1月中盤のシーズン中断期間を経て、いよいよ2020-2021シーズンの終盤戦が開幕する。
このブログ、そして「りんぐすらいど・のーつ」でも取り上げ続けてきた3大シリーズ戦も、いよいよ完結のときが近づいてきている。
とくに今週末日曜日に最終戦を迎えることになるUCIワールドカップの男子なんかは、一体どんな結末になるのか予想のつかない部分もあり、そういった各シリーズの最終戦に向けた「見所」を、ここでしっかりと確認していきたい。
UCIワールドカップは日本語による実況がつくので、ここは必見である。
さらには、開催1週間前に迫った世界選手権。
こちらも、昨年・一昨年のような「マチュー・ファンデルポールの一強」では決して終わらないような状況になっており、こちらもまた、決して見逃せない一戦となっている。
ロードレースシーズンが新型コロナウィルスの影響により開幕が遅れてしまっている今だからこそ、そのロードレースに多大な影響を与え続けているシクロクロスを「今」、しっかりと追っていくべきチャンスと言えるだろう。
まだ間に合う。ここまで今季のシクロクロスを観てこなかった人でも、この記事を読めば最も重要な3大シリーズ戦最終盤戦と世界選手権とを予習できる。
この記事を読んで、シクロクロスの波に乗り遅れないようにしよう。
目次
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X2Oバドカマー・トロフェー
3大シリーズ戦の1つ、X2Oバドカマー・トロフェー(通称X2Oトロフェー)は、全8戦をベルギー国内でのみ開催する伝統あるシリーズ戦だ。
今週末土曜、1/23にその第6戦「ハンメ」が開催され、それ含めて残り3戦。
3大シリーズ戦の中では最も残りレース数を残しているシリーズ戦である。
こちらは他2つのシリーズ戦と違い、まるでロードレースのステージレースのように、各レースでの経過時間が合計され、その差で総合順位を争う仕組みとなっている。
男子の現在の総合順位は以下の通り。
昨年末にエリ・イゼルビットが肘を脱臼する事故を起こし、1/1のバールに出場できるか不安視されていた。
もし不出場もしくはリタイアとなれば5分のタイムペナルティがつくため、総合優勝は絶望的になり総合争いは混沌に陥るだろうと予想されていたため、結果として彼が出場し、しかもライバルたちにさらにタイム差をつける結果となったことで、彼の総合優勝はほぼほぼ固くなったと言えそうだ。
ただ、このバールで無理をしすぎたのか・・・1/10に行われたベルギー国内選手権では全く良い走りを見せられないままに途中リタイア。
逆にそこで早々に脱落したことで十分な回復ができていればいいが、残り2戦。思わぬ形でイゼルビットが不調を見せることになれば、まだまだわからない。
一方の女子の総合順位は以下の通り。
タイム差だけみれば総合首位ルシンダ・ブラントと総合2位デニーセ・ベツェマのタイム差は1分未満と決して圧倒的ではないものの、ブラントの今季の好調ぶりを踏まえれば、逆転という可能性は低そうだ。
次回は今週土曜日の「ハンメ」。
イゼルビット、ブラントは首位を危なげなく守ることができるか。
UCIワールドカップ
3大シリーズ戦で最も新しいUCIワールドカップは、その名の通りUCIが主催する世界規模のシリーズ戦であり、例年であれば北米やスイス、フランスなどでもレースが開催される独特なシリーズ戦である。
しかし今年は新型コロナウィルスの影響で国際化は断念。当初11戦開催予定だったスケジュールも、全5戦に縮小されることとなった。
女子レースの方はすでに前節「フルスト」にてルシンダ・ブラントが総合優勝を確定させている一方、男子レースの方は非常に混戦状態。
総合首位ワウト・ファンアールトと総合2位マチュー・ファンデルポールとのポイント差はわずか15ポイント。
たとえばこれは、最終戦でファンデルポールが優勝し、ファンアールトが3位になったとしたら、2人が同ポイントで並ぶため、勝利回数の多いファンデルポールが逆転総合優勝を果たしうる、そんなポイント差なのだ。
もちろん、最近調子を上げてきているファンアールトにとって、たとえファンデルポールに負けたとしても、2位はなんとか死守できるような気がする。
しかしトム・ピドコックの存在もあり、何が起こるかわからない。
最後の瞬間まで目を離せない、白熱の戦い間違いなしのUCIワールドカップ最終戦「オーベレルエイセ」は今週末1/24(日)開催。
小俣雄風太氏による日本語実況付きでGCNpassで視聴可能なはずなので、ぜひ注目しておこう。
・・・それだけ盛り上がっておいてファンデルポールが出場しないとか、ないよね?
