いよいよ開幕した今年最後のグランツール、ブエルタ・ア・エスパーニャ。史上初の4連覇が期待されるプリモシュ・ログリッチを筆頭に注目選手が名前を連ねる中、激動の3週間は「史上初めて全グランツールのグランデパールとなった」ユトレヒトにて開幕する。
序盤はブエルタらしからぬ平坦ステージの連続でスプリント対決が繰り広げられる。ダニー・ファンポッペルの神がかり的なリードアウトが光った。
中盤はバスクの丘陵ステージの連続でプリモシュ・ログリッチが早速マイヨ・ロホを着用。このまま4連覇に向けて盤石の構えか・・・と思っていた中で、終盤のカンタブリア山脈4連戦にて、昨年のジロ・デ・イタリア以来となるグランツールを走るレムコ・エヴェネプールが、強烈なペース走行でライバルたちを圧倒する。
全く予想のつかない展開の連続。波乱を予感させる今年のブエルタの、重要な第1週を詳細に振り返っていこう。
※記事中の年齢表記はすべて2022/12/31時点のものとなります。
各ステージの詳細なレースレポートはこちらから
目次
- 第1ステージ ユトレヒト〜ユトレヒト 23.3㎞(チームTT)
- 第2ステージ スヘルトーヘンボス〜ユトレヒト 175.1㎞(平坦)
- 第3ステージ ブレダ〜ブレダ 193.2㎞(平坦)
- 第4ステージ ビトリア=ガステイス〜ラグアルディア 152.5㎞(中級山岳)
- 第5ステージ イルン~ビルバオ 187.2㎞(中級山岳)
- 第6ステージ ビルバオ~ピコ・ハノへの登り 181.2㎞(山岳)
- 第7ステージ カマルゴ~システィエルナ 190㎞(中級山岳)
- 第8ステージ ポラ・デ・ラビアナ~コリャウ・ファンクワーヤ 153.4㎞(山岳)
- 第9ステージ ビリャビシオサ~レス・プラエレス 171.4㎞(山岳)
第1週のコースプレビューはこちらから
第2週の全ステージレビューはこちらから
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第1ステージ ユトレヒト〜ユトレヒト 23.3㎞(チームTT)
実に3年ぶりとなる、チームタイムトライアルでの開幕。全グランツールにおいても3年ぶりとなる。
グルパマFDJが序盤で良いタイムを叩き出したが、これを7秒更新して暫定トップに立ったのがチーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ。2013年のツール・ド・フランスのチームタイムトライアルでも勝利し、世界選手権チームタイムトライアルでも上位常連でもあったチームがさすがの走りを見せる。
だが、優勝候補チームは終盤に固まっていた。そして前半降っていた雨も上がり、路面も乾き始めたところで、優勝候補の1つイネオス・グレナディアーズがバイクエクスチェンジを18秒更新して暫定首位に。世界選手権チームTT優勝経験のあるクイックステップ・アルファヴィニルもここに食い下がるが1秒届かず暫定2位となった。
そして、最終出走にして最大の優勝候補ユンボ・ヴィズマ。プリモシュ・ログリッチはもちろん元世界王者のローハン・デニス、エドアルド・アッフィニなどを揃えた超高速チームが期待通りの走りを見せ、イネオスの記録を13秒更新して文句なしの優勝を飾った。
その先頭はロベルト・ヘーシンク。チーム一筋16年目の大ベテランに、チームはマイヨ・ロホという特大プレゼントを渡すこととなった。
第2ステージ スヘルトーヘンボス〜ユトレヒト 175.1㎞(平坦)
オランダといえば平地の国。2016年のジロ・デ・イタリアでのユトレヒト開幕のときと同様、オランダの残り2ステージは完全なるフラット大集団スプリントステージとなった。まるでブエルタじゃないみたい。
そんな1つ目のステージは最初にできた5名の逃げが残り58.5㎞地点で早くも捕まえられたあと、残り45㎞地点から大ベテランのルイスアンヘル・マテ(エウスカルテル・エウスカディ)が単独エスケープを開始。
これも残り21㎞地点で捕まえられたあとは、大きな混乱なく大集団スプリントへと突入していった。
