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2021シーズン 3月主要レース振り返り(後編)

 

4月頭のロンド・ファン・フラーンデレンに向けて盛り上がっていく「北のクラシック」たち。

そしてその裏で、スペインを舞台に繰り広げられるステージレーサーたちによる白熱の戦い。

 

それぞれがそれぞれの頂点を目指して鎬を削り合う「準備期間」の3月後半。

その12レースを振り返っていく。

 

目次

   

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

  

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ノケレ・コールス(1.Pro)

ヨーロッパツアーProクラス 開催国:ベルギー 開催期間:3/17(水) 

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レースレポートはこちらから

登坂距離400m・平均勾配4.3%・ラスト300mから200mまでの平均勾配が7.5%の「ノケレベルグ」を5回登らせるレイアウト。その最後の登りの頂上にフィニッシュラインが引かれている。

登れるスプリンターやパンチャーだけにチャンスがあるというわけではないが、それでもナセル・ブアニやファビオ・ヤコブセン、ケース・ボルなどの軽量級やクラシック・混戦に強いタイプのスプリンターたちが勝利を掴んできている。

 

ただいずれにせよ、集団スプリントで決着するのがこのレースのお決まりかと思いきや・・・最初に逃げに乗った8名の中から抜け出したルドヴィク・ロベートとダミアン・ゴダンが快調なペースで飛ばしていく。

メイン集団も残り10㎞を切ってイーサン・ヘイターやルカ・モッツァートが抜け出すなど混乱が続き、統率が取れに。

残り5㎞でメイン集団とのタイム差30秒、残り3㎞でもタイム差20秒。

逃げ切りが確定し、さらにロベートがゴダンを突き放す。

 

最後はこのレースでは珍しい悠々とした独走フィニッシュ。

コンチネンタルチームとプロコンチネンタルチーム(UCIプロチーム)一筋の男がプロ2勝目を初のProシリーズ勝利で飾った。

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ノケレ・コールス女子(1.Pro)

UCIプロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:3/17(水)

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全長120㎞、合計で6回ノケレ・コールスを登らせるレイアウト。

天候は悪く、終盤まで決定的なアタックが決まらず大集団のまま推移。残り約50㎞でようやくピータース、ブラウン、クラインの3名が逃げに乗ると、逃げに乗ったチームの選手たちがメイン集団でローテーション妨害。

残り12㎞で最終ラップに入ると一時は18秒までタイムギャップが縮んだものの、そこから再びタイム差が広がり始め、残り3㎞時点では26秒に。

結果として男子同様にまさかの逃げ切り。最後は登りを含んだスプリントに定評のあるピータースが危なげなく勝利を掴んだ。

今シーズンここまですべてのレース(8日間)において「6位以上」を常にキープし続けているという驚異の好調ぶりを見せるピータース。このまま大きなリザルトにつなげていけるだろうか。

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ブレーデネ・コクサイデ・クラシック(1.Pro)

ヨーロッパツアーProクラス 開催国:ベルギー 開催期間:3/19(金) 

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レースレポートはこちらから

2018年まで「ハンザーメ・クラシック」と呼ばれていたレース。その名の通りベルギー・ウェストフラーンデレン州にある北海沿いの街ブレーデネから、海沿いに西に突き進み、フランス国境にほど近いコクサイデの街へと向かうレースとなっている。

例年は集団スプリントで決まることが多く、過去の優勝者もジャンニ・メールスマンやエリック・バシュカ、クリストファー・ハルヴォルセン、アルバロホセ・ホッジ、そしてパスカル・アッカーマンなど、純粋なスプリンターたちが多い。

 

しかし今年は例年にない大混乱。

残り110㎞以上も残している中盤のケンメルベルクから始まる一連の登りで、まさかの集団大崩壊を迎えることとなった。

形成された13名の先頭集団の中にはフロリアン・セネシャルやマッズ・ピーダスン、マックス・ワルシャイドなど。

さらにほどなくして形成された追走集団18名の中にはヨセフ・チェルニーやジェイク・スチュアート、ティム・メルリエなど。

 

