1/21(火)から始まる男子のツアー・ダウンアンダーに先駆け、1/16(木)から4日間の日程で開催されたウィメンズ・ツアー・ダウンアンダー。
今年のこの「女子ダウンアンダー」は、男子レースに勝るとも劣らない白熱の総合争いが演じられた。
何しろ、総合優勝者のルス・ウィンダー(トレック・セガフレード)と、3位のアマンダ・スプラット(ミッチェルトン・スコット)とのタイム差はわずか6秒。
2位リアン・リペット(チーム・サンウェブ)とスプラットとのタイム差に至ってはわずか1秒。まさに秒差の争いであったのだ。
いかにしてこのような激戦が繰り広げられたのか。
より進化を続ける女子レースの盛り上がりを象徴するかのような今年のウィメンズ・ツアー・ダウンアンダーの様子を、詳細に振り返っていきたい。
※記事中の年齢はすべて2020/12/31時点のものとなります。
- 第1ステージ ハーンドルフ〜マックルズフィールド 116.3㎞(平坦)
- 第2ステージ マレー・ブリッジ~バード・ウッド 114.9㎞(丘陵)
- 第3ステージ ネアーン~スターリング 109.1km(丘陵)
- 第4ステージ アデレード~アデレード 42.5㎞(平坦)
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第1ステージ ハーンドルフ〜マックルズフィールド 116.3㎞(平坦)
ウィメンズ・ツアー・ダウンアンダーの歴史は浅い。
男子のツアー・ダウンアンダーですら初開催は1999年、今年で22回目という歴史の浅さではあるものの、女子レースが始まったのは2016年。今年はまだ5回目の開催である。
その5回のうち3回を制しているのが、アマンダ・スプラット。今年で33歳になる、オーストラリア最強選手である。
そして彼女を総合エースに擁するオージーチーム、ミッチェルトン・スコット。男子が同じくミッチェルトン・スコット(旧オリカ・グリーンエッジ)のサイモン・ゲランスやダリル・インピーで実に7回の総合優勝を稼ぎ出していることと同様に、やはり母国最大のレースに対するこのチームの熱の入りようは明らかに他チームとは違う。
しかしそんな彼らの「本気」が見られるのは第2ステージ。
第1ステージはまた別のチームの「オージー」が強さを見せつけた。
総合系の最強オージーがスプラットだとすると、最強のオージースプリンターはこの女である。
クロエ・ホスキング。昨年までは與那嶺恵理と共にアレ・チッポリーニに所属していた彼女は、今年からカナダ籍のラリー・サイクリングに。
そして、年初の恒例非UCIレース「ブラックバーン・ベイ・クリテリウム」で総合優勝し、さらにオーストラリア国内選手権クリテリウムでも優勝。ピュアスプリントでは圧倒的な強さを見せつけ、第1ステージも余裕の勝利であった。
Santos Women's Tour Down Under 2020 Stage 1 HIGHLIGHTS | Ziptrack Stage 1 Hahndorf - Macclesfield
2:50から集団スプリント。早駆けしたロッタ・ヘンタッラ(旧姓レピスト)の背中を冷静にとり、残り200mくらいから抜け出してあとは誰に追いつかれることもなく圧倒した。
アマンダ・スプラットはこのとき17位。中間スプリントポイントでボーナスタイムも手に入れたリア・キルヒマンが総合3位につけており、スプラットは今年は万全ではないのか?と思ったのもつかの間。
翌日の第2ステージで、最強オージーチームはその「いつもの旋風」を巻き起こし始めた。
第2ステージ マレー・ブリッジ~バード・ウッド 114.9㎞(丘陵)
ステージ後半に向けて徐々に標高を上げていくこの日のステージにおいて、勝負所となるのは残り11㎞地点の2級山岳「クリスマス・ツリー・リッジ」であるはずだった。
しかし、「ダウンアンダー最強チーム」は、その勝負所を待たずして残り25㎞で仕掛けてきた。
アシストを次々と使い果たしながら、集団の先頭で一気にペースを上げていく黄色の軍団。最終的に残り20㎞を前にして、先頭はたったの5名に。しかもその5名のうちの3名がミッチェルトン・スコット――アマンダ・スプラットに、昨年の総合2位ルーシー・ケネディ、そして昨年区間1勝しているグレース・ブラウンの強力な3名――であったのだ。
結局、今年もこの女王がダウンアンダーを制してしまうのか。
しかし、ここでこの最強軍団の無慈悲な攻撃に食らいついていった女が2人いた。
1人はアメリカチャンピオンジャージを身に纏った27歳、ルス・ウィンダー。
そしてもう1人は、今年22歳の若きジャーマンパンチャー、リアン・リペット。
残り11㎞地点の2級山岳で仕掛けたスプラットにもきっちりと食らいついていった彼女たちは、最後はスプリントでスプラットに敗れるものの、彼女からボーナスタイム以上のものを奪わせることはなかった。
Santos Women's Tour Down Under 2020 Stage 2 HIGHLIGHTS | Novatech Stage 2
この粘りが、翌日の大逆転劇を生み出すことに。
第3ステージ ネアーン~スターリング 109.1km(丘陵)
男子レースでもお馴染みの名物登りスプリント「スターリング」。
昨年に続き登場したこの登りでフィニッシュする第3ステージが、今大会のクイーンステージとして位置づけられた。
しかし、昨年の同ステージで最後まで安全に集団を支配し続けたミッチェルトン・スコットは、この日は全く機能せず。前日に全力を出しすぎたか・・・疲弊しきったアシスト陣は終盤には影も形もなくなっており、最後の登りスプリントに際し、スプラットはたった一人で戦わざるをえなくなった。
