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UCI世界選手権男子エリートロードレース2020 プレビュー

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新型コロナウイルス問題の影響で、本来のエーグル・マルティニー(スイス)での開催を断念。急遽、イタリアのエミリア=ロマーニャ州イモラでの開催となった今年のUCI世界選手権。

急ピッチで準備は進められ、U23やジュニアのレースは開催されないという問題はあったものの、それでも十分に魅力的なコースと選手たちが揃うこととなった。

 

すでに男女エリートのタイムトライアルは終わり、それぞれの王者が誕生した。今夜は女子エリートロードレース、そして9/27(日)、いよいよ男子エリートロードレースが開催される。

 

今回はそのコースについてと、注目すべき5名の選手をピックアップして紹介していく。

予想が当たることはあまりないが、参考にしていただければ幸いだ。

 

目次

   

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コースについて

舞台となるのはイタリア・エミリア=ロマーニャ州イモラにある「イモラ・サーキット(正式名称アウトドローモ・インテルナツィオナーレ・エンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ)」。

2018年のジロ・デ・イタリア第12ステージでもフィニッシュ地点に選ばれ、そのときは雨の中サム・ベネットが勝利を掴んだ。

しかし、決してスプリンター向けの世界選手権ではない。スタートとゴールはイモラ・サーキットだが、コースの大部分はイモラ南方の丘陵ルートを使用する。

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全部で9周する28.8㎞の周回コースの中には2つの短くも急な登りが含まれ、総距離258.2㎞で総獲得標高は5,000m近くに達する。

もちろん最後はイモラ・サーキットのため、独走でなければスプリント力も勝利に貢献する。

クライマーもしくはパンチャー向きのレイアウトで、2018年のオーストリア・インスブルック世界選手権に近いコースと言えそうだ。

最後はサーキットという点も含め、来年の東京オリンピックに向けた前哨戦とも位置付けられるかもしれない。

 

2つの登りの詳細は以下の通り。

各周回コースの残り20㎞地点で頂上に達する1つ目の登り「マッツォーラノ」は登坂距離1.5㎞・平均勾配8.7%。登りの前半に13%の急勾配区間を含む。

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そして各周回コースの残り11.5㎞地点で頂上に達する2つ目の登り「チーマ・ガリステルナ」は、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに出てくるラ・ルドゥット峠に似ており、登坂距離は1.3㎞、平均勾配は10.9%、そして最大勾配は14%に達する。

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この頂上からフィニッシュまでは下り基調の11.5㎞。

単純な登坂力だけでなく、ダウンヒルの能力、独走力、そして最後の小集団スプリントで勝つスプリント力、そしてもちろん、5,000m級の登りの後に体力を残しておけるタフネスさといった、マルチな能力を求められるコースとなっている。

 

果たして勝つのはクライマーか、パンチャーか、あるいは登れるルーラーが抜け出して独走してしまうのか。

日曜のイモラは雨予報も出ており、混沌とした展開も起こりうる、何が起こるかわからないレースとなりそうだ。

 

 

注目選手

※年齢はすべて2020/12/31時点のもの。

ヤコブ・フルサン(デンマーク、35歳)

Embed from Getty Images

昨年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ覇者にして、今年のイル・ロンバルディア覇者。また、2016年リオ・オリンピック銀メダリストでもある。今回のようなレイアウトのワンデーレースには滅法強いと言って差し支えないだろう。

直近のティレーノ〜アドリアティコでは総合14位と振るわなかったようにも見えるが、もう1人のエースともいえる若手ウラソフが上位に入り、フルサンもあえて無理をしようとはしていなかったようにも思える。クイーンステージではそのときの総合リーダーであるマイケル・ウッズに揺さぶりをかけるようなアタックも繰り出しており、余裕があったようにも感じた。

少なくともツール・ド・フランスでの疲労が溜まった他の優勝候補たちよりも、フレッシュさでは有利に立てているはず。チームメートのミケル・ヴァルグレンもインスブルック世界選手権で終盤にアグレッシブに動いて7位の経験を持ち、同じような動きを今回も取れれば、フルサン勝利への良き伏線となるだろう。ちょっとツールでは目立たなすぎたけど。

今年ももし勝てばデンマーク2連勝。ツールのグランデパールは再来年に延期してしまったけれど、この国の勢いをぜひ見せて欲しい。

 

 

マイケル・ウッズ(カナダ、34歳)

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今年と同じようなレイアウトだった2018年インスブルック世界選手権で3位。そして直近のティレーノ〜アドリアティコでも激坂で誰よりも強い姿を見せた。まだまだ長距離登坂への適性は高くなく総合では陥落したが、今回のイモラ世界選手権のレイアウトならジャストフィットである。

問題は他の有力国と比較してチーム力は不足していること。ただ、ユーゴ・ウルはかつては北のクラシックスペシャリストのイメージだったが、最近は昨年のアークティックレース・オブ・ノルウェーなどパンチャー向けの激坂レースでのアシストで活躍する姿が目立つ。ツール第12ステージでも7位と好調だった。

ツールでの疲れが気になるが、出場予定だった世界選個人TTを欠場。その理由は不明だが、それがロードに向けてのものであれば期待ができそうだ。

2年前は3位でも大喜びしていたというウッズ。その表情がさらなる歓喜に満ちるところを見てみたい。

 

 

ジュリアン・アラフィリップ(フランス、28歳)

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フランス代表を率いるトマ・ヴォクレール監督曰く、今年のフランスは決して必勝体制ではないと。アラフィリップも本調子でないことを認めている。

たしかに、ツールでは明らかに精彩を欠いていたようにも思う。第2ステージでは下馬評通り勝つものの、マルク・ヒルシやアダム・イェーツらに追いつかれていた時点で絶好調ではなかった。その後も積極的に逃げに乗るが、どこか噛み合わず最終盤まで残ることができなかった。

今年のアラフィリップは世界選もダメなのか?

