読み:アルペシン・フェニックス
国籍:ベルギー
略号:AFC
創設年:2008年
GM:フィリップ・ルードホフト(ベルギー)
使用機材:キャニオン(ドイツ)
2020年UCIチームランキング:12位(昨年18位)
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
Corendon-Circus 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
Alpecin-Fenix 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
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2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順
昨年のUCIプロチームランキングトップになったことで、今年はすべてのワールドツアーレースへの参加権を手に入れる。
そしてその権利を行使し、3大グランツールすべてに出場するとも正式発表。マチュー・ファンデルポールのツール出場はもちろん、その他のメンバーもグランツールに参戦して結果を残せるだけの力量が求められるため、今年も積極的な獲得に走った。
その筆頭が昨年ブエルタ区間優勝のジャスパー・フィリプセンと、2018年パリ〜ルーベ2位のシルヴァン・ディリエ。さらには2019年のツール・ド・フランスの、ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ山頂フィニッシュで3位に入ったクサンドロ・ムーリッセも獲得し、着実な強化を図ることとなった。
その選手数も31名と、ワールドツアーチームに匹敵・・・というかむしろ最大数に達する人数で、おそらく予算的な意味でもいつワールドツアーチームに昇格してもおかしくないチームであると言えるだろう。
あとは、この体制で実際にどこまでの結果を出していけるのか。
マチュー・ファンデルポールのためのチームとしてではなく、1つのチームとしての活躍が楽しみになってくる。
注目選手
マチュー・ファンデルポール(オランダ、26歳)
脚質:パンチャー
2019年最も衝撃的なレースであったと言っても良さそうな、アムステルゴールドレースでの勝利が今も記憶に残っている。
いわば自転車ロードレースの常識を打ち破るかのような、「自転車の天才」たるファンデルポールの勝利。
そのシーズンの直前のシクロクロスシーズンでは、34戦中32勝という圧倒的な勝率を誇り、アムステルゴールドレース後はロードを一時離れマウンテンバイクに向かい、そこでもヨーロッパ選手権を制するなど、とにかくひたすら強い、そんな印象であった。
だが、ロードレース以外も活発であり続けたシーズンのツケが回ったのか、あるいは冷たい雨という要素が彼にとっての弱点であったのか、期待されていたヨークシャー世界選手権では終盤、かなり良い走りをしていた中で、ハンガーノックのような形で失速を経験する。
そして迎えた2020シーズン。
新型コロナウィルスによるスケジュールの崩壊は彼にも影響を及ぼしてしまったのか、2019シーズンほどの圧倒さは見られなかった。
2019年にはツアー・オブ・ブリテンやアークティックレース・オブ・ノルウェーなどでも見せた驚異のスプリントはあまり見られず、常にチームのエーススプリンター、ティム・メルリエのアシストに回るような姿を見せていた。
ティレーノ〜アドリアティコでは先頭を逃げていたマッテオ・ファッブロを無情にも飲み込んでステージ優勝したり、ビンクバンクツアーではカペルミュールが連続して登場する最終ステージで得意の独走をかまし逆転総合優勝するなど、確かに強くはあったものの、そのビンクバンクツアー最終ステージでも、最後の最後は結構ギリギリまでオリバー・ナーセンら後続に追いつかれかけるなど、前年の圧倒ぶりは影を潜めていたように思う。
ヘント〜ウェヴェルヘムでもワウト・ファンアールトとの牽制合戦の末に勝利を逃すなど、「イマイチ」なファンデルポール。
