りんぐすらいど

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イル・ロンバルディア2022 プレビュー

Class:ワールドツアー

Country:イタリア

Region:ロンバルディア州

First edition:1905年

Editions:116回

Date:10/8(土)


ワールドツアー最終戦、シーズンの終幕を飾る「落ち葉のクラシック」イル・ロンバルディア。

ヨナス・ヴィンゲゴー、タデイ・ポガチャル、そして引退前ラストレースとなるアレハンドロ・バルベルデ、ヴィンツェンツォ・ニバリなどが集まる実に豪華な最終戦を、詳細にプレビューしていこう。

※年齢表記はすべて2022/12/31時点のものとなります。

 

昨年大会についてはこちらから

note.com

 

YouTubeでも予習実況しております!

youtu.be

 

目次

  

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コース詳細

それまではコモ~ベルガモ・ルートとベルガモ~コモ・ルートが交互に開催されていたが、2015年・2017年のヴィンツェンツォ・ニバリ2連勝の影響もあってか、マドンナ・デル・ギザッロの鐘の音もしっかりと放送に乗ってソルマーノの壁からのスペクタルな展開が人気を博したベルガモ~コモ・ルートが2017年以来4年連続で登場。

このままイル・ロンバルディアといえばベルガモ~コモ・ルートで固定されるのか――と思いきや、2020年にレムコ・エヴェネプールが下りで落車。これまでも散々危険視されてきたソルマーノからの下りをいよいよ封印する気になったのか、翌年2021年は5年ぶりのコモ~ベルガモ・ルートを選択することとなった。

 

これからも安全性を重視してコモ~ベルガモ・ルートが続くことになるのかな、と思っていたが・・・

 

結局、ベルガモ~コモ・ルートが復活。

但し、これまでのベルガモ~コモ・ルートとは大きく異なる部分がある。

すなわち、マドンナ・デル・ギザッロの登りの直後に登場していた悪名高き「不可能の怪物」ソルマーノの壁が完全に除去されたこと。

やはり、ソルマーノからのあの危険な下りを回避することはマストだったのか。

マドンナ・デル・ギザッロの鐘の音はしっかりと聴きながらも、安全性に配慮したコース設定が選ばれることとなった。

 

しかし、ソルマーノの壁が失われたのはこのコースの魅力の大部分を失うことにもなるのか?

 

いや、そんなことはない。

そもそもソルマーノの壁は確かに凶悪な登りではあったが、そこでこのレースのすべてが決まるわけではなかった。

確かにセレクションはかかるが、それでもこれまでのレースではソルマーノの壁の頂上からフィニッシュまでは50㎞、ソルマーノの下りの終端から次の登りまでの平坦路だけでも15㎞も残っており、そこで遅れた選手が戻ってくるパターンも非常に多かった。

 

むしろ、ラスト20㎞を切ってから始まるチヴィリオ、そしてフィニッシュ前5㎞地点に頂上を迎えることになるサン・フェルモ・デッラ・バッターリアで勝負が決まるパターンが非常に多い。

2017年のヴィンツェンツォ・ニバリはチヴィリオの登りでティボー・ピノを突き放して独走に持ち込み、2018年のティボー・ピノは逆に同じこの登りでニバリを突き放して独走に持ち込んだ。

2019年のバウケ・モレマが勝負を決めたのもこのチヴィリオだった。

さらに、今年はこのクライマックスをさらに盛り上げるべく、今年のコースはソルマーノの壁をなくした代わりに「最後の登り」サン・フェルモ・デッラ・バッターリアを「2回」登らせる。

すなわち、フィニッシュ前30㎞手前に一度サン・フェルモ・デッラ・バッターリアを登らせ、そこからチヴィリオ&サン・フェルモ・デッラ・バッターリアの組み合わせを持ってくるレイアウト。

サン・フェルモ・デッラ・バッターリアはチヴィリオに比べるとレースの展開を決定的なものにする役割は果たしてこなかったが、2020年のレースでは最後に残った3名(フルサン、ウラソフ、ベネット)の戦いに終止符を打つこととなった。

