読み:ボーラ・ハンスグローエ
国籍:ドイツ
略号:BOH
創設年:2010年
GM:ラルフ・デンク(ドイツ)
使用機材:スペシャライズド(アメリカ)
2020年UCIチームランキング:6位
(以下記事における年齢はすべて2021年12月31日時点のものとなります)
【参考:過去のシーズンチームガイド】
BORA - hansgrohe 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
BORA - hansgrohe 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
BORA - hansgrohe 2020年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
目次
スポンサーリンク
2021年ロースター
※2020年獲得UCIポイント順
2017年にこのチームがワールドツアー化したとき、目玉として加入したのがティンコフから移籍してきたペテル・サガン、ラファウ・マイカ、ジェイ・マッカーシーといった選手たちであった。
いわばチーム・サガンの誕生。当初はそれこそサガンと、生え抜きのサム・ベネットが中心となって勝利数を稼ぐ、そんなチームであった。
しかしそこから4年が経過し、いよいよこのチームはチーム・サガンを脱却し、本来の国籍である「ドイツ」チームであることを明確にした移籍獲得・育成戦略を推し進めていった。
結果、今このチームの中心にいるのはエマヌエル・ブッフマンやパスカル・アッカーマン、あるいは昨年パリ~ニースを制したマキシミリアン・シャフマンなどのドイツ人たちである。昨年獲得したレナード・ケムナは早速ツール・ド・フランスで区間優勝し、2年前フィリップ・ジルベールと共に死闘を演じパリ~ルーベ2位という結果を手に入れたニルス・ポリッツもまた、ドイツ人クラシックエースとしてこのチームに迎え入れられた。
一方のサガンは昨年もジロ・デ・イタリアでの劇的な勝利などまだまだそのスター性に陰りは見えないが、着実にこのチームでの存在感を薄めており、今年いっぱいでの契約が来期以降どうなるか不明。
そして、当時ティンコフからやってきたマイカは移籍。マッカーシーもどうなるか現時点では不明で、「サガンの右腕」の一人であったオスカル・ガットもまた、引退を選んだ。
そしてそんな年々変化していくこのボーラ・ハンスグローエが新たな才能として発掘したのがジョルディ・メーウス、ジョヴァンニ・アレオッティ、マシュー・ウォルスなどの若者たち。
実はいずれもドイツ人ではないという点で、ある意味でまた新しい方向性の誕生かもしれないが、生え抜き選手もしっかり育てるこのチームらしい「成果」を、今年も期待していきたい。
↓期待しかない新加入選手たちについては下記のPodcastでも言及しています↓
※48:30からボーラ・ハンスグローエについて。
注目選手
マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、27歳)
脚質:オールラウンダー
2020年の主な戦績
- パリ~ニース総合優勝
- ストラーデビアンケ3位
- イル・ロンバルディア7位
- 世界選手権ロードレース9位
- UCI世界ランキング14位
2018年、クイックステップ時代のラ・フレーシュ・ワロンヌで果敢な逃げに乗る姿が印象的だった。翌年にボーラ入りしたときはあまりしっくりこなかった。ただ、フレーシュ・ワロンヌのようなアルデンヌ・クラシックでのエースとしての活躍を期待されているのだろうな、と。
実際、2019年のアルデンヌでは圧倒的な強さを誇った。優勝こそできなかったものの、アムステルゴールドレース5位、ラ・フレーシュ・ワロンヌ5位、そしてリエージュ~バストーニュ~リエージュ3位。
そう遠くない未来にリエージュや、場合によってはイル・ロンバルディアも制する可能性が十分にあるんじゃないかと。すなわち、稀代のパンチャー、クライマー向け湾で―レーサーとして。
しかし、彼自身はステージレーサーとしての夢を持っていたという。そしてチームもそれを信じ、実現させたのが昨年のパリ~ニース総合優勝であった。
もちろん、新型コロナウイルスの影響により、たとえばイネオスやユンボ・ヴィズマが不参加というような混乱した状況も味方したのは間違いないだろう。それでも、彼が、スプリントでボーナスタイムを稼ぎ、TTでもライバルたちを突き放し、その座を手に入れたのは決してまぐれなんかではない。
もちろん純粋なクライマーたちを相手取るにはまだまだ力不足かもしれない。グランツールというよりは、イツリア・バスクカントリーやツール・ド・スイス、ツール・ド・ロマンディ、ヴォルタ・アン・アルガルヴェのようなTTの存在感の強いワンウィークステージレースでの成績を期待するに留まる部分はあるかもしれない。
