2年ぶりに本来のスケジュールで開幕することとなった今年のツール・ド・フランス。
プリモシュ・ログリッチ、タデイ・ポガチャル、そしてエースだらけのイネオス・グレナディアーズなどが優勝候補として集う、何が起こるかわからない新時代の総合争い。
まずは前半戦はブルターニュからの開幕で丘陵ステージでのスタートとなったが、そこから早速、総合争いの片鱗が。
さらに第5ステージには30㎞弱の平坦個人TT。
最初の5ステージですでに総合勢によるつばぜり合いが起こる中、スプリントステージでも波乱が巻き起こりつつ、感動の勝利も・・・。
序盤戦から濃密な展開の続く今年のツール・ド・フランス。
まずは全5ステージ、見ていこう。
コースプレビューはこちらから
目次
- 第1ステージ ブレスト~ランデルノー 197.8km(丘陵)
- 第2ステージ ペロス=ギレック~ミュール=ド=ブルターニュ 183.5㎞(丘陵)
- 第3ステージ ロリアン〜ポンティビー 182.9㎞(平坦)
- 第4ステージ ルドン〜フジェール 150.4㎞(平坦)
- 第5ステージ シャンジェ〜ラヴァル(エスパス・マイエンヌ) 27.2㎞(個人TT)
過去のツール・ド・フランス全ステージレビュー
【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2019 第1週(前半)
【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2019 第1週(後半)
【全ステージレビュー】ツール・ド・フランス2020 第1週(前編)
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第1ステージ ブレスト~ランデルノー 197.8km(丘陵)
ブルターニュ半島の西端に位置する、フランス最大の軍港を有する港湾都市ブレスト。
2008年以来13年ぶりのグランデパールとなったこの地で、グランツールの開幕ステージとしては珍しいアップダウン&激坂含みの登りフィニッシュとなった。
全部で8つある山岳ポイントを巡り、6名の逃げが形成。途中の3級山岳ではアントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)が先着しリードするが、その後の4級山岳を前にしてイーデ・スヘリンフ(ボーラ・ハンスグローエ)が独走を開始。
最終的には残り47㎞地点の最後の4級山岳もスヘリンフが先頭通過し合計3ポイントを獲得。初日の山岳賞ジャージ獲得を決めた。
その直後、集団で大落車が発生。コースに入り込みカメラに向かってボードを見せていた観客が集団先頭付近にいたトニー・マルティンと接触。
大規模な落車が発生し、チームDSMのヤッシャ・ズッタリンがこれにてリタイアとなった。
さらに残り7.6㎞地点で、今度は選手由来の大落車が発生。
これで集団はかなり絞り込まれ、残ったメンバーでの最後の激坂フィニッシュ勝負となった。
フィニッシュは3級山岳「フォス・オ・ルー(登坂距離3km、平均勾配5.7%)」。
登り口に最大勾配14%の激坂を有しつつも、後半は緩やかになり、そこまで耐えきれればラストはスプリントによる争いになると予想されたレイアウトであった。
ここでドゥクーニンク・クイックステップが強烈に牽引。
先頭ダヴィデ・バッレリーニ、次いでカスパー・アスグリーン、そしてドリス・デヴェナインスと、強力な発射台によって放たれたジュリアン・アラフィリップが、残り2.3㎞で抜け出した。
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)も一度このアラフィリップの動きに食らいつきかけるが、無理に追うことはせず後ろを振り返る。エースのプリモシュ・ログリッチのアシストが最優先のようだ。
残り2.1㎞でピエール・ラトゥール(トタルエナジーズ)がアタックし、一度はアラフィリップに追いつきかけるも、そこからさらにアラフィリップがもう一段階加速。
さらに後続からログリッチとタデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)が抜け出すもこれも追いつくことはないまま集団に引き戻された。
最終的に集団がラトゥールも飲み込んでアラフィリップに迫るものの、最後までこの世界王者を捕まえることはできず。
1週間前に生まれたばかりの我が子に捧げるガッツポーズで、20年ぶりとなるフランス人によるツール初日優勝、そして史上3人目となるアルカンシェルによる初日勝利を果たした。
初日から頻発した落車により、モビスター・チームのエース、ミゲルアンヘル・ロペスが1分49秒、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝者のリッチー・ポートが2分16秒を失う。
