読み:イーエフ・プロサイクリング
国籍:アメリカ合衆国
略号:EF1
創設年:2003年
GM:ジョナサン・ヴォーターズ(アメリカ)
使用機材:キャノンデール(アメリカ)
2019年UCIチームランキング:9位
(以下記事における年齢はすべて2020年12月31日時点のものとなります)
参考
EF Education First-Drapac p/b Cannondale 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
EF Education First Pro Cycling Team 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど
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2020年ロースター
※2019年獲得UCIポイント順。
2018年は年間わずか6勝。勝利数ではカチューシャの5勝に次ぐ下から2番目の記録だった。
そこから、2019年は大きな復活を遂げた。年間勝利数は17勝、UCIチームランキングも9位と悪くない。またその勝利の質も、ロンド・ファン・フラーンデレンやミラノ~トリノ、ブルターニュ・クラシックにパリ~ニース、ブエルタ・ア・エスパーニャの区間優勝など・・・非常に価値の高いものばかりであった。
そしてチームとしての一体感、雰囲気も非常に良かったように思える。決して突出したスターがいるわけではない。すべてが順調な選手たちばかりではない。ベテランから若手まで、様々な背景や経歴をもつ選手たちが、それぞれ思い思いの方法で勝利を掴んでいく。見ていて気持ちの良いチームだった。
そして、2019年は、このチームの未来に希望を持てるシーズンだった。パリ~ニースで区間優勝したダニエル・マルティネスやブエルタ・ア・エスパーニャで区間優勝したセルヒオ・イギータ、あるいはツール・ド・スイスで100㎞単独エスケープを決めたヒュー・カーシーなど。2020年はそこにルーベン・ゲレイロ、ニールスン・パウレス、クリストフェル・ハルヴォーシュン、さらにはヨナス・ルッチなど、さらなる注目の若手選手たちも合流してくる。
まだまだ化ける可能性を秘めたこの急成長チームの行方に、2020年は決して目を離すことはできないだろう。
注目選手
リゴベルト・ウラン(コロンビア、33歳)
脚質:オールラウンダー
2019年の主な戦績
- ツール・ド・フランス総合7位
- ルート・ドクシタニー総合3位
- コロンビア2.1総合6位
- ツアー・オブ・カリフォルニア総合14位
- 世界ランキング150位
キンタナ、チャベス。最近ではベルナル、ソーサ。今やコロンビア人ライダーの存在感は、その絶対数に比して絶大であり、某解説者からは「一家に一台」という表現が出てくるほどにチーム問わず「普及」している。だが、その時代に入る直前期を支えたのがこの男、と言うことはできるかもしれない。
その絶頂期は意外にも遅く、2017年のツール・ド・フランス総合2位。その他、グランプリ・シクリスト・ド・ケベック2位や、2012年ロンドンオリンピックロードレース2位など、ワンデーレースでも活躍している。クライマーの中ではスプリント力は高い方だ。
2019年は怪我などもあり、思うように結果が出せず。今後も、グランツールの表彰台を狙っては行くだろうが、それを確実に取るというのは難しいかもしれない。
むしろ今後、彼が求められるのは、イギータやマルティネス、カーシーといった、台頭しつつある若手選手たちの育成である。その豊富な経験と人柄によって、特に若手コロンビア人オールラウンダーたちの良き先達として、導いていってほしい。
マイケル・ウッズ(カナダ、34歳)
脚質:パンチャー
2019年の主な戦績
- イル・ロンバルディア5位
- リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ5位
- GPシクリスト・ド・モンレアル8位
- クラシカ・サンセバスティアン9位
- ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合6位
- ツアー・ダウンアンダー総合7位
- ツール・ド・ロマンディ総合10位
- ミラノ〜トリノ優勝