 

ただ、ツールの後半は逆にあまりに逃げにも乗らず大人しくしていたように映っていた。それは、この世界選手権を視野に入れて体力を温存していたのではないだろうか。

昨年のヨークシャー世界選手権は優勝候補最右翼と言われていたが、あまりにも輝きすぎたシーズンに疲労が蓄積し、最悪の天候の中ということもあってもはや体力を残すことができずにいた。

今年はそもそもこの世界選手権にピークを持っていくようなコンディショニングをしていたという話もある。そのうえで、ツールでは上がりきらないコンディションに苦しみながらも後半は体力温存。

そういった条件が重なった中で、全員の期待が薄れているところで大きな勝利を挙げる、そんな思いを感じてはしまうところがある。少なくとも、ツールで総合争いをして疲れ切っているはずのポガチャルやログリッチよりは、可能性があるんじゃないかと睨んでいる。

ただ、雨予報が出ていることが気になる。昨年のような雨が襲ったときに、果たしてアラフィリップは本来の力を出せるのかどうか。

 

 

ワウト・ファンアールト(ベルギー、26歳)

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この男は疲れというものを知らないのか。

ツール・ド・フランスにて超級山岳を何㎞にもわたって牽き倒し、ライバルチームのエース、アシストを次々と引き千切る走りを見せたうえで、スプリントでも2勝、第20ステージの山岳TTでは区間4位の走りを見せた。

それだけ働いたうえで、今回の世界選手権個人タイムトライアルでは銀メダルを獲得。チームメートのトム・デュムランは疲労が隠しきれない走りだったのに対して、このファンアールトの走りは常軌を逸しているレベルである。

だから、「まさかこれでロードまで・・」なんていう常識的な疑いは通用しない。ベルギー代表監督リック・フェルブリュッヘはファンアールトやファンアーヴェルマートには少しきつすぎるコースかもしれないと言っていた気がするが、あのツールを見たあとのワウトには不可能はないような気がする。

ロードではマチューより先に世界王者を手に入れてしまうのか。

 

また、予報通りの雨が降ったときには、ティム・ウェレンスのチャンスが広がりそう。

 

 

ディエゴ・ウリッシ(イタリア、31歳)

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こちらも精鋭揃いの地元チーム、イタリア。タイムトライアルでは見事、フィリッポ・ガンナが母国に金を持ち帰ったが、男子ロードもこれに続けるか。

その中で注目したいのがこのウリッシ。2011年から数えてジロ・デ・イタリアのステージ優勝を6回。非常に息が長く強くあり続けているこの男だが、今年もツアー・ダウンアンダー総合2位、ツール・ド・ポローニュ区間2位と総合5位、グラン・ピエモンテ2位、ジロ・デッレミリア3位、セッティマーナ・コッピ・エ・バルタリ区間2位と総合4位など絶好調。なかなか勝ちきれないのがウリッシらしいな・・・と思っていたところで、直近のツール・ド・ルクセンブルクでは区間2勝と総合優勝で一気に3勝を積み上げ、例年以上に調子の良い「勝ち切れる男」となっていることを証明した。

間違いなく強い男が勢いまで手に入れたら奇跡は起こる。サルブタモール陽性問題など苦労も多かった男の、キャリア最大の勝利は手に入れられるか。

もちろん、その他のエースも十分に勝機がある。昨年のロンド覇者アルベルト・ベッティオルは今年ストラーデビアンケ4位とやはり好調で、ジャンルカ・ブランビッラもティレーノ〜アドリアティコのクイーンステージでニバリ以上に登れており、総合9位。ダミアーノ・カルーゾはユンボを除けば今年のツール最強クラスの山岳アシストとして働いており、総合でも10位と大健闘。ファウスト・マスナダもティレーノ〜アドリアティコ総合6位である。

勢いでいえば若きアンドレア・バジョーリ。今年ツール・ド・ランの開幕ステージでデュムランに牽かれてスプリントしたログリッチを差してプロ初勝利。そのあともセッティマーナ・コッピ・エ・バルタリで区間1勝・総合2位と好調は続いており、アシストとしてもまさかの終盤抜け出しでも活躍しうる可能性はある。

一方、ヴィンツェンツォ・ニバリはティレーノ〜アドリアティコの走りを見る限りはまだ本調子ではないだろう。割と本番で調子を上げるタイプなのでジロ・デ・イタリア自体はまだまだ悲観的にはならないものの、今回の世界選手権でコンディションがピークということはなさそうだ。

ウリッシか、ベッティオルか、ブランビッラか、まさかのバジョーリか。

開催国として楽しみな布陣でツールに臨む。

 

 

 

その他、注目したいのがドイツのマキシミリアン・シャフマン、スイスのマルク・ヒルシ、イギリスのトム・ピドコックなど。

ただツール・ド・フランスで活躍した選手たちがどこまで体力を残しているかは不安なため、スロベニア代表含め最有力候補とはちょっと言いづらい。

コロンビア代表のセルジオ・イギータも本来であれば期待したい選手だが、さすがに怪我の影響は残っていそう・・・

オーストラリアもサイモン・クラーク、ルーカス・ハミルトン、マイケル・マシューズなど今年勝ってる調子の良い選手たちが揃っており、期待できそうな布陣である。

 

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