イスラエル・スタートアップネーションのエースを務める予定だったマイケル・ウッズに関しては8分以上の遅れを喫し、総合争いからは完全に脱落することに。
また、ジロ・デ・イタリア途中リタイアとなっていたエマヌエル・ブッフマン(ボーラ・ハンスグローエ)もロペス同様に1分49秒遅れとなり、同じくジロ途中リタイア組のマルク・ソレル(モビスター・チーム)はフィニッシュはしたものの骨折が酷く翌日の未出走が決まった。
鮮烈な勝利と悲惨な事故と。
毎年のこととは言え、今年もまた、波乱から始まるツール・ド・フランスとなってしまった。
第2ステージ ペロス=ギレック~ミュール=ド=ブルターニュ 183.5㎞(丘陵)
前日に続きブルターニュでのスプリンターに出番のない丘陵ステージ。前日山岳賞を巡り激しく競い合ったイーデ・スヘリンフ(ボーラ・ハンスグローエ)とアントニー・ペレス(コフィディス・ソルシオンクレディ)はこの日も逃げに乗り、互いに1ポイントずつ取り合う鍔迫り合い。
その後は同じ逃げに乗ったエドワード・トゥーンスとジェレミー・カボットだけが抜け出す格好となり、この日もこのままスヘリンフがジャージを維持、するはずだった。
だが、残り17㎞地点から始まるこの日1つ目のミュール・ド・ブルターニュ(登坂距離2㎞、平均勾配6.9%)の登り。その登り口の最も厳しい区間で、早くもマチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)が抜け出した!
この日マイヨ・ジョーヌを手に入れるためには1つ目のミュールから仕掛けなくてはいけない、と確信していたファンデルプールは、その狙い通りこれを先頭通過し、その山頂に設けられていた8秒のボーナスタイムを手に入れた。
さらに追随してきたプリモシュ・ログリッチが2位、タデイ・ポガチャルが3位で通過しそれぞれ5秒、2秒のボーナスタイムを獲得。
アラフィリップはここでボーナスタイムを得られず、ファンデルプールとの総合タイム差が10秒に縮まることに。
そしていよいよ、残り2㎞から最後のミュールが始まる。
まずはリッチー・ポートが強力な牽引でイネオストレインを引っ張り上げる。残り1.3㎞でこれが終了すると今度はナイロ・キンタナがアタック。ファンデルブレッヘンはすぐさまこれに反応する。
しかしこれが残り1㎞で引き戻されると、今度はソンニ・コルブレッリがカウンターで飛び出すが、ファンデルプールはそこにも反応した。ポガチャル、ログリッチも同じく反応し、アラフィリップは出遅れる。
残り750mでコルブレッリが失速。するとその背中からファンデルプールが抜け出し、独走を開始する。マイヨ・ジョーヌの危機に瀕したアラフィリップが後方でもがくも、集団から抜け出すことも厳しい。
これで決まった。
最後は、ファンデルプールもハンドルに体全体を倒れ込ませるほどにオールアウト。
そして、フランスで最も愛された男の1人である亡き祖父が、1度も手に入れることのなかった栄光のマイヨ・ジョーヌを、掴み取ることに成功した。
総合争いではログリッチとポガチャルがアグレッシブな動きでリードを広げる一方、最後のミュールの登りでゲラント・トーマスが失速。23秒をここで失うこととなった。
前日は落車の影響で13秒遅れフィニッシュとなったリチャル・カラパスが総合でリードする形に。すでにポートもゲイガンハートも初日でタイムを失っているイネオスは、戦略の再構築を迫られる格好となっている。
なお、山岳賞ポイントを4ポイント集めこの日の山岳賞も確定させたと思っていたスヘリンフだが、ファンデルプールが3級山岳のミュール・ド・ブルターニュを両方制したことによりマイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュもファンデルプールのものに。
繰り下がりで着用自体はスヘリンフが継続するものの、悔しい結果となってしまった。
第3ステージ ロリアン〜ポンティビー 182.9㎞(平坦)
アクチュアルスタート直後に形成された逃げ5名の中にイーデ・スヘリンフ(ボーラ・ハンスグローエ)も入り込み、ライバルのアントニー・ペレスはいなかったことで、この日の1つ目の山岳ポイントは難なくスヘリンフが獲得。
前日ファンデルプールに奪われた山岳賞ジャージを正式に奪い返した。
あとは逃げを吸収し今大会最初の集団スプリントに・・・という思惑を持っていたプロトンだが、この日は第1ステージに続き、実に悲惨な落車が頻発するステージとなった。
まずは残り144㎞地点でロバート・ヘーシンク(ユンボ・ヴィスマ)、トニー・マルティン(ユンボ・ヴィスマ)、ルーク・ロウ(イネオス・グレナディアーズ)、ゲラント・トーマス(イネオス・グレナディアーズ)が巻き込まれる落車が発生。
