りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2019シーズン 10月主要レース振り返り(後編)

いよいよシーズン最終章。

2019年10月10日以降の最後の6レースを取り扱っていく。

 

「最後のモニュメント」イル・ロンバルディアから、HCクラスレースの最終戦ジャパンカップまで。

最終版にも関わらず、トップレーサーたちの熱い熱い戦いが繰り広げられており、目が離せない。

最後に花を咲かせる選手たちは誰だ? 

 

↓前編はこちら↓

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↓昨年同時期の振り返りも要チェック↓

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グラン・ピエモンテ(1.HC)

ヨーロッパツアーHCクラス 開催国:イタリア  開催期間:10/10

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チーム・イネオスの、チーム・イネオスによる、チーム・イネオスのためのレースとなった。

そもそも、2日後のイル・ロンバルディアを見据えてか、各チーム主力級の選手を出し惜しみ、その時点でイネオスが圧倒的にチーム力が高かったのは事実だ。

とはいえ、残り30kmあたりから最後のオローパの登りの中腹まで常にヨナタン・カストロビエホが先頭を牽引し続け、その後も先頭はプッチョ、ローザ、ソーサと常にイネオスが牽き続け、他のどのチームも前には出られなかった。レースの序盤ですら、フィリッポ・ガンナによる牽引が目立ったほどだった。

唯一アタックできたのは、AG2Rラモンディアルのマティアス・フランク。しかしこれも、ディエゴ・ローザの牽引でいとも簡単に吸収される。このとき集団は20数名にまで絞り込まれていた。

そして、最後にソーサに先頭が切り替わるとすぐさま集団は先頭に数名だけを残すこととなった。しかもそこから、次々と有力選手がこぼれていく。最後には、ベルナルとソーサの2人だけとなった。

そこから放たれる、エガン・ベルナル。残りはもう、1.8kmしかなかった。この状態で彼に敵うものなど当然、いなかった。しかもベルナルを発射させたあと、なおもソーサは余裕をもっていた。そうしてベルナルを追いかけるピータースの後輪につけて、足を貯め始めた。

最後はベルナルが堂々たる勝利。自らの第2の故郷とも言うべきイタリア、それもとくに拠点としていたピエモンテでの勝利は、格別たる思いであったことだろう。

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そして、ソーサが易々と2位。最後までイネオスは圧倒的であった。2013年・2015年のクリス・フルームとリッチー・ポートの最強コンビを思い出させるような鮮やかな勝利だった。

 

そして、9位につけたのは、今年のツール・ド・ラヴニール総合4位で現在AG2Rラモンディアルのトレーニーとなっているクレモン・シャンプッサン。

来期はAG2Rラモンディアルに正式加入することがすでに決まっている、フランスの次世代のホープ。バルデもラトゥールも今年は苦しいシーズンだったことを考えると、AG2Rにおける重要な存在となりかねない男である。 

 

 

イル・ロンバルディア(1.WT)

ワールドツアークラス 開催国:イタリア  開催期間:10/12

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別名「落ち葉のクラシック」「クライマーズクラシック」。シーズン最後のモニュメントであり、グランツールライダーが最も勝利を獲得しやすいモニュメントでもある。

勝負所は2つ。1つは残り50km付近から始まる「ムーロ・ディ・ソルマーノ(ソルマーノの壁)」。登坂距離2km、平均勾配15%、最大勾配27%という凶悪なプロフィールの激坂で、昨年は優勝候補が完全に絞り込まれた。

しかし、今年はここで、集団の数が絞り込まれはしたものの、決定的な動きが起こることはなかった。

結果として、20名以上もの集団でソルマーノが攻略され、もう1つの勝負所となるチヴィリオへと向かうこととなった。

 

チヴィリオは残り22kmから始まる、登坂距離4.2km、平均勾配9.7%。過去にもこの登り、あるいは下りで勝負が決することが多い、ある意味でソルマーノの壁以上に重要な登りである。

そして今年も、ここで勝敗が決した。登りで最初に主導権を握ったのは、アレハンドロ・バルベルデであった。すぐさまプリモシュ・ログリッチェがこれに喰らいつく。先頭は10名ほどに絞り込まれ、バウケ・モレマもジュリオ・チッコーネも、この動きに反応することができなかった。

しかし、直後、バルベルデが牽制の素振りを見せる。先頭がスローダウン。その隙に、モレマは先頭に追い付く。

そして、すかさずカウンターアタック。モレマのこの攻撃に、バルベルデをマークしているログリッチェも反応せず、バルベルデも様子見に徹した。

これが致命的だった。

一気に30秒以上に広がるタイムギャップ。モレマを追いかける追走集団は、強力なメンバーを揃えながらも、すでにアシストの姿はなく、協調して追いかける体制を作れずにいた。

