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アムステルゴールドレース2021 プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:オランダ

Region:リンブルフ州

First edition:1966年

Editions:55回

Date:4/18(日)

 

 

石畳と横風により彩られる北のクラシックシーズンも終わりを告げ、春のクラシックもいよいよ終盤戦。丘陵地帯を舞台に繰り広げられるアルデンヌ・クラシックがいよいよ開幕する。

まずはその第1戦、アムステルゴールドレース。昨年は残念ながら中止となってしまったこのレースが、今年は新型コロナウイルス対策でクローズドなサーキットでの周回レースとして復活。

 

今回はこの新しいバージョンのコースと、注目の優勝候補たちをプレビューしていく。

 

目次

 

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レースについて

アムステルゴールドレースは3日後の水曜日に開催されるフレーシュ・ワロンヌと、1週間後に開催されるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュと合わせ、「アルデンヌ・クラシック」と呼ばれる丘陵レースの1つとされている。

他2つがベルギー南部のワロン地方を舞台にしているのに対し、このアムステルゴールドレースはオランダ南東部のリンブルフ州を舞台としている。

アムステルゴールドというのはメインスポンサーのアムステルビールのブランド名であり、公式ページに行くにも年齢の確認をされるというのが特徴的だったりもする。

 

後半2つのアルデンヌ・クラシックがときにグランツールで活躍するようなクライマーたちにもチャンスの多いレースであるのに対し、こちらのアムステルゴールドレースはそれよりもやや緩やかで、よりパンチャー向きといえる。

過去の優勝者は以下の通り。

 

2010:フィリップ・ジルベール

2011:フィリップ・ジルベール

2012:エンリーコ・ガスパロット

2013:ロマン・クロイツィゲル

2014:フィリップ・ジルベール

2015:ミハウ・クフィアトコフスキ

2016:エンリーコ・ガスパロット

2017:フィリップ・ジルベール

2018:ミケル・ヴァルグレン

2019:マチュー・ファンデルプール

2020:中止

 

その他、マイケル・マシューズやソンニ・コルブレッリ、アレハンドロ・バルベルデにヤコブ・フルサンなどスプリンターに近いパンチャーやワンデーレースに強いクライマーなど幅広く上位に入賞。

過去には新城幸也が10位に入ったこともあるレースとしても有名だ。

 

そんなアムステルゴールドレースが今年はコースを一変。

次節ではそんな今年のコースを見ていこう。

 

 

コースについて

例年、アムステルゴールドレースはマーストリヒトでスタートし、オランダ・リンブルフ州南部地域の丘陵地帯を駆け巡るのだが、今年はここを変更。

グールヘンメルベルグ(登坂距離1㎞/平均勾配5%/最大勾配8%)」「ベメレルベルグ(登坂距離900m/平均勾配4.5%/最大勾配7%)」「カウベルグ(登坂距離800m/平均勾配6.5%/最大勾配12.8%)」といった例年の勝負所をすべて含む16.9kmの周回コースを12周、最後に直近の2回(2018年、2019年)で使われている「残り15㎞でグールヘンメルベルグ、残り8㎞でベメレルベルグ」という16㎞の周回コースを通過してフィニッシュとなる。

 

かつてはフィニッシュ前に置かれていたカウベルグがフィニッシュ前から取り除かれ、それが近年ではさらに残り20㎞近くまで後退させられ、より「最後だけ」じゃない、クラシック感に満ちたレースに変貌しつつあった。

今年もそのエッセンスは残しつつ、しかしカウベルグを合計12回登らせるという、ある意味例年以上に厳しいコースになっていることは間違いなく、例年とは違ったよりサバイバルなレースを楽しめるかもしれない。

 

例年と同じなのはラスト20㎞と考えていいだろう。

そこだけ、過去のプレビュー記事から引用する形で紹介する。

 

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残り19.5㎞「カウベルグ」

登坂距離800m/平均勾配6.5%/最大勾配12.8%

大会を象徴する登り。ゴール前20㎞という絶妙な位置に置かれ、レースの展開を左右する重要な動きが起こりやすい。

2018年は2013年覇者優勝者クロイツィゲルと2016年覇者ガスパロットとがこの登りの手前で抜け出し、この登りで逃げていた5名と合流する。

登り自体の難易度はそれほどでもないが、やはりゴールまでの距離が絶妙。決定的な動きをするにはやや早すぎるが、平気で逃すには遠すぎる。微妙な心理のあやを狙って、今年攻撃するのは誰だ?

