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クラシカ・サンセバスティアン2021 プレビュー

f:id:SuzuTamaki:20210727225508p:plain今年、Jsportsで日本語実況解説付き生中継が行われるバスクのワンデーレース、「クラシカ・サンセバスティアン」。

例年、グランツールで活躍するようなパンチャー、クライマーたちが覇を競い合う、リエージュ~バストーニュ~リエージュやイル・ロンバルディアにも匹敵するクライマーズクラシック。

2年前はレムコ・エヴェネプールが伝説を作り上げたこのレースを、詳細にプレビューしていきます。

 

↓予習動画をYoutubeに上げました!↓

youtu.be

 

目次

  

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レースについて

クラシカ・サンセバスティアン、現地の言葉ではドノスティア・サンセバスティアン・クラシコアと呼ばれるこのレースは、スペインで最も自転車熱が熱いと言われるバスク地方の美しき街サン・セバスティアン(バスク語でドノスティア)を発着し、バスク地方ならではの激しいアップダウンがコースに組み込まれたワンデーレース。

過去の優勝者も以下の通りだが、グランツールでも活躍するようなクライマーたちも多く名を連ねている(昨年は中止)。

f:id:SuzuTamaki:20210725112930p:plain

 

そんな中、前回大会となる2019年は、その年にプロデビューを果たしたばかりの19歳のレムコ・エヴェネプールが衝撃的な勝利。

彼にとって初のワールドツアー勝利であり、当然、史上最年少のワールドツアー勝利者となった。

www.ringsride.work

 

今大会も、何が起こるか分からない。

刺激に満ち溢れたコースで、衝撃的かつドラマチックな展開を楽しめること必至なこの名レースを、今年はJsportsで存分に楽しむこととしよう。

 

 

コースについて

f:id:SuzuTamaki:20210725113418j:plain

https://klasikoa.eus/en/route/

実にバスクらしい丘陵地帯を使ったアップダウンコース。総獲得標高は4,000mほどに達し、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュやイル・ロンバルディアにも引けを取らないクライマー向けの難コースだ。

勝負が動き出すのは残り70㎞を切ったあたりから登り始めるハイスキベル(登坂距離7.9㎞、平均勾配5.6%)や残り50㎞を切ってから登り始めるエライツ(登坂距離3.8㎞、平均勾配10.6%)の登りから。ここでプロトンの数はぐっと絞られていく。

しかし例年、決定的な動きが巻き起こるのは残り10㎞から登り始めるムルギル・トントーラ(登坂距離2.1㎞、平均勾配10.1%)。とくに頂上手前の1.8㎞の平均勾配は11.4%を記録し、最大で18%勾配区間もある。

この短くも厳しい勾配の登りで少数が抜け出し、彼らの中から勝者が生まれるというのが定番のパターンだ。

 

2016年の展開

最後の登りでサイモン・イェーツがまず仕掛けるも、激坂ハンター、ホアキン・ロドリゲスが合流し、そのハイ・ペースにイェーツが脱落。

一方、後方からはバウケ・モレマとアレハンドロ・バルベルデ、トニ・ガロパンが追いついてきて4名で山頂を通過。

下りでこの小集団の中での緩みを感じ取った瞬間を狙ってモレマが加速し、そのまま3名を突き放してフィニッシュまで独走。

実にモレマらしい勝ち方となった。


2017年の展開

最後の登りでミケル・ランダとトニ・ガロパンがアタックし、そこにバウケ・モレマが合流。3人で頂上を先頭通過するが、下りでさらにミハウ・クフィアトコフスキとトム・デュムランが追いついてくる。

当時チームメートだったランダによるペースメイクと撹乱を利用し、最後はクフィアトコフスキがスプリントで勝利。

 

2018年の展開

ムルギル・トントーラ頂上手前1.1㎞でアントワン・トールクとルディ・モラールがアタック。これをジュリアン・アラフィリップ、グレッグ・ファンアーヴェルマート、バウケ・モレマ、ヨン・イサギレの4名が追いかける。