残り1㎞の時点で先頭はUAEチーム・エミレーツ(おそらくルイ・オリヴェイラ)。その後ろにはチームDSMやグルパマFDJの選手らが続いており、その背後にフアン・モラノに率いられたパスカル・アッカーマンの姿が。
そしてボーラ・ハンスグローエはこの時点では前から10列目ほどと、かなりポジションとしては悪い状態であった。
残り700mを切ってモラノが先頭に躍り出る。が、これはあまりにも早すぎる。その後方にはマッス・ピーダスンを牽引するトレック・セガフレードの選手(アレックス・キルシュ?)が良い位置に。
ファンポッペルもベネットを率いながら、徐々に番手を上げつつあるが、彼の前には誰もおらず、強烈な空力抵抗を受けながらのアシストは、普通に考えればその足を削り続ける、決して良い状態ではないはずだった。
そしてティム・メルリールも悪くない位置関係ではあったが、すでにアシストはおらずたった一人。
だが、残り500m。ゆるやかな左カーブで集団が左に傾いていく中、ファンポッペルは強烈な加速でその塊の中に突っ込んでいった。
結果、ピーダスンの背後のアッカーマンの番手という、最も素晴らしいポジションを奪い取ることに成功。
逆にその位置を狙っていたティム・メルリールは、アルケア・サムシックのダニエル・マクレーと肩をぶつけ合っているうちにこれを奪われた挙句、集団の右側に追いやられ、結果目の前に誰もいない最悪のポジションでホームストレートに挑むこととなってしまった。
このあとはトレック・セガフレードvsボーラ・ハンスグローエの一騎打ち。しかも凄いのは、これだけの働きをしたファンポッペルがさらに加速し、最終的にピーダスンの発射台(おそらくキルシュ)が我慢できずにピーダスンを発射させたあともなお残り、最高のタイミングでベネットを発射させることに成功した。
今やミケル・モルコフにも劣らない、世界最高のリードアウター。
そしてそこから放たれたベネットが、2年ぶりのグランツールでしっかりと勝利を掴み取った。なお、これで彼は、出場したグランツールでは5大会連続で勝利を掴み取っていることになる。
第3ステージ ブレダ〜ブレダ 193.2㎞(平坦)
第2ステージ以上の純粋平坦スプリントステージ。トーマス・デヘントを含む7名の逃げも残り11.3㎞地点ですべて吸収され、オーソドックスな展開の中最後の大集団スプリントへ。
前日に続きUAEチーム・エミレーツが先頭で残り860mの直角右カーブを通過。集団が一気に縦に長く伸び、ボーラ・ハンスグローエのダニー・ファンポッペル&サム・ベネットはこの日もここで随分と番手を落としてしまっていた。
ただ、残り680m時点でアッカーマンの前にはフアン・モラノただ一人。この日もまた、UAEはあまりにも早すぎる「最終発射台」体制となってしまった。
一方、前日に終盤でたった一人メルリールはこの日はアシスト(おそらくライオネル・タミニオー)が傍におり、ポジション的にも良い位置を確保できていた。
そして案の定、残り300m時点でモラノは力尽きてしまい、アッカーマンは早すぎるスプリント開始となってしまった。
さらに、メルリールも完璧な状況であったにも関わらず、この残り250m時点でなんとチェ―ンが落ちるというアクシデント! 何たる不運。
そして、相変わらずの「運び屋」ぶりを発揮したダニー・ファンポッペルが、選手たちの間を縦横無尽に走り抜けながら一気に加速。
そしてこのボーラ・トレインの強さを思い知ったマッス・ピーダスンも、ここできっちりとベネットの番手を取ってその瞬間に備えていた。
もしここでファンポッペルが力尽きて早めにベネットを発射してしまっていたら、ピーダスンにとっては最高の展開であっただろう。
だが、ファンポッペルはやはり強かった。このあと残り200mまでしっかりとベネットを引き上げ、完璧なタイミングで発射させる。あとはもう、完全復活したベネットの最高のスプリントを前にして、ピーダスンは横に並ぶことすらできなかった。
サム・ベネット会心の2連勝。「クイックステップの呪い」は彼もまた例外ではなかったかと思っていた中での、見事な復活となった。
第4ステージ ビトリア=ガステイス〜ラグアルディア 152.5㎞(中級山岳)