このまま、シーズンを終えてしまうのかーーそう、思っていた、シーズン最終盤。
ロンド・ファン・フラーンデレン。
ベルギー最大の、そして自転車ロードレースにおけるワンデークラシックレース最大のレース、「クラシックの王様」とも呼ばれるこの伝統あるビッグレースで。
マチュー・ファンデルポールは、生涯のライバル、ワウト・ファンアールトと共に先頭に飛び出し、そして最後は、一騎討ちでこれを打ち破った。
その勝利は、やはりこのベルギー、オランダ文化圏の中で生まれ育ったファンデルポールにとっては、あまりにも偉大なる勝利であった。
彼は思わず、立ちすくみながらそのまま泣き出してしまったほどである。
やはり、マチュー・ファンデルポールという男は常に想像を超え、栄光を掴み続ける男なのだということを改めて思い知った。
次はいよいよ、真の世界最強であることを示す舞台、世界選手権。
しかも今年のその舞台は、なんとフランドル。
彼にとって、最高の舞台が用意されたと言っても過言ではないだろう。
さらに、今年はこのアルペシン・フェニックスが昨年のUCIプロチームランキングで1位になったことによって、ツール・ド・フランスを含むすべてのワールドツアーレースの出場権を得ることとなった。
そしてもちろん、ファンデルポールもツール・ド・フランスには出場する。同時期に開催される東京オリンピックもまた彼にとっては重要な目標であるだけに、そこまで完全なコンディションで臨めるわけではないだろうが、それでもまた、世界最高峰の舞台で我々を驚かせる走りをしてみせてくれそうな気はしてくる。
世界を驚かせ続ける「怪物」。そして「自転車の天才」。
マチュー・ファンデルポールは、2021年も新たな歴史を作ってくれるのだろうか。
ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、23歳)
脚質:スプリンター
元ハーゲンスバーマン・アクセオン。2018年のツアー・オブ・カリフォルニアで、フェルナンド・ガビリアに臆せず闘志を剥き出しに挑んだ姿が印象的であった[リンク]。
2019年、プロデビュー直後のツアー・ダウンアンダーで、カレブ・ユアンにヘッドバットを食らいながらも冷静にその後輪を捉えて2位フィニッシュ。結果としてユアンの降格を受けてワールドツアー初勝利を飾った。
ただ、やっぱり先頭でフィニッシュする勝利が欲しい。2019年は残念ながら、その機会は訪れなかった。
一方2020年は順調にその実力を伸ばし、ツール・ド・リムザン、ビンクバンクツアー、そしてブエルタ・ア・エスパーニャで勝利。
ブエルタではフィニッシュ直後に繰り返し絶叫。間もなく離れることになるチームメートたちと感情を爆発させながら喜びを分ち合うその姿に、アクセオン時代から変わらぬ彼の熱さを感じ取った。
今や、世界トップクラスのスプリンターの1人であることは間違いない彼が、あえてのUCIプロチーム入り。もちろん、このチームはワールドツアーに匹敵するチームであることもまた、確かだ。
アルペシンとしては全グランツールを出場する上で、そのグランツールでの勝利を確実に狙える選手の獲得はかなり喜ばしいことだろう。
問題はこれまでのチームのエーススプリンターであったティム・メルリエとの関係。
ティム・メルリエ(ベルギー、29歳)
脚質:スプリンター
マチュー・ファンデルポールと同じく現役シクロクロッサー。ただ、最近はシクロクロスよりもっぱらロードレースの方で成績を出しつつある。
2019年はベルギーのロード王者に。
2020年はさらに活躍の幅を広げ、トップスプリンターたちも参戦するブリュッセル・サイクリング・クラシックで優勝したほか、なんとティレーノ〜アドリアティコでも区間1勝。名実ともに世界最高峰のスプリンターの1人に数えられるほどになった。
さらにクラシックでも実力を見せ、シーズン最終戦のドリダーフス・ブルッヘ〜デパンヌでも、最終盤に残った7名の先頭集団の中に入り込むなど、荒れた展開にも強いクラシックハンターとしての適性を見せてくれた。
今年はジャスパー・フィリプセンという巨大なライバルが来たことによりこれまでのように常にエースというわけにはいかないだろうが、一方で3つのグランツールのうち1つくらいはエースを任せてもらえそうでもある。
