いよいよ「北のクラシック」の頂点とも言えるロンド・ファン・フラーンデレンが開催される。そして、今年ここまでで最高のメンバーが揃ったステージレース、イツリア・バスクカントリー。
さらに来るアルデンヌ・クラシックに向けての前哨戦レースも開催され、いよいよ春のクラシック終盤戦とグランツールシーズンに向けて少しずつ雰囲気が高まっていく、そんな4月前半戦をプレイバック!
目次
- GPミゲル・インドゥライン(1.Pro)
- ロンド・ファン・フラーンデレン(1.WT)
- ロンド・ファン・フラーンデレン女子(1.WWT)
- スヘルデプライス(1.Pro)
- イツリア・バスクカントリー(2.WT)
- ブラバンツ・ペイル(1.Pro)
参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ
主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
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GPミゲル・インドゥライン(1.Pro)
UCI Proシリーズ 開催国:スペイン 開催期間:4/3(土)
90年代に前代未聞のツール・ド・フランス「5連覇」を成し遂げたスペインの英雄、ミゲル・インドゥラインの名を冠したバスクのワンデーレース。
バスクらしいアップダウンの豊富さが特徴で、過去にはヨン・イサギレ、サイモン・イェーツ、ジョナタン・イヴェールなど、登りスプリントが得意なパンチャーから本格的なステージレーサーまで幅広く、同じバスクのクラシカ・サンセバスティアンに強いタイプの選手たちに有利なレースとなっている。
今年中盤にレースを支配したのは、ここまで勝利なしのモビスター・チーム。レース名の由来となったミゲル・インドゥラインがチームの出身者である以上、このレースは何としてでも勝たなければならなかった。
しかし終盤にかけて展開が加速していくとモビスターのその集団支配体制も崩壊。
やはり厳しいのか・・・と思っていた中で、終盤でアタックしたルイスレオン・サンチェスに対し、残り10㎞地点にあるアルト・デ・エラウル(登坂距離3.8㎞、平均勾配5.5%)でアレハンドロ・バルベルデがアタックし、40名ほど残っているプロトンを置き去りにした。
追いつかれたサンチェスも、集団内にチームメートを残していたためにローテーションを拒否。そのチームメートであるアレクセイ・ルツェンコが残り4.7㎞地点のアルト・デ・ムル(登坂距離1.3km、平均勾配4%)でアタックして先頭2名にジョイン。
そのまま3名で最後の登りアルト・イバラ(登坂距離0.6㎞、平均勾配11%)の激坂に突入するが、そこでバルベルデが一気にサンチェス、ルツェンコの2人を突き放した。
今年41歳。引退間近ながら、先日のカタルーニャ1周で総合4位になるなどまだまだ一線級の実力を保持しているバルベルデが、チームに待望の今季初勝利をもたらした。
ロンド・ファン・フラーンデレン(1.WT)
ワールドツアークラス 開催国:ベルギー 開催期間:4/4(日)
今年もまた、誰も予想していなかったドラマが待ち受けていた「クラシックの王様」。
一方でその勝利は何ら文句のつけようのないものでもあった。
この日、間違いなく最も強い男はこのカスパー・アスグリーンだったのだから。
残り100㎞。
モレンベルクでまずはカスパー・アスグリーンがジュリアン・アラフィリップを伴って加速。レースの始まりのゴングを鳴らした。
クイックステップに主導権を握られることを恐れたマチュー・ファンデルプールが、残り55㎞からの勝負所「2回目オウデクワレモント」で抜け出しを試みるが、これにいち早く反応し抑え込んだのもカスパー・アスグリーンだった。
その直後の「1回目パテルベルク」では逆にアスグリーンが先に仕掛け、ファンデルプールに足を使わせることに成功。
カウンターで飛び出したティム・ウェレンスやトム・ピドコックの動きに、フロリアン・セネシャルとジュリアン・アラフィリップが反応し乗り込んだとき、ファンデルプールとワウト・ファンアールトは反応に遅れ取り残され、そこにブリッジを仕掛けようとしたそのときには、しっかりとアスグリーンがこれをマークする。
そして残り37㎞。ターインベルグ。
アスグリーンはここでも先陣を切って加速し、これにより先頭集団はファンデルプール、ファンアールト、そしてアスグリーンとアラフィリップのクイックステップコンビの4名が形成される。
昨年とほぼ同じ構図に、入り込んだアスグリーン。
そしてまた、この4名の中で最も強かったのも彼だった。
残り27㎞。「クルイスベルグ後の平坦区間」にてアタックしたアスグリーン。
ファンデルプールとファンアールトはすぐさま反応するが、アラフィリップがここでついていけない!