十分に勝利を狙えるエース級が多数入り込んだこの先頭31名がメイン集団とのギャップをみるみるうちに開いていき、残り50㎞を切った段階で先頭と追走集団とのタイム差は40秒、そして先頭とメイン集団とのタイム差は3分を超える結果となり、このレースでは珍しく逃げ切りという結果で終わることとなった。

 

キュベカ・アソスは先頭集団に3名も置いておりチャンスではあったが、エースのメルリエを乗せたアルペシン・フェニックスが、ヨナス・リッカールトによる大牽引でギャップを縮小。

これに追い付かれたくないボーラ・ハンスグローエが残り28㎞地点からルーカス・ペストルベルガーによる独走に持ち込むが、残り1.4㎞でこれもギリギリで捕まえられてしまった。

先頭と追走が合流し、そこから削り取られた選手が数名いた中で形成された20名ちょっとの中集団でのスプリント。

これを制したのが、やはりこの男、ティム・メルリエ。

リッカールトによる完璧なリードアウトから放たれた彼は、背後から遅れてスプリントを開始したマッズ・ピーダスンとフロリアン・セネシャルに並ばせることがないままフィニッシュに突き進んでいった。

ピーダスンもセネシャルもクラシック系スプリンターとしては世界最高峰の実力の持ち主。そんな彼らを完全に力で打ち負かしての勝利に、このメルリエという男の、マチュー・ファンデルプールにも劣らない才能を感じさせた。

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これで今季早くも3勝。

今年グランツールのどれに出るかはまだ未定のようだが、ジロ・デ・イタリアくらいなら――もしかしたらツール・ド・フランスですら――勝ってしまいそうな勢いを感じさせる。

 

 

ミラノ~サンレモ(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:イタリア 開催期間:3/20(土) 

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レースレポートはこちらから

シーズン最初のモニュメント。

300㎞に及ぶ現代最長距離レースは「スプリンターズクラシック」と呼ばれ、ラスト30㎞においてそのレースのすべてが決まるシンプルなスタイルを維持してはいるものの、ここ4年は毎年終盤のポッジョ・ディ・サンレモからのアタックによる逃げ切りで決まっており、毎年どんな展開が起こるのかわからないスペクタルに満ちている。

 

今年もポッジョの登りで精鋭集団が抜け出した。

ラスト6.6㎞。ポッジョの山頂まであと1㎞地点に用意された、8%の最大勾配区間。

毎年の勝負所となっているこのポイントで、今年もジュリアン・アラフィリップが最初に仕掛けた。

 

昨年優勝者のワウト・ファンアールトはすぐさま食らいつく。

そのライバルのマチュー・ファンデルプールも、最初は位置取りが悪いように見えていたが、勝負所ではしっかりと前に陣取り、アラフィリップたちの動きに反応した。

 

驚くべきはピュアスプリンターのはずのカレブ・ユアン。

ポッジョの登りの間、常に前から2番目にポジションに身を置いていた彼が、アラフィリップのアタックによる加速の中でも千切られることなく、これについていく走りを見せてくれた。

 

そしてそれ以外にはトム・ピドコック、グレッグ・ファンアーヴェルマート、マイケル・マシューズ、マッテオ・トレンティン、マキシミリアン・シャフマン、アレックス・アランブル、セーアン・クラーウアナスン、そしてヤスパー・ストゥイヴェンの計12名。

想定よりも大きすぎる集団になったことで、ワウト・ファンアールトもプッシュし続けることはできず、スローペースに。

そんな中、残り3㎞で勇気あるアタックを仕掛けたのがヤスパー・ストゥイヴェンだった。

 

レイトアタック巧者ではあるものの、有力勢揃いのこの先頭集団の中で、最も警戒しなくても良い選手の1人ではあった彼の飛び出しは、見逃される。

ただ、やはりこのミラノ〜サンレモの最後の平坦区間で、11名もの精鋭集団を振り切るには3㎞という距離は長すぎる。

このままストゥイヴェン1人で逃げ続けるのであれば、最後には間違いなく捕まえられていたであろう。

 

