りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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ロンド・ファン・フラーンデレン2022 コースプレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:ベルギー

Region:フランデレン地域

Organiser:フランダース・クラシックス

First edition:1913年

Editions:106回

Date:4/3(日)

 

今年もついにこの季節がやってきた。

「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレン。本当に強い者だけが勝利を許される、北のクラシックの最高峰。

昨年はクイックステップのチームワークを叩きのめしたマチュー・ファンデルプールとワウト・ファンアールトが再び一騎打ちを繰り広げるのかと思いきや、覚醒したカスパー・アスグリーンの独力でまずはファンアールトを振るい落とし、そして最後、まさかのスプリントでファンデルプールを打ち破るという、伝説の走りを見せたこのロンド・ファン・フラーンデレン。

 

今年はどんなドラマが生まれるのか。

例年にも増して「何が起こるか分からない」このレースについて、まずは注目すべき勝負所の紹介をしていきたいと思う。

 

注目選手・チームについてはこちらから

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目次

   

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レースについて

ロンド・ファン・フラーンデレン、別名ツール・デ・フランドルとは、1913年に初開催され、ペテル・サガンが優勝した2016年に第100回を迎えた伝統あるワンデーレースである。

格式の高いワンデーレースを意味する「クラシック」の中でも特に格式の高い5つの「モニュメント」と呼ばれるレースの1つであり、「フランドル1周」を意味するその名の通り、ベルギーの北部フランドル地方を舞台とする。

 

又の名を「クラシックの王様」。

同時期に開催されるヘント〜ウェヴェルヘムやE3ビンクバンク・クラシックなどのフランドル・クラシックの総決算とも言えるレースになっており、その走行距離は250㎞を超え、全部で18もの石畳含む急坂(ミュール)が用意され、石畳を難なくこなせるパワーとテクニック、そして急坂で引き千切られない瞬発力とが同時に必要とされる、非常に高度なレースである。

それだけにその優勝者はグランツール制覇や世界選手権制覇にも劣らない至高の名誉を手にすることとなる。

 

地元ベルギー人はもちろん、世界中のクラシックレーサーにとっての頂点の1つ。

それがこの、キングオブクラシック、ロンド・ファン・フラーンデレンである。

 

 

コース詳細・見所

今年のコースは全長272.5㎞。新型コロナウィルスの流行以降、「カペルミュール」を外し少々距離が短くなる傾向にあったが、今年はオウデナールデにフィニッシュするレイアウトを採用した2012年以降で最長のコースとなった。但し今年も「カペルミュール」は通過せず。

 

以下では、例年の勝負所となる6つのセクションを、過去のレースを振り返りつつ解説していく。
(残り距離はあくまでも目安であることにご留意ください)

18の急坂と7つの石畳の一覧表

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残り約60㎞「2回目オウデクワレモント」

全長2,200m / 平均勾配4.0% / 最大勾配11.6%

全部で3回登ることになる2012年以降の大会の新たな象徴「クワレモント旧道」。

勾配は決して厳しくはないが荒れた石畳の登りがひたすら延々と続き、本当の実力者だけがじりじりと前へ進むことのできるセクションとなる。

この時点ではまだ2回目で、ゴールまでも距離があるため、基本的にはそこまで決定的な動きは作られないのだが、2017年にはまさにここでジルベールの独走が始まった。

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2019年大会においては、ここでEFエデュケーション・ファーストのセップ・ファンマルクがステイン・ファンデンベルフと共にアタック。

彼自身は3回目オウデクワレモントの直前で集団に吸収されるが、このときの彼の走りが、のちにベッティオルの優勝のきっかけを作ることに。

この年のEFエデュケーション・ファーストはまさに「ピンクのウルフパック」というべき走りを見せていた。

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そして昨年大会においては、ディフェンディングチャンピオンのマチュー・ファンデルプールがここでアタックを繰り出した。

2017年大会のジルベールばりの独走も、彼ならばやってのけてしまってもおかしくはない――が、それを許すまじと動いたのが、クイックステップのカスパー・アスグリーンであった。

ファンデルプールもさすがに彼を連れて足は使いたくなかった。後続にジュリアン・アラフィリップなどエース級の選手たちの数を揃えているアスグリーンが前を牽こうとしないことは明白だったので。

足を止め、集団に引き戻されるファンデルプール。クイックステップはチームとしての明確な戦略でもって、危険な逃げをまずは潰すことに成功した。

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残り約45㎞「コッペンベルグ」

全長600m / 平均勾配6.2% / 最大勾配22%

数多くの難関激坂の登場するロンド・ファン・フラーンデレンの中でも、「最も難易度の高い登り」とされているのがこのコッペンベルグ。

何しろ最大勾配22%。石畳でその勾配なのだから、プロ選手であっても勢いをつけて一気に登らないと足を着かざるをえなくなる。

集団の先頭ならまだいいものの、その後ろの選手たちはどうしても前が詰まってペースが落ちるため、集団の後方は惨憺たる有様が広がっていく。

 