ヘーシンクは即時リタイア。トーマスも肩を脱臼したもののドクターの処置により集団に復帰はする。しかしやはりこのときの影響がのちのちに響いてくることとなる。
さらに残り10㎞手前ではミゲルアンヘル・ロペス(モビスター)やダヴィド・ゴデュ(グルパマFDJ)、マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)らが巻き込まれる落車が発生。
直後に集団の中でプリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)が単独で落車。
まだ逃げが残っている上で残り距離も少なく、フィニッシュに向けて加速せざるを得なかった集団にログリッチを待つ義理はなく。
ワウト・ファンアールト以外のアシストが総出でログリッチを助けに下がるも、結局は集団に復帰することは叶わなかった。
さらに救済対象の残り3㎞の手前でさらなる集団落車が発生。優勝候補のアルノー・デマールのほか、タデイ・ポガチャルやジャック・ヘイグなどの総合勢も巻き込まれ、ヘイグはここでリタイアとなってしまった。
一気に数が絞り込まれた先頭集団で主導権を握ったのはアルペシン・フェニックス。
マイヨ・ジョーヌを着るマチュー・ファンデルプールが先頭に立って集団を縦に長く引き伸ばし、圧倒的有利の体制で最終ストレートに飛び込んでいく。
この最後のレイアウトが下り基調であったことが、さらなる悲劇を生んだ。
ティム・メルリール(アルペシン・フェニックス)の番手を巡りペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)と争ったカレブ・ユアン(ロット・スーダル)が、加速してメルリールの後輪に飛びついた拍子に、そこに触れてしまったのか。
バランスを崩し、肩から激しくアスファルトに叩きつけられた。
サガンも巻き込んで落車したユアンはしばらく道の真ん中で動けなくなり、救急車に運ばれることに。
今年、3大グランツール全てでステージ優勝するという野望に向けてここまでかなり好調に飛ばしてきていただけに、実に悔しいリタイアとなってしまった。
この度重なる混乱により、アルペシン・フェニックスは完全に敵なしの状態となった。
最後はジャスパー・フィリプセンのリードアウトにより残り150mでメルリールが発射。
誰もこれに食らいつくことのできないまま、メルリールはジロ・デ・イタリアに続き最初のスプリントステージでのいきなりの勝利を成し遂げ、さらにフィリプセンも2位につける。
ツール・ド・フランスのスプリントでは珍しいワンツーフィニッシュとなった。
この日ゲラント・トーマスやポガチャル、ゴデュは26秒を失い、ログリッチとロペスは1分21秒を失った。
とくに昨年悔しい総合2位となったログリッチにとっては実に悔しいタイムロス。
山もTTもまだ来ていない序盤の3ステージで、早くも総合争いは混沌と化しつつあるようだ。
第4ステージ ルドン〜フジェール 150.4㎞(平坦)
前日のフィニッシュレイアウトの危険さを訴える選手たちにより、この日はスタート直後にストライキ、その後も10㎞にわたりスローペースでの進行が行われた。
その後、2人の逃げが生まれ、集団もこれを追う姿勢なくまったりとしたペースが継続。
荒れに荒れた序盤3ステージと異なる、正統派のスプリントステージが繰り広げられる予感がしていた。
しかし、この日もまた、意外な動きが巻き起こることに。
完全に「名前を売る」ためだけの逃げと思われていた2人の逃げのうち、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ初日も逃げ切り勝利をしている新・逃げ王子ブレント・ファンムール(ロット・スーダル)が残り13.6㎞地点で独走を開始。
残り7㎞でタイム差は1分。
残り5㎞でも50秒・・・「まさか」の展開もありうる状況となっていた。
集団もこの展開に焦り。グルパマFDJも重要なラスト1㎞までの牽引役であるイグナタス・コノヴァロヴァスが早々にリタイアしてしまっていることが影響しているのか。
また、ドゥクーニンク・クイックステップにとっても、ミケル・モルコフの前の発射台役であるダヴィデ・バッレリーニがパンクで後退していたのが痛い。
結局、残り1.3㎞でジュリアン・アラフィリップが集団の先頭を牽引し、その後ろにモルコフ、マーク・カヴェンディッシュ。
残り500mでモルコフが脱落。ここで、カヴェンディッシュは1人になってしまった。
そんな中、やはり最も強いトレインを維持していたのがアルペシン・フェニックスだった。
残り400mで前日勝者のティム・メルリールがジャスパー・フィリプセンのためにリードアウトを開始。そのままファンムールも飲み込んでしまう。
そして残り200mでフィリプセンがスプリントを開始。
このまま、アルペシン・フェニックスが2連勝となるか?
