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ペテル・サガンがジロに出場することについて、ツール、春のクラシック、オリンピックは?

 

10月23日、ペテル・サガンが自らのツイッターで意味深な発言をポストした。

 

明日、大切なことをお知らせするよ

 

すでにある程度のリークがあったこともあり、多くのファンがこれは、「明日」の2020年ジロ・デ・イタリアコースプレゼンテーションの場で、彼が11年のプロ生活で初めてのジロ参加を宣言するのだと予想した。

 

そしてその予想は的中した。

翌10月24日。2020年のジロのエキサイティングなコース発表と共に、ペテル・サガンのジロ初挑戦が大々的に発表されたのである。

 

イタリアは常に僕の中で特別な場所であり続けた。そこは2008年に僕が最初の世界選手権を制した場所でもあり、プロとしてのキャリアの形成期を過ごした場所でもある。過去10年、僕はイタリアで開催された数多くの権威あるレースで優勝を争ってきたが、常に何かが欠けていると感じていた。ジロ・デ・イタリア。それは世界で最も美しく、挑戦的なレースの1つであり、それに参加してみたいと思わないライダーは1人もいない。5月9日にブダペストのスタートラインに立ち、この象徴的なグランド・ツアーに僕は初めて挑戦する。それはたしかに簡単なレースではないけれど、とても楽しみにしている。グランデ・パルテンツァとハンガリーで開催される3つのステージで、僕は母国のすぐ近くでジロ・デ・イタリアを走れるチャンスをもらえる。きっとその沿道で多くのスロバキア人ファンが僕を応援してくれるだろう

 

彼の言葉の通り、彼の母国であるスロバキアは、かつては長い間ハンガリーの一部であり続けた。そして現在も国境を接しており、仲がいい・・とは言えないかもしれないが、母国から応援しやすい環境は、サガンにとっても初参戦への大きなモチベーションとなったであろう。

 

 

しかし、気になるのは、彼がジロ・デ・イタリアに出ることによって、2020年の彼のスケジュールはどうなるのか?  ということ。

発表された2020年ジロ・デ・イタリアのコースのこと、サガンと競合する立場になるであろうボーラの「他のスプリンター」たちがどうなるのかということについても、触れていきたいと思う。

 

 

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ペテル・サガン、2020年のスケジュール

今年のツアー・オブ・カリフォルニア開幕前のインタビューで、サガンは次のように答えていた。

www.ringsride.work

 

たしかに、引退する前に一度はジロに出てみたいとは思ってる。でも春のクラシックとツール・ド・フランスの両方に出てかつジロにまで出ると考えるとさすがに厳しい。そうなると1月から10月までずっと準備をし続けなければならなくなるからね

 

さらに、先ほどリンクしたボーラ公式の発表で、ボーラ・ハンスグローエのGPラルフ・デンクは次のように語っている。

 

フランスにいるファンのみんなは心配しなくていい。ペテルは7月のツール・ド・フランスにも参加する予定だ

 

 

つまり、現時点では、サガンは5月のジロ・デ・イタリア(5/9〜5/31)にも、7月のツール・ド・フランス(6/27〜7/19)にも両方出る予定だという。

となれば、彼のインタビューの言葉をそのまま受け取れば、彼の2020年の春のクラシックのスケジュールがこれまでと大幅に変わる可能性が出てくる。

 

ミラノ〜サンレモ(3/21)には出場する可能性は高いだろう。ロンド、ルーベを制した彼にとって、第3のモニュメントとして長らく目標にしてきており、何度も惜しいリザルトを残しているレースだ。

主催者もジロ・デ・イタリアと同じRCSスポルトだし、ティレーノ〜アドリアティコ(3/11〜3/17)に出場してその延長線で無理なく参加できる。

 

ただし、3月後半のE3ビンクバンク・クラシック(3/27)ヘント〜ウェヴェルヘム(3/29)、そしてロンドやルーベへの出場は絶望的だと思う。

それよりは厳しい山岳地帯が待ち受けるジロ・デ・イタリアに向けて、登りのトレーニングと実戦練習が必須になってくる。いつもならツアー・オブ・カリフォルニアの時期に行っていた高地トレーニングや、それこそツアー・オブ・カリフォルニアの代わりとなるステージレースへの参戦を、3月後半から4月にかけて行っていくことになるだろう。

