読み:アルペシン・フェニックス
国籍:ベルギー
略号:AFC
創設年:2008年
GM:フィリップ・ルードホフト(ベルギー)
使用機材:キャニオン(ドイツ)
2019年UCIチームランキング:18位
(以下記事における年齢はすべて2020年12月31日時点のものとなります)
参考
Corendon-Circus 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
スポンサーリンク
2020年ロースター
※2019年獲得UCIポイント順。
マチュー・ファンデルポールのためのチーム。それは2020年も基本的には変わらなそうだ。
とはいえ、2019年もそうだったように、マチューが常にレースに出場できるわけではない。むしろシーズン全体の大部分はマチューのいない時期である。
東京オリンピックが控える2020年はより、その傾向が強まることだろう。
となれば、当然彼以外での勝利も重要になる。2019年にそれを果たせたのはティム・メルリエ、ドリース・デボン、ラッセノーマン・ハンセン、ロイ・ヤンスであり、2020年も彼らが中心となるだろう。
一方で新加入選手の中でそういった勝利を狙える選手がいるとすれば、EFエデュケーション・ファーストから移籍してきたサッシャ・モドロやイスラエル・サイクリングアカデミーから移籍してきたクリスティアン・ズバラーリなど。
また、どうしてもスプリンターや北のクラシック系の選手たちが多くなってしまうので、アルデンヌに対応できるパンチャータイプや、将来的にグランツールでも対応できるクライマータイプは貴重である。
その意味で、ドゥクーニンク・クイックステップから移籍してきたペトル・ヴァコッチ、ユンボ・ヴィズマから移籍してきたフローリス・デティールが持つ意味は、彼らがもともとのチームに在籍していたときよりも大きくなるだろう。
彼らの活躍も、楽しみだ。
注目選手
マチュー・ファンデルポール(オランダ、25歳)
脚質:パンチャー
現代の「怪物」マチュー・ファンデルポールは、2019年は2月のトルコのステージレースで開幕を迎え、初日からいきなりステージ優勝。
ヨーロッパでの初戦となるノケレ・コールスでは、ゴール前で落車に巻き込まれるが、4日後のグランプリ・ド・ドナンでは何でもなかったかの様子で走り、得意の独走で勝利してしまった。
そして4月3日のドワースドール・フラーンデレン優勝、4月7日のロンド・ファン・フラーンデレン4位、そしてアムステルゴールドレースでの、「ありえない」勝利につながっていく。
とにかく、ロードレースの常識を打ち破る男だった。普通なら早すぎる位置からのアタックで独走を決めてしまい、普通ならそんなにローテーションをしたら最後は勝てない状況で勝ってしまう。
それはシクロクロスでの彼の姿と同様。彼に勝つには、いかに彼から、主導権を奪うかである。
とはいえ、そんな彼も、シーズン終盤はやや違った姿を見せた。
直前のツアー・オブ・ブリテンで圧倒的なステージ3勝と総合優勝を果たしたファンデルポールは、当然の如く世界選手権の最有力優勝候補の1人だった。そしてこの世界選手権のクライマックス、マッテオ・トレンティンの飛び出しに食らいついていったのが、ファンデルポールだった。
誰もが、彼の勝利を想像したであろう。しかし彼はこの後、突然力を失ってしまう。
ハンガーノック? 冷たい雨に当たりすぎた? いずれにせよ彼はもう全く勝負できない状態でフラフラになりながら、それでもなんとかバイクを降りることなくフィニッシュにまで辿り着いた。
とにかく、2019年シーズン最もロードレース界を驚かせ続けた男である。そしてまた、彼にとってこの2019年シーズンは、誇るべき年であると同時に、悔しい思いも存分に味わったシーズンでもあった。
2020年の彼の最大の目標は、マウンテンバイクで挑む東京オリンピックであることは間違いないだろう。
ただ、2020年も彼はクラシックに本気を出す。2月のヴォルタ・アン・アルガルヴェでデビューした彼は、初出場のストラーデ・ビアンケ、ティレーノ〜アドリアティコ、ミラノ〜サンレモを経て、ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ、ドワースドール・フラーンデレン、ロンド・ファン・フラーンデレン、そしてこれもまた2019年には未チャレンジであったパリ〜ルーベを走る予定だ。
フレーシュ・ワロンヌも、現時点では予定に入っている。
そしてまた、初のグランツールとして、母国オランダで開幕するブエルタ・ア・エスパーニャへの参加も興味をもっているような発言をしていたが、一方でブエルタの主催者は「限られたワイルドカードの枠とスペイン籍プロチームの数を考えると現実的ではない」とのごもっともなコメント。
果たして2020年のマチューはどんなマジックを見せてくれるか。
またロードレース界の常識は打ち破られてしまうのだろうか。
ティム・メルリエ(ベルギー、28歳)
脚質:スプリンター
マチュー・ファンデルポール同様、シクロクロスも走る選手。というよりも、シクロクロスの方が本職、だと思っていたのだが、2019年のベルギー国内選手権ロードレースで優勝して以来「あれ?おかしいぞ?」と。
HCクラスのツアー・オブ・デンマークで1勝したり、スパルカッセン・ミュンスターラント・ジロで3位に入ったりと、普通に立派な、むしろプロチームではトップクラスの実力を持ったロードレースのスプリンターである。
というかシクロクロスの方がパッとしなくないか?