頂上直前でさらに加速したモレマは先頭のトールクとモラールをあっという間に追い抜くが、ここにアラフィリップが食らいついてきていたのが運の尽き。

最後は得意のスプリントでアラフィリップが勝利を掴み取った。

 

いずれも、最後のラスト10〜8㎞の登りで勝負がついているわけだが、昨年は違った。

ラスト20㎞。ムルギル・トントーラ開始までまだ10㎞も残している、名もなき小さなアップダウンしかないようなほぼほぼ平坦といっていい区間で、トレック・セガフレードのトムス・スクインシュがアタックした。

ここに反応したのが、レムコ・エヴェネプール。前年のジュニア世界選手権を席巻し、わずか19歳でドゥクーニンク・クイックステップと契約し世間を賑わせた新星。だが、勝負所ムルギル・トントーラを前にしてのこのアタックはいくらなんでも無謀と思われていたし、タイム差も一気に40秒まで開いていたものの、このアタックが成功するとは誰も思っていなかった。

また、後方にエースのチッコーネやモレマを控えさせているスクインシュにとってもこのアタックはただの牽制であり、はなから逃げ切ろうとは思っていない。エヴェネプールに対しても非協力的でローテーションを回すことを拒否していた。

だが、残り10㎞。ムルギル・トントーラに突入してもなお、エヴェネプールのペースが落ちることはなかった。

むしろ、同行者スクインシュを突き放し、バルベルデ、ウッズ、チッコーネ、モレマといった精鋭たちが中心となって加速する追走集団とのタイム差をむしろ開いていき、エヴェネプールは単独でムルギル・トントーラ山頂を通過する。

 

あとはもう、誰も追いつける理由などなかった。

現在のコースレイアウトとなった2014年以降、初めて「ラスト20㎞からの(実質的な)独走勝利」を成し遂げたエヴェネプール。

ワールドツアー勝利最年少記録も更新し、歴史に残るレースとなった。

Embed from Getty Images

 

今年も基本的にはムルギル・トントーラで勝負は動くものと思われる。

しかし、「何が起こるか分からない」と理解したプロトンの中で、一体どんな反応が巻き起こるかもまた、楽しみである。

 

そんな今年のクラシカ・サンセバスティアンで注目すべき選手たちを以下、見ていこう。

 

 

注目選手

ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

Embed from Getty Images

2018年覇者。前回大会は直前のツール・ド・フランスで14日間マイヨ・ジョーヌを着続けて戦い抜いたことでさすがに疲労しすぎていたのか途中でバイクを降りる。

今年はツール・ド・フランス初日でいきなり勝利してマイヨ・ジョーヌを着るが、その後は山岳ステージで連日果敢に逃げに乗るものの、途中で力尽きて脱落しなかなかうまくいかない姿を見せていた。

しかし、今年は東京オリンピックを回避したことで、ツールから2週間の休息を挟んでいる。ここでしっかりとリフレッシュし、彼本来の力を十分に発揮することができれば、元々彼が最も得意とするパターンのレイアウト。今大会最強といっても良いだろう。またいつも通り、ドリス・デヴェナインスのリードアウトから、激坂で発射されるアラフィリップを見ることができるか。

また、チームメートの元U23版イル・ロンバルディア優勝者のアンドレア・バジョーリも期待十分の選手。もしアラフィリップが厳しければ、彼がエースになりうる。

その他、ミケルフローリヒ・ホノレ、ジェームス・ノックスなども、エースの素質がある選手たちだ。

 

 

バウケ・モレマ(トレック・セガフレード)

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2016年覇者。そして2018年もアラフィリップと共にムルギル・トントーラを抜け出し、最後は惜しくも敗れるも2位。その他2019年は5位、2017年は3位、2014年も2位、というか2012年以来毎年出場しTOP10に入り続けているという、このレースに対して世界で最も相性の良い選手である。

今年もツール・ド・フランスで区間1勝し、東京オリンピックでも4位と絶好調。前回優勝した2016年もツール・ド・フランスで区間勝利したシーズンだし、これは期待できるかも・・・