その状況を変えたのが、残り1.5㎞でのセーアン・クラーウアナスンのアタック。

昨年ツール・ド・フランスで逃げ切りを2勝。彼もまた逃してはいけないタイプではあるものの、この12名の中での優先順位は決して高くない男。

その男のアタックを見て、ストゥイヴェンも一旦、足を止めた。残り1㎞でもう売り切れかけてあた足を、再び回復させるために。

 

合流してからの300mはストゥイヴェンが前を牽いた。

ただし、かなりのスローペースに。足を休めながら。

クランク区間を終えて最後のストレートに入りタイミングでクラーウアナスンがペースを上げるが、ストゥイヴェンはここでしっかりとその後輪を捉え続けた。

後方からは牽制し合いながらも、マッテオ・トレンティンやジュリアン・アラフィリップらによって何度か加速をかけてくる精鋭集団。

 

早すぎても届かないし、遅すぎても捕まえられる。

ギリギリの決断が求められるこの最終局面で――ストゥイヴェンは、ラスト150m、確実に勝てるその瞬間まで、クラーウアナスンの前に出ることなく足を溜め続けることに成功した。

 

あとはもう、勝利は確実だった。

 

50m後方の集団からはマチュー・ファンデルプールがスプリントを開始するが、もはや遅すぎたし、ファンデルプールの足ももう、残ってはいなかった。

ファンデルプールを抜き去り、ファンアールトとサガンを振り払って、カレブ・ユアンが鋭い加速を見せて迫ってくるが、届かなかった。

 

ヤスパー・ストゥイヴェン、モニュメント初制覇。

いくつもの選択の中から、上位に入ることではなく、ただ「勝つ」ための選択だけを拾い続けていった彼が掴み取った、世界最高峰の栄誉であった。

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詳細については以下を確認のこと

www.ringsride.work

 

 

トロフェオ・アルフレッド・ビンダ(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:イタリア 開催期間:3/21(日) 

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レースレポートはこちらから

イル・ロンバルディアの舞台にも程近い北イタリアの丘陵地帯で繰り広げられるパンチャー向けの女子ワンデーレース。

ストラーデビアンケに次ぐ今年2つ目のウィメンズ・ワールドツアーのレースとなった。

 

例年ゴール前数㎞の動きで決まることの多いこのレースだが、今年はゴール前25㎞地点でエリザ・ロンゴボルギーニが独走を開始。

これを追いかける追走集団はマビ・ガルシア、セシリーウトラップ・ルドヴィグ、カタジナ・ニエウィアドマ、ソラヤ・パラディン、マリアンヌ・フォスというかなり強力なメンバー。

 

しかし、強力過ぎたことが仇になった。とくにフォスの存在は他メンバーの強い警戒を生み、かと言ってフォスも力で無理やり抜け出せるほど甘いメンバーでもない。

せめて昨年のアシュリー・ムールマンのように、フォスにとっての強力なアシストがここに1人でもいれば違ったのだろうが・・・。

 

また、普段はそれこそ男子のドゥクーニンク・クイックステップのように強力なメンバーを揃えチームワークでレースを支配し続けるSDワークスが、この逃げに1枚も乗せられなかったのも、また敗因の1つであった。

もちろん、5名を追う第3集団の先頭はSDワークスが牽引してはいるものの、エースのはずのシャンタル・ブラークが牽引しているような状況なので、勝ち目はなく。

 

結局、25㎞を一人で走りきり、昨年から絶好調続きのロンゴボルギーニが、今年初勝利を飾った。

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ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(2.WT)

ワールドツアークラス 開催国:スペイン 開催期間:3/22(月)~3/28(日)

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レースレポートはこちらから

スペイン・カタルーニャ地方を舞台にした、クライマーのためのステージレース。

ただし今年は長めの個人TTが用意され、例年よりはオールラウンダー向きな1週間に。

 

現役最強と目されるプリモシュ・ログリッチ、タデイ・ポガチャルが不在ではあったものの、イネオス・グレナディアーズがその山岳トレインの最強ぶりを見せつけ、見事総合表彰台を独占。