そんな厳しいコッペンベルグだが、ロンド・ファン・フラーンデレンではフィニッシュまでの距離がまだ長いため、そこまで決定的な動きを巻き起こすポイントにはあまりならなかった。

しかし2020年大会では、このコッペンベルグを前にした平坦区間でジュリアン・アラフィリップがドリス・デヴェナインスに牽引されながらペースアップ。

これは一度捕まえられるものの、続く激坂コッペンベルグでアラフィリップは2度目のアタックを繰り出した。

 

このときのアタックは結局ワウト・ファンアールトやマチュー・ファンデルプールらによって捕まえられてしまうのだが、その後の残り40㎞から始まるシュテインビークドリシュの下りでアラフィリップが3度目のアタック。

ここでアラフィリップが完全に抜け出し、ファンデルプールが唯一食らいつく。のちに残り40㎞地点のターインベルグにてワウト・ファンアールトが合流し、最強の3人の逃げが形成された。

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昨年大会でも同じくこの「コッペンベルフに向けての平坦区間」で動きが。ティム・ウェレンスのアタックに反応してトム・ピドコックが食らいつき、そこにフロリアン・セネシャル、クリストフ・ラポルト、ジュリアン・アラフィリップといった強力なメンバーが追随していったのである。

 

ここに、マチュー・ファンデルプールと、彼が動けば動くつもりでいたワウト・ファンアールトが反応できなかった。ファンデルプールは先ほどのアスグリーンとの攻防戦で足を使ってしまったようだ。

慌ててブリッジを仕掛けようとすればアスグリーンによって再び食らいつかれる。

クイックステップはまたもチームとしての巧みな戦術によってファンデルプールを抑え込むことに成功した――ように思えたのだが。

 

昨年はこのあとのコッペンベルフ本番にて、マチュー・ファンデルプールが圧倒的な強さを見せつけた。

同年のストラーデ・ビアンケの最後のカンポ広場への激坂でアラフィリップを突き放したときのように、この最大難所コッペンベルフでの石畳の激坂での一撃で、彼はカスパー・アスグリーンを突き放して飛び立ってしまった。

 

今年のファンデルプールは病み上がりではあり、普通に考えれば本調子とは言えないだろう。

が、復帰初戦のミラノ~サンレモでの3位や、直前のドワースドール・フラーンデレンでの勝利など、むしろ絶好調のようにすら感じる。

果たして、今年もこのコッペンベルフの「直前の平坦路」と「最大難度の激坂」でドラマが生まれてしまうのか。

 

 

残り約30㎞「クルイスベルグ」

全長2,500m / 平均勾配5.0% / 最大勾配9.0%

大会最長の石畳激坂は、ゴールまで残り30㎞という絶妙な位置にあることもあって、これまでも数多くの決定的な動きを作ってきた。

2018年もまさにそうだった。この10㎞手前に位置する「ターインベルグ」で30名ほどに絞り込まれたメイン集団の中で、クイックステップはジルベール、スティバル、ランパールト、そしてテルプストラと最も多くの選手を残していた。

しかもその全員が、エース級だったのだ。

 

まず動いたのはスティバルだった。数々のレースで「先鋒」としての役割を果たし、その結果勝利を得ることもある男だ。このときも彼がきっかけを作った。

スティバルの攻撃に対してサガン、クウィアトコウスキー、ニバリが反応。後続が追いついたところでニバリがカウンターアタック。これについていったのがテルプストラだった。

 

クイックステップの全ての攻撃に逐次反応するわけにはいかない。とくに前年覇者ジルベールや、直前のドワーズ・ドール覇者ランパールトの動きは認められない。しかしE3でも独走勝利していたテルプストラもまた、逃してはいけない選手だった。結局は、クイックステップのカードの枚数が多すぎて、ライバルチームはどうしようもなかったのだ。

ニバリとともに抜け出したテルプストラは、そのまますぐに彼を突き放し、勝利へと至る独走を開始した。

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ちなみにこのクルイスベルグは、2015年にもテルプストラがアタックして抜け出している。

しかしそのときはアレクサンドル・クリストフが食らいついてきてしまい、最後はスプリントで敗れてしまった悔しい思い出があり、2018年は見事なリベンジの舞台となったわけだ。

 

今年もこのクルイスベルグが見逃せない展開を生みそうだ。

 

なお、2016年はサガンがファンマルク、クウィアトコウスキとともにこのクルイスベルグの手前の舗装路で抜け出してカンチェラーラを置き去りにしている。

2019年も同じ舗装路区間でマチュー・ファンデルポールとワウト・ファンアールトが積極的な攻撃を見せ、これを抑え込むために動いたゼネク・スティバルが脱落している。

すでに2017年覇者ジルベールもこの時点で脱落しており、この年のクイックステップ敗北の予兆が確かに刻まれていた。

昨年の2021年大会においても「クルイスベルグ "後" の平坦路」でジュリアン・アラフィリップが失速。

ファンデルプールとファンアールトに対し、アラフィリップとの「数の有利」を活かせると考えていたアスグリーンにとっては誤算とも言える瞬間であった。

 