しかし、ここでカヴェンディッシュが、彼の経験と強さを見事に発揮してみせた。
フィリプセンの背中に貼りついていたカヴェンディッシュが、目の前にかぶさってきたフィリプセンと、左側に上がってきたケース・ボル(チームDSM)との間のわずかな隙間を縫ってスプリントを開始。
そのまま、全盛期を思わせるような力強さでフィリプセンを追い抜き、そして、5年ぶりのツール・ド・フランス勝利。「31勝目」を掴み取った。
ドゥクーニンク・クイックステップによる世界王者も含んだ強力なトレインにより残り500mまでカヴェンディッシュを運び上げたことはもちろん重要ではあったが、最後のスプリント自体はミケル・モルコフの力を借りたわけではなく、自らの力と判断力とで勝利を掴んだ。
それは、まさにこの「最強の男」の復活を証明する勝利。
このまま彼は、今大会一体何勝してしまうのだろうか?
↓参考リンク↓
第5ステージ シャンジェ〜ラヴァル(エスパス・マイエンヌ) 27.2㎞(個人TT)
今年のツールの特徴の1つが、平坦基調の30㎞前後のTTが2つあること。そのうちの1つがこのステージ。多少の起伏はありながらも全体は平坦基調で、テクニカルなコーナーなども決して多くはない。
ただ、天候は悪く、路面はスリッピー。ある程度晴れていた序盤に出走したミッケル・ビョーグ(UAEチーム・エミレーツ)が非常に良いタイムを記録。優勝候補シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・NIPPO)は大雨のタイミングに完全に引っかかってしまい、落車仕掛けたこともあり本来の実力通りの成績を出すことはできなかった。
それでも後半は晴れ間が見えてきて、そこからいよいよ総合優勝候補たちによる戦いが始まる。
まずは今大会最強と目されてるヨーロッパ王者シュテファン・キュング(グルパマFDJ)。今年世界王者すら狙いうるのではないかとすら思わせる調子の良さで、そこまでの暫定首位マッティア・カッタネオを36秒上回る圧倒的な記録。
プリモシュ・ログリッチ(ユンボ・ヴィスマ)もキュングから25秒遅れでのフィニッシュとなり、このままキュングの優勝で確定かと思われていた。
しかし、昨年のラ・プランシュ・デ・ベルフィーユ山岳TTでまさかの大逆転勝利を決めたディフェンディングチャンピオン、タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)。
第1計測地点トップのアスグリーンのタイムを10秒、第2計測地点トップのキュングの記録を17秒更新し、最終的にはキュングを19秒上回っての勝利。
昨年と違ってTTスペシャリスト向きの平坦TTでありながらのこの成績。今年、この男のコンディションがずば抜けていることを証明する勝利であった。
だが、これまでTTでのリザルトはほとんどなかったマチュー・ファンデルプールが、マイヨ・ジョーヌを守るための粘りを見せる。
この日、出走前の段階でファンデルプールとポガチャルとのタイム差は39秒。
第1計測地点は全体の2番手に位置し、ポガチャルからは7秒遅れという好タイムで通過。
第2計測地点は少し遅れて5番目通過だが、それでもポガチャルからは22秒遅れと耐えている。
最終的にはポガチャルから31秒遅れでマイヨ・ジョーヌをキープ。
全体でも区間5位と、この男のこれまでは明確でなかったTTへの実力の高さを明らかにすることとなった。
マイヨ・ジョーヌはマチュー・ファンデルプール。そして8秒遅れでポガチャルが総合2位という状態で、第1週後半戦へと突入していく。
第5ステージ終了時点での総合成績
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