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一方、昨年のジロ・デ・イタリアで12日間にわたりマリア・ローザを着用し、今年もUAEツアーで総合3位と期待されていたジョアン・アルメイダは、登りステージでのまさかの苦戦により総合7位に沈むこととなった。

 

また、ステージ優勝においてはエステバン・チャベスが2年ぶりの勝利。今大会においてはサイモン・イェーツ以上のポテンシャルを発揮した。

アダム・イェーツ、ジャック・ヘイグというエース級を失ったこのチームにとって、このチャベスの復調の兆しは喜ばしいこと。

続くイツリア・バスクカントリーでも、引き続きこの好調を続けることはできるか。

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ベテランの復活という意味では最終日のトーマス・デヘントによる勝利も感動的。彼もまた、2年ぶりの勝利であった。

昨年からこっち、逃げには乗るもののその途中で失速することの多かった彼の、復活ともいうべきこの勝利は、彼の逃げ王としての覚醒の舞台でもあったこのカタルーニャの地で成し遂げられる。

これでカタルーニャでの勝利は通算5勝目。まだまだ彼の伝説は終わらない。

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ほか、アンドレアス・クロンやレナード・ケムナ、勝ちには繋がらなかったものの、テイメン・アレンスマンやフアン・モラノなど、若手の活躍も多く見ることのできた1週間。

より細かなレビューについては、下記の記事を参照のこと。

www.ringsride.work

 

  

オキシクリーン・クラシック・ブルッヘ~デパンヌ(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:ベルギー 開催期間:3/24(水) 

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レースレポートはこちらから

ベルギー・ウェスト=フラーンデレン州の州都ブルッヘ(ブルージュ)から西進し、ベルギー最西端・フランス国境沿いに位置する北海に面した街デ・パンネまでの203.9㎞。

かつては「デパンヌ3日間(ドリダーフス・ブルッヘ~デパンヌ)」の名で親しまれ、今年はついにその「3日間」の名前を捨てたこのレースは、ここから2週間にわたって続くロンド・ファン・フラーンデレンに向けた「前哨戦」の開幕を告げるレースである。

 

昨年は北のクラシックらしい横風による大混乱からのサバイバルレースが繰り広げられたが、今年は例年通りの大集団スプリントに。

最後はいつも通りの「強すぎ」ミケル・モルコフによるリードアウトを受けたサム・ベネットの余裕の勝利。

サム・ベネットvsフィリプセンvsアッカーマンではなく、もはやモルコフvsフィリプセンvsアッカーマンという状態であった。

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オキシクリーン・クラシック・ブルッヘ~デパンヌ女子(1.WWT)

ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:3/25(木) 

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向かい風の中、序盤にできたいくつかの逃げはいずれも大きなタイム差を生むことはできず、残り90.2㎞地点の最初のフィニッシュラインを超えるまでの間にすべて吸収されてしまった。

そこから始まる周回コースの1周目に、激しい横風が一度集団を分裂させる。とはいえこれはのちに回復。決定的なものとはならない。

 

だが残り32㎞。最終周回で巻き起こった落車は13名の「先頭集団」を生み出す。

ジュリアン・ドール、エイミー・ピータース、クロエ・ホスキング、キルステン・ワイルド、リサ・ブレナウアー、エリザ・バルサモ、ロッタ・コペッキー、グレイス・ブラウン・・・優勝候補を複数含む、強力な先頭集団が出来上がった。

ここに乗せられなかったチームDSMとアレBTCリュブリャナーーそれぞれロレーナ・ウィーべスとマルタ・バスティアネッリをエースに持つチームーーは全力で集団牽引に努めるが、タイム差は縮まるどころか開く一方であった。

 

先頭集団の中の元TT世界王者リサ・ブレナウアーがパンクでいなくなると、タイム差は縮小し始める。だが、残り10㎞でグレイス・ブラウンがアタックすると一気にタイム差を開いていき、残ったメンバーは牽制状態に陥る。