それでも、TTの距離の長い来年のツール・ド・フランスなんかでは、やっぱり期待はしたくなる。
新生ボーラ、「ドイツ人のためのボーラ」の中心的な存在として、これからも目が反せない男だ。
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ、30歳)
脚質:オールラウンダー
2020年の主な戦績
- ジロ・デ・イタリア総合3位
- ティレーノ~アドリアティコ総合4位
- ツール・ド・ポローニュ総合7位
- UAEツアー総合6位
- UCI世界ランキング15位
さて、そんな「ドイツ人のボーラ」に新たに加入した目玉選手の一人が、このオランダ人オールラウンダー、ケルデルマンである。
元々は現在のユンボ・ヴィズマの前身たるラボバンク~ベルキン・プロサイクリングチーム~ロットNLユンボに所属。2017年に同国人の絶対エース、トム・デュムランのアシストとしてチーム・サンウェブに移籍。
その年のジロは残念ながら早期リタイアし、デュムランの総合優勝を見届けることはできなかったが、デュムラン不在のブエルタでは終盤まで総合3位を保ちつつ、最後の最後で表彰台を逃す悔しい結末を迎えた。
ある意味、そこがピークだった。2019年はデュムランが怪我で苦しみ、ケルデルマンにチャンスが回ってきた年ではあったが、彼自身もうまく噛み合わず。
数多くいる、実績と実力はあるがグランツール表彰台という壁を越えられないままに終わってしまう選手の1人ーーそんな風になるのではないかと、危惧していた。
だが、その懸念を今年、しっかりと塗り替えてくれた。
それも、ジロまでに今年出場したすべてのステージレースで総合TOP10に入るという調子の良さを見せて。
正直、ジロでも総合優勝も狙える位置にいたとは思う。ヒンドレーやゲイガンハートよりもずっと実績はあったのだから。
だがそこで最後の最後で力を失ってしまうのは、ある意味ケルデルマンらしいとも言える。
ただここで彼は一つの大きな壁を乗り越えたのだから、次なる「総合優勝」という壁も、きっと乗り越えられる。
ライバルも非常に多いこのボーラへの移籍というのは、彼にとっても大きなチャレンジではあっただろう。しかしもう、彼はアシストで留まるつもりはないはずだ。ドイツ人エースたちの中でその存在感を示し、今度こそ表彰台の頂点へ――。
なお、ケルデルマンについてオランダのジャーナリストが書いた記事について触れている以下のnoteの記事は個人的に非常に感じ入った部分があったので紹介したい。
パスカル・アッカーマン(ドイツ、27歳)
脚質:スプリンター
2020年の主な戦績
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間2勝
- ティレーノ~アドリアティコ区間2勝、ポイント賞
- UAEツアー区間1勝
- クラシカ・ドゥ・アルメリア優勝
- 年間8勝
- UCI世界ランキング19位
2017年のチームのワールドツアー化に伴い、ドイツのコンチネンタルチームから移籍してきた。「チーム生え抜き」ではないものの、それに類する存在として、しっかりと実績を積み上げてきていったドイツの至宝である。
2019年にその強さはピークに達し、ジロ・デ・イタリアではマリア・チクラミーノも獲得。サガン、サム・ベネットと並ぶチームの顔となった。
しかし、2020年は苦しみと共に過ごす1年であった。年始のチャレンジ・マヨルカ、ツール・ド・ポローニュ、そしてドイツ国内選手権ロードレースと、「2位」の連続。2年前のジロで圧倒したイタリアの若手マッテオ・モスケッティにも、元世界王者の決してスプリンターではないはずのマッズ・ピーダスンにも、シクロクロッサーのマルセル・マイセンにも敗れた。
もちろん勝ち星もいくつか拾ってはいたものの、それ以上に悔しさが溢れるシーズンであった。
それを全て返すかのように力を示したのがシーズン終盤のブエルタ・ア・エスパーニャ。
昨年までのチームメートで、ある意味アッカーマンが「追い出した」と言えなくもないサム・ベネットとの直接対決。
その第1幕たる第4ステージは完敗。続く第9ステージも先着されたが、サム・ベネットが斜行判定を下され、降格処分。
今年7回目の「2位」になるかと思われていたアッカーマンが、初のブエルタ勝利を手に入れた。
もちろん、まだ先頭でブエルタのフィニッシュラインは越えられていない。
第15ステージでは道中のアップダウンでベネットを振るい落とすことには成功するが、最後のスプリントでフィリプセンに敗れての今度こそ今年7回目の2位。
このまま判定上の1位だけで終わるのか・・・と思っていたところで、迎えた最終ステージ、マドリードで掴み取った、正真正銘の「1位」!
