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Team Total Direct Energie 2021年シーズンチームガイド

 

読み:チーム・トタル・ディレクトエネルジー

国籍:フランス

略号:TDE

創設年:2000年

GM:ジャン=ルネ・ベルノードー(フランス)

使用機材:ウィリエール(イタリア)

2020年UCIチームランキング:24位(昨年16位)

(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります) 

 

【参考:過去のシーズンチームガイド】 

Direct Energie 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Direct Energie 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Team Total Direct Energie 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

 

目次

 

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2021年ロースター

※2020年獲得UCIポイント順

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2019年のプロコンチネンタルチームランキング1位だったこのチームも、2020年はアルペシン、アルケア、サーカス・ワンティ、ニッポに続く5位。新型コロナウイルスの影響で小さなレースが軒並み中止となっている中で、全ワールドツアーレースに出られるという優位性があった中でのその結果は、割と本当にひどいぞ。

 

その意味で、今年の補強はベルノードーGMの「本気」を見た気がする。

すなわち、AG2RからNo.2総合エースたるピエール・ラトゥールを獲得。さらに彼と共にロマン・バルデを支える存在であったアレクシー・ヴィエルモ、アレクサンドル・ジェニエスなどの一流クライマーたち。

さらにはスプリント、クラシック、逃げなど数多くの場面で活躍する万能ノルウェージャンスプリンター、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン。

そして元ラヴニールでの区間勝利者でイネオスに在籍していたパンチャー/スプリンターのクリストファー・ローレスなどである。

 

もちろん、新加入選手ばかりではない。元々このチームにいた選手たちも着実に成長している。

新体制下でもチーム最高ポイント獲得者となっているのはアントニー・テュルジ。2019年にマチュー・ファンデルポールに敗れたことを本気で悔しがったこの男が、2020年にはコッペンベルフでジュリアン・アラフィリップと共に一時先頭に躍り出るなどさらなる進化を見せつつあり、これからもチームの顔としての活躍に期待が持てる。

さらには、ロンド・ファン・フラーンデレン制覇という大きな成果を提げて話題とともに移籍してきたはずのニキ・テルプストラ。

この2シーズンは思ったような活躍を見せられていないが、そろそろ「復活」なるか。

 

 

注目選手

ピエール・ラトゥール(フランス、28歳)

脚質:オールラウンダー

Embed from Getty Images

2016年にツール・ド・ロマンディの新人賞獲得。同年のブエルタ・ア・エスパーニャ第20ステージで初のワールドツアー勝利。2017年・2018年と2年連続で国内TT王者にも輝きオールラウンダーとしての才覚を見せつけ、2018年にはツール・ド・フランス新人賞も獲得。

その台頭の年に引退したジャン=クリストフ・ペローと代替わりするかのように、新エースのロマン・バルデに次ぐチームのセカンドエースとして、その未来は明るいように思えていた。

 

だが、2019年のツール・ド・フランスを「ベストコンディションではない」という理由で欠場してからは、ややその方針が狂い始めてきたように思う。単独エースとして出場することとなったその年のブエルタでも総合争いからは早々に脱落し、「嘆きの山」ロス・マチュコスではステージ勝利目指して懸命に逃げ続けるも、最後はタデイ・ポガチャルとプリモシュ・ログリッチに捕まえられて3位に終わってしまう。

2020年は全くいいところがなく。一番目立ったのが、デジタル・スイス5での「失格」くらいなのではないかと思うくらいで、未来有望な若者は少しスランプに陥ってしまったようだ。

とはいえ、そういう時期は誰しもが通る道であり、そこからいかに復活するかが重要だ。今年は28歳。自転車レーサーとして最も脂が乗る時期。そのタイミングでのこの移籍が、彼にとって良い結果をもたらされるか。

チームとしては当然、総合エースとしてUCIポイントを稼いでいってほしいと思っているはず。ただ、直近の彼の走りはどちらかというとカルメジャーヌ的というか、グランツールでも総合ではなくステージ優勝を狙うタイプのように見えなくもない。

果たして、何を目指した走りをしてくれるのか。

 

 

エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、34歳)

