ついにあの男が帰ってきた。
2018-2019シーズンにおいて驚異の34戦32勝を果たし、3大シリーズ戦のうちスーパープレスティージュは全戦全勝の総合優勝、DVVトロフェーは4分以上のタイム差をひっくり返して逆転総合優勝、世界選手権では宿敵ワウト・ファンアールトをついに打ち破って4年ぶりの世界王者に輝いた男、マチュー・ファンデルポール。
今年はマウンテンバイク・クロスカントリーでヨーロッパ王者に輝き、ロードレースではアムステルゴールドレースで常識破りの走りを見せて全世界を驚愕させた男。
彼が、ロード世界選手権の疲れからゆっくりと回復し、いよいよ今年最初のシクロクロスへと乗り込んでいく。
対峙するのは、今年のシクロクロス3大シリーズ戦において、出場した6戦中全勝している男、エリ・イゼールビット。
果たして、今年のシクロクロスも「怪物」が席巻するのか。
それとも鮮烈なエリートデビューを果たしている「新星」イゼールビットがこれを阻むのか。
今年最初の「新・頂上対決」を振り返る。
※以下の記事中の年齢はすべて、2019年12月31日時点の年齢となります。
↓イゼールビットの躍進については下記のリンクから↓
↓昨年書いたシクロクロスの基礎を学ぶ記事。3大シリーズ戦についてなど↓
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シクロクロスにおける最も格式の高い3つのシリーズ戦。
そのうちの1つが、「スーパープレスティージュ(SP)」である。
10/13に開幕し、現時点ですでに3戦を消化。
そのうちの2つでイゼールビットが優勝し、彼が欠場した第2戦ではベルギー王者トーン・アールツが優勝している。
昨年はこの開幕戦から出場し、最終的にはSP全戦を全勝して圧倒的な総合優勝を見せたマチュー・ファンデルポールだったが、今年は世界選手権の疲労からの回復が遅れ、予定を後ろ倒しにしてのこの第4戦からの参戦となった。
SP第4戦「ロッデルヴォールデ」の舞台は、ブルージュの街から南へ14㎞。西フランドルの小さな村である。
かねてよりスーパープレスティージュ定番のコースとして使用されてきており、ここ3シーズンは常にマチューが勝利を挙げている。
小さなアップダウンの連続とサンドセクション、バイクに乗りながらは決して走れない急勾配を横切るセクションなどが特徴のこのコースは、雨に濡れた影響でスリッピーかつマッドなコンディションでほぼフルメンバーとなったエリート勢を迎え入れた。
スタートダッシュは、イゼールビットが先行。
狭い第1コーナーでは大渋滞が発生し、イゼールビットと並んでこの日の台風の目になりうると期待されていたトム・ピドコック(イギリス、20歳)は早くも集団の中ほどに埋もれてしまった。
その後もイゼールビットは常にマチューの前で展開。何度か加速したマチューが彼を追い抜いて先頭に出る場面もあったが、次のコーナーではまた、イゼールビットが先手を奪うなど、積極的な走りを見せた。
さらにマチューの後ろにはイゼールビットのチームメートのマイケル・ファントーレンハウト。パウェルス・サウゼン=ビンゴールのチーム力を活かした展開を前に、さしものマチューもその実力を十分に発揮できない様子が見受けられた。
そして、3周目突入後、集団の後ろからこれもパウェルス・サウゼンのローレンス・スウィークが鋭い勢いでアタックし、大きなリードを奪った。
エースとセカンドエースで「怪物」を抑え、その間にサードエースが先行し勝利を狙う。ロードレースであればまさに必勝体制。
完璧な布陣でパウェルス・サウゼンは「最強」に挑んだのである。
しかし、これはロードレースではなくシクロクロス。
最後は個人の力で粉砕される。
事実、イゼールビットは序盤に頑張り過ぎたのか、4周目以降完全に失速。終盤では簡単なミスをしてしまうなど、集中力の欠如すら見られた。
怪物に挑むべく、勢い込んでハイペースを刻み過ぎたイゼールビット。最終的に1分38秒遅れの5位に沈み、ここまでの無双ぶりに大きなストップがかかってしまった。
だが、怪物マチューを倒すには、彼に独走を許さないことが重要。
そのためにできるだけその前を塞ぎ、抑え込むことが必至であり、現状のシクロクロッサーの中でそれができるのはイゼールビットくらいであることもまた事実。
