シーズンで最も熱い1日といっても良いかもしれない、そんな「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレンがいよいよ開幕する。
今年はワウト・ファンアールト率いるユンボ・ヴィズマが非常に調子良くここまでやってきているのだが、そのエースのファンアールトが体調不良によって欠場が決定。
例年にも増して「何が起こるか分からない」状況となってきている。
だからこそ、ここで冷静に、「データ」から今年のロンド・ファン・フラーンデレンの注目選手、チームを分析していきたいと思う。
使うのは独自に集計している、シーズン全ての1クラス以上のレースのリザルトを使用したデータ。集計自体は昨年からだが、昨年の集計数値(ただし半分にして)と今年の集計数値との合算、および今年の集計数値のみで、個人とチームでそれぞれランキングしていった。
もちろん、データだけではわからないものも多い。たとえば、「あの」タデイ・ポガチャルなど・・・
そういったところも最後に言及していきながら、今年のロンドの展望としていければ幸いだ。
全部で6つの勝負所の解説はこちらから
目次
同じルールで集計している昨年の各脚質ランキングはこちらから
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データから見る個人ランキング(ラポルト、マチュー、クンなど)
まずは個人ランキングから。
シーズンすべての1クラス以上のレースのTOP10リザルトにそれぞれレースの格に応じた倍率をかけて集計したものとなっている。どれを「石畳レース」と定義するかは主観に依っているため異論もあるだろうが、ある程度は参考になるデータとなっているのではないだろうか。
より直近のコンディションを重視するため、昨年の数値は半分にして集計している。
まずはその昨年の数字も含めたランキング。
まず特筆すべきが、クリストフ・ラポルトの1位。
ワウト・ファンアールトを失ったユンボ・ヴィズマではあるが、前哨戦E3ではそのファンアールトの勝負所での加速に唯一食らいつき、最後はワンツーフィニッシュを決めていたラポルト。
昨年のロンドでも11位。パリ~ルーベでは6位と、コフィディス時代からエース級の活躍をしていた彼に、上記ランキングでも13位のティシュ・ベノート含め、エドアルド・アッフィニ、マイク・テウニッセン、ネイサン・ファンフーイドンクなど、今年の北のクラシックを席巻してきている最強チームぶりは健在。
ファンアールトの代わりにメンバーインしたミック・ファンダイケも、昨年9月から昇格している元育成チームのメンバーで実質的なネオプロだが、今年のコッピ・エ・バルタリで、マチュー・ファンデルプールが勝利しているステージで区間5位など、トップレースでも十分に活躍しうる姿を見せている。
これまでのレースの「ユンボ・ヴィズマ」としての強さについては以下の記事などを参照のこと。
勝負所でネイサン・ファンフーイドンクが牽引してベノート、もしくはラポルトがアタックする形式。
これまではそこにファンアールトがついてきて数の有利を作ってきたわけだが、今回はそれをベノートとラポルトのダブルエースで実現できれば問題ない。
あとは、ラポルトが、クールネ~ブリュッセル~クールネとヘント~ウェヴェルヘムでやってしまっている。最後の最後のスプリント負け、にならないように頑張ってほしいところである。
頑張れ、ユンボ・ヴィズマ。そしてクリストフ・ラポルト。
ファンアールトだけではない、チームとして今年の彼らは強かったんだ、ということを証明してみせろ。
また、個人ランキング2位につけているのがマチュー・ファンデルプール。
昨年のロンド2位、ルーベ3位、E3で3位など、華々しい成績を残していた誰もが認める最強クラシックライダー。
だが、彼も今年は決して万全ではない。以下の「今年だけ」の個人ランキングでは5位に沈んでいる。