 

残り15㎞「グールヘンメルベルグ」

登坂距離1㎞/平均勾配5%/最大勾配8%

2018年大会では、クロイツィゲル、ガスパロットらに置き去りにされたメイン集団の中から、バルベルデ、サガン、アラフィリップ、ウェレンス、ヴァルグレン、フルサングが抜け出して先頭に合流。

2017年大会の2強ジルベール、クウィアトコウスキーはここで脱落する。

いわば「最終列車」に乗り込む最後のチャンス。

 

残り8㎞「ベメレルベルグ」

登坂距離900m/平均勾配4.5%/最大勾配7%

2017年では先頭集団からジルベールとクウィアトコウスキーが抜け出したポイント。

2018年も12名の先頭集団から、フルサング、バルベルデ、アラフィリップ、サガン、ガスパロット、ウェレンス、ヴァルグレン、クロイツィゲルの8名が抜け出したポイント。

すなわち、「最終列車」の中でのセレクション、最後の優勝候補を決める重要ポイントとなっている。変な牽制を見せると勝機を完全に失うので、積極的な動きを心がけたい。

 

2018年はこの最後の登りを終えてもなお8名と人数が多く、最終的には残り2.2㎞の平坦部分でヴァルグレンがアタック。

 

クロイツィゲルだけがついていき、残りはお見合い状態となった。

 

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もちろん、今年はこの20㎞に至るまでの間に繰り返し繰り返し勝負所を駆け上っていくことになり、その中で削れた足でこの最後の20㎞に突入する。

例年とはまったく違った様相を呈する可能性はあるだろう。

とくに残り40㎞を切ってからは、常に動きが巻き起こると考えておいた方がよさそうだ。

 

オランダの丘陵地帯を駆け巡る「パンチャーのためのクラシック」。

今年はよりタフな戦いの中で、どんなドラマが描かれるのか。

 

 

注目選手

ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

Embed from Getty Images

2019年大会においては終盤まで必勝体制でありながらも、最後の最後でマチュー・ファンデルプールにそれを奪われた男。

今年もストラーデビアンケではファンデルプールにしてやられるも、ティレーノ~アドリアティコではこれをリベンジする場面も見せたりと、好調は変わらず。今年はファンデルプールがこのアムステルゴールドレースに出場しないため、優勝候補の筆頭となっている。

直近のロンド・ファン・フラーンデレンで42位という結果はやや不安が残るものの、今年はそもそも北のクラシックへはそこまで力を入れておらず、このアムステルから始まるアルデンヌ3連戦に焦点を絞っているという見方もできる。前哨戦ブラバンツペイルも出場していないためやや未知数なところはあるが、このあとの2戦を占ううえでも今回のレースの走りには大注目だ。

 

一方、チームメートのマウリ・ファンセヴェナントもかなり気になる存在。

昨年の7月からドゥクーニンク入りしたばかりのある意味で「ネオプロ1年目」である彼は、昨年のフレーシュ・ワロンヌでのアグレッシブな逃げでその名を轟かせた。

そして今年はまずはツール・ド・ラ・プロヴァンスでのアラフィリップのための山岳アシストや、GPインダストリア&アルティジアナートでのバウケ・モレマやミケル・ランダを打ち破っての勝利、そしてイツリア・バスクカントリーでも総合11位と、かなりの急成長を遂げつつある。

Embed from Getty Images

 

今回のアムステルと次戦フレーシュ・ワロンヌにおいては、この若き才能も台風の目の一つとなりそうだ。あるいは、アラフィリップを勝たせるための、最も重要なアシストとして機能するかもしれない。

 

 

ワウト・ファンアールト(チーム・ユンボ・ヴィスマ)

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初出場となった前回大会の2019年では58位と全くリザルトを残せていない。

