年は8勝3敗で勝ち越している。あとはサム・ベネットやパスカル・アッカーマン、エリア・ヴィヴィアーニ、アルノー・デマールら昨年は不調だった選手たちが、本来の力を取り戻せなければ十分にチャンスはあるだろう。

その他、総合エースで昨年イル・ロンバルディア2位のファウスト・マスナダは、今年もツアー・オブ・オマーンで1勝&総合2位と調子が良く期待したい。

昨年ツール・ド・ラヴニール1勝のネオプロ、イーサン・ヴァーノンはまずはカヴェンディッシュの発射台の1人として活躍するか?

 

ジャスパー・フィリプセン(アルペシン・フェニックス)

ベルギー、24歳、176㎝、69㎏

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元UAEチーム・エミレーツで昨年アルペシン・フェニックス入りしたときは割と驚きであった。すでにアルペシン・フェニックスにはティム・メルリールというトップスプリンターが在籍しており、実力あるフィリプセンでも決してエースの座を掴むのは簡単ではないだろうと思っていたから。

実際、シーズン前半はどちらかというと影が薄かった。メルリールがジロとツールでそれぞれ初日スプリントステージで優勝するのに対し、フィリプセンはツールでは結局、最後まで勝利を掴むことはできなかった。

だが、そのツールでは2位を3回、3位を3回と、勝てはしなかったがかなり安定した実力を発揮していた。そして、ブエルタ・ア・エスパーニャ。ここでも、勝利数でいえばクイックステップのファビオ・ヤコブセンに敗れたものの、それでも2勝を叩き出し、ヤコブセンと並ぶ最強スプリンターの一角であったことは確かだ。

シーズン全体を通しての実績でいえば、メルリール以上の成果であったフィリプセン。独自集計ポイントを元にした昨年のスプリンターランキングでも上位に入り込む「最強スプリンター」であった。

そんな彼のシーズン開幕戦。世界に名だたるトップスプリンターたちが出場し、かつ割と純粋な実績上位者が波乱なく勝利することの多いこのUAEツアーで、フィリプセンもまた、昨年だけの男ではないことを証明できるか。

問題はマーク・カヴェンディッシュとの相性がとても悪いこと。そのトラウマの払拭も、今大会の目標の1つとしていきたい。

 

ディラン・フルーネウェーヘン(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)

オランダ、29歳、177㎝、70㎏

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昨年の移籍市場である意味最も衝撃を巻き起こした移籍の1つである、このフルーネウェーヘンのバイクエクスチェンジ移籍。

不安もある中で、その「新生フルーネウェーヘン」がサウジ・ツアーでいきなりの2勝を叩き出した。同じく絶好調さを見せているカレブ・ユアンを相手取り(1回は彼のメカトラに助けられたところもあるが)ルカ・メズゲッツの完璧なリードアウトからの圧倒的実力を見せつけての勝利。相変わらずの冷静極まりないフィニッシュポーズにて、新チームのスポンサーをしっかりとアピールして見せた。

色々とネガティブな要素もどうしても付きまとう彼にとっては、とにかく勝利で主張し続けなければならない。このUAEツアーと、このあとのパリ~ニースでの絶対的な活躍をもって、ツール・ド・フランスに「最強」の1人として乗り込むために。

元「最強」スプリンター、ディラン・フルーネウェーヘン。その真の復活の幕開けとなるか。

なお、チームメートのカーデン・グローヴス(オーストラリア、24歳)も今年、ツアー・オブ・オマーンで2位が2回、3位が1回と好調。元々ネオプロ1年目となる2020年にヘラルドサン・ツアーでいきなり2勝するなど注目のデビューを飾ったものの、その後はやや大人しくなってしまっていた男。今回はフルーネウェーヘンの発射台という役回りかもしれないが、彼もまた、今シーズンでの再ブレイクを期待している。

 

サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)

アイルランド、32歳、178㎝、73㎏

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2020年ツール・ド・フランス2勝、そしてマイヨ・ヴェール。他の多くのスプリンターと同じく、彼もまた、クイックステップに入ったことで成功を掴んだ男の1人だと思っていた。

しかし昨年、彼は怪我で苦しみ、ツール・ド・フランスを逃した。そして、ボーラ・ハンスグローエへの復帰の選択・・・2年ごとに主役となるスプリンターを変えるのは(財政的事情も相まって)クイックステップではお決まりの姿ではあったが、今回はややこれまでのパターンとは様相が違うような印象もあった。

逆に言えば、これまでのクイックステップスプリンターと違い、離れた後の急激な不調は彼にはない、と信じたいところ。同じスペシャライズドの自転車に乗れるということも相まって、古巣ボーラでも(実際にその時代から見せていた)強力なスプリントで再び世界の頂点に立てるか。

ただ、今期初戦のはずだったサウジ・ツアーも結局直前で不調を理由に?欠場。果たして今回も万全の状態で臨めているのか・・・。

むしろ総合上位候補であるアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、26歳)の方がより注目するべきかもしれない。昨年ジロ・デ・イタリア総合4位の伸び盛りのこの若者は、今年緒戦のトロフェオ・ポランサで3位、そしてボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナでもクイーンステージでレムコ・エヴェネプールもヤコブ・フルサンも、アレハンドロ・バルベルデもエンリク・マスも突き放して優勝。総合優勝も我が物とした。

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ポガチャルやアダム・イェーツらの上位候補の間に割って入り、今年こそグランツール総合表彰台を手中に収められるか。今年1年の飛躍に期待できる存在の1人だ。

 

 

その他、昨年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合5位のジーノ・マーダー(バーレーン・ヴィクトリアス)やジャコポ・グアルニエーリ、マイルス・スコットソンなど頼れるアシストたちを引き連れてきているアルノー・デマール(グルパマFDJ)、ツアー・オブ・オマーンでも総合優勝し今年は超絶絶好調中のアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ率いるヤン・ヒルト、さらには昨年ツール・ド・ラヴニール区間2勝、今年もプロデビュー直後いきなりのクラシカ・ドゥ・アルメリア7位など才能を見せつけているマライン・ファンデンベルフ(EFエデュケーション・イージーポスト)など、若手含めた多数の注目選手に期待していよう。

 

あとは、彼ら楽しみな選手たちが、新型コロナウィルス影響の流行で早々に離脱する、なんてことがなければいいのだが・・・。

 

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