今回はそのサン・フェルモ・デッラ・バッターリアが2回。合計で3つの峠を登らせることとなる今年のイル・ロンバルディアラスト30㎞は、もしかしたらこれまでにない白熱の展開を生み出すことになるかもしれない。

何しろ、まずソルマーノの壁でのセレクションがない分、例年よりも大きな塊でこの残り30㎞に突入するであろうこと。

そしてチヴィリオでの攻撃だけに警戒することはできず、1回目サン・フェルモ・デッラ・バッターリアでの奇襲にも備えなければならないということ。

 

悲劇を乗り越えて、イル・ロンバルディアの新しいベルガモ~コモ・ルートは新しい魅力を生み出すことはできるか。

注目の一戦である。

 

 

注目選手

タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)

Embed from Getty Images

昨年大会は初出場ながら残り35.5㎞で集団から抜け出し独走を開始。最後は追いついたファウスト・マスナダとのマッチスプリントを制し、自身2度目のモニュメント制覇を成し遂げた。

今年もツール・ド・フランスでこそ敗北したものの、ストラーデビアンケやロンド・ファン・フラーンデレンでは驚異的な走りを見せ続けてきた彼の、悲喜こもごものシーズンを締めくくる大勝利は果たせるか。

状態は良い。前哨戦ジロ・デッレミリアでは最後の激坂でエンリク・マスに置いていかれる姿も見せたものの、直後のトレ・ヴァッリ・ヴァレジーネでは小集団スプリントでアレハンドロ・バルベルデ、セルジオ・イギータらを抑え込んで勝利。昨年のリエージュ~バストーニュ~リエージュでジュリアン・アラフィリップを、今年のグランプリ・シクリスト・ラ・マルセイエーズでワウト・ファンアールトを下したさすがのスプリント力は、最後が平坦フィニッシュとなるイル・ロンバルディアにおいては大きなアドバンテージとなるだろう。

今大会はツールで彼を負かしたヨナス・ヴィンゲゴーも出場するものの、ワンデーレースでの実績においては一日の長があるポガチャル。

リベンジを果たせるか。

 

エンリク・マス(モビスター・チーム)

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「コンタドールの後継者」――しかし、肝心なところで失速する姿をよく見せ、なかなか期待通りの走りができないことの多かったこの男が、今年のブエルタ・ア・エスパーニャでは3度目の総合2位ながら最後まで攻撃的な姿勢を見せ続け、さらにイル・ロンバルディア前哨戦の一つジロ・デッレミリアでは、なんと最後の激坂サン・ルーカでタデイ・ポガチャルを突き放すという、ヨナス・ヴィンゲゴーやワウト・ファンアールト以外ではほとんど誰もなし得なかった偉業をやってのけたのである。

もちろん、イル・ロンバルディアでは必ずしも同じようにするのは難しいかもしれない。ラスト5㎞は平坦であり、最後の登りサン・フェルモ・デッラ・バッターリアもサン・ルーカに比べるとやや緩やか。その前のチヴィリオならば十分にこれに値する難易度を誇るがフィニッシュまでの距離はまだ長く、独走力勝負ではマスはやや不利と言わざるをえない。

だが、マスの強みはやはりアレハンドロ・バルベルデの存在。そもそもジロ・デッレミリアでも、最後はバルベルデによって発射された。逆にトレ・ヴァッリ・ヴァレジーネでは、マスがバルベルデのためのアシストに徹することとなった。

真の意味でのダブルエース。2020年の同じコモフィニッシュのときも、ダブルエースで挑んだアスタナが勝利を掴んでいる。最終局面で2vs1の展開を作れれば、ポガチャルを倒すことも十分に可能かもしれない。

勝つか、勝たせるか。いずれにせよ、今後のモビスター・チームの唯一絶対のエースとして恥ずかしくない走りを見せるべき重要なレースとなるだろう。

 

ヨナス・ヴィンゲゴー(ユンボ・ヴィズマ)