いよいよスペイン本土に突入したプロトンは、早速バスクの丘陵レイアウトの洗礼を受けることに。
6名の逃げができたものの、そのすべてが残り34㎞地点の中間スプリントポイントの直後に吸収され、先頭が一つのまま残り22㎞地点からの3級プエルト・デ・ヘレラ(登坂距離6.6㎞、平均勾配5.2%)の登坂が開始されると、マッス・ピーダスン率いるトレック・セガフレードが一気にペースアップ。その中でマルク・ソレルやセルジオ・イギータ、あるいはフアン・アユソーといった注目選手たちも次々と遅れる姿が見られる結果に。
そしてこの3級山岳の山頂に設定されたボーナスタイムポイントをプリモシュ・ログリッチが先頭通過しボーナスタイム3秒を獲得。
そのまま臨戦態勢に入ったプロトンが、最後の激坂フィニッシュ(登坂距離800m・平均勾配10%)に突入していく。
ここでもやはりトレック・セガフレードが積極的な動き。ここまで2位続きだったピーダスンを今度こそ勝たせようと、ケニー・エリッソンドが全力で彼を率いて膠着状態の集団先頭が飛び出す。
だが、ログリッチは落ち着いてこの後輪を捉え、残り200mの最後の左カーブを通過。
そこでエリッソンドが力尽きると、ログリッチはピーダスンの背後から飛び出してスプリントを開始。
当然、単純なスプリント力ではピーダスンが上。だが、ログリッチもまた、ブエルタの登りフィニッシュはこれまで幾度となく制してきた相性の良い相手。その鋭い加速に、ピーダスンは並ぶことはおろかついていくことすらできず徐々にギャップが開いていき、さらにその背後にいたエンリク・マスもまた、あえなく突き放されていく。
最後は圧倒的な勝利。この日だけでボーナスタイム13秒も獲得し、史上初のブエルタ・ア・エスパーニャ4連覇に向けて大きな一手を打つことに成功した。
第5ステージ イルン~ビルバオ 187.2㎞(中級山岳)
スタート直後にドノスティア(サン・セバスティアン)を通りビルバオへとフィニッシュする、バスクの代表的な街を発着する実にバスクらしいアップダウンステージ。逃げ切りが十分に期待できるステージだけに、最初の1時間半はひたすらアタックが繰り返され、なかなか逃げが決まらない中、時速50㎞超で駆け抜けることとなった。
そしてようやくできあがった逃げは18名もの大規模逃げ集団。しかも総合タイム差わずか58秒差のルディ・モラール(グルパマFDJ)と1分2秒差のフレッド・ライト(バーレーン・ヴィクトリアス)も含まれており、集団をコントロールするユンボ・ヴィズマは彼らにマイヨ・ロホを一旦預けることを認めた。
残り50㎞を切ってから2級アルト・デル・ビベロ(登坂距離4.7㎞、平均勾配7.8%)を2回登るレイアウト。まず1つ目の登りではローソン・クラドック(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)とヴィクトール・ランゲロッティ(ブルゴスBH)の2人が抜け出すが、これは下りで引き戻される。
そして2つ目の登りに至るまでの平坦区間で、ジェイク・スチュアート(グルパマFDJ)が抜け出して独走を開始。
その後の登りも快走を見せるスチュアートだったが、2つ目の登りの山頂まで2㎞の地点で小さくなった追走集団からマルク・ソレル(UAEチーム・エミレーツ)がアタック。
2018年パリ~ニース覇者で2020年のブエルタ・ア・エスパーニャでも逃げ切り勝利を果たしているスペインの実力派中堅ライダーが、追走10名とのタイム差10秒前後でラスト14㎞の平坦へと突入することになる。
残り5㎞で7秒差にまで迫る追走集団。だが、互いに牽制し合う追走集団はなかなかそれ以上タイム差を縮めることができない。とくにマイヨ・ロホ獲得を狙いたいルディ・モラールは直接のライバルであるフレッド・ライトを徹底的にマークしており、ツール・ド・フランスでも活躍した彼はスプリント力もあるということでかなり集団内でも警戒されていた。
そしてラスト1㎞。タイム差は4秒。なおも追走集団は牽制状態。残り500mでライトが前に出されてしまい、誰もそこから動こうとしない。
残り300m。ライトが腰を上げる。しかし後ろを何度も振り返りつつ、まだ本気でペダルを踏もうとはしていない。