候補となるのはボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ(3/23〜3/29)やイツリア・バスクカントリー(4/6〜4/11)、あるいは伝統的にジロ・デ・イタリアの前哨戦とされてきたツアー・オブ・アルプス(4/20〜4/24)あたりが考えられることだろう。ジロとツールの間の期間は今年は非常に短く、急速に当てられることだろうから、ツール・ド・スイス(6/6〜6/14)への参加も今年はなくなりそうだ。

f:id:SuzuTamaki:20191026115038p:plain

2020UCIワールドツアーカレンダー

 

 

そもそも、クラシックに必要な体と、グランツールに必要な体はまったく違う。より大柄でパワーを必要とするクラシックと、減量により登りへの適性を求めていくグランツール。

今までのサガンのトレーニングスケジュールについては、以下の記事に詳しい。サガンのトレーニングコーチを務めるバディクシ・ヴィラへのインタビューであり、2017年の記事なので、もしかしたら最新の状況とは異なるかもしれないが参考にしてみよう。

zatsukan.ltd

 

まず、11月15日からツアー・ダウンアンダー(1月下旬)までが一区切りで、その後はクラシックまで高強度とスピードに重点を置いたトレーニングをしている。特に2月は一年を通して最も重要な練習を行っていて、三週目は週に32〜35時間を走るんだ

 

クラシックが終わった後は4~6日間を完全休養にあて、再開してからは筋力トレーニングやマウンテンバイクなどで身体だけでなく頭もリフレッシュさせる。こういったトレーニングを1~2週間行い、全体で3週間ほどかけて移行させている感じかな。またクラシックとツールの練習の違いは上りだ。5月にあるツアー・オブ・カリフォルニアは、ツールに向け現在の状態や修正点を洗い出す”第二のピーキング”を行うレースなんだ

 

 

クラシックに対する"第一のピーキング" を必要としない分、彼のスケジュールはシーズン最序盤から大きく変わる可能性もある。もしかしたら、ツアー・ダウンアンダーへの出場すら怪しいかもしれない。

 

とは言っても、ここまではあくまでも憶測。そもそもツール・ド・フランスへの出場を本当にするかどうかもまだまだはっきりとはしていない。いきなり「やーめた」となる可能性だってある。サガンのことだし。

ただ、少なくともこれまでとはまったく違ったペテル・サガンのシーズンを見ることはできそうなので、それはとても、楽しみなことである。

 

 

なお、ツール・ド・フランスの後に待ち受ける東京オリンピックへの参戦について気になる人もいるかもしれないが、これはほぼ間違いなく「ない」と思われる。

まず、ロードレースは彼向きのコースではなさそうだし、2016年のリオ・オリンピックでは参戦したマウンテンバイクも、先述のインタビュー記事の中で結構明確に可能性を否定している。

 

そもそも、いくらオリンピックのために来年のツールの日程が前倒しになってるとはいえ、ジロも出てツールも出た人が、そのままオリンピックに出場することはかなり現実的ではない。

 

残念ながら、来年の東京でサガンを見ることはできなさそうだ。

 

 

ただ、個人的に期待しているのが、アルデンヌ・クラシック、とくにリエージュ〜バストーニュ〜リエージュへの挑戦だ。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュは今年も参戦の可能性があったが、北のクラシック直後のまだ出来上がっていない身体での挑戦はやはり無理があった。

しかし今回、ジロに向けて早めの登坂力調整を行うのであれば、その副産物としてリエージュを狙っていく可能性は十分にある。

 

 

と、ここまで書いておいて、改めてPro Cycling Statsを見てみると、サガンの2020年のスケジュールが更新されており、ルーベまでは普通に出場し、アルデンヌは飛ばして、ツール・ド・ロマンディに出場するというスケジュールになっている。

f:id:SuzuTamaki:20191026115613p:plain

https://www.procyclingstats.com/rider/peter-sagan

 

PCSは根拠のないデータは載せないサイトでもあるので、この情報源が気になるところ・・・

 

 

 

今年のジロのコースについて

さて、サガンが参戦を決めた2020年のジロ・デ・イタリアはどういったコースが用意されているのだろうか。

詳細については以下の記事も確認するとよい。

www.cyclowired.jp

 

 

まず、トピックとしては以下の8つだ

 

  • 最初の3日間はハンガリーで開催
  • 休息日なしでシチリアへ
  • 第5ステージはエトナ山頂フィニッシュ
  • 個人タイムトライアルは3つ(第1・14・21)。総距離58.8㎞
  • 平坦ステージは6つ
  • 3週目は最終日の個人TT以外の5ステージすべて200㎞超えのロングステージで、かつそのうち4ステージが山岳系ステージ。
  • クイーンステージは総獲得標高5,000m超えの第17ステージ
  • チマ・コッピ(最標高地点)は第18ステージのステルヴィオ(標高2,758m)