合流したスプリンターチームたちによる懸命な追走も虚しく、わずか7秒差を守り切り、ブラウンが得意の逃げ切り勝利を決めた。

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E3サクソバンク・クラシック(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:ベルギー 開催期間:3/26(金) 

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ターインベルク、オウデクワレモント、パテルベルクといったロンド・ファン・フラーンデレンでも重要な勝負所となる石畳激坂たちが登場する、最も純粋な「ロンド前哨戦」。

2018年にもこのレースで勝ったニキ・テルプストラが同年のロンドも制するなど、両レースの相関性も高い。

そんな重要な北のクラシックレースで、今年レースが大きく動いたのは残り80㎞とかなり早い段階にあるターインベルク。

ここでドゥクーニンク・クイックステップが7名全員を集団の先頭に置き一気にペースアップを仕掛けた結果、ドゥクーニンク・クイックステップが4名入り込む9名の精鋭集団が形成された。

 

ここからドゥクーニンクが得意のチーム戦を展開していく。

残り67㎞地点のボイネベルク。ここでまずはフロリアン・セネシャルがアタックし、これが引き戻されると今度はゼネク・スティバルがアタック。これも封じ込められた次の瞬間、今度はカスパー・アスグリーンがアタックした。

今度は誰も反応できなかった。抜け出したアスグリーンは独走を開始。マチュー・ファンデルプールも追撃で飛び出すも、すぐさまセネシャルとスティバルが貼りついてこれを抑え込む。残り57.5㎞地点の勝負所スタチオンベルグでもファンデルプールとワウト・ファンアールト、ニキ・テルプストラの精鋭3名が抜け出すも、ここにもきっちりとスティバルが食らい付いてきた。

残り42㎞地点のパテルベルグ、そして残りの38.6㎞地点のオウデクワレモントでファンデルプール、ファンアールト、ディラン・ファンバーレ、そしてグレッグ・ファンアーヴェルマートとオリバー・ナーセンのAG2Rコンビらが抜け出すも、ここにもしっかりとセネシャル&スティバルは食らい付いてきた。

最後はファンアールトも脱落し、精鋭5名が残り13㎞でついにアスグリーンを吸収。

しかしなおも集団内にはクィックステップが3名。しかもスティバルとセネシャルはまだほとんど足を使ってないフレッシュな状態。

クィックステップは実に有利な状況を作り上げていた。

 

さらにこの状態から、残り5㎞でまさかのアスグリーンのアタック。

行くならフレッシュなセネシャルかスティバルのはずだった。そう思って彼らの動きを警戒していたファンデルプールもAG2Rコンビも、このアスグリーンの動きには反応が遅れた。

そしてそれが命取りだった。遅れてこれに飛び乗ろうとアタックしても、当然スティバル&セネシャルが反応してくる。

完膚なきまでの、クイックステップ劇場。

そしてこれを完成させたのは、アスグリーンの驚くべきタフネスさであった。

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そしてこれが大いなる伏線となる。

 

オンループとE3のウルフパックの走りについてはこちらから

www.ringsride.work

 

 

 

ヘント~ウェヴェルヘム(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:ベルギー 開催期間:3/28(日) 

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レースレポートはこちらから

フランドル・クラシックの中でもとくに格式の高いレースの1つ。石畳の難易度はそこまででもないものの、250㎞弱の超長距離と、北海から吹き付ける強い横風とがプロトンを疲弊させ、毎年カオスと予想のつかない展開を生み出す。

 

今年もまた、驚くべき事態が巻き起こる。残り176㎞地点。激しい横風によって、「21名」の大規模な逃げ集団が生み出される。

その中にはワウト・ファンアールトやマイケル・マシューズ、マッテオ・トレンティンといった優勝候補の姿が。そして、こういった局面に最も強いはずのドゥクーニンク・クイックステップが、なんとサム・ベネット1人しか入れられていなかったのである。

 

