Class:ヨーロッパツアー 1クラス
Country:ベルギー
Region:エノー州
First edition:1968年
Editions:50回
Date:3/6(水)
例年、オンループ・ヘットニュースブラッドとストラーデ・ビアンケに挟まれた週に開催されている、シーズン最初のベルギー・ワロン地域でのクラシックレース。
オンループやロンド・ファン・フラーンデレンに代表される石畳の「急坂」を特徴とするフランドル・クラシックとは異なり、平坦ではあるが16の石畳(パヴェ)区間が選手たちを苦しめる。ゆえにベルギーのメディアはこのレースのことをこう呼ぶ。
「リトル・パリ~ルーベ」と。
オンループとはまた違った優勝候補たちが集まるであろうこの石畳クラシックについて、過去のレースを振り返りつつプレビュウしていこう。
レースについて
ベルギー南西部、フランス国境沿いの、パリ~ルーベの舞台にもほど近いエノー州全域を使用して行われるセミクラシックレース。
元は別の名称だったこのレースは、第1回の優勝者であるジョゼ・サミンが、翌年のクリテリウムレースで事故に遭い早逝したことを偲び、この名前がつけられた。
ゴール地点のドゥールの街では1周25kmの周回コースを4周する。個の中には4つの石畳区間が設けられ、合計で16の石畳を攻略する必要がある。
まだ冬の香りを残したこの時期のベルギーは最高気温が氷点下になることも多く、しかも冷たい雨や雪、強風が選手たちを苦しめることが多い。シーズン序盤の1クラスレースで無理をしたくないという心理も働くのか、多くの選手が完走を諦めるような厳しいサバイバルレースでもあり、その中でワールドツアーやプロコンチネンタルチームの垣根を越え、耐え抜いたものが勝利する仕組みとなっている。
まさに「北の地獄」の縮小版。
過去数年の展開を振り返りつつ、今年の展開の予想に役立てよう。
2016年
嵐のような強風と冷たい雨がプロトンを襲い、フィリップ・ジルベールを始めとする有力選手たちが次々とリタイア。最終的には28名しか残らないサバイバルな展開となった。
その中で残り15kmから仕掛けたのがニキ・テルプストラ。スコット・スウェイツが単独で追走を試みるが、やがて独走力も半端ないテルプストラの走りを前にして徐々に引き離され、最終的にはテルプストラはスウェイツに19秒ものタイム差をつけて逃げ切り勝利を果たした。
2017年
この年もまた冷たい雨風が選手たちを苦しめた。路面状況も最悪で、それこそ本家パリ~ルーベを思い起こさせる。
残り60kmほどで抜け出した選手たちが先頭集団を形成。そのあとも集団から合流するものや、逆に千切れる選手たちも相次ぎ、残り25km、最終周回に入ったタイミングで先頭は7名、メイン集団は20秒差でこれを追う形に。
先頭集団にはロット・スーダルの選手が2名。メイン集団はクイックステップやコフィディスが全力で牽引するも、タイム差は縮まらない。
ではロット・スーダルが有利かといえばそうでもなく、この逃げ集団の中からさらに3名が飛び出し、のこった元・先頭集団はメイン集団に飲み込まれる。
抜け出した3名は全員がプロコンチネンタルチーム。その中の1人が、前年までクイックうステップに所属していたギヨーム・ファンケイスブルクだった。
最後はアレックス・キルシュとのマッチスプリントを制したファンケイスブルク。泥に塗れたその顔には、どことなく安心したような表情が浮かんでいた。
2018年
この年は、最後の周回コースに入る前に決定的な動きが巻き起こった。すなわち、残り120km地点の横風区間でクイックステップが一気にペースアップ。前年の悔しい結果を払拭するかのようなこの走りによって、周回コースに入る段階で先頭集団は15名。
メイン集団とは40秒以上のリードを作り上げた。そして最終周回に到達した時点で、先頭はテルプストラ、そして序盤から逃げ続けていたダミアン・ゴダンの3人だけだった。
この状況でゴダンに勝ち目などなかった。しかしゴダンも意地を見せた。まずアタックを仕掛けたジルベールにきっちりと喰らいつく。だが、この瞬間に容赦なく今度はテルプストラがアタック。
彼を逃せば決して捕まえられない位置にまで突き放されてしまうことは明らかだった。だが、もはやゴダンにはどうすることもできなかった。たとえ追い付いたとしても、今度は彼の背中で息を整えているジルベールが再びアタックするだけだった。
最後はこのジルベールも無慈悲にゴダンを突き放し、テルプストラとのワンツーフィニッシュを迎える。この年のロンドの結末を予告するかのような鮮やかな勝利だった。
注目チーム
ディレクトエネルジー(DEN)
2016年/2018年の覇者テルプストラが移籍してきたチーム。
しかも昨年は容赦ない動きで叩きのめした相手でもあるゴダンも一緒。アドリアン・プティも終盤でメイン集団から抜け出し、テルプストラらの先頭集団を追いかける追走集団の一員として最後まで走り、最終的には3位ゴダンに次ぐ4位でゴールしている。
テルプストラがいるという点以外でも優勝候補になりうるチームだ。
AG2Rラ・モンディアル(ALM)
昨年の大会では前述のプティ、そして2017年の覇者ファンケイスブルクと共に追走集団を形成し、最終的には5位に入ったゲディミナス・バグドナスがエース。
それ以外に注目すべきなのが、25歳のフランス人、クレモン・ヴァントゥリーニだ。ル・サミンには初出場だが、今年(2018-2019シーズン)のシクロクロスフランスチャンピオンに輝いており、石畳クラシックへの適性は高いと言えそうだ。
ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)
ジルベールもランパールトもいない、だからこそ、このチームの有望な若手の活躍が期待できそうなレースでもある。
昨年同時期のドワーズ・ドール・ウエストフラーンデレン(ヨハンムセーウ・クラシック)では、それこそ昨年のル・サミンを踏襲するかのように、レミ・カヴァニャとフローリアン・セネシャルが、ロット・スーダルのフレデリック・フリソンに対して2vs1の体制で袋叩きにした。最後は力尽きたフリソンをセネシャルが突き放し、優勝者カヴァニャとワンツーフィニッシュ。今回のル・サミンでも、えげつないクイックステップのチーム力が発揮されるか?
個人的にもう1人注目しておきたいのは、24歳のデンマーク人、キャスパー・アズグリーン。2017年のヨーロッパ選手権U23個人タイムトライアル王者で、同年のツール・ド・ラヴニール第1ステージでも終盤で抜け出して逃げ切り勝利を果たしている。
昨年の4月からクイックステップ入りし、世界選手権チームタイムトライアルのメンバーにも選ばれ、優勝の原動力ともなった。
石畳クラシックへの適性は未知数だが、最後まで残ることができれば、ラヴニールのときのような抜け出し独走という、チームにとっては有益な戦術の1パターンを作れる存在だ。
以上、今回はコンパクトではあるものの、パリ~ルーベに劣らない石畳クラシックの魅力と、1クラスだからこその誰が勝つかわからない混沌とした展開を楽しめる良レースであり、必見であることは間違いない。
DAZNでも別府始氏の1人解説とはいえ日本語で解説が聞けるので、注目して見るべきレースとなっている。