よって、この残り30㎞地点から始まるエリアについては、急坂クルイスベルグ以外の舗装された平坦区間も含め、常に警戒すべきポイントとなっている。

 

 

残り約17㎞「3回目オウデクワレモント」

全長2,200m / 平均勾配4.0% / 最大勾配11.6%

残り約13㎞「2回目パテルベルグ」

全長360m / 平均勾配12.9% / 最大勾配20.3%

いよいよクライマックス。ゴール前に用意された2つの登りの連続。

オウデクワレモントは長く荒れた石畳、パテルベルグは短い代わりに、前輪が浮いてしまいそうになるくらいに強烈な激坂となっている。

 

パテルベルクを「ペテルベルク」と名付けてしまいたくなるくらいに鮮烈な勝ち方を見せたのが2016年のペテル・サガンであった。

残り30㎞地点のクルイスベルグで抜け出したサガン、ファンマルク、クフィアトコフスキの3名。この「3回目オウデクワレモント」でクフィアトコフスキが脱落するが、後方でアクセルを踏み始めたファビアン・カンチェラーラが一気に集団を突き放してこのクフィアトコフスキも飲み込んだ。

それでも先頭に残り続けたサガンとファンマルク。そこに迫りくるスパルタクス。

残り13㎞の「2回目パテルベルグ」で、サガンはさらに一段ギアを上げ、ファンマルクも突き放す。

カンチェラーラはこのファンマルクも飲み込んでサガンを追走し続けるが、結果としてこのパテルベルグで捕えきれなかったことが、彼の敗北の最終要因となった。

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2019年もベッティオルが抜け出して独走を開始したのがこの3回目オウデクワレモントであり、確実に勝負を決する最終ポイントなのである。

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2021年大会もファンデルプールがこの3回目オウデクワレモントで最後のアクセルを踏んだ。

これによって、ファンアールトが脱落。

しかし、まさかのアスグリーンが、ここでファンデルプールに食らいつき続けた。

 

そして直後のパテルベルグでは逆にアスグリーンがシッティングのままペースアップ。

石畳の登坂の真ん中を淡々と踏みこんでいくアスグリーンに対し、ファンデルプールは石畳を少しでも避けるようにして未知の端を駆け上がっていくが、落ち着いた様子で踏み続けるアスグリーンに対し、ファンデルプールは上体を左右に激しく揺らし、苦しそうな走りを見せていた。

 

カスパー・アスグリーン、彼がこの年のロンドにおいて、最強であることの何よりも証明となる瞬間であった。

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ラスト13㎞「王の道」

最後の登り「2回目パテルベルク」を越えたあと、残されたのは13㎞にわたって続く平坦路である。

私はここを勝手に、「王の道」と呼んでいる。

 

2016年のサガン独走、そして2019年のベッティオル独走は共に、決して逃げ切り確定と言えるような状況ではなかった。

2016年のサガンは後方からあの世界最強TTスペシャリストのファビアン・カンチェラーラが迫ってきているのであり、2019年のベッティオルもクリストフやナーセン、サガン、ファンアーフェルマートなどを含む15名もの強力な追走集団が迫ってきていたのである。

 

いずれも、逃げ切るにはあまりにも厳しい――そんな予感とは裏腹に、いずれの「王」も堂々としたペダリングで後続を寄せ付けることなく、まるで凱旋式でもあるかのように、黄金色に輝く最終ストレートを単独で走り抜いている。

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この最後の13㎞は、まさに新王のための凱旋ロード。

今年も、オウデクワレモントとパテルベルクという最後の2つの登りを乗り越えた選手を、この13㎞は迎えてくれるに違いない。

 

 

だが、2016年~2019年と、「王の凱旋」を迎え入れてくれたこの「王の道」も、ここ2年は「2人の王」による、緊張感あふれる一騎打ちの舞台となってきた。

2015年にアレクサンデル・クリストフとニキ・テルプストラを迎え入れたときは、下馬評通りのクリストフの勝利であった。

が、2020年は、ピュアスプリンターに対してもツールで勝ってしまうようなファンアールトに対し、さすがのマチュー・ファンデルプールも敵わないだろう――と思っていた中での、まさかの勝利。

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そして昨年2021年大会は、そのマチュー・ファンデルプールを打ち破っての、誰もが驚くアスグリーンのスプリント勝利。

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今年も、何が起こるか、最後の最後の最後の瞬間まで、本当にわからない。

 

ただ一つ言えるのは、このレースで勝つことができるのは、「本当に強い者だけ」だ、ということ。

 

 

今年、すでにここまで最強に次ぐ最強という実績を積み重ねてきたワウト・ファンアールトの欠場が報じられるなど、すでにして大きな混乱が巻き起こっているロンド・ファン・フラーンデレン。

 

例年以上に「何が起こるか分からない」この最高峰レースについて、次回は注目選手などをプレビューしていく予定である。

   

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