タイム差が縮まらないなかでみるみるうちに減っていく残り距離。ラスト11km。最後の登りであるサンフェルモ・デッラ・バッターリアを前にして、ログリッチェが我慢しきれずに飛び出した。そのアタックは強烈で、バルベルデを含む誰もが反応できずに終わった。

しかし、残り11kmはログリッチェにとっては少し長すぎた。モレマに追い付くよりも先に、バルベルデたちに吸収され、結局彼は最後には足を失ってスプリントにも参加できずに終わった。

そして、モレマは見事な逃げ切り。チヴィリオでの勇気あるアタックと、類稀なる独走力の結果、初のモニュメント勝利を獲得した。

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↓詳細はこちら↓

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パリ〜ツール(1.HC)

ヨーロッパツアーHCクラス 開催国:フランス  開催期間:10/13

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昨年から未舗装路レースへと変身を遂げたシーズン最終盤のクラシックレース。

例年このレースを支配してきたクイックステップは今年、この時期にこんな落車の危険の多いレースを行うなんて、と激怒したルフェーブルGMの意向により欠場。それでも8つのワールドツアーチームが出場するなど、人気の高いレースであることに変わりはない。

 

かつてのパリ~ツールでは、ラストは集団スプリントか、もしくはフィニッシュ直前の登りで抜け出した少人数によるスプリント、というのが定番だった。しかし昨年は、ラスト40km~30kmの未舗装路区間で分断が起き、そこから抜け出したニキ・テルプストラ、ブノワ・コズネフロワ、そしてセーアン・クラーウアナスンが逃げ切り勝利する、という実にクラシックらしい展開を演出した。

そして今年も、誰もが想像していた以上に早すぎる展開が勝負を分けた。

 

まず動いたのが、昨年優勝者のクラーウアナスン。残り68kmでボーイ・ファンポッペルと共に抜け出した彼は、やがてファンポッペルも切り離し、独走を開始した。

あまりに早すぎるこの動きに、今年の彼はチームメートのためのアシスト的な動きに徹するのかと思いきや、その勢いは強く、タイム差はなかなか縮まらない。

しかし、彼のこの独走は未舗装路でのパンクにより夢半ばに終わる。代わって後続から単独ブリッジを仕掛け、そのまま道路脇でホイール交換に手間取るクラーウアナスンを横目に先頭を突き進んだのは、昨年のブエルタもギリギリの逃げ切り勝利を演じたイェーレ・ワライス。

2014年のパリ~ツールではトマ・ヴォクレールと共に逃げ、最後の最後でこれを差し切ったことであとでヴォクレールを怒らせたという(あれ?どこかで聞いたことあるような・・・)ワライスが、今度は単独でそのまま誰をも寄せ付けないまま2度目の優勝を掴み取った。 

 

大幅なイメージチェンジからの2回目。まだまだ戦い方を手探り状態のプロトンがまごまごしているうちにあれよあれよと勝利を掴んだワライス。

これからも、劇的な逃げ切り勝利を期待している。 

 

 

ツアー・オブ・グアンシー(2.WT)

ワールドツアークラス 開催国:中国  開催期間:10/17〜10/22

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シーズン最後のワールドツアーレースは、中国で開催される1週間のステージレース。グアンシー=広州周辺で開催される。レイアウトはピュアスプリンター向けのものが多く、総合争いを決定づけるのは第4ステージの山頂フィニッシュのみ。そこも短めの登りで、本格的なクライマーよりもパンチャーが有利なことも多く、過去にはディエゴ・ウリッシやジャンニ・モスコンが総合優勝している。

今年のグアンシーは「復活」がキーワードとなった。まずはスプリンターでは、アッカーマンの2勝は順当ながら、そのアッカーマンに対し、今年ずっと振るわない様子を見せてきていたフェルナンド・ガビリアが同じく2勝を奪っている。
昨年4勝したジロ・デ・イタリアでは今年はライバルの降格により得た1勝のみ。しかも落車によって早期リタイアし、復帰後のビンクバンク・ツアーやブエルタ・ア・エスパーニャも、惜しいところにまでは何度もいくが、勝ちきることはできずにいた。
そんな中、このグアンシーで2勝できたのは大きい。まだまだ落車するなど安定感に欠けるところはあるが、盟友リケーゼとも合流する来期の本格復活に向けて、まずは良い滑り出しとなった。