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衝撃のツール・ド・フランス覇者ヴィンゲゴー。その後しばらくレースから遠ざかっていたものの、9月末のクロ・レースで復帰。2つの山頂フィニッシュを共に制しさすがの登坂力を見せ、最終的には平坦ステージでボーナスタイムを奪われて逆転敗北を喫してしまうが、足色は十分見せた状態でシーズン最後の戦いとしてこのイル・ロンバルディアへと挑む。

本来であればチームのエース、プリモシュ・ログリッチが得意とするこのイル・ロンバルディア。しかし今年は彼が負傷により出場できない代わりに、チームの新しい顔として参戦。ワンデーレースでの実績はまだまだ少ないだけに最有力候補とは言えないが、それでも一応昨年は14位と悪くない。元々はパンチャータイプでもあり、適性が全くないとは言えないだろう。

何よりも今年のツールで見せたあの進化し続ける強さには期待せざるを得ない。ポガチャルキラーぶりが今大会も発揮できるか。

世界選手権個人タイムトライアルで誰もが驚く勝利を果たして見せたトビアス・フォスの存在もダークホースだ。

 

マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)

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今年はとりわけ厳しく総獲得標高4,800mに達するというレイアウトの中で、純粋なクライマーとは言えない彼に可能性は少ないかもしれない。

とはいえ、クロ・レースでは山頂フィニッシュでヨナス・ヴィンゲゴーに食らいつきタイムを維持しつつ、最終日にボーナスタイムを積み上げて1秒差で逆転総合優勝。直前の前哨戦グラン・ピエモンテでも、パンチャーたちに囲まれた小集団スプリントで2位に入り込む足を見せた。全体が厳しいとはいえ、最も激しく動くであろう後半戦からソルマーノの壁が取り除かれたこともモホリッチにとってはプラスに働いているだろう。

あとは、今年のミラノ~サンレモでも勝利を掴むきっかけとなった最強の下りを完璧なタイミングで発動できるかどうか。最後の勝負所チヴィリオは、強烈な登りの頂上からテクニカルな下りが待ち受けており、2015年と2017年を制したヴィンツェンツォ・ニバリは、まさにこの下りでライバルたちを決定的に突き放した。

可能性は決して大きくはないが、そのチャンスを生かせるか。またドロッパーシートポスト持ってくる?

 

アレクサンドル・ウラソフ(ボーラ・ハンスグローエ)

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ワールドツアーデビュー初年度でシーズン序盤のツール・ド・ラ・プロヴァンス総合2位、長期中断期間明けのモン・ヴァントゥー・デニヴレ・チャレンジで優勝など、その名を届かせ始めていた元U23版ジロ・デ・イタリア覇者が、ヤコブ・フルサンにモニュメント2勝目をもたらした2020年のイル・ロンバルディア。そのフルサンに「今日のカンピオーネだ」と言わしめた、完璧なチームワークを見せつけた彼が、再びこのコモフィニッシュのコースにやってくる。

www.ringsride.work

 

そのときとチームは変わっている。だが、この新チームにおいても、ウィルコ・ケルデルマン、セルヒオ・イギータ、パトリック・コンラッドなど、強力無比なチームメートに囲まれている。あのときと同じように、ダブル、トリプルエースの体制の中で、今度は彼が主役となれるか。

数多くの有力候補の中で最後にあえてこのウラソフを選んだ理由は、結局は今年のイル・ロンバルディアが総獲得標高4,800mという圧倒的なピュアクライマー向けレイアウトであること。前哨戦の調子だけで見ればイギータ(トレ・ヴァッリ・ヴァレジーネ2位)の方が良さそうだが、それらも今大会の厳しさの前では必ずしも最有力候補とは言えないかもしれない。

そんな中、今年のツールも安定した強さを見せて総合5位に入り込んでいたこのウラソフに、意外な可能性を見出したいところ。

 

 

いよいよ始まる、今年最後のワールドツアーレース。

その舞台に相応しい豪華なメンバーの中で、今年最後のモニュメントを制するものは一体、誰だ。

 

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