もちろん、優勝は諦めて2位狙いにシフトすれば安全にSP総合優勝も狙えるかもしれない。
しかしイゼールビットはそこに甘んじることなく、もがいて、挑み続けたのである。
今回は勝てなかったイゼールビット。しかしその強さは間違いなく、今後、このマチューのハイペースに慣れ、食らいつくことができるようになっていけば、きっと彼に勝てる日が来るはずだ。
頑張れエリ。期待してるぞ。
そして、そんなイゼールビットの抑え込みによって鋭い飛び出しを実現させたローレンス・スウィーク。
その後も失速することなく、追いついてきたマチューに追い抜かれた後も1周回は食らいつき続けた。
最終的には突き放されてしまう彼だが、それでも2位の座は譲らず、3大シリーズ戦では2年ぶりの2位を獲得した。
「エリは機械ではない。彼は今日、バッドデイだったようだ。僕が金曜日にそうだったように。
僕はマチューを倒すためにレースを難しくしようとしたが、4周目に彼がペースアップしたときに僕はついていくことができなかった。できる限りそのギャップを小さくしようと努めたけれど、テクニックで完璧に差がついてしまったね。
僕と彼の違い? マチューはスーパープレスティージュでもう28回勝っている。そして僕は一度も勝てていないことかな。
僕たちは勝つつもりでここに来て、その思いはレース中も決して変わらなかったけれど、できることは限られていて、現実にぶち当たらざるを得なかった」
だが、イゼールビットがマチューに勝つためには、彼らチームメートの活躍は必要不可欠。
ここ最近調子が良い中で今日はうまくいかず4分14秒遅れの12位に沈んでしまったマイケル・ファントーレンハウトと合わせ、チームの力で打倒マチューを実現させてほしい。
そして、久々のシクロクロス参戦ということで、実際にどこかまだ本調子ではないところを見せていたものの、最終的にはいつもの独走を見せて圧勝したマチュー・ファンデルポール。
やっぱりこの男が来てしまうと、レースの状況は一変してしまうのか。これからも彼が、シクロクロスを支配し続けてしまうのか。
「とても難しくテクニカルなレースだった。トレーニングの成果を十分に出せたことは満足しているが、まだまだやるべきことはある。イゼールビットたちは、金曜日の激しいコッペンベルフを走ったツケが足にきていたのかもしれない。彼がここ数週間強い走りを見せた事実は変わることはない」
あくまでもマチューは、今回の勝利はライバルたちが2日前に厳しいレースをこなしたことの結果でもあると分析している。
王者に油断なし。果たして、若き新星イゼールビットに、この男を倒すことはできるのか。
最後に、昨年のワールドカップ覇者、ベルギー王者となったトーン・アールツのコメントを紹介する。
ワールドカップ開幕からこっち、常にイゼールビットに敗れ続け、最近は表彰台にすら上がれないことが続いていた。
そんな不調の彼は、今回のロッデルヴォールデも最初、集団の中に埋もれて、調子を出しきれない様子を見せていた。
だが、4周目以降、イゼールビットやピドコックがラップタイムを落としていく中、アールツは最後まで一定ペースで走り続け、最終的には3位表彰台を確保。
そんな自分の走りに少しは満足できた様子を、次のようにコメントしている。
「この1週間はなかなかうまくいかなかった。そんな中、今回3位を獲れたことは、数週間前に獲れていた2位よりもずっと嬉しい成果だと思う」
なんだかんだ第2戦を優勝したこともあり、現在ローレンス・スウィークと同ポイントでSP総合首位を走るアールツ。
この後の復活と、昨年のワールドカップに続く、2つ目の3大シリーズ制覇を狙っていけるか。
スーパープレスティージュ第4戦「ロッデルヴォールデ」リザルト
スーパープレスティージュ第4戦終了時点の総合成績
総合首位アールツから6位イゼールビットまでわずか4ポイント差の完全なる団子状態。
ファンデルポールがここから大逆転することは現実的ではないため、総合争いにおいては、このシリーズは実に面白い展開が続きそうだ。
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