2010年以来となる史上2回目のオーストラリアでの世界選手権は、エリート男女同一コースでの個人タイムトライアルから始まり、オランダを襲った悲劇の連続を挟みながら、最後は昨年のフランドル世界選手権以上に優れたコース設計から生み出されたドラマティックなロードレースの数々で締めくくられた。
最高のレースは最高のライダーたちによって作られる。中には不条理な目に遭い悔しい思いで去った者もいるが、今年もまた、最高のシーズンのクライマックスを演出することとなった。
その激動の1週間を振り返っていこう。
※以下記事の年齢表記はすべて2022/12/31時点のものとなります。
目次
- 9/18(日) エリート女子個人タイムトライアル
- 9/18(日) エリート男子個人タイムトライアル
- 9/19(月) U23男子個人タイムトライアル
- 9/20(火) ジュニア女子個人タイムトライアル
- 9/20(火) ジュニア男子個人タイムトライアル
- 9/21(水) ミックスドリレー・チームタイムトライアル
- 9/23(金) ジュニア男子ロードレース
- 9/23(金) U23男子ロードレース
- 9/24(土) ジュニア女子ロードレース
- 9/24(土) エリート女子ロードレース
- 9/25(日) エリート男子ロードレース
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9/18(日) エリート女子個人タイムトライアル
全長34.2㎞。総獲得標高312m。史上初の男女同距離同コースで開催された個人タイムトライアルは、登坂距離700m・平均勾配6.7%というプロフィールの「マウント・アスリー」を含む周回コースを2周する。
前評判では平坦基調と言われていた同コースだが、この登りが最大で8%以上は確実にあり、しかも直登の登りということで想像以上に厳しいレイアウトであった。登る選手たちの姿も苦しそうで、時速15㎞とかそのあたりのスローペースで登っていたように思える。
また、コーナーの数が多くかつテクニカルで、男女ともこのコーナーでの攻め方が勝敗を分けたように感じられる。
9/18(日)の午前中に繰り広げられたエリート女子では、序盤に出走したグレース・ブラウン(オーストラリア、30歳)がそれまでの暫定首位であったシリン・ファンアンローイ(オランダ、20歳)のタイムを2分近くも更新し暫定トップに。
その後も優勝候補筆頭であったアネミーク・ファンフルーテン(オランダ、40歳)が明らかに本調子でない走りを見せ、結果的にブラウンから1分半以上の遅れ。
いよいよ、開催国選手ブラウンによる大金星世界王者が現実的なものとなってきた。
昨年・一昨年2位の実力者マーレーン・ロイッセル(スイス、31歳)が第1計測地点でブラウンの記録を1秒更新し期待が膨らむが、後半で失速。最終的にはブラウンから29秒遅れ。
だが、ディフェンディングチャンピオンのエレン・ファンダイク(オランダ、35歳)がこの第1計測の記録をさらに9秒更新。ロイッセルが失速した第2計測地点もブラウンを22秒上回るタイムで通過し、最終盤はブラウンよりもペースは遅かったが、十分な貯金のおかげで最終的には12秒差でフィニッシュした。
力を見せつけた王者ファンダイク。2013年、2021年に続く、3度目の世界王者の座を掴み取った。
だが、コーナーでも攻めに攻めて間違いなくキャリアハイの成績を叩き出した2位ブラウンも笑顔で表彰台に立つ。
今年はリエージュ~バストーニュ~リエージュ2位など着実に成績を伸ばしつつある、所属するFDJスエズ・フチュロスコープ自体もマルタ・カヴァッリがフレーシュ・ワロンヌでファンフルーテンを倒したり、セシリーウトラップ・ルドウィグがツール・ド・フランス・ファムでステージ優勝をしたり、22歳のヴィットーリア・グアッツィーニがこのTTで4位に入りU23アルカンシェルを獲得したりと、大成功を収めつつある。
来年もチーム丸ごと好調を維持していけるか、実に楽しみだ。
9/18(日) エリート男子個人タイムトライアル
コースは女子同様。やはり意外に厳しい登りと、テクニカルなコーナーが男子でも勝敗を分けることとなった。