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そして、もう1人の「復活」が、クイーンステージを制し、総合優勝も手に入れたエンリク・マス。彼も昨年のブエルタで総合2位を獲得し、大きな期待を背負って今シーズンに臨んだが、ここまで勝利はなし。初参戦のツール・ド・フランスでも、アラフィリップが目立っていたから良かったものの、そうでなければチームとしても散々な出来になるところだった。
そんな彼が、なんとかこのシーズン最後のレースで、結果を残すことができた。来期は母国チームであるモビスターでエースを担う。グランツールをしっかり狙えるチームでのエースは大きなチャンスとなるわけで、失敗するわけにはいかない。

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また、マスに惜しくも敗れて2位となったダニエル・マルティネスも、ある意味復活の選手である。彼も年初のパリ〜ニースでサイモン・イェーツらを破って山頂フィニッシュを制するなど強さを見せていた。だが、怪我によりツール・ド・フランスを欠場。活躍の機会を失い続けていた。
最後に勝利を得ることはできなかったものの、彼もまた、ヒュー・カーシー、セルヒオ・イギータと並び、来年のEFエデュケーション・ファーストの中心となる若手選手であることは間違いないだろう。
 

ジャパンカップ・サイクルロードレース(1.HC)

アジアツアーHCクラス 開催国:日本  開催期間:10/20

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例年以上に豪華な面子が集まり、例年以上にレベルの高い展開が生まれた。

何しろ、GPブルーノ・ベヘッリ覇者ソンニ・コルブレッリに、ミラノ〜トリノ覇者マイケル・ウッズ、さらにはイル・ロンバルディア覇者バウケ・モレマと、直近のイタリア秋のクラシックの勝者が3人も揃っている。

しかもユンボ・ヴィズマに至っては、今年のツール・ド・フランス総合3位のステフェン・クライスヴァイクに、ブエルタ・ア・エスパーニャで1勝しているセップ・クス、ロベルト・ヘーシンクと、トップクライマーたちばかりを揃えてきている本気の体制。

そして実際のレースも、序盤からすべてのワールドツアーチームが逃げに乗せ、集団牽引を引き受けさせられた国内チームは早くも息も絶え絶えとなる。そんな中、第11周目の古賀志林道の登りで、逃げに乗っていたジュリオ・チッコーネがアタックすると、集団内のユンボ・ヴィズマが全員ペースを上げて古賀志を登り始める。

この結果、集団は20名弱に絞り込まれた。しかもその中にユンボ・ヴィズマの選手が5名も含まれていた。

 

数の有利を活かし、アタックして捕まえられては別の選手がアタックするという波状攻撃を繰り出して行くユンボ。このまま、彼らが支配してレースが終わるか・・・

と、思った中で、第13周、最後から2番目の古賀の登りで、ロンバルディア覇者モレマがアクセルを全開にした。

この動きについていけたのはウッズだけ。ユンボ・ヴィズマは誰一人これに追随できるものはいなかった。

そして、勝負権は先頭の2人に。

最後の古賀志の登りでウッズはモレマを引き剥がそうとさらにペースを上げた。しかしモレマは離れず、最後は2人のスプリントに。

クレバーな抜け出しでモレマが先行。そのまま、ウッズに影さえ踏ませずにゴールへと飛び込んだ。

2015年に続く、ジャパンカップ・サイクルロードレース2勝目を飾った。

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ツアー・オブ・グアンシー・ウィメンズ(1.WWT)

ウィメンズワールドツアー  開催国:中国  開催期間:10/22

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男子のツアー・オブ・グアンシーの最終日に合わせ、1日だけ開催された女子版ツアー・オブ・グアンシー。こちらもウィメンズ・ワールドツアーの最終戦となる。

コースは男子の最終日をほぼ踏襲する。コース途中の登りも同様に使用し、この登りでCCC・リヴのアシュレー・ムールマンパシオがペースアップ。集団を25名ほどにまで絞り込む。

最後の登りの頂上からゴールまでは30㎞以上も残っており、そこで集団は40名ほどにまで戻る。ラスト10㎞での雨に濡れた路面でのクラッシュなどもあったものの、最終的には主要なスプリンターの大半が残り集団スプリントへと持ち込まれた。

今年のワールドツアー王者となるマリアンヌ・フォスが早めのスプリントを開始。今期21勝目を狙ったが、今年のマドリード覇者であるクロエ・ホスキングがこれを追い抜き、6勝目を記録した。

 

なお、ホスキングは3年間を過ごしたアレ・チッポリーニを今期を持って離脱。来期はラリー・UHCへと移籍する。

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これにて、2019年シーズン全ての男女ワールドツアー、HCクラスレースが終了した。

来年はUCIプロシリーズが始まるとのことなので、ワールドツアーに加えてそちらもレビューしていく予定。

 

また来年、よろしくお願いいたします。

 

↓前編はこちら↓

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