 

短距離山岳ステージはなし、長さこそ正義、きっちり3週目をキツくする・・・など、最近のA.S.O.の伝統を真っ向から否定するようなレイアウトで「最も厳しいグランツール」としての矜持を感じさせる。

第1〜2週の難易度を抑え第3週をガツンと厳しくするコース設定は、ツールを見据えてジロを「早退」しようとする選手たちには有難い構成。昨年も、その意図でもってエリア・ヴィヴィアーニやカレブ・ユアンは「早退」した。

 

それではサガンも「早退」するか?  いや、先ほどのボーラ・ハンスグローエ公式サイトでは、ラルフ・デンクははっきりと「ポイント賞を巡って戦う」と宣言している。基本、早退せず完走するつもりでいると考えて良いだろう。

やはり、これほどの厳しいコースを考えるのであれば、ここまでどれだけ山岳向けの準備を進めているかが重要になる。

 

 

ツールと違って、中間スプリントポイントにおけるポイント配分はそこまで高くない。

ツールで彼が7回のマイヨ・ヴェールを手に入れる大きな要因となった、「山岳ステージで逃げに乗ってピュアスプリンターが取れない中間スプリントポイントを荒稼ぎする」作戦はそこまで有効ではない。

となれば、しっかりとステージ優勝も狙っていく必要がある。

 

 

 

では、サガンに有利なステージはどこか、というと、各ステージの詳細は下記の全体高低図から想像するしかないのだが、たとえば第13ステージのような基本フラットだが終盤に登りが用意されたステージなんかはライバルたち不在の中でスプリントができそうである。

ジロ・デ・イタリア2020コース全体高低図 | cyclowired

 

同じく、厳しすぎないアップダウンが多めの第9・第10ステージなんかは狙い目。

第16ステージは激坂を含む周回コースだが、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュやインスブルック世界選手権レベルに見えなくもないので、厳しいかもしれない。

 

 

あとは、出場するかどうかはわからないがカレブ・ユアンやエリア・ヴィヴィアーニといったトップピュアスプリンターたちとどれだけ渡り合えるか。勝てなくとも、いつも通り2位や3位をしっかりと取っていくことが重要だ。

さきほど、「早退」はよくあるという話はしたものの、今年のツールが非常にピュアスプリンターにやさしくないレイアウトであり、かつオリンピックのトラック競技をにらんでいる選手などのことを考えると、意外とツールには出ずにこのジロでポイント賞を狙ってくるスプリンターも多いかもしれない。

 

ツール無敗のポイント賞ゲッター、ペテル・サガン。堂々たるジロ初凱旋だが、その道のりは決して簡単ではなさそうだ。

Embed from Getty Images

 

 

 

アッカーマンとベネットについて

最後に、気になるのは、ボーラ・ハンスグローエ内でのスプリンターの分担である。

 

現在、ボーラ・ハンスグローエには、グランツールで勝利を狙えるスプリンターが3人いる。サガンに、今年のジロ・デ・イタリアのポイント賞パスカル・アッカーマン、今年のブエルタ・ア・エスパーニャで区間2勝かつ4回の2位を獲ったサム・ベネットである。

 

2019年はそれぞれのグランツールに1人ずつ出場したことでバランスが取れていたが、2020年のジロとツール両方にサガンが出るとしたら、割を食うのは果たしてアッカーマンとベネットのどっちだ?

ベネットもそれが分かっていたからチームを抜けたいと考えていたのかもしれないが、この辺りはまだ解決できないままシーズンが終わろうとしている。

本当か嘘かわからないが、ベネットの代わりにアルバロホセ・ホッジをくれとボーラ側が言っていたという話も出てきており、あくまでもボーラは「三頭体制」を維持したいと考えているようだが、その意図は一体。

www.cyclingnews.com

 

アッカーマンとしても、せっかくマリア・チクラミーノを手に入れたジロ。ツールへと昇格できるならまだしも、そうではなくてブエルタに押しやられるだけだと、あまり良い気分はしないだろう。

 

いずれにせよ、来期のボーラ・ハンスグローエにおける「スプリンター戦争」は、より白熱したものになりそうだ。

・・・サガンが「ツールには出る」とは言ったものの、そこでマイヨ・ヴェールを狙う、とは言っていないし、意外とアシストに回ったりもするかも? サガンは結構そういうことができる男だし・・・。

 

 

このあたりの憶測、いらぬ心配は、すべて続報が出てきて解決されていくことを願っている。 

 

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www.ringsride.work

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