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【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2021 第1週(後編)

 

ツール・ド・フランス2021第1週後半戦は、アルプスの山頂へと向かっていく丘陵~山岳ステージ。

マーク・カヴェンディッシュのまさかの2勝目、バーレーン・ヴィクトリアスの連勝、そしてAG2Rシトロエン・チームの快勝など、若手からベテランまで、ワクワクさせるような勝利が続く。

 

一方で、プロトンを破壊し尽くす走りを見せるのが、2020年代の新たなる怪物、タデイ・ポガチャル。

すでにして今年のツールは終わったのか? そんな風に語らせるこの異才の走りを含む第1週の後半を振り返っていこう。 

 

目次

 

コースプレビューはこちらから

www.ringsride.work

 

 

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第6ステージ トゥール〜シャトールー 160.6㎞(平坦)

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レースレポートはこちら

第1週の前半戦は落車が続き、ようやく平穏が訪れたと思われていた第4ステージも、ブレント・ファンムールによるギリギリまでの逃げによってメイン集団のスプリントトレインが崩壊。混沌とした中でのスプリントとなった。

それに対して、同じく平穏なスプリントステージが予定されたこの第6ステージは、序盤こそ総合11位カスパー・アスグリーン(ドゥクーニンク・クイックステップ)が逃げに乗るなど少し驚きの展開があったものの、これはすぐに捕まえられて最終的にはグレッグ・ファンアーヴェルマート(AG2Rシトロエン・チーム)ロジャー・クルーゲ(ロット・スーダル)の2人だけの逃げに。

第4ステージのファンムールのような危険もなく、予定通りの集団スプリントへと突入していた。

 

最も良いトレインを形成していたのはドゥクーニンク・クイックステップ。第4ステージではパンクで後退していたダヴィデ・バッレリーニも残っており、残り3㎞時点でマーク・カヴェンディッシュの前にアシストが5名いるという完璧な体制。

そのライバルとなりうるグルパマFDJは最終発射台のヤコポ・グアルニエーリが単独で落車し、勝負権を失う。

一方、FDJよりもずっと今大会のトレイン力において優位に立つアルペシン・フェニックスが、マイヨ・ジョーヌを着るマチュー・ファンデルプールの牽引によって、背後にヨナス・リッカールトティム・メルリールジャスパー・フィリプセンの順番で並び、先頭に。

最終的にはメルリールの強烈なリードアウトが、ドゥクーニンク・クイックステップのミケル・モルコフのリードアウトを上回るという事態に。

 

だが、カヴェンディッシュはここですぐさまフィリプセンの後輪に「乗り換え」た。

第4ステージに続き、巧みな判断力。そして、そこから放たれるスプリント力は、やはりフィリプセン以上のものがあった。

 

13年前。この同じシャトールーの地で、マーク・カヴェンディッシュのツール・ド・フランス31勝の最初の1勝が成し遂げられた。

そこから13年。36歳となったこの伝説の男は、再び我々に奇跡を見せてくれた。

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第1週の平坦ステージはこれで終了。

いよいよ週末の山岳系ステージへと突入していく。

 

 

 

第7ステージ ビエルゾン~ル・クルーゾ 249.1km(丘陵)

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2000年以降、ツール・ド・フランスでは最長となるステージ。

しかも、フィニッシュ前18㎞地点には最大勾配18%の激坂が待ち構え、スプリンター向きではないレイアウト。

よって、大逃げの可能性は十分あるステージではあった。

だがまさか、そこにマイヨ・ジョーヌが入っているなんて。

マイヨ・ジョーヌのマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)に総合3位のワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)を含む29名もの大規模逃げ集団。

当然、総合2位のタデイ・ポガチャル率いるUAEチーム・エミレーツもこれを追いかけるべく必死になっていたものの、他のチームも誰も彼らに手助けをしようとしなかった結果、序盤の平坦区間でUAEが崩壊。

タイム差は一気に6分以上にまで開き、先頭の危険な集団による逃げ切りが確定した。

 

その先頭29名から抜け出したのが第4ステージでもギリギリまで逃げていたブレント・ファンムール(ロット・スーダル)と、スロベニアチャンピオンジャージを着るマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)

ここにさらにジャスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)などもブリッジしてきたものの、この日の勝負所である今大会初の2級山岳シニャル・ドゥシャン(残り18.1㎞地点、登坂距離5.7km、平均勾配5.7%)の激坂区間でファンムールやストゥイヴェンを突き放してモホリッチが独走を開始。