もちろん、ドゥクーニンク・クイックステップとしても手をこまねいてみているわけではなかった。残り90㎞を切ってからの1回目ケンメルベルグ。ここでダヴィデ・バッレリーニとゼネク・スティバル、次いでイヴ・ランパールトなどが次々とアタックし、同じく逃げに乗せられなかったアルペシン・フェニックスもオスカリ・リースベーグなどに積極的なブリッジを仕掛けさせる。そこにはオリバー・ナーセンの姿も。

しかしこれらの奮闘も空しく、ファンアールトたちの集団と追走集団とのタイム差は徐々に開いていき、勝敗は先頭の20名ちょっとの集団に任されてしまうことに。

まさかまさかの、残り176㎞地点からの勝ち逃げ集団の形成。

やはりヘント~ウェヴェルヘムというレースは、一筋縄ではいかない。

 

さて、先頭も先頭で、残り54㎞地点からの2回目ケンメルベルグにて本格的なセレクションがかけられていく。

シュテファン・キュング、マッテオ・トレンティン、ジャコモ・ニッツォーロ、マイケル・マシューズ、ソンニ・コルブレッリ、ダニー・ファンポッペル、サム・ベネットといった錚々たる顔ぶれが並ぶが、それぞれアシストは1人もいない。

そんな中、ファンアールトには唯一、そのアシストがいた。

ネイサン・ファンフーイドンク。元BMCレーシングチームでグレッグ・ファンアーヴェルマートのアシストを演じ続け、CCCチームにも彼と共に残留したクラシックライダー。

CCCチーム解散に伴い、彼を招き入れたのがファンアールトを中心とするクラシックチームの強化を強く求めていたユンボ・ヴィスマだった。

 

その期待に、ファンフーイドンクは見事に応えきった。

残り36㎞地点の最後のケンメルベルグで一度は遅れかけるものの、のちに復帰。

その後は長い平坦区間においても常に先頭を牽引し続け、ときにアタックをして見せ、ファンアールトにとって最も避けたい「危険な飛び出し→全員がファンアールトを警戒して牽制→ファンアールト一人で追いかける」という負けパターンを封じ込めるのに大きな役割を果たし続けた。

 

その最も注意すべきポイントである残り2㎞。とくにシュテファン・キュングなんかはこのあたりでアタックしがちだったりするそのポイントで、ファンフーイドンクは先頭から飛び出した。後ろについたファンアールトがわざと足を緩め、抜け出させるという格好で。

これ自体はすぐさまキュングに抑え込まれるが、この結果、誰もがファンアールトを2番手に置くわけにはいかなくなり、彼は前から3~4番手という最も戦いやすい位置に身を置くことができるようになった。

 

あとはもう、何をしても勝てる状況であった。

完璧なタイミングで放たれる、完璧なスプリント。ジャコモ・ニッツォーロがこれに食らいつこうとするが、まったく並ぶこともできない。最後は悔しがることすらできず、諦めたように頭を振るだけだった。

それはファンアールトの圧倒的な強さを意味する勝利。

しかし同時に、そこまでの展開をほぼ1人で作り上げたファンフーイドンクの勝利でもあった。

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ヘント~ウェヴェルヘム女子(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:ベルギー 開催期間:3/28(日) 

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序盤からいくつかのアタックが繰り出されたものの、どれも長くは続かなかった。

横風分断も決定的なものにはつながらず、しばらく集団のまま推移していく中で、残り65㎞の最初のケンメルベルグで17名のライダーが先頭集団を形成した。

これ自体はやがてまた1つになるが、残り45㎞地点で巻き起こった落車によってクロエ・ホスキングやキルステン・ワイルド、セイリン・アルバラードなどの有力選手が巻き込まれる。再び走り始めた彼女らではあったが、最後の勝負に絡むことはできずに終わった。

 

残り37㎞地点の2回目ケンメルベルグ。エリザ・ロンゴボルギーニがカタジナ・ニエウィアドマと共に抜け出す。これをフォス、コペッキー、エレン・ファンダイク、エイミー・ピーテルス、マルタ・カヴァッリの5名が追走し、その後ろからは13名からなる追走小集団が形成される。