一方のソレルは当然、迷う必要などなかった。完璧なタイミングでアタックを繰り出した男は、そのまま1年4か月ぶりの勝利を掴み取ることに成功した。
第6ステージ ビルバオ~ピコ・ハノへの登り 181.2㎞(山岳)
いよいよ、今大会最初の山岳カテゴリステージに。オランダから始まったブエルタらしくない前半戦を埋め合わせるかのように、カンタブリア山脈での4連戦が待ち構えている。
10名の逃げは残り42㎞地点から登り始める1級コラーダ・デ・ブレネス(登坂力6.8㎞、平均勾配8.2%)で活性化。昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで2連勝するなど才能を一気に発揮しつつあるウクライナ人マーク・パデュン(EFエデュケーション・イージーポスト)が単独で抜け出す。
メイン集団もアルカンシェルジャージを身に着けるジュリアン・アラフィリップが強力に牽引しつつ数を減らしていくが、その中でラスト11㎞。最後の1級ピコ・ハノ山(登坂距離12.6㎞、平均勾配6.55%)への登坂の入り口で、このメイン集団からジェイ・ヴァイン(アルペシン・ドゥクーニンク)がアタックして先頭のパデュンを単独で追走し始めた。
さらにこれを見送ったプロトンの中でも総合争いが勃発。残り10㎞地点のサイモン・イェーツ(チーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ)のアタックは引き戻されるが、続いて残り9㎞地点からレムコ・エヴェネプール(クイックステップ・アルファヴィニル)がペースアップ。
プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィズマ)は最初これにしっかりと食らいついていくが、腰を上げることなく淡々と前を向いてハイ・ペースを刻んでいくエヴェネプールは、やがて残り8㎞地点でついにログリッチを突き放した。
ついていけたのはエンリク・マスのみ。そのままヴァインに追い抜かれたパデュンもパスし、エヴェネプールは一切後ろを振り返ることなく、ただひたすら前を向いてペダルを踏み続けていった。マスもついていくのが精一杯だった。
そしてログリッチは遅れていたサイモン・イェーツやジャイ・ヒンドレーらに追い付かれながら、懸命に追走集団の先頭を牽いていくものの、エヴェネプールとのタイム差は着実に広がっていった。
だが、目を瞠る走りを見せるエヴェネプールだったが、先頭のジェイ・ヴァインはこれに追い付かれることなく、霧のピコ・ハノ山頂に向けて単独で突き進み続けていった。
2020年のズイフト・アカデミー・プログラムで優勝し、翌年にアルペシン入り。その年のブエルタ・ア・エスパーニャに出場し、一度落車しながらも逃げ集団に復帰してそのまま区間3位にまで登り詰めた男。この日も、逃げに乗ろうとしながら最初の5㎞地点でパンクに見舞われそれが果たせなかった彼が、ラスト10㎞、総合優勝候補たちが本気を出し始めるタイミングで集団から飛び出し、そのまま逃げ切るという偉業を成し遂げた。
第7ステージ カマルゴ~システィエルナ 190㎞(中級山岳)
コース途中に1級山岳が用意された、レース展開を予測しづらいレイアウト。当然、ピュアスプリンターたちを振り落としたいトレック・セガフレードはここで一気にペースアップし、狙い通りサム・ベネットやパスカル・アッカーマン、ティム・メルリールなどはここで篩い落とされた。
だが、それであまりにもスプリンターチームの足を使いすぎてしまったか。順調に詰めていたはずの5名の逃げ集団とのタイム差が、フィニッシュが近づくにつれ縮まらなくなっていく。残り10㎞で50数秒差。そして残り5㎞でも、同じく50秒のまま。
なんとか集団復帰を果たしていたサム・ベネットも、その他のスプリンターたちを振るい落としていたマッス・ピーダスンも、その思惑は夢に終わり、この日は逃げ切りで決着となった。
その逃げ集団を形成していたのはアルペシン・ドゥクーニンクのジミー・ヤンセンス、元U23イル・ロンバルディア覇者のハリー・スウェニ、元U23ロード世界王者のサミュエーレ・バティステッラ、ヘスス・エラダ、そして第5ステージでも惜しいところまでいっていたフレッド・ライト。