この日のここまでの3つの山岳ポイントもすべて先頭通過してきたモホリッチはこの2級山岳も先頭通過を果たし、最後の4級山岳と合わせ11ポイントを積み上げる。

山岳賞ジャージをイーデ・スヘリンフから奪い取った。

 

もちろん、それだけではない。

追いかけるストゥイヴェンを1分以上突き放し、モホリッチは単独のままフィニッシュへと突き進んでいく。

 

ジロ・デ・イタリアでは命の危険すら感じさせたショッキングな落車でリタイアとなったモホリッチが、そこからの見事な復活劇。

しかも、250㎞弱の超ロングステージでのサバイバルなレースでの勝利。これまで成し遂げてきたジロ、ブエルタでの勝利もロングステージでの勝利だったということで、彼のタフネスさを見せつける結果となった。

 

最後は涙の勝利。これほどの男に涙させる、ツール・ド・フランスの偉大さを実感させるものとなった。

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そして、勝負所シニャル・ドゥシャンでは、総合勢でも動きを巻き起こした。

すなわち、昨年の総合2位。今年も総合優勝候補筆頭であったプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)が、この激坂区間で一気に集団から崩れ落ちた。

第3ステージでの落車以降、やや弱気な発言を見せていたログリッチ。

やはりその影響は、彼に総合争いを諦めさせるには十分なものだったようだ。

 

また、シニャル・ドゥシャンの頂上付近では総合9位のリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)がアタック。そのまま独走を開始する。

最終的にはモビスターが中心となって牽引したメイン集団にフィニッシュ間際で吸収されてしまったものの、ただでは転ばないイネオスの反撃の可能性の一端を感じさせた。

 

 

第8ステージ オヨナ〜ル・グラン・ボルナン 150.8km(山岳)

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いよいよ今年のツールも最初の週末を迎える。アルプスを舞台とした山岳2連戦。その1戦目は、2018年ツールでジュリアン・アラフィリップが勝利を飾った1級ロム峠~1級ラ・コロンビエ―ル峠~ル・グラン・ボルナンフィニッシュ。

前日に続き序盤から熾烈なアタック合戦が繰り広げられ、前日に大きく遅れたプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)や、同じく第3ステージで落車してコンディションが不十分だったゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)が早速遅れ始める。

序盤に用意された中間スプリントポイントまではメイン集団が先頭のまま推移するも、それが過ぎたあとにようやく18名の逃げ集団が形成された。

 

前日のマテイ・モホリッチに続き、この日もバーレーン・ヴィクトリアスのための日であった。

まずは逃げに乗ったワウト・プールスが最初の3つの山岳ポイント(3級、4級、1級)をすべて先頭通過。

続く1級山岳ロム峠も2位通過、最後のラ・コロンビエ―ル峠も5位通過を果たしたことでこの日合計で23ポイントを獲得。

前日のモホリッチからチーム内で山岳賞を継承する形となった。

 

さらに、ロム峠の山頂を独走で先頭通過したマイケル・ウッズ(イスラエル・スタートアップネーション)を追って、最後のラ・コロンビエ―ル峠で追走集団からディラン・トゥーンスがアタック。

山頂直前でウッズを突き放し、そのままフィニッシュまでの15㎞を独りで駆け抜けていった。

 

だが、先頭でそんなバーレーン祭りが行われている中、メイン集団においては恐ろしい事態が。

すなわち、ロム峠の登りの途中。残り30㎞以上残っているタイミングで、ダヴィデ・フォルモロによる決死のリードアウトの末に、タデイ・ポガチャルが早くも単独アタックを繰り出したのである。

総合12位のリチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)がすぐさま食らいつくが、やがてポガチャルの再アタックで完全に突き放される。

その後はもう、羽ばたいたポガチャルを止められる者は誰もいなかった。

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最終的にはラ・コロンビエ―ル峠の山頂時点でウッズも抜き去って単独2位につけたポガチャル。

しかしそこからル・グラン・ボルナンまでの雨の下りをリスクを取って下る必要もなく、最終的にはディラン・トゥーンスが無事、逃げ切り。

前日に続くバーレーン2連勝。そしてトゥーンスにとっても、2018年のラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ以来となるツール2勝目。思うようにいかないリザルトが続いていた中で、自信をつけられる勝利となった。

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ポガチャルは最終的にウッズやヨン・イサギレに追い付かれての4位フィニッシュ。

ボーナスタイムを得ることはできなかったものの、十分すぎるほどのタイム差を、ライバルたちにつけることに成功した。

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まるで第3週のような動きをこの第1週から見せつけることとなったポガチャル。

このまま、総合優勝を確定させてしまうのか?