大きなチャンスをモノにできるか。
その他注目選手
シルヴァン・ディリエ(スイス、31歳)
脚質:ルーラー
その名が最も世に広く知れ渡ったのは、2018年のパリ〜ルーベ2位のリザルトだろう。序盤に形成された逃げに乗り、そのまま200km以上を最後の1人になるまで逃げ続けた彼は、集団から抜け出したペテル・サガンと合流。
そのまま突き放されることなくベロドロームまで2人旅を続け、最後はサガンとの一騎打ちを演じてみせた。
そんな彼が、ロンド覇者マチュー・ファンデルポールのアシストとしてアルペシンに合流。
昨年の中止によって初挑戦が延期となってしまったルーベの地で、ファンデルポールがさらなる栄光を掴むうえで最大の助けとなるだろう。
一方、私に取って彼の名を最初に覚えるきっかけになったのが2017年のジロ・デ・イタリア。ここでは丘の上のフィニッシュの登りスプリントで、ジャスパー・ストゥイヴェンとの一騎打ちを制していた。
ゆえに彼は自分の中では当初、パンチャーというイメージだった。それこそルート・ドゥ・スッド(現ルート・ドクシタニー)を総合優勝していたり、昨年もブエルタ・ア・アンダルシアで総合18位に入っていたりと、単なる平坦系ルーラーとは言い切れない脚質を持つ。
グランツールでも重要な役割を演じてくれそうだ。
クサンドロ・ムーリッセ(ベルギー、29歳)
脚質:パンチャー
元サーカス・ワンティゴベール。2019年フランドル開幕となったツール・ド・フランスの第1ステージで、山岳賞ジャージを獲りに行くグレッグ・ファンアーヴェルマートに食らいついていった姿が印象的だった。
さらにそのツールの第6ステージ、ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ山頂フィニッシュにおいて、逃げに乗って区間3位。単なるパンチャーに終わらない実力の高さを見せつけた。
さらに昨年は「地元民」バルベルデとLLサンチェスとが毎年無双していたブエルタ・ア・ムルシアで総合優勝。
彼もまた、UCIプロチームからのスライド移籍とはいえ、グランツールに挑むアルペシン・フェニックスにとっては重要な存在であることは間違い無いだろう。
ジェイ・ヴァイン(オーストラリア、26歳)
脚質:クライマー
昨年まではオーストラリアのコンチネンタルチーム「ネロ・コンチネンタル」に所属し、たとえばヘラルドサン・ツアーでは第4ステージの「マウント・ブラー」山頂フィニッシュで、ジェイ・ヒンドレーとセバスティアン・バーウィック*1に次ぐ区間3位を記録。最終的には総合5位と、地元コンチネンタルチームの選手としてバーウィックに次ぐ活躍を見せてくれた。
さらに11月末から12月にかけて開催されたオーストラリア国内の「ナショナルロードシリーズ(ナショナルツアー)*2」のステージ1とステージ4で勝利。ステージ1は14.9㎞の個人TTで2位に27秒差をつけて勝利。ステージ4は126.9㎞の距離の終端に標高300m超の登りが用意された山頂フィニッシュステージで、2位に34秒差をつけて勝利している。このシリーズ戦では最終的に総合2位。
それでも、当初は2021年を同じオーストラリアのコンチネンタルチームであるARAプロレーシング・サンシャインコーストで走る予定だった。しかし2020年のズイフト・アカデミー・プログラムで優勝したことにより、見事にアルペシン・フェニックスでプロデビューを飾ることに。すでに実力は申し分ない彼が、このチャンスをうまく掴み取ってほしいところだ。
総評
マチュー・ファンデルポールのクラシック、そしてツール・ド・フランスでの活躍はもちろん、ジャスパー・フィリプセンやティム・メルリエがどこまでグランツールやワールドツアーで渡り合えるかに期待が高まる。
とはいえ、マチュー含め、本格的な山岳で戦える選手はまだまだ揃えられてはいない。今年の状況を見ながら、来年さらにどんな強化をしていくのか、夏以降の移籍戦線での活躍にも注目だ。
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