序盤はエドアルド・アッフィニ(イタリア、26歳)が好タイムを記録するが、優勝候補シュテファン・ビッセガー(スイス、24歳)がこれを塗り替える。
第1計測こそアッフィニの記録を更新できなかったものの、後半にかけてペースをあげて最終的にはフィニッシュタイムで22秒更新。その後しばらく、ホットシートを独占することとなる。
目を瞠る走りを見せたのはイネオス・グレナディアーズの若手。
今年すでにプロ3勝を記録している驚異のネオプロ、マグナス・シェフィールド(イギリス、20歳)は2時間にわたり塗り替えられることのなかったアッフィニの第1計測地点での記録を9秒更新。第2計測地点でもビッセガーの記録を21秒更新し、トップタイムフィニッシュは間違いなしとなった。
が、そこでカメラには映っていなかったようだがどうやら落車をしてしまったようで、最終的にはビッセガーから1分弱遅れでのフィニッシュ。同じくイネオス所属のイーサン・ヘイター(イギリス、24歳)も第1計測地点の記録をさらに更新するが、続く第2計測地点の間までにチェーン落ちのトラブルに見舞われて脱落。
2人とも素晴らしい走りを見せながらも不運により記録を残すことはできなかった。
一方、暫定トップに立ったシェフィールドの第2中間計測地点の記録をさらに20秒更新したのがトビアス・フォス(ノルウェー、25歳)。フィニッシュでもビッセガーを47秒上回るタイムを叩き出し、暫定首位に躍り出た。
この第1計測地点の記録を塗り替えたのが、シュテファン・クン(スイス、29歳)。そこまでの暫定首位だったイーサン・ヘイターの記録を2秒更新し、レムコ・エヴェネプール(ベルギー、22歳)もフィリッポ・ガンナ(イタリア、26秒)もこれを破ることはできなかった。
フォスが暫定トップタイムを叩き出した第2計測地点も12秒更新したクン。エヴェネプールは16秒遅れ、ガンナはさらに40秒遅れと大失速をきたしており、これまで3位が最高位だったクンがついに念願の世界の頂点を手に入れるか――と誰もが期待していた。
だが、フィニッシュ前1㎞地点にやってきたクンには、フォスの記録まであと56秒しか残されていなかった。
最後に小さな登りが待ち構えているこのフィニッシュレイアウトでのこのタイム差は、かなりギリギリ。
残り300mで17秒。そして——残り50mで、そのタイム差が、0になった。
まさかの展開。誰もが勝利を確信していたクンの走りをさらに上回る走りを実は見せていたトビアス・フォスが、余人の想像を遥かに超える結果を突然、手に入れることとなった。
2019年ツール・ド・ラヴニール覇者。しかし、その先輩エガン・ベルナルやタデイ・ポガチャルの輝かしい戦績と、所属したユンボ・ヴィズマの高すぎる先輩御仁の壁の前にやや目立ちきれない様子を見せていた彼ではあるが、ここにきてそのポテンシャルの高さを世界に証明してみせた。
引き続き世界最高峰のオールラウンダーとして着実に成長し、最強チームの要として信頼を掴み取っていくことを期待している。
9/19(月) U23男子個人タイムトライアル
エリート男女個人TTで使われたコースの一部を省略した1周14.4㎞のコースを2周する全長28.8㎞。
最初にトップタイムを叩き出したのは今年のジロ・ディタリア・ジョヴァンニ(U23版ジロ・デ・イタリア、ベイビー・ジロ)総合優勝者のレオ・ヘイター(イギリス、21歳)。エリート男子でも好成績を残したイーサン・ヘイターの弟で、彼と同じイネオス・グレナディアーズへの昇格がすでに決まっている彼が、それまでの暫定首位であったカールフレドリク・ベヴォルト(デンマーク、19歳)の記録を15秒更新して暫定首位に立つ。
なかなかこの記録は破られずにホットシートを独占し続けていたヘイターだが、この記録を昨年4位のセーアン・ヴァーレンショルド(ノルウェー、22歳)が一気に25秒更新。そのまま最後までホットシートを維持し続け、昨年も優勝候補に数えられていた期待の若手がようやく世界の頂点を手に入れた。
なお、このヴァーレンショルドはすでにプロチームのUno-Xプロサイクリングチームに所属。