 

 

第9ステージ クルーズ〜ティニュ 144.9km(山岳)

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今大会最初の超級山岳が登場し、ラストは標高2,100m超えの1級「山頂フィニッシュ」。序盤の中間スプリントポイントをソンニ・コルブレッリが先頭通過したあと、43名もの超大規模な逃げ集団が作られる。

UAEチーム・エミレーツがコントロールするメイン集団は最大で8分以上のタイム差を許し、3日連続の逃げ切り勝利が確定した。

 

山岳賞ジャージを着るワウト・プールス(バーレーン・ヴィクトリアス)残り95.9㎞地点の1級山岳コル・ドゥ・セジー(登坂距離9.4km、平均勾配6.2%)を先頭通過

しかし続く超級プレ峠(残り64㎞地点、登坂距離12.6km、平均勾配7.7%)に入ると、たまらずプールスは脱落。代わってセジー峠も2位通過していたナイロ・キンタナ(アルケア・サムシック)が、このプレ峠と次の2級ロズラン峠(残り51.6㎞地点、登坂距離5.7㎞、平均勾配6.5%)を共に先頭通過していく。

これでこの日の山岳賞を確定させたキンタナ。

しかし彼はステージ優勝までは手に入れられなかった。

 

 

残り22.9㎞地点から登り始める最後の1級山岳ティニュ(登坂距離21㎞、平均勾配5.6%)に入るとキンタナは脱落。先頭はセルジオ・イギータ(EFエデュケーション・NIPPO)ベン・オコーナー(AG2Rシトロエン・チーム)の2人だけに

さらに山頂まで残り15㎞の時点で早くもオコーナーはイギータを突き放し、独走を開始した。

2位以下に5分以上ものタイム差をつけての、圧倒的な勝利。

昨年のジロでグランツール初勝利を成し遂げたばかりの25歳が、初出場のツールで早くもグランツール2勝目を達成した。

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メイン集団では前日と比べ落ち着いた展開でティニュを登っていたが、残り10㎞を切るとイネオス・グレナディアーズがゲラント・トーマスヨナタン・カストロビエホを使ってリチャル・カラパスのための猛牽引を開始。

すでにUAEチーム・エミレーツのアシストはすべて脱落しており、タデイ・ポガチャルは丸裸。

だが、それでも、この男は微塵も揺るぐことはなかった。

 

山頂まで残り1㎞を切ったところで、ポガチャルがまた軽やかに集団を飛び立った。

そのたった一撃で、誰もその影を追いかけることはできない。

集団はたちまち粉々になり、かろうじてこれを追いかけることのできたカラパス、ヴィンゲゴー、マス、ウランだけが彼から32秒遅れで留め、そこから遅れた総合7位ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ)は45秒遅れ、総合9位ダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)は58秒遅れ、そして総合3位アレクセイ・ルツェンコ(アスタナ・プレミアテック)は1分02秒を失った。

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時代を塗り替えりつつある男、タデイ・ポガチャル。

総合ライバル勢に対し5分以上ものタイム差をつけて1週目を終えたこの男は、最終的にどこまで行ってしまうのか。

今、我々は歴史に残る瞬間を目の当たりにしているのかもしれない。

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いや、それでも、まだ何が起こるか分からない。

同じようにこの第8・第9ステージでポガチャルが圧倒的な強さを見つけたPro Cycling Manager 2021予習実況においても、第2週後半から3週目にかけて驚きの展開が続いた。

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そして、第2週には今大会の目玉となるモン・ヴァントゥー2回登坂ステージ5年ぶりのアンドラステージなど、注目のステージが多く登場する。

すでにカレブ・ユアンもアルノー・デマールも去ってしまったプロトンの中で、マーク・カヴェンディッシュは果たして何勝するのか。そして、ソンニ・コルブレッリやマイケル・マシューズも食らいつこうとしているマイヨ・ヴェール争いの行方は?

ナイロ・キンタナは山岳賞ジャージを守り続けることができるのか?

 

 

まだまだ見所たっぷりなツール・ド・フランス。

2週目のコースは、以下のリンクを参照してほしい。

www.ringsride.work

 

 

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