脚質:スプリンター

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2006年にツール・ド・ラヴニールで3勝。2008年にはマーク・カヴェンディッシュやアンドレ・グライペル、トニー・マルティンなどが揃うチーム・コロンビアにてプロデビュー。ツアー・オブ・ブリテンやエネコ・ツアー(現ビンクバンク・ツアー)で勝ち星を稼ぎまくり、2010年には黎明期のチーム・スカイへ。2012年には世界選手権ロードレース2位やGP西フランス・プルエー(現ブルターニュ・クラシック)を制するなど絶頂期を過ごした。

しかしカヴェンディッシュも去り総合系チームへと純化を進めるスカイから去り、2015年にはMTNクベカに。ディメンションデータと名を変えたこのチームでは、2017年に当時ツール5勝を稼ぎ出すなど絶好調だったマルセル・キッテルに対し、わずか5.8mmという「ツール史上最小の差」で敗北するなど、印象的な走りを見せてくれた。

この2017年には、第19ステージで20名の逃げに乗り、ラスト2.8㎞でアタックしてそのまま単独で逃げ切るなど、単純なスプリントだけでない強さも見せてくれた。

その他、2016年のパリ〜ルーベでは5位。スプリンター、パンチャー、クラシックスペシャリスト、TTスペシャリストなど、多種多様な脚を持つ男であった。

ただ、それは悪くいえば「器用貧乏」。なんでもできるが、誰にも負けない飛び抜けたものがなかなかワールドツアーにおいては見つけることのできなかった彼にとって、今回のUCIプロチームへの移籍は、決して悪い選択ではないようにも思える。

こういうタイプの選手は、個人的には割と好きなだけに、このチームで「復活」して、チームに大量の勝利数をもたらしてほしいところ。

 

 

アントニー・テュルジ(フランス、27歳)

脚質:ルーラー

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今最も注目しているフランス人クラシックライダーの1人。印象に残っているのは2019年のドワースドール・フラーンデレン。このとき彼は、マチュー・ファンデルポールに敗れての2位。「あの」マチューに敗れたのだから、それは決して誰からも責められることのない惜敗だったのだが、その時の彼はあまりにも悔しすぎて思い切り右手を振り上げてハンドルを叩いていた。

本気で勝つつもりだったのだ。そして勝てなかった自分を本気で責めているのだ。その執念、その本気に、私は一目惚れした。

そんな彼が2020年のロンド・ファン・フラーンデレンで、最大勾配22%の「ロンドで最も厳しい登り」コッペンベルフにて、ジュリアン・アラフィリップと共に抜け出し、一時先頭を走る姿を見せたのだ。最終的なリザルトもイヴ・ランパールトやオリバー・ナーセンよりも上位の4位。この男、着実に進化しつつある。

ワールドツアーからも大量に選手を獲得してきた2021年ロースターにおいても、チームで最もUCIポイントを稼いでいる男ということで、新体制下のチームの顔となる存在である。

この男、さらに強くなる。これからもその走りが実に楽しみだ。

なお、2019年はさいたまクリテリウムにも来てくれた。結構薄味だけどイケメンだったので、その意味でも魅力的な選手だ。

 

 

その他注目選手

クリストファー・ローレス(イギリス、26歳)

脚質:スプリンター

元ハーゲンスバーマン・アクセオン。そしてエガン・ベルナル、パヴェル・シヴァコフ、カスパー・アスグリーン、アルバロホセ・ホッジ、ファビオ・ヤコブセンと並ぶ「2017ツール・ド・ラヴニール世代*1」の1人であり、同じく17ラヴニール世代のクリストファー・ハルヴォーシュンと共にチーム・スカイでプロデビューを果たした。

だが、同世代のホッジ、ヤコブセン、そしてアスグリーンがデビュー初年度からクイックステップで活躍する一方、スカイはやはりスプリンターに厳しいのか、ローレスもハルヴォーシュンもイマイチ結果を出せないまま、それぞれスカイ/イネオスを去ることになった。

ハルヴォーシュンはピュアスプリンターとしての才覚を見せつつも、2020年にEFプロサイクリングへ移籍。しかし新型コロナウイルスの流行に伴う混乱の中、精神的に不安定になり一度もレースに出場しないままEFとの契約を破棄。母国ノルウェーのプロチームに今年から所属することとなった。