2位のセガールトはロット・スーダルU23に所属し、2024年からのトップチーム昇格がすでに内定済み。ヘイターはすでに述べているように来季からのイネオス入りが決まっており、5位のミヘル・ヘスマンも現ユンボ・ヴィズマ所属である。
ロードレースもそうだが、もはやU23カテゴリもトップチーム所属が当たり前のようになりつつあり、時代の変遷を感じさせるリザルトだ。
9/20(火) ジュニア女子個人タイムトライアル
U23男子個人タイムトライアルと同じコースを1周する全長14.1㎞。
勝利は、昨年17歳ながらロードレース優勝と世界を驚かせた天才ゾーイ・バックステッド(イギリス、18歳)が圧勝。2位ユスティナ・チャプラ(ドイツ、18歳)に1分36秒差と、個人TTとは思えないほどのタイム差を突きつけた。
もはや同世代に敵う相手はおらず、この年にしてすでに来季からのEFエデュケーションTIBCO・SVB所属が確定している。ウィメンズワールドチームである。
その圧倒ぶりは、このあとのロードレースでも見せつけられることとなる。
9/20(火) ジュニア男子個人タイムトライアル
U23男子と同じく28.8㎞のコースで戦われたジュニア男子個人タイムトライアルは、まずは開催国オーストラリアのハミッシュ・マッケンジー(18歳)が暫定トップタイムを叩き出し、最終盤までホットシートを独占した。
しかし、最終出走者ジョシュア・ターリング(イギリス、18歳)が最後の最後でこの記録を19秒更新。昨年も17歳ながら2位につけた才能の持ち主が、今年はしっかりと世界の頂点を獲得。そしてその才能はすでに見つけられており、来季からはイネオス・グレナディアーズ入りが決まっている。
U23のレオ・ヘイターといい、着実に同国の若手の才能をかき集めていくイネオス。恐ろしいことである。
9/21(水) ミックスドリレー・チームタイムトライアル
2018年まで開催されていたチーム対抗のチームタイムトライアル種目に代わり、2019年から(2020年を除き)開催され続けている、国別・男女合同でのチームタイムトライアル、ミックスドリレー。
ジュニア女子TTで使用された1周14.1㎞のコースを男子3名が1周、その後女子3名が1周。開催国オーストラリアが前半で好成績を叩き出し、ホットシートを確保した。
だが、最終盤に出走したスイスは、男子2位シュテファン・クン、同5位シュテファン・ビッセガーに女子3位のマーレーン・ロイッセルを擁する最強の布陣。オーストリアの記録を38秒も更新した。
これを塗り替えると期待されたのは2019年覇者・2021年2位のオランダ。エリート女子覇者のエレン・ファンダイクを始め、ヨス・ファンエムデンやバウケ・モレマ、アネミーク・ファンフルーテンを抱える強豪ラインナップは、しかしモレマのチェーン落ち、ファンフルーテンのスタート直後の落車と不運が続き、52秒遅れでフィニッシュ。
昨年覇者のドイツも届かなかったことで、スイスがクン、ロイッセル共に悔しくも届かなかった個人タイムトライアルでのリベンジを果たすことに成功した。
ファンフルーテンはこの落車により肘の骨折と診断。
ロードレースへの出場こそ認められたものの、そのパフォーマンスの低下は避けられず、TTに続き厳しい結果が予想されることとなった――と、このときは思われていた。
9/23(金) ジュニア男子ロードレース
個人タイムトライアルで使用されたコースにマウント・プレザント(登坂距離1.1㎞、平均勾配7.7%)の登坂を加えた1周17.1㎞の周回コースを8周する全長135.6㎞、総獲得標高2,016m。
ジュニアらしく激しい展開が続く中、最終的に最後から2回目のマウント・プレザントの登り(残り26㎞以降)でポルトガルのアントニオ・モルガード(18歳)が一気にペースを上げ、集団が8名ほどに縮小。
さらに残り18.6㎞。最終周回突入直前の細かなアップダウンで先頭から5番目の位置にいたモルガードが不意のアタック。取り残された7名は牽制状態に陥った結果、モルガードがそのまま独走を開始した。
来季アクセオン・ハーゲンスバーマン昇格の決まっている未来の才能が、そのまま独走勝利を果たすのか?