さらに残り18㎞の「3回目オウデクワレモント」。その登りでファンデルプールが決定的な一撃を放ち、ファンアールトが脱落。
アスグリーンもファンデルプールに突き放されてしまった。
しかし、淡々とマイペースで踏み続けるアスグリーンが、やがてファンデルプールのもとに復帰。
続く最後の勝負所「2回目パテルベルク」では逆に、アスグリーンが先頭に立ってファンデルプールを突き放しかけるほどのパワーを見せた。
この日、最強は間違いなくアスグリーンだった。
それでも、残る10㎞は平坦区間。
その背中に張り付いたファンデルプールを振り払うことはできず、最後のスプリントだけを残す形となったアスグリーンに、勝ち目はないように思えた。
しかし昨年の鏡合わせのようなひりひりとした緊張感の牽制合戦の末、残り250mで先頭からスプリントを開始したファンデルプール。
ほぼ同時にその後方から加速を開始したアスグリーンはファンデルプールに並びかけるが、ラスト50mまでは常にファンデルプールの前輪が先行していた。
しかしその最後の50mで、彼は突然その力を失い、項垂れる。
260㎞にわたる長距離のサバイバルレースの最後の50mで、ファンデルプールはその力を全て使い果たした。
そしてアスグリーンは、デンマーク人らしいタフネスさでもって、最後はこの「怪物」を打ち倒した。
2017年ツール・ド・ラヴニールで1勝。その後は3月まで元々のデンマーク・コンチネンタルチームに所属していたが、3月からクイックステップ入り。同じく17ラヴニールで活躍していたホッジ、ヤコブセンと同期となった。
2019年はロンド・ファン・フラーンデレンで終盤まで生き残り2位。同年のツアー・オブ・カリフォルニアでは山岳もこなし総合3位。多才さを見せつける男であった彼が、今回、「まずは」クラシックの王様を制した。
ただ、これで終わる男ではないはずだ。
この男のさらなる進化、活躍を、期待していこう。
ロンド・ファン・フラーンデレン女子(1.WWT)
ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:ベルギー 開催期間:4/4(日)
男子レースのフィニッシュ地点にあたるオーデナールデの街を発着する152.4㎞のレース。7つの石畳を含む13の登り区間と、5つの平坦石畳区間を擁し、距離は短いながらも男子レースと変わらぬ難易度を誇る女子レースでも格式の高いレースである。
前半に繰り出されたいくつかの攻撃は、大きなギャップを開くことなく生まれては消えていった。
ラスト44㎞地点のカナリーベルクでファンフルーテンが一度アタックするも向かい風の中でこれは失敗。
その後、トレック・セガフレードのオードレイ・コルドンが抜け出してしばらく独走を続け、40名程度に絞り込まれたメイン集団からはフローチェ・マッカイやリアヌ・リッパート、エイミー・ピーテルス、セシリーウトラップ・ルドヴィコなどの実力者たちが次々と動きを見せるが、いずれも短命に終わった。
だが、コルドンの逃げも、ラスト18㎞から始まる最後のオウデクワレモントを前にして吸収。
いよいよ、勝負どころが始まる。
最初に動いたのは世界王者のアンナ・ファンデルブレッヘン。ここにグレイス・ブラウン、アネミエク・ファンフルーテン、エリザ・ロンゴボルギーニ、リサ・ブレナウアー、ルドヴィゴ、マルタ・カヴァッリ、デミ・フォーレリングが食らいついていく。
ここからさらにブラウンが加速して抜け出すと、そこにファンフルーテンだけが追随していった。
その後、最後の登りとなるパテルベルクでファンフルーテンが独走を開始。
ファンデルブレッヘンらが形成する追走集団はパテルベルクの頂上を7秒遅れで通過した。
「王の道」は女子ロンドでもその威力を発揮。単独で逃げ続けるファンフルーテンに対し、強力なライダーたちばかりで構成された追走集団は協調が取れずむしろスローダウン。
最初は7秒だったタイム差は、みるみるうちに開いていき、最終的には25秒にまで達してしまう。
かくして、元世界王者にして現欧州王者のファンフルーテンは、10年前に達成した初勝利に続き、2度目のロンド制覇を成し遂げる。
今年39歳になる「女王」は、まだまだその力が健在であることを明確に示した。
スヘルデプライス(1.Pro)
UCI Proシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:4/7(水)
伝統的にロンド・ファン・フラーンデレンとパリ~ルーベとに挟まれた水曜日に開催されている、フランドル地方最古のクラシック。
近年付け加えられたコース前半の横風区間と、フィニッシュ地点周辺の難易度の低い石畳区間とがクラシックのスパイスを提供しつつ、基本的には集団スプリントで決着することの多いレースである。