この3グループが1つになると、今度はユンボ・ヴィスマのアンナ・ヘンダーソンが独走を開始、これをファンダイク、ロンゴボルギーニ、エリザベス・ダイグナン、ピーテルス、クリスティン・マジェラス、バルサモ、ヴィットーリア・グアッツィーニ、パラディンの8名が捕まえる。

残り20㎞地点でそこからロンゴボルギーニが抜け出し、パラディンが食らいつく。残った6名は残り14㎞地点でプロトンに吸収され、3~40名程度のグループが先頭のロンゴボルギーニとパラディンを30秒弱のタイム差で追いかける形となった。

 

昨年から調子が良く、先日のトロフェオ・アルフレッド・ビンダでも独走勝利を果たしているロンゴボルギーニ。今日も行けるか?と思っていたものの、パラディンもすでに足がなく前を牽くこともできない中で、本気の追走を仕掛けるメイン集団によってラスト500mで残念ながら吸収されてしまった。

そこからは「女王」のフィールドだった。近年、さすがにピュアスプリントでは勝ち目のなくなりつつある彼女だが、今日のような混乱した状況の中ではさすがに強い。

ラスト300mから早めの飛び出しを見せたマリアンヌ・フォスが、そのまま先頭でフィニッシュ。ヘント~ウェヴェルヘムは男女ともにユンボ・ヴィスマが栄冠を手にすることとなった。

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ドワースドール・フラーンデレン(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:ベルギー 開催期間:3/31(水) 

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3月最終日に繰り広げられるのは、ロンド・ファン・フラーンデレンを4日後に控えた最後の前哨戦、ドワースドール・フラーンデレン。

数年前のこのフランダースクラシックのスケジュール変更に伴い現在の位置に置かれることとなったこのレースは、あまりにもロンド直前過ぎて重要選手はむしろ出場をキャンセルすることも多く、今回もヘント~ウェヴェルヘムを勝ったばかりのワウト・ファンアールトなどは出場しない。

逆に言えばロンドの優勝候補にはなり切れない位置の選手たちにもチャンスのある重要レースともなっている。

 

序盤からほとんど動きはなく、逃げができないまま残り距離が消化されていく。残り85㎞地点になってようやく、イーサン・ヘイター(イネオス・グレナディアーズ)、イェーレ・ワライス(コフィディス)がはっきりと抜け出して逃げ始めることとなった。

そしてスタチオンベルグやターインベルクなどの難関ポイントを乗り越えた先の残り53㎞地点のベルグ・テン・ホーテ。

ここで逃げも捕まえられて集団先頭にはアレクサンダー・クリストフ、ニルス・ポリッツ、スタン・デウルフ、ティム・ウェレンス、ブラム・ウェルテンなどの有力勢が集まってくる。ジュリアン・アラフィリップやカスパー・アスグリーンはこのとき、後続の集団に取り残されてしまっていた。

そこからアタックを繰り出したのが、ディラン・ファンバーレだった。

 

たちまちタイム差を開いていくファンバーレ。追走集団でもグレッグ・ファンアーヴェルマート、ルイ・オリヴェイラ、ルーク・ダーブリッジ、ヴィクトール・カンペナールツなどが追走集団を形成して追いかけていくものの、アシスト不在で協調体制がうまく築けないこの集団は、迷いなく独走していくファンバーレとの距離を詰めることはできずに終わった。

結局、アルペシン・フェニックスやコフィディスなどが主導するメイン集団に吸収された追走集団は、ラスト5㎞の段階でなおも30秒以上のタイム差を先頭のファンバーレに許してしまっていた。

 

そのまま、堂々たる勝利。ラボバンク育成チーム出身でキャノンデール(現EFエデュケーション・NIPPO)を経て2018年にスカイ入り。前年にロンド・ファン・フラーンデレンで4位を獲るなどクラシック適性の高さを期待されており、2019年のロンドでも確かにその足は見せてはいたものの、実は今回が初のクラシック勝利。

まだまだ手薄なイネオスのクラシック班の中心人物として、今後もその活躍に期待だ。

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