だが、ここまでの展開で積極的に前を牽く姿を何度も見せていたTT3位のエミル・ヘルツォーク(ドイツ、18歳)が、最後のマウント・プレザント登坂(残り8.5㎞)で先頭に立ちペースアップ。残った選手たちも何とか食らいつこうとするが、後ろを振り返ることなくダンシングで踏み続けるヘルツォークのペースアップについていけず、ついにその頂上で彼は独走を開始する。
そのままラスト7.5㎞の下りと平坦。着実にタイム差を縮めていく中、最後はモルガードも少し諦め、残り3㎞を切った時点でついにこの先頭2名がジョインした。
モルガードはしばらくヘルツォークの後輪に貼りついて体力を回復。ヘルツォークは彼に先頭交代を要求するが拒否され、「Can I win⁉」と叫ぶ場面も。
さらに残り1.6㎞でヘルツォークがアタックするもこれは失敗。
そのままヘルツォークが先頭を牽かされたまま、スプリントでの決着と相成ることとなった。
その最後のスプリントはこれまで見てきた中でもとくに美しいスプリントであった。
残り300mで一度先頭のヘルツォークが腰を上げるが、これは牽制。残り250mでモルガードが腰を上げラインを横に取ると、ヘルツォークもこれに反応。
最初はモルガードが勢いよく、バイクを左右に激しく振りながらヘルツォークの前に出るが、より小さく落ち着いた勢いで加速するヘルツォークがモルガードと前輪を並べる。
ラスト50m(あるいは25m)でモルガードは力尽き、最後はヘルツォークがギリギリの勝利を掴み取った。
勝者は天を仰ぎ、敗者は悔しそうにハンドルを叩きながら項垂れる。漫画のような展開に、あまりにも美しいフィニッシュの瞬間であった。
なお、ヘルツォークは今年のツール・ド・ラヴニール覇者シアン・エイテブルックスも昨年まで所属していたドイツのクラブチーム、チーム・オート・エデルに所属。
そのままエイテブルックスと同じボーラ・ハンスグローエに昇格するのかな・・・と思っていたが、どうやらモルガードと同じ、ハーゲンスバーマン・アクセオンに昇格することが決まったようだ。
この素晴らしい勝負を繰り広げてくれた2人が来年はチームメートに。ツアー・オブ・カリフォルニアもなくなりあまり見ることも少なくなったハーゲンスバーマン・アクセオンだが、来年もちょっと注目していきたいところである。
9/23(金) U23男子ロードレース
ジュニア同様1周17.1㎞のシティ・サーキットを10周する全長169.8㎞、総獲得標高2,520mで戦われるU23男子ロードレース。
直前のジュニア男子同様、ラスト25.6㎞地点に登場する最後から2番目のマウント・プレザントの登りで大きく勝負は動いた。
抜け出したのはUAEツアーで逃げ切り勝利を決め、その所属チームのガスプロム・ルスヴェロが解散した現在はトレック・セガフレードのトレーニーとして走るマティアス・ヴァツェク(チェコ、20歳)と、現在もアスタナ・カザフスタンチームで走るエフゲニー・フェドロフ(カザフスタン、22歳)、TT2位のアレック・セガールト(ベルギー、19歳)、そしてずっと逃げに乗っていたマティス・ルーベル(フランス、21歳)の4名。
そして残り8.5㎞。最後のマウント・プレザントの登りで先頭はヴァツェクとフェドロフの2名だけに。UAEツアーのあのスプリント力を考えるとヴァツェク有利かと思われていたが・・・雨模様も相まって、最後はスタミナ勝負となった様子。
しっかりとフェドロフが先着し、2014年のアレクセイ・ルツェンコに続くカザフスタンへのアルカンシェルをもたらした。