しかし今年の前哨戦ブラバンツペイルではある意味最も強い走りを見せての2位。実績と直近の調子の良さのバランスにおいて、今回の最大の優勝候補であることは間違いない。

彼の課題があるとすれば、そのアシストの不足。今年最大の勝利であるヘント~ウェヴェルヘムではネイサン・ファンフーイドンクが最高のアシストをしてみせてくれたし、ブラバンツペイルでもファンフーイドンクを筆頭に中盤でしっかりと集団コントロールをしてくれた。

しかし最終盤で彼の傍にいられる存在はやはりここ数年なかなかおらず、結果として、このファンアールトを警戒する他のメンバーの牽制が彼から勝機を奪ってしまうことが昨年の世界選手権しかり今年のミラノ~サンレモしかり、頻発している。

その意味で今回は心強い仲間がいる。それがプリモシュ・ログリッチであり、あるいは彼をバスクでサポートした新加入サム・オーメンだったりする。

もちろん、どちらかというと純粋なクライマーに近い彼らよりは、ファンアールトの方が優勝候補であることに変わりはないだろう。しかし捨て置くにはあまりにも強力すぎるログリッチらの存在は、ファンアールトに集中しがちな警戒の目を逸らすには十分だろう。

そして、その中でも注目がヨナス・ヴィンゲゴーの存在。今年、それこそセップ・クス級に完璧な山岳アシストぶりを見せている(あるいは彼を超える、それこそログリッチの「ダブルエース」たりうる走りを見せている)彼は、2019年にはツール・ド・ポローニュで逃げ切り勝利をしていたりと、元々は丘陵系のパンチャータイプライダーだったはず。

その特質が失われていなければ、ログリッチ以上に今回のアムステルにはフィットしており、最後の最後までファンアールトを対等にサポートできるほか、場合によっては勝利すら狙える存在になるかもしれない。

Embed from Getty Images

 

想像できないスピードで進化し続ける若きデンマーク人。今回のダークホースの1人だ。

 

 

トム・ピドコック(イネオス・グレナディアーズ)

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前哨戦ブラバンツペイルにて自らの動きでチャンスを掴み、最後はワウト・ファンアールトを真正面から打ち破った、今最も勢いに乗る男。

note.com

 

その最大の特徴は、それこそ2019年のこのアムステルゴールドレースにおけるマチュー・ファンデルプールを彷彿とさせるような、牽制を知らない果敢な走り。今年のオンループ・ヘットニュースブラッドでも、中盤でジュリアン・アラフィリップが単独で抜け出した際に、誰よりも率先して集団を牽き、これを捕まえる一助となった。

そのアグレッシブさは無謀ではない。実際にその走りをしてでも勝つ自信があるからできることである。

そして実際にブラバンツペイルでは勝った。残り250m。「少し早いけど、勝てる距離だった」とファンアールト自身述べているその距離からのスプリントで、同行していたマッテオ・トレンティンはいとも簡単に引き千切られた一方、ピドコックはしっかりとこのファンアールトの後輪を捉え続け、そして最後、残り100mでその背中から飛び出してファンアールトを突き放した。

「ファンアールトはずっと集団の前を牽き続けていて、最後は限界だったようだ」とピドコックは語るが、しかし同じようにサバイバルな展開を自ら動いて切り開いてきたのもまた、ピドコックであった。

 

そして今年のアムステルゴールドレースは例年以上に激しい展開になることが期待されている。

そんなときに、個の力として圧倒的なこのシクロクロッサーが、2019年にブラバンツペイル~アムステルゴールドレースと連勝したマチュー・ファンデルプールの後を継ぐことになるかもしれない。

 

そんな彼を支えるチームメートも、ブラバンツペイルのとき異常に豪華だ。バスクカントリーで常に積極的な走りをし続けていたリチャル・カラパスに、骨折から復活した2015年覇者ミハウ・クウィアトコウスキー、そして今年のドワースドール・フラーンデレン覇者のディラン・ファンバーレもまた、心強いアシストである。

ブラバンツペイルでも中盤アタックをしていたエディ・ダンバーなども期待の存在。

「最強」イネオスはクラシックでもその存在感を示せるか。

 