スーパープレスティージュ
3大シリーズ戦では最も古いシリーズ戦。1982年に初開催され、ベルギーを中心に一部オランダでも開催されて毎年8戦が開催される。シクロクロス界の「カニバル」ことスヴェン・ネイスが13回総合優勝している伝統的なレース群だ。
男子レースでは毎回のように勝者が入れ替わる激戦を繰り広げていたが、第7戦「ヒュースデン=ゾルダー」でエリ・イゼルビットが落車リタイア。
最終戦は2月なので復帰は問題ないだろうが、これによって総合首位はトーン・アールツの手に。
UCIワールドカップと違い、1位と2位との間でも1ポイント差しかつかないため、イゼルビットとアールツとの5ポイント差は決して小さなものではない。
イゼルビットの逆転の目がないわけではないが、そのためにはこの最終戦「ミッデルケルデ」で、何がなんでも勝つ、という意気込みが必要になるだろう。
とはいえこの時期になるとファンアールトもファンデルポールもピドコックも出場しない可能性があるため、あとはアールツが大崩れするかどうかである。
男子と比べると女子は1位と2位の差が3ポイントと、より接戦のようにも思える。
しかし、総合首位ルシンダ・ブラントの今シーズンの安定ぶりは、マチュー・ファンデルポールを超える領域で神がかっている。
たとえセイリン・アルバラードが彼女を打ち倒して勝利するとしても、ブラントが4ポイント差をつけられてしまう順位、すなわち5位以下でフィニッシュするのは考えづらい。
何しろ彼女は今年、これまで21戦行って、一度も表彰台を逃したことがないのだから。
そうなると、ルシンダ・ブラントによる今年の3大シリーズ戦制覇の可能性がかなり高くなってくることがわかる。
となれば、気になるのが、スヴェン・ネイス、ワウト・ファンアールトに次ぐ、「グランドスラム」ーー3大シリーズ戦と世界選手権をすべて制覇することーーを達成できるかどうかに、注目が集まってくる。
よって最後に、この世界選手権について確認していくことにしよう。
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UCI世界選手権
今から1週間後の1/30(土)・1/31(日)、ベルギー・オーステンデで開催される今年のシクロクロス世界選手権。
今年は例年以上に見どころの多い、「何が起きるか分からない」世界選手権となる予感に満ちている。
まずは女子。すでに上で述べたように、ルシンダ・ブラントの今季3大シリーズ戦制覇がすでに見えているだけに、彼女が男女合わせて史上3人目、女子としては史上初となる「グランドスラム」達成者になるかどうかがかかっている一戦である。
ただ、今季全てのレースで表彰台を獲得しており、3大シリーズ戦の総合争いでは圧倒的な成績を残している彼女ではあるが、3大シリーズ戦各レースの「勝率」でいえば、16戦9勝すなわち56%と、「圧倒的」ではない。
いや、もちろんそれはありえない勝率なのは間違いないのだが、たとえばマチュー・ファンデルポールの2シーズン前の勝率は94.1%、昨シーズンの勝率は96%と、それこそ常軌を逸している。・・・比べる相手が悪いのだけど。
ただ、2回やって1回負ける、という勝率ではやはり「絶対にルシンダ」とは言えない。なお、今年ルシンダが「負けた相手」は、
- セイリン・アルバラード 5敗
- アンマリー・ウォルスト 4敗
- デニーセ・ベツェマ 2敗
となる*1。
これはそのまま、今回の世界選手権の優勝候補たちであるとも言えるだろう。
「歴史的な瞬間」を見たいという意味ではブラントに期待したい。しかし若き才能のさらなる台頭を見たいという意味ではアルバラードにも頑張ってほしい。ウォルストやベツェマの初のアルカンシェルも見てみたい。
誰が勝つか分からないし、誰が勝っても驚きに満ちているのが女子レースである。
そして男子。
過去2年、マチュー・ファンデルポールがシーズン中圧倒的な走りを披露してまさに敵なし。