- ジロ・デッレミリア2位
- ジャパンカップ・サイクルロードレース2位
- 世界ランキング23位
遅咲きの男だった。プロ入りは30歳になってから。当時、現チームの前身であったキャノンデール・プロサイクリングチームで、初戦のツアー・ダウンアンダーの「コークスクリュー」とヴィランガ・ヒルのステージでそれぞれ区間3位。最終的にも総合5位と、実力の高さを見せつけた。
その後は駆け上がるようにして実績を積み重ねていった。同年のミラノ〜トリノ2位、翌年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ9位とブエルタ・ア・エスパーニャ総合7位、2018年にはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2位にブエルタ・ア・エスパーニャの激坂フィニッシュで魂の勝利、そしてインスブルック世界選手権ロードレース3位である。
2019年はミラノ〜トリノ優勝にイル・ロンバルディア5位、そしてジャパンカップ2位など、更なる強さを見せつけてチームで最もUCIポイントを稼ぐ男となった。今やチームを代表する世界トップクラスの選手であることは論を待たないであろう。
2020年はカナダ代表として東京オリンピックとスイス世界選手権を狙うことになるだろう。あるいは取りこぼし続けているリエージュ〜バストーニュ〜リエージュやイル・ロンバルディアなど。いずれにせよ、グランツールの総合争いというよりは、ステージ優勝やワンデーレースが主となるはずだ。
セルヒオ・イギータ(コロンビア、23歳)
脚質:オールラウンダー
2019年の主な戦績
- ツアー・オブ・カリフォルニア総合2位
- ツール・ド・ポローニュ総合4位
- ブエルタ・ア・エスパーニャ区間1勝&総合14位
- ブエルタ・ア・アンダルシア総合7位
- トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ5位
- 世界ランキング35位
2019年シーズン開幕の段階で、この男のこの成績を予測できたものがどれだけいただろう。そもそもその時点ではまだ、EF入りはしていなかった。夏の加入を確定させたうえで、シーズン前半はコンチネンタルチームのはフンダシオン・エウスカディに所属。それでも、ブエルタ・ア・アンダルシアの激坂フィニッシュや山岳ステージで強さを見せつけて総合7位。その時点で、この男がただものではないことは明らかだった。
それがゆえか正式加入は5月に前倒しになり、EFのメンバーとしてウランやヴァンガーデレンと共にツアー・オブ・カリフォルニアに出場した。そこでまさかの、総合2位。最初は登れるクライマー寄りのパンチャーくらいの認識だったが、今後の成長次第でグランツールの総合も狙えるポテンシャルがあることをはっきりと示した。それは、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合14位という結果においても示されていた。
2020年もチームの中心的存在として注目されることだろう。果たしてどんなメニューが組まれ、どんな実績を残していくのか。あらゆる方向においても可能性を持ち、誰よりも未知数な男だ。
その他注目選手
ダニエルフェリペ・マルティネス(コロンビア、24歳)
脚質:オールラウンダー
2018年から現チーム入りし、その年からいきなりボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合7位やツアー・オブ・カリフォルニア総合3位など結果を出していた男。タイムトライアル能力も高いオールラウンダーで、ベルナルが異様な活躍をし過ぎたせいで若干影が薄かったが、このマルティネスもまた、間違いなく次代を担うホープである。
2019年はベルナルを破ってコロンビア国内タイムトライアル王者に。そしてパリ〜ニースでは、総合でこそタイムを失ってしまうが、クイーンステージの第7ステージで、サイモン・イェーツやミゲルアンヘル・ロペスを力で下して勝利。ヴォーターズGMを今年最初に発狂させた男となった。
その後はツール・ド・フランスデビューを楽しみにしていたが5月の怪我によりあえなく欠場。ブエルタ・ア・エスパーニャには間に合うも、こちらも結果を出せずに終わった。このときも落車があったんだっけ?