その原因は、昨年夏の東京オリンピック・マウンテンバイクでの落車、そしてその後のトレーニング時期での怪我、あるいはそれ以前から抱えていた腰や背中の痛みなど、複合的な要因でシクロクロスシーズンも早々に終了し、ロードレースシーズンでも3月の半ばまで息を潜めていた。
が、その復帰初戦、しかも予定にはない急遽の復帰戦であったミラノ~サンレモでも、いきなりの3位。その後もコッピ・エ・バルタリで「逃げにブリッジしてこれを突き放して単独先頭独走し、それが引き戻されたうえで集団スプリントで勝つ」という意味のわからない勝ち方をするなど、いつものマチュー劇場が開幕。
さらには先日のドワースドール・フラーンデレンでも、最後まで強さを見せつけてティシュ・ベノートを突き放すスプリント勝利。
ファンアールトがいない中、結局最強は彼なのではないか? という思いも強くさせる最近のマチュー。
ただ、ドワースドール・フラーンデレンでは、本来の彼の万全の力を発揮できるのであれば、もっと圧倒的に突き放していてもおかしくはなかったのではないかとの思いもある。
ミラノ~サンレモも、コッピ・エ・バルタリも、ドワースドール・フラーンデレンも、激坂の厳しさなどは決してそこまで高いわけではない。
昨年のパリ~ルーベも、幾度のアタックでソンニ・コルブレッリを突き放せず最後に競り負けてしまうという「万全ではない」雰囲気を感じていただけに、同じようにロンド・ファン・フラーンデレンの世界最高峰の厳しいレース展開の中で、果たして耐えられるのか。
あとは、悪天候という、過去何度も彼を苦しめてきたコンディションが、彼にとってマイナスの影響をもたらす可能性は非常に高そうだ。
マチュー・ファンデルプール、下馬評では最強かもしれないが、決してそうとは言い切れない部分も正直、多い。
逆に悪天候において強いのが、今年ここまでかなり絶好調で「今年だけ」の個人ランキングでは3位に入り込んでいるシュテファン・クン。
常に積極的な動きで、重要な抜け出し集団の中に常に身を置いている。
今年強いのは、さらに彼の傍に昨年のフランドル選手権で最後の最後までジュリアン・アラフィリップを守り、アタックのきっかけを作った男、ヴァロンタン・マデュアスや、オリヴィエ・ルガック、ケヴィン・ゲニッツ、ルイス・アスキーなども、今年の北のクラシックで良い位置に身を置いている。
マデュアスとクンの2名体制で先頭付近に残り続けることで、今年は彼らにチャンスがありうるかもしれない。
直近のドワースドール・フラーンデレンでは6位。昨年のヘント~ウェヴェルヘムでも6位で一昨年のヘントでは5位。ロンドやルーベではまだそこまででもないものの、北のクラシックへの適性は間違いなく高いシュテファン・クン。
「何が起こるか分からない」を象徴するような勝利に、期待していきたい。
ただ、2019年の超悪天候ヨークシャー世界選手権でも、ファンデルプールが脱落する中彼は最後のスプリントにまで挑めたのは良かったものの、結局はスプリントでマッス・ピーダスンとマッテオ・トレンティンに歯が立たずの3位。
今年も、できれば独走で決めたいところ。そこは「今年だけ」個人ランキング2位のヴィクトール・カンペナールツも同様だ。
データから見るチームランキング(クイックステップ、イネオスなど)
さて、続いてチーム毎のランキングも見ていこう。こちらはもちろん、今回出場のメンバーの数字だけを合計して比較したランキングである。
同様に昨年の数字を(半分にしてはいるが)反映したものと今年だけのランキングとの2種類がある。
まずは昨年の数字と合わせたものを。
強力なメンバーを揃えてきているユンボ・ヴィズマをわずかに上回り、首位に立っているのはさすがの「最強チーム」クイックステップ・アルファヴィニル。
但し。これはあくまでも昨年からのランキングであり、今年だけの数字のランキングでは合計わずか「12ポイント」で、チームランキング13位という体たらくである。