だが、この日もまた彼は一番に警戒され、先頭を牽かされ続けていた。第5ステージでも牽制しすぎてマルク・ソレルの逃げ切りを許してしまった彼は、この日は逆に残り300mと早すぎるタイミングでスプリントを開始してしまった。
この辺りはまたプロ勝利経験のない23歳の若手ゆえか。逆に、これを見切って遅れてスプリントを開始し、これを追い抜いて同じく若手のバティステッラも振り切って先頭でフィニッシュに突っ込んでいったのは――酸いも甘いも嚙み分けたベテランのヘスス・エラダ。
長らくモビスターで過ごした経験もある彼が、偉大なる先輩アレハンドロ・バルベルデのラスト・ブエルタに華を添えるが如く、勝利をチームにもたらした。
第8ステージ ポラ・デ・ラビアナ~コリャウ・ファンクワーヤ 153.4㎞(山岳)
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いよいよ第1週のクライマックス、週末の1級山岳山頂フィニッシュ2連戦。その初日はスタート直後に2級sな額が用意され、全部で5つの山岳ポイントを超えた先にある、登坂距離10.1㎞・平均勾配8.5%の激坂コリャウ・ファンクワーヤ山頂フィニッシュ。
スタート直後に登りという、逃げ向きのレイアウトで飛び出した8名の逃げ。後にティボー・ピノがセバスティアン・ライヒェンバッハに率いられて集団から飛び出して先頭に合流し、最終的に10名の逃げが形成された。
この逃げ集団から、最後の1級コリャウ・ファンクワーヤの登り初めと同時に飛び出したのがアレクセイ・ルツェンコ。そしてここに第6ステージでも優勝しているジェイ・ヴァインが食らいつき、最終的にはルツェンコも脱落して先頭はヴァイン、ピノ、レイン・ターラマエの3名に。
そこから残り6㎞でさらにペースを上げていくヴァインにターラマエ、次いでピノも突き放され、圧倒的な強さを見せつけるヴァインが独走を開始。
一度は遅れた第5ステージ勝者マルク・ソレルがピノを追い抜いて単独でヴァインを追走し続けるが、これを振り切って、2日前にプロ初勝利を遂げたばかりのプロ2年目のオーストラリア人が、早くも今大会2勝目を飾った。
そして総合争いを繰り広げるプロトンでも、勾配を増していく中、少しずつ実力者たちが零れ落ちていく。
そして残り2㎞時点で、ここにはレムコ・エヴェネプールとエンリク・マス、プリモシュ・ログリッチ、カルロス・ロドリゲスの4名だけに。
マイヨ・ロホを着るエヴェネプールはこの日も先頭固定でひたすらシッティングのままペースを上げ続ける。彼には後ろに回ってライバルたちの様子を見るというセオリーは存在しないようだ。
そしてフィニッシュ直前。ロドリゲスが脱落したあとの3名の中から先手を打ってスプリントを繰り出したのがエヴェネプール。マス、ログリッチはここに必死に食らいつくしかできず、タイム差こそつかなかったものの、ひたすらエヴェネプールの好調さを感じさせる一日となった。
第9ステージ ビリャビシオサ~レス・プラエレス 171.4㎞(山岳)
断面図だけ見れば第8ステージよりも大人しいように見えなくもないレイアウト。しかしその最終盤に用意された登りは、2018年のブエルタでサイモン・イェーツが勝利した、最大勾配24%の、短くもひたすら厳しい超激坂レス・プラエレス(登坂距離3.9㎞、平均勾配12.9%)。
9名で形成された逃げ集団から、残り9㎞で飛び出したのがサミュエーレ・バティステッラとジミー・ヤンセンス。残り7名の中にチームメートを残しているヤンセンスは先頭交代を拒否し、ひたすらバティステッラが先頭を牽引しながら残り4㎞の地獄への入り口に到達する。
いきなりの15%勾配区間でヤンセンスが加速しバティステッラを突き放す。だが、元々北のクラシック系ライダーであるヤンセンスはなかなかペースを上げることはできず、そのうちに後方からルイス・メインチェスが単独で追い上げて二人を軽々と追い抜いていった。