育成チーム、ヴォノ・アスタナモータース出身で昨年からトップチーム入りを果たしているフェドロフ。
昨年はエリートカテゴリでの国内ロード王者にも輝いたものの、大きなリザルトは残しておらず、そこまで注目していなかった選手ではあるが、今回の結果を受け、いよいよアレクセイ・ルツェンコの後継者として、さらなる飛躍の出発点に立つことができたのかもしれない。
インタビューでは通訳(!)を務めたヴィノクロフ大佐の指導のもと、これからも母国に栄光をもたらすことはできるか。
9/24(土) ジュニア女子ロードレース
1周17.1㎞のウロンゴン・シティ・サーキットを4周する全長67.2㎞の短距離レース。その1周目のマウント・プレザントから早速、昨年覇者でTTでも圧倒的な勝利を収めた世代最強のゾーイ・バックステッド(イギリス、18歳)が飛び出した。
そのまま、誰一人追随させない完璧な独走劇。合計独走距離は57㎞に達し、女子界の新たなる時代の幕開けを象徴する連覇を達成して見せた。
今年1月にはすでにシクロクロス世界選手権でもジュニア王者に輝き、8月のトラックレース世界選手権ではマディソンで同じくジュニア王者に輝いている。そのうえでTTとの二冠。まさに、同世代に敵無しといった結果をもたらしたのである。
バックステッドを追うエグランティーヌ・レイネ(フランス、18歳)とニンケ・ヴィンケ(オランダ、18歳)が2位争いを繰り広げ、その後方の集団では、一度は遅れかけながらも最終的にしっかりと集団内にくらいついていた松山学院高等学校の垣田真穂(日本、18歳)がスプリントで5位フィニッシュを果たす。
8月のトラックレース世界選手権ではマディソンでバックステッドたちに次ぐ銀メダルを獲得している彼女は、2015年のリッチモンド世界選手権でジュニアロード4位に入り込んでいる梶原悠未に匹敵する成績を叩き出したこととなり、将来が嘱望される結果を生み出したこととなる。
今後の彼女の走りにも注目していきたい。
9/24(土) エリート女子ロードレース
エリート男女からは序盤にマウント・キーラ(登坂距離8.7㎞、平均勾配5.7%)を登らせるものの、レースの大局に影響を及ぼすものではない。
ジュニア・U23ロードレースでも使われたマウント・プレザントを含む1周17.1㎞のシティ・サーキットを、エリート女子ロードレースは6周。全長で164.3㎞、総獲得票は2,433mで最強を巡る戦いが繰り広げられた。
これまでのアンダー以下のレースと比べ距離が長いこともあり、終始激しい展開とはならず比較的落ち着いた展開が続く。
残り40㎞を切って最後から3番目のマウント・プレザントの登りを終えた直後から、地元オーストラリア勢が波状攻撃を仕掛け、最終的にサラ・ロイ(36歳)が単独で抜け出す。
残された集団はイタリアが完全に支配。下馬評では最強のはずだったオランダも、水曜日のチームタイムトライアルでアネミーク・ファンフルーテン(40歳)が肘を骨折。さらにデミ・フォレリン(26歳)も直前にCovid-19陽性が判明し欠場となったことで、一気に戦力不足に陥ってしまった。
一方のイタリアは昨年覇者エリーザ・バルサモ(24歳)をエースに据えたうえでこの時点でかなりの数を集団に残しており、その数を頼みにプロトンを支配。バルサモがきちんと残れるペースを維持したまま最終盤に挑もうとしていた。
残り27㎞でロイが吸収。そしてここまでのレースでも常に決定的な動きが巻き起こってきた残り25㎞地点の「最後から2回目のマウント・プレザント」へと突入する。