世界選手権ではベルギーの精鋭たちに対してマチューらオランダチームは決して層が厚いわけではなかったが、そんなことものともせずにこの「怪物」は勝ち続けてきた。
しかし、今年こそーーと毎年言っている気がするがーーどうなるかわからない。
まずはファンデルポール自身が、ここ数年と比べ万全ではないシーズンを過ごしている。
今年出場している3大シリーズ戦は8戦だけだが、そのうちの3戦で敗北している。勝率は62.5%。
そもそも出場レース数の少なさ自体が、コンディションという意味でマイナスに働く可能性がある(彼含めオランダ人選手たちが皆、オランダ選手権が中止になっていることも、ネガティブな要素だ)。
そしてそれ以上に、彼の最大のライバルであるワウト・ファンアールトが今年はかなり調子が良い。
それこそ、ファンデルポールも打ち倒して世界選手権3連覇を果たした当時のコンディションを取り戻しているといっても過言ではないのではないか。
そもそも、ここ2年があまりにも彼にとって向かい風なシーズンであった。
2年前は元所属チームとの契約トラブルが年末までゴタつき続けており、昨シーズンはツール・ド・フランスでの大事故からの復帰で、まともに走れているのが不思議なくらいだった。
それに比べて今年は、ロードレースでもあの大怪我から1年とは思えないくらいに大絶好調なシーズンを過ごし、シクロクロスシーズン開幕当初こそその疲れが残っていたのかイマイチな状態だったが、12月後半からは尻上がりに調子が上がってきた。
マチュー・ファンデルポールを2度倒し、3年ぶりにベルギー国内選手権も制する。そして、過去ベルギー国内王者になった年は、そのまま世界選手権も制しているというジンクスが彼にはある。
今年、ワウト・ファンアールトがマチュー・ファンデルポールを倒し世界王者になる。
それは十分すぎるほどにありえる事態であり、彼らのこのガチンコな戦いを見られるという意味で、今年の世界選手権は必見である。
そして、そこに絡んできうるのが、トム・ピドコックである。
昨年の世界選手権、わずか20歳のエリート1年目にして、エリ・イゼルビットを抜いてマチュー・ファンデルポールに次ぐ2位を記録した男。
今年、ロードレースでもU23版ジロ・デ・イタリア(ベイビー・ジロ)を圧倒的な成績で総合優勝した彼は、2月からイネオス・グレナディアーズ入りを果たす予定であり、ロードレースへの本格参戦を前にした最後の世界選手権に挑むこととなる。
そして今シーズンの彼は、衝撃の「マチュー・ファンデルポール倒し」を実現している。
まだまだ若さゆえの荒削りなところがあり、そのリザルトも決して安定してはいないが、すでにファンデルポール、ファンアールトに次ぐ現役3番目の強さを誇るシクロクロッサーであることは間違いない。
今シーズン最高の一戦と言って良さそうな「ナミュール」はまさにこのピドコックとファンアールトとファンデルポールが互いに全力を出し尽くして激突した至高の一戦。
同じような激戦が、世界選手権の舞台でも繰り広げられることを期待したい。
もちろん、それ以外の有力選手は多くいる。
とくにベルギーチームはワウト・ファンアールトの他にも、エリ・イゼルビット、マイケル・ファントーレンハウト、トーン・アールツなど、今季の3大シリーズ戦でも勝ち星を挙げている実力者たちが揃っている。
しかし正直、紛れは起きないだろう。ファンデルポールとファンアールト、そしてピドコックの強さは群を抜いているように思われる。
果たして勝つのはファンデルポールか、ファンアールトか。この2人は勝った方が先に「世界選手権4勝目」をモノにする形になる。どちらも、譲るつもりはないはずだ。
そこに、気まぐれな天才、トム・ピドコックがどう絡んでくるか。
間違いなくここ数年で最も熱い世界選手権になること間違いなし。
YouTubeで無料で視聴可能なので、ぜひともみんな、せめてこの世界選手権だけは、必ず見逃すことのないようにしよう。
U23カテゴリの行方は?