誰も統率する者のいないカオスな集団登りスプリント。
これを制したのが、前日はスプラットに惜しくも敗れた米国王者ルス・ウィンダー。
そして前日3位のリペットも2位につけ、前日の走りが決してまぐれではなかったことを明らかに示した。
Santos Women's Tour Down Under 2020 Stage 3 HIGHLIGHTS | Subaru Stage 3: Nairne - Stirling
途中の中間スプリントポイントでも3秒のボーナスタイムを獲得していたウィンダーはスプラットを逆転し総合リーダーに。
リペットもスプラットと同タイムの総合2位となり、最終日のピュアスプリントステージを前にして、スプラットの総合4連覇は限りなく赤信号が灯ることとなった。
だが、いまだにそのタイム差は1位ウィンダーから3位スプラットまではたったの7秒。
最後の最後まで総合の行方がわからないまま、最終ステージを迎えることとなる。
第4ステージ アデレード~アデレード 42.5㎞(平坦)
1/19(日)の夕方に開催されたウィメンズ・ツアー・ダウンアンダー最終ステージ。
直後に開催される男子の前哨戦クリテリウム(シュワルベ・クラシック)と全く同じコースを使用して行われる、1周1.7km×25周のクリテリウムレースである。
普通に考えればこの日は、総合争いはすでに終了し、最後の勝者を決める戦いと、凱旋する総合優勝者チームとの2枚の絵が描かれるはずであった。
しかしこの時点で総合首位ウィンダーと総合2位・3位とのタイム差はわずか7秒。
そして、この日はボーナスタイムが得られる中間スプリントポイントが3つもあり、中間スプリントポイントだけでも最大9秒のボーナスタイムが得られるという状況だった。
ゆえに、序盤から表彰台を独占する3つのチーム――トレック・セガフレード、チーム・サンウェブ、ミッチェルトン・スコット――が積極的に集団をコントロールし、逃げが生まれない状況が続いた。
そのままあっという間にたどり着いた6周目の第1中間スプリントポイント。本来であればチームのエースであったリア・キルヒマンにリードアウトされ、総合2位リペットが見事に1位通過を果たした。
同じく狙っていたウィンダーはタイミングが合わず失速。リペットが丸々3秒を掴み取ったことで、ウィンダーとリペットとの総合タイム差は4秒にまで縮んだ。
次の中間スプリントポイントで同様にリペットが3秒を獲得してウィンダーが何もできずに終われば、そのタイム差は1秒差にまで迫れる――サンウェブとしても千載一遇のチャンスといったところだったが、次の12周目第2中間スプリントポイントにおいては、先ほどまで沈黙していたミッチェルトン・スコットがにわかに積極的な動きを見せてきた。
そして、アマンダ・スプラットが2位通過の2秒を獲得。3位通過のウィンダーが今度は1秒を奪い返し、沈んだリペットとのタイム差を5秒に引き戻した。
戦いは18周目の第3中間スプリントポイントと、最後のフィニッシュでのボーナスタイム争いにもつれ込むか?
・・・と、思いきや、ここで12名の大規模な逃げ集団が生まれる。
序盤から積極的な動きを展開し続けていたミッチェルトン・スコットもチーム・サンウェブももはやコントロールの力を失い、集団の先頭は「逃げに行ってほしいと一番思っているチーム」トレック・セガフレードが担うのだから、ペースが上がるはずもない。
そのまま第3中間スプリントポイントも逃げ集団ですべて潰され、一時期は30秒以上にまで開いたタイム差は最終的に完全に0になることはなく、わずか50㎞弱のクリテリウムではまずありえないような「逃げ切り勝利」が決まった。
勝ったのはビーピンクに所属する今年22歳のイタリア人、シモーナ・フラッポルティ。
11年間に及ぶプロ勝利の中で、実に8年ぶりに手に入れたプロ2勝目が、この大きな舞台での劇的な勝利となった。
こういうのがあるからロードレースは面白い。
Santos Women's Tour Down Under 2020 Stage 4 HIGHLIGHTS | Schwalbe Stage 4: Adelaide
なお、集団の先頭を取ったのはやっぱりクロエ・ホスキング。
本来であればステージ2勝目を約束されていた状況だっただけに・・・悔しいに違いない。
ラリー・サイクリングも、彼女以外はみんな北米人。南半球の真夏のレースにおいて集団コントロールを成し遂げられるようなコンディションがあるわけではないのは確かだろう。
と、いうわけで、最後の最後までわずかなタイム差を守り切ったルス・ウィンダーが1クラス以上では初めてのステージレース総合優勝。
獲得UCIポイント的にもおそらく彼女のキャリアで最大のものとなったであろう。
昨年、アメリカ国内選手権の登りスプリントフィニッシュで、ディフェンディングチャンピオンのコリン・リヴェラを従えて彼女を一瞬たりとも前に出さなかった力強いスプリントを見せたのがこのパンチャー。
もしかしたら、今年の夏の富士スピードウェイで、その星条旗をはためかせるチャンスを持つ女なのかもしれない。
おめでとう、ウィンダー。今年のさらなる活躍を期待する。
そして、「絶対王者」の敗北から始まった2020年シーズン最初のレースは、女子レースが実に面白くなる予感に溢れていた。
今年は女子レースも見逃せない。そしてもちろん、この後にくる男子レースも。
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