しかし今年はその横風が大きな影響を及ぼした。
すなわち、序盤からハイ・ペースで集団が横風分断を仕掛け、落車も相まってあっという間に分裂。
最初の分裂はやがて1つにまとまるがまたのちに分裂、を繰り返し、最終的には30名程度の「先頭集団」ができあがり、これがそのままフィニッシュへと向かうこととなった。
サム・ベネット、ミケル・モルコフ、マーク・カヴェンディッシュ、フロリアン・セネシャル、ベルト・ファンレルベルフのドゥクーニンク・クイックステップが5名。
パスカル・アッカーマン、ルディガー・ゼーリッヒ、ニルス・ポリッツ、ミカエル・シュヴァルツマン、マークス・ブルグハートのボーラ・ハンスグローエも5名。
さらにジャスパー・フィリプセンとヨナス・リッカールト、ドリース・デボントのアルペシン・フェニックスが3名。
強豪チームがしっかりと数を揃える一方、ジャコモ・ニッツォーロやケース・ボル、ダニー・ファンポッペルらは単独かもしくはアシスト1枚で勝負せざるをえなかった。
そして一度はこの先頭集団に乗り込みながらも落車で脱落してしまったティム・メルリエやアレクサンダー・クリストフ、あるいは最初から乗り込むことができなかったエリア・ヴィヴィアーニなどは早くも終戦となってしまった。
あとはこの優勝候補たちによるスプリント決戦。
誰がどう見てもドゥクーニンクとボーラが優勢だっただけに、牽引の責任は彼らが担うこととなり、セネシャルとブルグハートが全力牽引。アルペシンはその間、後方で足を貯めることができていた。
そしてフィニッシュ前にボーラ・ハンスグローエのトレインが崩壊。クィックステップトレインがファンレルベルフを先頭にモルコフ、ベネット、カヴェンディッシュを従えて集団先頭を突き抜けていく。
ここまでは必勝態勢。しかしこの直後、右手からアルペシン・トレインがベルギー王者デボントの超牽引によって一気に上がってくる。
デボントの後ろはリッカールト。いずれもピュアスプリンターというよりはクラシックライダー。しかし彼らはクィックステップに負けない勢いで先頭を奪い取ってしまう。
ベネットものちに語るように、枚数が足りなかった。セネシャルはすでにゴール前の段階で使い切ってしまっていたし、カヴェンディッシュはベネットの背後に控えさせており発射台として使えなかった。
結果、最後の勢いが足りず、アルペシンに前を塞がれてしまう。
そこからフィリプセンの後ろからスプリントを開始するが、この猛追を振り払い、フィリプセンが見事、最強チームを打ち倒す勝利を掴んだ。
アルペシン・フェニックスは本当に、UCIプロチームとは思えない成績を出し続けている。
しかも、元ワールドツアーのタレントたちばかりが結果を出しているわけではなく、メルリエやフェルメールシュ、今回のデボントやリッカールトのような元々このチームにいた選手たちがこの勝ち星を積み上げていっている。
結束力もワールドツアー級を今後のさらなる進化が楽しみだ。
イツリア・バスクカントリー(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:スペイン 開催期間:4/5(月)~4/10(土)
スペイン・バスク地方で開催された、6日間のステージレース。
個人TTとパンチャー向きの激坂・丘陵系コースが特徴的で、グランツールを狙う選手たちはもちろん、4月後半のアルデンヌ・クラシックに向けた足慣らしに使う選手たちも多い。
今回はプリモシュ・ログリッチとタデイ・ポガチャルという、昨年のツールで因縁のある二人が、ついに今年初めて激突するレースとして注目を集めた。
実際にその戦いの行方は白熱したものとなり、2人だけでなくそれぞれのチームの可能性も感じさせる、名レースであった。
その詳細は下記の記事を参照のこと。
また、今季ここまで勝利のなかったアスタナ・プレミアテックが、今大会で2勝。しかも、地元バスク出身の2人、アレックス・アランブルとヨン・イサギレがそれぞれ勝利し、同じバスク人のオマール・フライレも、第1ステージのアランブル逃げ切りのきっかけを作りつつ自らも集団先頭を取ってワンツーフィニッシュを実現するなど、絶好調ぶりを示した。
アランブルはこれまでは登りスプリントに強い典型的なパンチャーというイメージだったが、今回の初日TTも、激坂が含まれるTTとはいえ区間9位と好走を見せ、第2ステージもラスト数㎞からのワンアタックでの逃げ切り。そしてダウンヒルの強さなど、これまでにない強みを見せつつある。
一方で、ヤコブ・フルサンはいまいち存在感を示せず。昨年のシーズン冒頭が好調だっただけに、不安が隠しきれない。
その他、ログリッチとポガチャルに割って入りうる存在として注目されていたアダム・イェーツ。