 

マルク・ヒルシ(UAEチーム・エミレーツ)

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昨年のフレーシュ・ワロンヌ覇者。UAEチーム・エミレーツにおける、アルデンヌ・クラシックの絶対的エースの1人であることは間違いないだろう。

もちろん今年のコンディションは万全ではない。年初の突然のチーム移籍から、腰および親知らずの抜歯というアクシデントが挟まったことによって、今年のシーズンデビューは3月後半まで遅れることとなっていた。

だが、アルデンヌ・クラシックに焦点を合わせてきているのは確かな様子で、イツリア・バスクカントリー最終日も、ユンボ・ヴィスマの危険な逃げをチェックする役割を担い、ポガチャルとマクナルティの2大エースを最後の最後アシストする重要な立場を成し遂げていた。

調子は本来のものへと確実に上がりつつある。あとは、今回のアムステルでそれがピークに達しているかどうか。

 

もちろん、前哨戦ブラバンツペイルで3位となったマッテオ・トレンティンも忘れてはいけない。

 

 

マキシミリアン・シャフマン(ボーラ・ハンスグローエ)と・・・

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2019年にアムステルゴールドレース5位、フレーシュ・ワロンヌ5位、そしてリエージュ~バストーニュ~リエージュ3位と、類稀なる成績を残した新・アルデンヌマイスター。 

近年はパリ~ニース2連覇やツール・ド・フランス山岳ステージでの活躍など、ややクライマーよりに軸足が移ってきており丘陵レースへの適性が衰えていないか心配ではあるものの、引き続き注目しておきたい選手の1人である。

 

が、個人的にもっと注目しておきたいのがイーデ・スヘリンフ(シェリング)である。今年23歳となるオランダ人。元SEGレーシングアカデミーということでその才能は保証されている男。

彼もまた、マウリ・ファンセヴェナントやヨナス・ヴィンゲゴーと共に、急成長を遂げている超注目選手の1人であり、今年はファンセヴェナントが勝ったGPインダストリア・アルティジアナートで5位、そして直近の前哨戦ブラバンツペイルでは、先頭の3名のあとにフィニッシュした中規模集団の先頭を取っての4位となっている。

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しかも、GPインダストリア&アルティジアナートでは、ファンセヴェナント、モレマ、ランダ、キンタナの4名が抜け出していた中で、最終盤に後続から一人追いついてきて一度は先頭に立ってスプリントに参加していた。

ブラバンツペイルでも途中形成された17名の勝ち逃げ集団の中には入り込めなかったのだが、その後後続の集団から飛び出して、17名から降りてきたチームメートのジョルディ・メーウスの力も借りて上がってきた。

そのときにはすでにファンアールトやピドコックは抜け出していたが、それでもこれを追走する集団の中に入り込み、最後は集団の先頭を取って4位となったのである。

note.com

 

すなわち、実力はある。しかし経験か、チームの層なのか、中盤におけるポジション取りやアタックに乗る判断力が欠如しているがゆえに、その実力を十分に生かせないパターンが非常に多い。

もしこれが、勝負できる集団の中に陣取ることができていれば・・・

その意味で、今回、シャフマンやパトリック・コンラッド、チェーザレ・ベネデッティら強力なライダーたちがいる中で、彼に自由が許されるのであれば、大きな成果を得られる可能性が十分にある。

 

個人的にはシャフマン以上に期待している存在。勝つまではいかないにしてもTOP5、期待している。

 

 

以上、5名の注目ライダーを取り上げてきたが、それ以外にももちろんグレッグ・ファンアーヴェルマートやオウレリアン・パレパントル、バウケ・モレマやサイモン・クラーク、ダヴィド・ゴデュにヴァランタン・マデュアス、ティム・ウェレンスやディラン・トゥーンス、マテイ・モホリッチ、マイケル・マシューズ、ヤコブ・フルサンなど・・・注目すべき選手は多数にわたる。

 

今年、大きく様変わりしたコースで、果たしてどんなドラマが待ち受けるのか。

春のクラシック最終盤、アルデンヌ・クラシック3連戦が、ついに始まる。

 

 

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