ティム・デクレルクの長期離脱などもあり、今年の北のクラシックにおける「最強チーム」はかなり厳しい状況にあったのは間違いない。
実際、各レースでは常に、先頭集団に1名しか残せていないような、彼らの得意とする「数の有利」を全く生かせない展開が続いていた。
とはいえ、そこはロンド王者カスパー・アスグリーンを擁するチーム。
そして、デクレルクもしっかりと復活。
昨年活躍しているランパールト、セネシャル、そしてスティバルらとのコンビネーションをこの大一番で復活させ、最強チームの意地を見せられるか。
そして、「今年だけ」のランキングも見ていこう。
ここでやはり注目すべきは、イネオス・グレナディアーズの存在。
平均年齢25.4歳という驚異的に若いメンバーを揃えながらも、いずれの選手も各レースで活躍しており、かなり危険な存在である。
その中でも2大エースとして機能するのがヨナタン・ナルバエスとトム・ピドコックの存在。今年のクラシック開幕戦オンループ・ヘットニュースブラッドでは、中盤のティシュ・ベノートとワウト・ファンアールトのアタックにこの2人だけがすぐさま食らいつく形となった。
ピドコックはその後体調不良で離脱するも、先日のドワースドール・フラーンデレンでは3位と復活ぶりを見せており、彼もまた、実績からでは分からない可能性を感じさせる男だ。
ドワースドール・フラーンデレンでは、190㎝超のベン・ターナーとの組み合わせも印象的で、今大会もこのコンビが活躍することにも期待したい。
さらに、昨年から、でも今年だけ、でも安定して3位の位置につけているのがAG2Rシトロエン・チーム。
グレッグ・ファンアーヴェルマートの相変わらずの安定感に加え、ダブルエースのナーセン、そして昨年パリ~ツールや今年ル・サミンなどで4位など、小さなレースでしっかりと結果を出してきているスタン・デウルフなど。
その他、シェアーやファンフッケなど、いい選手は揃っている。ユンゲルスも、本来の力を取り戻しさえすれば、エースを担える才能の持ち主だ。
あとは、2人のエースも含めて、どうしても「勝ちきれない」ところをどうするか。
上位に入るだけでは、もう物足りない。
データからでは分からない注目選手
さて、ここまでは実績、データから分析をしてきたものの、当然、データからだけでは見えない部分もある。
その筆頭が、やはりこの男。タデイ・ポガチャルである。
ストラーデ・ビアンケでは残り50㎞からの独走勝利を決めるなど、常識を凌駕する走りを常に披露してきている彼にとって、実績は何の参考にもならない。
初北のクラシックとも言えるドワースドール・フラーンデレンでは、中盤のマチュー・ファンデルプールらの抜け出しに乗り遅れるなどクラシックらしい戦い方にはまだ不慣れな感じも見えていたものの、さすがのフィジカルを発揮し、最終的には10位にランクイン。石畳適性はまだまだ未知数だが、ロンド・ファン・フラーンデレンでの激坂ではむしろ有利にもなりえるだけに、最後の瞬間にファンデルプールとポガチャルの2名が先頭で並び立って抜け出すような場面は十分に想像できる。
チームとしては悪天候での実績もあるマッテオ・トレンティンがいるため、純粋に彼も先頭で勝利を目指して展開していくだろうが、そこにポガチャルがどんな自由な動きをしてみせてくれるか。
とにかく楽しみな男ポガチャル。
このロンドでまた、我々を驚かせてくれるのだろうか。
その他、ミラノ~サンレモでの驚異的な下りで勝負を決めたマテイ・モホリッチや、各種クラシックでしっかりと前線に残る姿を見せている、レイトアタックの盟主セーアン・クラーウアナスンも怖い存在。
体調、天候、コンディション・・・あらゆる要素が絡み合い、例年にも増して「どうなるか分からない」今年のロンド・ファン・フラーンデレン。
ただ一つ言えるのは、それが必ず、想像を超えるドラマを描き出すだろう、ということ。
さあ、いよいよ開幕だ。
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