2016年・2017年にツール・ド・フランスで総合8位。アフリカ勢で初めてパリ・シャンゼリゼにて(新人賞という形で)特別賞ジャージを着ることになる選手となるか、と期待していたが、その後は急速に存在感を失っていく。
このまま消えてしまうのか・・・と思っていた中で、アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ入りした昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネあたりから少しずつ復調。そして今年、ツール・ド・フランスで自身3度目となるツール総合8位を獲得。このときも一旦遅れながらも第12ステージのラルプ・デュエズで復活し、総合ジャンプアップを図った。
今回のブエルタも、前日第8ステージで失速。総合29位にまで陥落したメインチェスだったが、この日はしっかりと逃げに乗り、ラルプ・デュエズでは逃したステージ勝利も獲得。一気に13位順位を上げ、総合16位で1週目を終えることとなった。
そして、総合争いの行方は。
登り始めの激坂区間で一気に数を減らしたプロトンの中で、残り3.5㎞地点でレムコ・エヴェネプールが先頭に立つ。そのまま、10%を超える超激坂区間をシッティングのままハイ・ペースを刻むマイヨ・ロホの走りについていけたのはエンリク・マス、フアン・アユソー、プリモシュ・ログリッチの3名だけ。
そして残り3㎞のゲートを前に、アユソーとログリッチがまず遅れ、第6ステージではフィニッシュまで食らいつき続けたエンリク・マスもついに突き放されてしまった。
涼しい顔で腰を下ろしたまま淡々と踏み続けるエヴェネプールは独走を開始。それはまるで、リエージュ~バストーニュ~リエージュやクラシカ・サンセバスティアンで見せたような彼の「得意パターン」のようにも見える。ただ、それをまさかこの、ブエルタ・ア・エスパーニャの平均勾配12%の超激坂フィニッシュで見せつけられるとは夢にも思わなかったのだが。
残り2.5㎞。18%を超える超激坂区間ではさすがに腰を上げるが、その後再びシッティングに戻ったエヴェネプールはひたすら一定ペースで誰よりも早くレス・プラエレスを駆け上っていく。
後方では追いついてきたカルロス・ロドリゲスがプリモシュ・ログリッチを追い抜き、フアン・アユソーとエンリク・マスに合流。
グランツール初出場の2人を含むこのスペイン人3名がタッグを組んでエヴェネプールを追いかけるが、22歳のベルギー人は容赦なくこのブエルタ2022の第1週における最強を証明して見せた。
今年、「怪物の時代」の中心にいたタデイ・ポガチャルがまさかの失速を見せ、勝利をつかみ損ねた。
そこに、一度はその中心にいたと思われながらもその後苦しい時期を過ごすことにもなったレムコ・エヴェネプールが、ここでまたも想像を超える「怪物」ぶりを見せつけることとなったブエルタ・ア・エスパーニャ2022第1週。
総合争いにおいても、頭一つ飛びぬける形となった。
だが、まだ何もわからない。ツール・ド・フランスがそうだったように。
何しろ、昨年のジロ・デ・イタリアでも、エヴェネプールは第1週は確かに好調だったのだ。エガン・ベルナルに次ぐ総合2位の座を確かなものとしていた。
だが、彼は第11ステージで突然の失速を経験する。この先、第2週はまさに彼にとっては未知の世界。さらに明らかに本調子でないログリッチはさらにタイムを失う可能性もあり、マスもここまでは確かに調子は良いが最後まで安心して見ていられるタイプではない。
ゆえに、1週間後にこの順位表がどうなっているのか、まったく予想がつかないのだ。もしかしたら、新たな「怪物」候補、フアン・アユソーがその頂点に立っている可能性すら、ある。
そんな、見逃せない今大会のクライマックスとなる第2週目は、バレンシア州からアレハンドロ・バルベルデの故地ムルシアを通り灼熱のアンダルシアへと至り、最後はイベリア半島の「天井」シエラネバダ山脈にて決戦を繰り広げる。
見逃せない難関山岳の連続をチェックしていこう。
第2週の全ステージレビューはこちらから
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