ここで、カタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド、28歳)が強烈なアタック。さらにそこにリアヌ・リッパート(ドイツ、24歳)も食らいついていきペースアップを仕掛けたことで集団は一気に縮小。イタリアのエース、バルサモもあえなく脱落してしまった。
イタリアはそれでもセカンドエースのエリーザ・ロンゴボルギーニ(31歳)をこの抜け出した小集団に入り込ませ、先頭はニエウィアドマとリッパートとロンゴボルギーニとセシリーウトラップ・ルドヴィグ(デンマーク、27歳)とアシュリー・ムールマン(南アフリカ、37歳)の5名だけに。
この抜け出しは2年連続のTT世界王者となったばかりのエレン・ファンダイク(オランダ、35歳)の献身的な牽引によって引き戻されるが、残り8.5㎞地点の最後のマウント・プレザントで再び先ほどの5名がアタック。オランダの残された唯一のエース、マリアンヌ・フォス(35歳)も、手負いのファンフルーテンに牽かれながらマウント・プレザントを攻略しようともがくが、最終的にはファンフルーテンにもついていけず、脱落してしまう。
このまま、先頭の5名の逃げ切りで決まってしまうのか?
だが、先頭の5名も、その中で明らかにスプリント力のあるロンゴボルギーニへの警戒から協調体制を取れず。
代わってファンフルーテンも含む追走集団ではマーレーン・ロイッセル(31歳)とエリーズ・シャベ(29歳)の2人のスイス人が中心となってペースアップ。徐々にそのタイム差が縮まっていく。
そしてラスト1㎞手前から追走集団の中のロッタ・コペッキー(ベルギー、27歳)が一気にペースを上げると、バラバラになりながらもついに追走が先頭5名に追い付いた。
そこで、大きな塊となった先頭集団が一息をついてしまう。
その隙に、コペッキーの加速で一旦は追走集団からも零れ落ちてしまったファンフルーテンが、もはや勝機はないと思われていた彼女が、半ばやけくそ?な形で、一気に加速していく。
思いもよらぬ後方から、右側を一気に駆け抜けていった世界最強の女王。肘を骨折しているにもかかわらず彼女はダンシングで、あわてて追いかける追走集団たちとのギャップを開いていく。
本当にこの選手は信じられない。
前代未聞のジロ、ツール、ブエルタ3大グランツールの同年制覇に加え、世界選手権ロードレースの制覇。トリプルクラウンを越える、クアドラプルクラウン達成の瞬間であった。
9/25(日) エリート男子ロードレース
いよいよ大トリを飾る、エリート男子ロードレース。マウント・キーラに加え、マウント・プレザントを含むシティ・サーキットを12周する、全長266.9㎞・総獲得標高3,945mのハードコース。これまでの各レースを見ても、スプリンターや並のパンチャーがどうこうできる展開になるのは難しく、激しく、予想のできない結末になるように思われていた。
昨年大会同様、序盤からフランスチームが勝負を仕掛けていく。決して勝負所にはならないと思われていた序盤のマウント・キーラ(登坂距離8.7㎞、平均勾配5.7%)でロマン・バルデ(32歳)がアタックするなど、積極的な攻勢を仕掛けていった結果、タデイ・ポガチャル(スロベニア、24歳)やワウト・ファンアールト(ベルギー、28歳)などの優勝候補たちが入り込む第1プロトンとジュリアン・アラフィリップ(フランス、30歳)やビニヤム・ギルマイ(エリトリア、22歳)などの有力選手を含む第2プロトンとが分断。一時は2分近いタイム差のついた2つのプロトンも、さすがに残り180㎞を前にして一旦落ち着きを取り戻し1つになる。