この勝利を新たな自信に換えて、2021年は再び成功のシーズンとなってほしい。
ペテル・サガン(スロバキア、31歳)
脚質:スプリンター
2020年の主な戦績
- ジロ・デ・イタリア区間1勝、ポイント賞2位
- ツール・ド・フランスポイント賞2位
- ミラノ~サンレモ4位
- UCI世界ランキング45位
3度の世界王者に輝き、ロンド・ファン・フラーンデレン、パリ~ルーベを制し、ツール・ド・フランス通算12勝と7度のポイント賞獲得。
まさに生けるレジェンドたる存在。それがペテル・サガンという男である。
しかし、全盛期というのはいつか過ぎさるからこそそう呼ばれる。サガンにとってのそれがすでに過ぎ去りつつあることは、誰の目からも明らかであった。
2020シーズンの勝利はたったの1つ。そんなシーズンはプロデビュー以来初めてであった。ツール・ド・フランス初出場の2012年以来、完走したツールでは常に着用し続けていたマイヨ・ヴェールも、2020年は真正面からの対決で完膚無きまでに敗れ、その手から零れ落ちた。リベンジを狙って出場したジロでも結局、スプリントでの勝利は1つもなく、やはりポイント賞を逃した。
超過密日程で連続出場したツールとジロで共にポイント賞2位というのは間違いなく凄いことである。しかし、それは決して慰めにはならない。
彼は最強のスプリンターとしての時代を終えてしまったのだ。
しかし、それでもサガンという存在が消えるわけではない。
ジロ・デ・イタリア第10ステージで見せた驚きの逃げ切り勝利は、彼の新しい境地を感じさせる鮮烈なものであった。
そして、ツール、ジロと、最後の最後まで諦めずチーム一丸となってマイヨ・ヴェールを振り落とそうとする走りは、この男の勝利に対する情熱と、チームから与えられた強い信頼とを感じさせた。
もしかしたら彼は今年でこのチームを去ってしまうかもしれない。もしそうだったとしても――まだ彼が、このロードレースの舞台で輝き続けることを、強く願っている。
なお、昨年末にPro Cycling Statsが行った特別企画「Favorite500 ranking」では、堂々の1位。
PCSユーザーが現役・引退含め自由に選んだ「最も好きな15名の選手」の集計結果であり、マルコ・パンターニやエディ・メルクス、ファビアン・カンチェラーラ、アルベルト・コンタドールらを斥けて最も愛される自転車選手として君臨した。
今もなお愛され続ける自転車界のスーパースター。
その走りは永遠でなくとも、今年もまた我々を魅せ続けてくれることを、強く願う。
その他注目の選手
レナード・ケムナ(ドイツ、25歳)
脚質:オールラウンダー
2017年から2019年にかけてチーム・サンウェブに所属。とくに2019年のツール・ド・フランスでは積極的な逃げを見せており、その才能を強く感じさせた。
その彼がサンウェブを去ることは非常に残念ではあったが、同じドイツチームであるボーラであれば、十分に活躍のチャンスはあるだろう、と思っていた。
それが見事に現実のものとなるとは。というか早すぎる結果の出し方に、驚いたくらいだった。
そしてその走りもやはり、格好良かった。ツール・ド・フランス第13ステージ。マキシミリアン・シャフマンと共に逃げ、最後はダニエル・マルティネスとの一騎打ち。
しかしクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ覇者でもあるマルティネスはあまりにも強すぎた。完敗だった。
しかしそこで諦めることなく、第16ステージで再びエスケープ。そして、今度こそ栄冠を掴み取った。
ブッフマンやケルデルマンたちのアシストとしての活躍がまずは第一かもしれない。しかし、彼自身もまたそう遠くない未来にグランツールのエースとして大きな活躍をすることは間違いないだろう。
ブッフマンを皮切りに、長く止まっていたドイツ人クライマーの才能の時計が一斉に動き出したかのようなこの展開は、ドイツの辛く苦しい時期を支え盛り上げ続けてきたトニー・マルティンやマルセル・キッテルたちにとっても喜ばしいことだろう。
ニルス・ポリッツ(ドイツ、27歳)
脚質:ルーラー
そしてドイツ人の才能はスプリンター、クライマーだけではない。
ルーベやロンドを制することのできるクラシックスペシャリストとして期待を集める男、それがニルス・ポリッツである。
2019年のパリ~ルーベでフィリップ・ジルベールとの一騎打ちを演じて見せて、惜しくも敗れての2位。しかしジルベールに、将来のルーベ覇者となることを確信させるほどの走りだった。
同年のロンド・ファン・フラーンデレンでは5位。直前のE3でも6位と、才能は常に感じさせていたためにルーベ2位は驚くに値しなかった。