そしてローレスもまた、3年はスカイ/イネオスに残りつつも、今年このプロチームへと移籍することとなった。

心機一転。新たに、可能性を探ることのできるチームで、結果を追い求めていってほしい。

過去、ツール・ド・ヨークシャー総合優勝というリザルトからも分かるように、ハルヴォーシュンと比べるとピュアスプリンターというよりはパンチャーに近い、起伏や荒れた展開をこなすことのできる器用なタイプである。

 

ニキ・テルプストラ(オランダ、37歳)

脚質:ルーラー

2014年にパリ〜ルーベを制し、2018年にはロンド・ファン・フラーンデレンを手にする。誰もが羨むクラシックの頂点を2つとも獲りながら、まさかのディレクトエネルジー入り。誰もが驚き、そしてこのチームの先頭をこの男が引っ張ることになるだろう、と多くの人が確信していた。

しかし、その1年目、2019年は、ロンド・ファン・フラーンデレンで落車し、ルーベにも出られず、年間を通して未勝利に終わる。当時企画した「北のクラシックランキング」では、アントニー・テュルジやアドリアン・プティにも敗れ、チーム3位の成績に終わった。

これは不運の結果に過ぎない、と思っていたのだが、2020年はさらにひどい状況。名前すら呼ばれることのほとんどないシーズンとなってしまった。

彼ももう37歳。かつてのような力を存分に発揮するのは難しいとはいえ、いくらなんでも、頂点を極めてからの滑落が早すぎた。彼もまた、「クイックステップを離れた男」の末路なのかもしれない。

だが、やはりこのままでは終わってほしくない。テュルジをはじめ、チームも間違いなく強くなりつつある。ボアッソンハーゲンの加入は、クラシックでのさらなる強化を期待できるだろう。

そこにテルプストラが、さらなるものを加えてやってほしい。2021年はこのディレクトエネルジーが、北のクラシックでより一層、存在感を示すべきシーズンだ。

 

ロレンツォ・マンザン(フランス、27歳)

脚質:スプリンター

マダガスカル島東のインド洋上に位置するフランス海外県レユニオン島出身。アフリカは彼にとっての1つのルーツであり、それがゆえかアフリカのレースとも相性が良く、ヴィタルコンセプト時代の2019年ラ・トロピカーレ・アミッサ・ボンゴで総合2位。昨年も同じレースで1勝している。

また、ブエルタ・ア・エスパーニャも相性は良い方なのか、FDJ所属時代の2017年にはマドリードで区間2位を獲得している。

そしてそれがある意味彼のキャリアのピーク。昨年もマドリードで8位など、頑張ってはいるが、あの頃の瞬間にはまだ戻れていない。

しかし今年もシーズン初めは相変わらず好調。先日の「クラシカ・コムニタート・バレンシアナ1969*2」でいきなりの勝利をチームにもたらした。

もちろん、本当に大事なのはここから。でも、この勢いからの「復活」も、期待してみたい。

  

 

総評

まずは、UCIプロチームランキング1位の座を取り戻せるかどうか。そして、テルプストラにテュルジ、ボアッソンハーゲンといったタレントたちが揃っている中、北のクラシックで結果を出せるか、が重要である。

もちろんもう1つの目標はツール・ド・フランスである。3つのワイルドカード枠のうちの1つをアルペシン・フェニックスが獲得する中で、残された2つの枠をアルケア・サムシック、B&Bホテルスあたりと奪い合うことになるだろうが、さすがにそれは手に入れられる・・・とは思う。

そこで何としてでも勝つこと。ボアッソンハーゲンによるスプリントや逃げ、あるいはピエール・ラトゥールによる山岳ステージの勝利を! 

 

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*1:2017年のツール・ド・ラヴニールで区間勝利をした選手たち。

*2:2005年以来実に16年ぶりに開催されたスペイン・バレンシアナ州のワンデーレース。かつてはアレッサンドロ・ペタッキやオスカレ・フレイレなど錚々たる顔ぶれが優勝しているスプリンター向けのレースだが、1クラスだった当時と違い、今回は2クラスでの開催。よってワールドツアーチームの参加はなかったが、UCIプロチームからはトタル・ディレクトエネルジーのほかアルケア・サムシックやカハルラル・セグロスRGAなど全8チームが参戦。実力派スプリンターたちの激突の舞台となった。

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