初日の個人タイムトライアルでは区間6位に入るなど、カタルーニャで見せた走りがまぐれではなかったことを明確に示した。
その後も山岳ステージでは常に上位に入り込み、安定感の高さも披露。
ポガチャル、ログリッチの2強には一歩劣る姿は見せつつも、今の所出場予定だというブエルタ・ア・エスパーニャあたりであれば、総合優勝候補筆頭と言っても良さそうだ。
一方、地元バスク人のエースであるミケル・ランダは、昨年年間を通じて見せていた安定感にやや翳りが見える場面も。
今大会の前半は良かったが、最終ステージで最後にポガチャルやバルベルデ、イェーツについていけなかったのは残念。
逆にそのチームメートで今年ここまであまり調子が上がっていなかったペリョ・ビルバオの復調を感じられたのは好材料だった。
カタルーニャで区間1勝していたエステバン・チャベスも、バルベルデやイェーツほどの安定感はなかったが、十分に総合を争える状態になったことを示した。
ブラバンツ・ペイル(1.Pro)
UCI Proシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:4/14(水)
例年、パリ~ルーベとアムステルゴールドレースに挟まれた間の水曜日に開催されるフランドル・クラシック最終戦。
石畳もあるもののメインとなるのはこの週末から始まるアルデンヌ・クラシックを彷彿とさせるようなアップダウン。
アムステル前哨戦として扱われることも多く、前回大会の覇者マチュー・ファンデルプールは同年のアムステルゴールドレースも制している。
今年は前回優勝者ファンデルプールもこれと熾烈な争いを繰り広げたジュリアン・アラフィリップも出場せず。
代わりに初出場となるワウト・ファンアールトとトム・ピドコックのシクロクロッサーコンビに注目が集まった。
レースが動き出したのは残り70㎞を切ってから。レミ・カヴァニャを含む4名がアタックし、逃げ9名にブリッジを仕掛けようとする。
残り60㎞を切ってそこに3名が追加され、数を減らした先頭集団と合流しようとするそのとき、残り38㎞の「ヘルトストラート」の登りでメイン集団からトム・ピドコックがアタック。ここにワウト・ファンアールトとマッテオ・トレンティンが食らいついていった。
最終的には先頭に17名の勝ち逃げ集団ができあがる。
残り27㎞。激しいアタックの打ち合いの間隙を突いて、トレンティンが独走態勢に入る。
これを追いかけようとするワウト・ファンアールトだが、集団内にいるあらゆる選手が彼をマークしているために、抜け出せない。
ヘント~ウェヴェルヘムのときのようにチームメートが傍にいればいいが、一人ではやはりこうなってしまう。だれか一人が抜け出した途端、ファンアールトが自ら前を牽き続けなくてはいけなくなり、勝機を失うという、昨年の世界選手権から何度も繰り返されてきたパターン——今回もまた、この形で負けてしまうのか?
だが、今回は「牽制と無縁の男」トム・ピドコックがいた。
残り16㎞地点に用意された最後のヘルトストラート、先頭トレンティンとのタイム差が25秒にまで開いたそのとき、ピドコックが集団先頭に立ち一気にペースアップ。
当然、ファンアールトはここに食らいついていく。しかしピドコックはお構いなしにペースを上げ続ける。
たしかにこれをしなければ彼自身も勝てないのは自明だった。それでも、この動きができるのは、このあとの展開で真正面からファンアールトに勝つ自信がないとできない。
その自信があるのが、唯一ピドコックだけだったのだ。
そして、メイン集団から抜け出せてしまえば、あとはトレンティンを捕まえるのは時間の問題だった。
残り11㎞で先頭は3名に。そのまま協調を続け、ラスト1㎞からいよいよ牽制し合いながらの最終スプリントに突入する。
後方からはブノワ・コヌフロワが単独で飛び出してきて残り250mを切って先頭3名とのタイム差3秒の位置にまで迫ってきていた。
ここで、最初にファンアールトがスプリントを開始した。彼曰く、十分に勝てるはずの距離ではあった。
しかし、これを冷静に捉え、その後輪をトレースし続けたピドコックが、残り100mでその背中から飛び出す。
最後はしっかりとファンアールトを突き放して勝利。
自ら動いてチャンスを生み出した、文句なしの勝利。
北のクラシックではやや暴れ足りないところを見せた昨年のベイビー・ジロ覇者が、実力の高さを証明する完璧な勝利を掴み取った。
このあとはアムステルゴールドレースとフレーシュ・ワロンヌに出場予定のピドコック。
果たしてどんな暴れ方を見せてくれるのか。
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