勝利数としても、(2クラスのツール・アルザスの3勝を含め)6勝とマチューの次に稼いでいる選手。
このチームがマチューだけのチームではないぞと主張するうえで重要な役割をもつ選手なだけに、頑張ってほしい。
ドリース・デボン(ベルギー、29歳)
脚質:スプリンター
勝利数でいえば2勝(ハレ・インホーイヘム、メモリアル・リック・ファンステーンベルヘン)と、メルリエよりは少ない。ただ、ツール・ド・ワロニーの総合3位や、1クラスレースの2位、4位などが重なり、獲得ポイント的にはメルリエを上回る。
いずれにせよ、メルリエと並び、このチームの「マチュー以外」として活躍しうる重要な存在だ。
なお、今年勝ったハレ・インホーイヘムは2016年にも勝ってる得意なレース。その他、勝ててはいないが昨年はロンド・ファン・ドレンテ、GPマルセル・キント、ロンド・ファン・ゼーラントなどで上位に入る。2020年もそういったベルギーを中心とした小さなレースたちで勝利とポイントを重ねていこう。
その他注目選手
サッシャ・モドロ(イタリア、33歳)
脚質:スプリンター
プロ生活10年の中で稼ぎあげたプロ勝利数は46。2010年にはミラノ〜サンレモで4位、2017年にもロンド・ファン・フラーンデレンで6位になっている男だ。
そんな彼が、2019年は1勝もできず。プロ初年度の2010年以来の出来事だった。
言うなれば、今回の「UCIプロチーム落ち」は戦力外通告ではある。しかし、UCIポイントは稼げていなくとも、2019年の彼は、エトワール・ド・ベセージュでマルク・サローやクリストフ・ラポルテを降して2位につけている。UAEツアーでもガビリアやヴィヴィアーニなどの一流スプリンターには全く敵わないながら、やはりサローやヤコブ・マレツコには先着している。
すなわち、UCIプロチームという枠組みにおいては、十分に先頭で競い合える実力はまだまだ持っている。既に述べたメルリエ、デボンと並び、新たなチームの「マチュー以外」の柱となってくれるだろう。
ペトル・ヴァコッチ(チェコ、28歳)
脚質:パンチャー
2016年にブラバンツペイルを勝利している純正アルデンヌライダーは、一流の北のクラシックライダーたちが集うクイックステップにとっては、貴重な「登れる」選手であった。ゆえに彼はアルデンヌ系クラシックだけでなく、各種ステージレース、ときにグランツールにも、献身的なアシストとして重用されることとなった。
しかし、2018年のシーズン開始直前のトレーニングライド中に、彼は交通事故に遭う。後ろから走ってきたトラックに跳ねられ、脊椎を複数箇所骨折する大怪我を負ったのだ。
これによって彼は、2018年を丸々棒に振ることとなる。
今回、彼がクイックステップを離れることになったのは、事故の影響というマイナスな要因だったのだろうか。
実際のところは分からないが、そうではない、という見方も十分にできると思っている。2019年も彼は相変わらず山岳アシストとして献身的に働いていたし、ツアー・オブ・グアンシーではアップダウンステージでのスプリントで5位にも入っている。
そんな彼が移籍した先はアルペシン・フェニックス。今後、マチュー・ファンデルポールによるグランツールデビューも視野に入れているこのチームにとって、これまでの北のクラシック/スプリンター中心体制から脱却する上で必要なのはヴァコッチのような脚質だった。
今年、フレーシュ・ワロンヌやボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャに初挑戦するファンデルポールにとって、ヴァコッチの存在は非常に重要なものとなるだろう。
フローリス・デティール(ベルギー、28歳)
脚質:パンチャー
元トップスポート・フラーンデレン所属で、3年間ユンボに在籍していた。トップスポート時代にはツール・ド・ワロニーで総合6位になっていたり、ストラーデ・ビアンケ、アムステルゴールドレース、アークティックレース・オブ・ノルウェーなど、比較的パンチャー向けのレースでの成績が目立つ。
ヴァコッチ同様に、アルデンヌ系クラシックやステージレースでの、マチューのためのアシストがメインの仕事となるであろう。
また、彼も結局は、プロコンチネンタル時代の成績を期待されてワールドツアーに入ったもののそこで芽を出せなかったタイプの選手なので、今回のアルペシン入りが彼にとって再度の飛躍のチャンスとなれば幸いだ。
総評
2020年もマチューの活躍が最も目立ち、実際に最も稼ぐものとなるだろう。それ自体はこのチームの明確な目的であるため、何ら問題はない。
ただ、それ以外の、彼の出ない(とくにトラック、オリンピックシーズンの2月や5月〜8月の)ベルギー・北フランス系のレースで、他の選手がどれだけ勝利数とポイントを稼げるか。また、アルデンヌ系やステージレースでのマチューの活躍を支える密かなアシストの働きを、どれだけこなし切れるか。
2019年もそうやって成功してきた。2020年の「成功」も、マチュー以外の選手たちがどれだけ活躍できるかにかかっている。
スポンサーリンク