よって、シーズン序盤の盛り上がりに比して、後半はイギータ旋風の中少し存在感を失っていたところもあったが、その沈黙は実力由来のものではないため、2020年は爆発する可能性が大いにある。
チームの頂点に立つ素質のある男だけに、楽しみだ。
ヒュー・カーシー(イギリス、26歳)
脚質:クライマー
2019年大ブレイクした男の1人。まずはジロ・デ・イタリア。3週目の超級山岳の勝負所で、ヴィンツェンツォ・ニバリやプリモシュ・ログリッチェらに引けを取らない走りを見せた。最終的な総合順位は11位とそれも十分に凄いが、それ以上のポテンシャルを見せつける走りとなった。
そして、ツール・ド・スイス最終日。101㎞と短めの距離だったとはいえ、ほぼスタートからフィニッシュまでの100㎞をたった一人で走り抜けた。チーム・イネオスの強さとエガン・ベルナルの2019年シーズン2度目のワールドツアー総合優勝に沸いた中、成し遂げたことの割にはやや影の薄い勝利になってしまったかもしれないが、この男が2020年代を代表するグランツールライダーになる可能性を強く感じさせた。
イギータ、マルティネス、そしてこのカーシー・・・改めて、このチームの未来への可能性の大きさに恐れ入る。
クリストフェル・ハルヴォーシュン(ノルウェー、24歳)
脚質:スプリンター
2016年ドーハ世界選手権U23ロード王者にして、2017年ツール・ド・ラヴニール区間1勝&ポイント賞獲得者。2018年にはエガン・ベルナル、クリス・ローレスと並び、チーム・スカイの「青田買い」の一環として最強チームでプロデビューを果たした。
スカイ(イネオス)に入った選手の多くがそうであるように、彼もまた「2年目のジンクス」を経験した。ドゥクーニンク・クイックステップが獲得した同じ「17ラヴニール組」のホッジやヤコブセンが初年度から成績を積み重ねていくのに対し、ローレスやハルヴォーシュンはプロ初年度は大人しいものだった。しかしスカイの哲学を時間をかけて吸収し、着実に力を蓄えたハルヴォーシュンは、2019年に覚醒する。
まずは2月のヘラルドサン・ツアーで区間1勝。ブレーデネ・コクサイデ・クラシックではパスカル・アッカーマンに次ぐ2位。アルバロホセ・ホッジを打ち倒した。地元ツアー・オブ・ノルウェーでは区間1勝と総合2位。ピュアスプリントだけでなく、多少の起伏にも強い「ノルウェージャンスプリンターらしさ」も見せてくれた。
ただシーズン後半はやや失速。ライバル関係にあるクリス・ローレスと同じレースを走りつつ、ローレスの方がエースを務める場面の方が多かった。まさかとは思うが、移籍が決まって冷遇された? それとも純粋に後半は調子が悪かった?
いずれにせよ、EFにとっては喉から手が出るほど欲しい「勝てるスプリンター」候補として、期待をもって受け入れられたはずだ。チームは「これでミラノ〜サンレモに勝つチャンスを手に入れた
!」とまで意気込んでいて、それはさすがにプレッシャー与えすぎではと思わなくもないが、ハルヴォーシュンにとっても2020年はさらなる飛躍の年として欲しい。
ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、26歳)
ニールスン・パウレス(アメリカ、24歳)
実はどちらもアクセオン・ハーゲンスバーマン出身。2016年のツアー・オブ・カリフォルニアでは、現イネオスのタオ・ゲオゲガンハートと共に、アクセオン3人で新人賞上位3名を独占した。
少し先輩のゲレイロとゲオゲガンハートは一足先にプロデビュー。パウレスも2018年にユンボ・ヴィズマでワールドツアー入りを果たすが、アクセオン時代の期待感の高さとは裏腹に、結果を出せずにここまできた。ゲレイロの方はゲレイロの方で、カチューシャの斜陽時代と重なってしまったことで、実力に見合うほどのチャンスを得られずにきた。
そんな2人が、「若手の勢いの強い」このEFに。期待しないわけがない。とくにパウレスは自分の国のチームということで、気合いが入ってくれているといいのだが。
ゲレイロも2019年のブエルタの終盤は、ゲオゲガンハートと共に積極的な逃げを打ち続けていた。勝ちには繋がらなかったが、このまま沈む男ではない、というところを見せつけた。
なおゲレイロは純粋なクライマーというよりはややパンチャータイプの印象。アルデンヌ・クラシックにも期待できるかも。
パウレスの方はTT能力も高いオールラウンダータイプ。グランツールでの活躍に期待したい。
総評
2019年は沈んでしまったリゴベルト・ウランの復活が期待される。そうでなくとも、セルヒオ・イギータ、ダニエル・マルティネスなど、若手がグランツールで活躍できる2020年であることを楽しみにしている。
北のクラシックにおいては、2019年はベッティオルが大きな成果を出したものの、これが継続するかは予断を許さない。もちろん、ファンマルク、ランゲフェルトなど、タレントは十分にそろってはいるが。
むしろ、アルデンヌ・クラシックでの活躍に期待したい。ウッズ、ウランなどベテランはもちろん、2019年アルデンヌ系クラシックランキング6位のサイモン・クラークや若手イギータ、新加入のルーベン・ゲレイロもまた、アルデンヌ系クラシックで活躍しうる存在だ。
ただし、純粋なスプリンターの層の薄さがこのチームの課題。この部分は、新加入ハルヴォーシュンの両肩にかかっている。
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