さて、ここまでエリートカテゴリの世界選手権の話をしてきたが、実はその下のU23カテゴリにもまた、注目すべき選手たちがたくさんいる。
今年は新型コロナウィルスの影響で普段のレースのU23カテゴリが存在しなかったため、本来はU23以下のレースに出場するはずの若者たちが、皆エリートカテゴリのレースで走るようになっていた。
しかし、若手の台頭はロードだけでなくシクロでも進んでいるのか。エリートの選手たちに混じって、20歳前後の若手選手たちが次々と結果を出し続ける事態になっている。
女子で注目すべき選手は、ハンガリー籍の今年20歳カタ・ヴァス。
今季すでに3大シリーズ戦ではないものの5勝。もちろんすべてエリートカテゴリで。3大シリーズ戦でも4位が2回、5位が2回と、表彰台まであと一歩である。ハンガリー国内選手権ではエリートカテゴリで3連勝中。
そんな彼女は、昨年の世界選手権U23カテゴリで2位。今シーズンのヨーロッパ選手権U23カテゴリでも2位で、なかなかタイトルは得られていない。
安定した実力の高さではU23カテゴリの女子では随一なので、あとは本番でしっかりと崩れることがないことを願う。
男子で注目の選手は今年21歳のオランダ人、ライアン・カンプ。
彼は昨年もU23王者に輝いており、今年もU23カテゴリで出場したとしたら連覇が期待される選手だ。
ヴァス同様にカンプもまた今年エリートカテゴリのレースで顕著な活躍を見せている。3大シリーズ戦でも6位が3回。8位が1回、9位が2回と存在感を示している。スーパープレスティージュの総合ランキングでも9位に入っており、強豪揃いのパウェルス・サウザンビンゴールの中でもエリ・イゼルビット、マイケル・ファントーレンハウトに続き、ベルギー王者のローレンス・スウィークと3番手を争うような位置にいると言っても良さそう。
ヨーロッパ選手権でもU23カテゴリで初優勝。マチュー・ファンデルポールに次ぐ次代オランダの星として期待が集まっている。
ただ、これだけの実力を持っている彼らなので、実際にはU23カテゴリでは出場せずエリートカテゴリで出場する可能性もあるかもしれないので注意すること。
なお、昨年の男子ジュニア世界王者になったティボー・ネイスは今年の男子U23世界選手権ベルギー代表の「リザーブ選手」登録となっており、何かない限りは出場せず。
彼もまた今年エリートカテゴリのレースで走っていたが、さすがに「天才」とされる彼でも、エリートの壁は厚かったのか。3大シリーズ戦では12月頭の「ボーム」での15位が最高位。
今年はまだ彼の活躍する姿が見られずに終わるかもしれないが、きっと来年はさらなる飛躍をしてくれるはず。
いかがだったろうか。
3大シリーズ戦の最終盤、そして世界選手権が控えるこの1月末〜2月期こそ、シクロクロスシーズンが最も熱くなる時期。
ロードレースの方がなかなか開幕されない今、改めて注目すべきであることは間違いない。
まずは今週末1/23(土)のX2Oバドカマー・トロフェー第6戦「ハンメ」、そして1/24(日)のUCIワールドカップ最終戦「オーベレルエイセ」は必見。
とくにUCIワールドカップの方はGCNpassで日本語実況付きで見られるため、注目の一戦を存分に楽しむことにしよう!
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*1:「本気度」の違いを考慮して、3大シリーズ戦とヨーロッパ選手権に絞る。また、3位のときは、1位と2位の「両方に負けた」として計算。