ただ、問題は「ヨーロッパから日本に行って、そこからまたヨーロッパに戻ってくる」というスケジュールが、どこまで悪影響を及ぼすのかということ。2016年もツール・ド・フランス、オリンピック共に出場しているが、そのときはツールの1週間後にクラシカ・サンセバスティアン、そのさらに1週間後にオリンピックという順番だった。そしてそのオリンピックでは17位。

移動のことさえ考えなければ良い材料ばかりが揃っているだけに、結果はとても未知数だ。

なお、チームメートのブランビッラやチッコーネも実力者なので期待したい。チッコーネはモレマ同様、オリンピック出場者ではあるけれど。

 

 

ヨナス・ヴィンゲゴー(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

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この夏、ツール・ド・フランスで覚醒を遂げた男。モン・ヴァントゥでタデイ・ポガチャルを登りで突き放した只一人の男となり、3週目山岳ステージも総合2位に相応しい素晴らしい走りをしてみせた。

www.ringsride.work

 

そして、彼は本来は、パンチャータイプの選手でもある。2年前のツール・ド・ポローニュでの優勝や、スプリント力の高さがそれを物語る。

そんな彼にとって、クラシカ・サンセバスティアンは今回初出場レースにはなるものの、相性の良いレースではあるはずだ。

チームメートには2018年大会のムルギル・トントーラで一度先行して前に出たアントワン・トールク、そしてジロ・デ・イタリア総合12位のクーン・ボウマンなど注目選手も多数。

若き才能が集うこのチームは未知数な可能性を秘めている。

 

 

アレックス・アランブル(アスタナ・プレミアテック)

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個人的に今大会最も期待しているのはこの選手だ。バスクの至宝。1週間後の同じバスクレース「シルキュイ・ドゥ・ゲチョ」は2018年に優勝している。前回大会の2019年は39位、その前の年も22位と結果は出していないものの、いずれもプロコンチネンタルチーム時代の話。

とくに今年はいよいよその才能が遺憾なく発揮されており、特に同じバスクの先輩オマール・フライレとのコンビネーションで掴み取ったイツリア・バスクカントリーでの区間優勝など、期待しかない状況。

彼もアラフィリップ同様にツール・ド・フランスからオリンピックはパスしてこのクラシカ・サンセバスティアンに来ているパターンで、オリンピック組の間隙を縫ってチャンスを掴めるか。

もちろん盟友フライレも、イサギレ兄弟も、バスク組は全員参戦で期待できるが、彼らはオリンピック組なのでそこでどうなるか。

むしろ「前哨戦」とも言えるプエルバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカで優勝したばかりのルイスレオン・サンチェスの方が伏兵としては期待できるかも。

 

 

ディエゴ・ウリッシ(UAEチーム・エミレーツ)

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最後の1人は色々迷ったが、最終的にこの男に。

クラシカ・サンセバスティアンでの実績は2012年の10位が最高で、あとは全然TOP10には入れていないものの、今年は直近のセッティマーナ・チクリスティカ・イタリアーナで区間2勝と総合優勝しており、かなり絶好調な様子が見られる。

他にもツアー・オブ・スロベニアで(ポガチャルに譲られる形で)区間1勝・総合2位、ジロ・デッラペンニーノ7位、そしてスイスのチッタ・ディ・ルガーノで5位など、パンチャー向けワンデーレースでも好調ぶりを見せている。

その勢いをそのままこのバスクでぶつけられるか。可能性は十分にあると思っている。

 

また、このチームにはジュニア上がりの18歳、大注目株のフアン・アユソーの存在が光る。

今年のベイビー・ジロでは区間3勝&総合優勝、そして「前哨戦」プエルバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカではサンチェスに次ぐ2位。

すでにしてエリートの中でも存在感を示しているこの男が、2年前のエヴェネプールに続く「奇跡」を巻き起こせるか。

 

 

ほかにもパトリック・コンラッド、ミケル・ランダ、ダニエル・マーティンなど注目選手は多数。

オリンピックも挟み、より予測不可能な今大会、名を上げるのは、果たして誰か。 

 

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