その後、勝負が動いたのは残り77.1㎞。最後から5回目のマウント・プレザントで、カンタン・パシェ(フランス、30歳)の牽きで23名が抜け出す。
その中に、レムコ・エヴェネプール(ベルギー、22歳)はいた。メイン集団にワウト・ファンアールトを残し、この前方の中規模集団にチームメート2枚と共に潜り込んだこの体制は、昨年の世界選手権での失敗を経て、理想的とも言える形を作ることができていた。エヴェネプールはここまでの展開の中でも先頭で動き抜け出した集団が生まれれば常に入り込もうとするなど積極的な走りが目立ち、その辺りも、今年の勝利したリエージュ~バストーニュ~リエージュを思い出させるような動きであった。
そして残り35㎞。
残り2周へと向かうフィニッシュライン直前、ジュニア男子ロードレースでモルガードがアタックしたところとほぼ同じポイントで、レムコ・エヴェネプールが先頭集団から抜け出す。
この動きに反応できたのはアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、30歳)のみ。逃げスペシャリスト2名のエスケープは、平坦で繰り出された有力勢のアタックにも関わらず、追走集団とのギャップを広げるには十分すぎるものであった。
そしてこうなったエヴェネプールは、もう傍若無人である。伴走者が牽こうが牽くまいが変わりなく、淡々と前を牽き続ける。
残り26㎞。最後から2番目のマウント・プレザント。ここでついに、エヴェネプールがルツェンコを突き放す。
いつものパターン。そしてそれは、2019年の彼のプロ初勝利となったあのベルギー・ツアー第2ステージから変わらない。そのあとの2回のクラシカ・サンセバスティアンとも、今年のリエージュ~バストーニュ~リエージュとも、今年のブエルタ・ア・エスパーニャとも変わらない。
ひたすら淡々と彼自身の走りを貫き通し、すべてを突き放し独走する。
これが、レムコ・エヴェネプール。
最後は、信じられないというように頭を抑えてこれを振り、両腕を突き降ろして絶叫した。
最終的には2分21秒も突き放されてしまったメイン集団は最後は集団スプリント。今年は完全にしてやられたフランスチームが一丸となってクリストフ・ラポルト(フランス、30歳)のためのアシストをして、その想いに応えるようにして今年ワールドツアー初勝利&ツール・ド・フランスでも勝利と大躍進したラポルトが、何とか集団先頭を奪い取る。
12年前のオーストラリア世界選手権でU23ロード王者に輝き、今年母国でのアルカンシェルの希望を託されていたマイケル・マシューズ(オーストラリア、32歳)も集団2位。なんとか表彰台を掴み取ることに成功した。
これにて今年の世界選手権はすべて閉幕。
昨年のフランドル世界選手権もあらゆるタイプの選手にチャンスがある絶妙なコースレイアウトと感じていたが、今年も素晴らしかった。
だが、そんなコースもある意味で、レムコ・エヴェネプールは(そしてジュニア女子のゾーイ・バックステッドは)完璧にこれをぶち壊してくれたとも言える。
そんな勝ち方も楽しめる、本当に総合的に面白いレースだったと思う。
来年はスコットランドのグラスゴー。史上初の、自転車複数種目同時開催の世界選手権となるとのことで、どんなイベントが繰り広げられるか、楽しみだ。
まずはレムコ・エヴェネプール、おめでとう。そして共に表彰台に登った二人も。
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