2020年はカチューシャが消滅した代わりにイスラエル・スタートアップネーションに。しかしコロナ下の混乱もあり、ここでは結果を出せず。今年は母国チームのボーラで、サガンとのダブルエースで北のクラシックに挑む。
なお、パンチャータイプの脚質も持っていると言ってよいだろう。2019年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは、山を越えた先のスプリントでワウト・ファンアールトやフィリップ・ジルベール、エドヴァルド・ボアッソンハーゲンらと争い区間4位。
ツール・ド・フランスでの山岳エスケープにも積極的で、得意の独走力と共に、ツールでの区間勝利にも十分期待できる男だ。
マッテオ・ファッブロ(イタリア、26歳)
脚質:クライマー
元カチューシャ・アルペシン。2020年にボーラ・ハンスグローエへ。
サイクリングチーム・フリウリというイタリアの育成チーム出身。のちの紹介するアレオッティやバーレーンに今年加入するジョナサン・ミランも同じチーム出身。元選手のロベルト・ブレッサンがGMを務めるチームで、2005年設立。2019年からコンチネンタルチームに昇格している。フリウリということで、もしかしたらドロミテも彼らの練習場の1つなのかもしれない。
そんな、新たな才能の発掘場として期待の持てるチーム出身の彼は、2020年に成長を見せた男の一人である。まずはティレーノ~アドリアティコの第7ステージで、あわよくば逃げ切りというところまで独走し続け、注目を集めた。
このときはマチュー・ファンデルポールに追い付かれ、追い抜かれ、惜しくも3位に終わったものの、続くジロ・デ・イタリアでは、ペテル・サガンのマイヨ・ヴェールのために山岳で猛牽引をし続け、スプリンターたちを払い落としにかかった。また、ラファウ・マイカの山岳アシスト筆頭としても活躍し続けた。
登りでは常にその存在感を示し続けたファッブロ。今年も基本的にはアシスト中心だろうが、今後確実にその才能を結果に結び付けうる男の一人だと確信している。
ジョルディ・メーウス(ベルギー、23歳)
脚質:スプリンター
期待しかない今年最高の若手の一人。今世界で最も信頼のおける育成チームの1つであるSEGレーシングアカデミー出身で、同じくSEG出身でユンボ・ヴィズマ入りが決まっているダヴィド・デッケルとタッグを組んでU23レースを荒らしまわっていた。
とくに2020年の戦績としてはチェコ・ツアーでの区間2勝とポイント賞が白眉。マックス・カンターやマーティン・ラースといったワールドツアーの選手や、グランツールでの勝利すら狙いうる男ティム・メルリエすらも打ち破るその実力は間違いなく即戦力。もちろん、ベイビー・ジロでも区間1勝しており、その活躍は約束されていると言ってよい。
そして、シーズン最終盤に開催された、ベルギー国内選手権ではU23のロード王者に。来年あたり、いきなりエリートのベルギーナショナルチャンピオンジャージを身に着けていても不思議じゃないかも。
ジョヴァンニ・アレオッティ(イタリア、22歳)
脚質:クライマー
先述したファッブロと同じサイクリングチーム・フリウリ出身。そして、2019年のツール・ド・ラヴニール総合2位の男である。
ラヴニール総合優勝はもちろん、総合2位も才能の証明である。2018年の総合2位であるテイメン・アレンスマンは昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでその存在感を常に示し続け、2017年の総合2位ビョルグ・ランブレヒトは悲劇によりあまりにも早くこの世を去ってしまったものの、あのまま健在であれば間違いなく世界トップクラスのライダーの1人となっていた。
このアレオッティも、今年まずはイタリア国内選手権U23ロード王者に輝いており、ベイビー・ジロでも総合4位。まだまだメーウスほどわかりやすいリザルトは残しておらず未知数なところはあるものの、焦らずその成長をじっくりと見守りたい。
総評
サガンとポリッツのダブルエースで挑む北のクラシックは、例年以上の期待をしても良いだろう。シャフマンを中心としたアルデンヌ・クラシックももちろん、栄光を掴み取るチャンスは大きいはずだ。
一方、グランツール総合は必ずしも安泰ではない。2年前のツール総合4位のエマヌエル・ブッフマンは昨年振るわなかったし、昨年ジロ総合3位のケルデルマンも決して安定した成績を残すタイプではない。シャフマンもグランツールでいきなり総合表彰台を望むのは正直、厳しいとは思うし、あとはケムナの覚醒次第か・・・なんだかんだ、マイカを失ったのは結構痛い。
それでも、期待をこめて「4」に。若手も含め可能性に満ち溢れたボーラ・ハンスグローエは、これからも決して目が離せないチームだ。
スポンサーリンク