りんぐすらいど

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Team Ineos  2020シーズンチームガイド

 

読み:チーム・イネオス

国籍:イギリス

略号:INS

創設年:2009年

GM:デイヴ・ブレイルスフォード(イギリス)

使用機材:ピナレロ(イタリア)

2019年UCIチームランキング:6位

(以下記事における年齢はすべて2020年12月31日時点のものとなります) 

 

参考 

Team Sky 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Team Sky 2019シーズンチームガイド - りんぐすらいど

 

 

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2020年ロースター

※2019年獲得UCIポイント順。

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2019年は怪我に苦しめられ、正直思うような成績は残せなかったように思うが、それでも2020年はカラパスやデニスの獲得もあり、相変わらずの銀河系軍団。グランツール制覇を狙える選手もフルーム、トーマス、ベルナル、カラパスに、潜在的な可能性を持つ選手についてもソーサやシヴァコフなど、本当に層が厚い。それぞれが最強アシストになることも考えると隙がない。

だがもちろん、これまでのようにイネオスだけが突出している状況ではなくなっているかもしれない。その最大のライバルはもちろん、ユンボ・ヴィズマだ。また、グランツール以外の勝ち方のパターンも、そう多くないのが弱点と言えば弱点。

新獲得のイーサン・ヘイターや、2019年高い能力を示したエディ・ダンバーやクラス・ローレスなどをいかに育てて離さずにいられるかが、このチームの更なる成長には欠かせないだろう。

 

注目選手

エガン・ベルナル(コロンビア、23歳)

脚質:オールラウンダー

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2019年の主な戦績

  • ツール・ド・フランス総合優勝
  • ツール・ド・スイス総合優勝
  • パリ〜ニース総合優勝
  • ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合3位
  • イル・ロンバルディア3位
  • グラン・ピエモンテ優勝
  • 世界ランキング4位

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2017年ツール・ド・ラヴニール覇者は、2018年のワールドツアーデビュー年からいきなり期待以上の走りをして見せた。ツアー・オブ・カリフォルニアの総合優勝や、ツール・ド・フランスにおける、誰よりも強い山岳アシスト力。かつて彼を見出したジャンニ・サヴィオは、スカイが彼を初年度からツール・ド・フランスに出場させることに否定的だったが、その恐れは彼においてはまったくの見当外れであったことを示した。

それほどの成績を残した初年度だったがゆえに、彼においてはスカイ(イネオス)の「2年目のジンクス」は適用されないのだな、という思いがあった。とんでもない。彼もまた、「2年目」に一気に(彼の場合は「さらなる」?)飛躍を遂げることとなる。

すなわち、パリ〜ニースとツール・ド・ロマンディ、果てはツール・ド・フランスの総合優勝。しかもステージレースだけでなく、シーズン終盤にはグラン・ピエモンテ優勝にイル・ロンバルディア3位。春先から秋の終わりまで、ワンデーからステージまで、幅広く活躍するその才能は「世界最強」をこの年齢で名乗ることに何の違和感も覚えないほどである。

2019年の結果を持って振り返れば、2018年の成績がまだ霞んで見える。もはやこの男を、ワールドツアー2年目の22歳の若手であるなどと考えるものはいないだろう。

 

一方で、ある意味、この2019年の成績は「期待通り」だった。すでにしてロマンディの頃には総合優勝が当たり前という雰囲気だったし、ツール・ド・フランスの総合優勝候補の最右翼には確実に載っていた。期待通りに実現することはもちろん難しいながら、その意味で、今年のツールは、より衝撃をもたらしたジュリアン・アラフィリップの方が目立ってしまったのは仕方ないだろう。

だからこそ、今後は彼の、歴史に残る活躍を期待したい。5勝クラブ入りはもちろん、その先すらも。

 

 

ゲラント・トーマス(イギリス、34歳)

脚質:オールラウンダー

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2019年の主な戦績

  • ツール・ド・フランス総合2位
  • ツール・ド・ロマンディ総合3位
  • ストラーデ・ビアンケ12位
  • イツリア・バスクカントリー総合40位
  • 世界ランキング41位

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2018年ツール・ド・フランス覇者。そして、2019年も、クリス・フルームの直前の落車による欠場を経て、真のエースとしてツールに臨むことに。

ただし、彼もまた、直前のツール・ド・スイスで落車していた。大きな影響はないように見受けられたが、実際には決してそんなことはなかったらしい。しかしそれでもーー昨年のフルームが彼のためにそうしたようにーー若きベルナルの総合優勝のために走る姿も見せた。結果、チームで手に入れた総合ワンツー。イネオスというチームの「強さ」を感じさせた瞬間だった。

2020年もきっと、彼はツールを走ることになるだろう。もしかしたら、フルーム、トーマス、ベルナルの「トリプルエース」となるかもしれない。

それでも決して崩れることなく結果を出すことができるのもこのチームだと思っている。

 

 

クリス・フルーム(イギリス、35歳)

脚質:オールラウンダー

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2019年の主な戦績

  • ツアー・オブ・ジ・アルプス総合11位
  • ツール・ド・ヨークシャー総合13位
  • ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ総合94位
  • 世界ランキング1202位

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ツール・ド・フランス総合優勝4回、史上7人目の3大グランツール制覇達成者など、現役最強のグランツールライダーであることは明確な男。しかし、2019年は、命の危機すら感じさせるほどの激しいクラッシュによって、史上5人目の「ツール・ド・フランス5勝クラブ」入りのチャンスを逃すことに。

その後、彼は今、そこからの復活を懸けて懸命にリハビリに取り組んでいる。10月のさいたまクリテリウムでは、日本のファンの前で自転車に乗る姿を見せてくれた。様々な毀誉褒貶に晒されながらも、彼は確かに、ヒーローだった。

2020年はツールを目指したいと宣言している。ジロ・デ・イタリアはさすがに回復が間に合わないと。ツールを走れたとしても、エースとして走れるかは分からない。たとえエースとしての力量が戻っていなかったとしても、彼は全力でゲラント・トーマスやエガン・ベルナルをサポートしてくれることだろう。

まずはあの事故がなかったかのように走る彼の姿を、見てみたい。

 

 

 

ローハン・デニス(オーストラリア、30歳)

脚質:TTスペシャリスト

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2019年の主な戦績

  • 世界選手権個人TT優勝
  • ツール・ド・スイス区間1勝、総合2位
  • ツアー・ダウンアンダー総合5位
  • ツアー・オブ・カリフォルニア総合11位
  • 世界ランキング41位

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いろんな意味で自転車界を騒がした男。ツール・ド・フランス途中での突然の帰宅、沈黙、そして世界選手権TTで謎のメーカーロゴの隠されたバイクを駆っての、2年連続となる世界王者に。数日後のロードレースではそのバイクがBMCであることが判明すると共に、世界選手権前にすでにバーレーンとの契約が終了していたことが判明した。

無所属の世界王者という独特な期間を過ごしたのちに、決めた行き先は世界最強チームの1つ、イネオス。ここで彼は、どんな未来を掴み取っていくのか。

 

1つは東京オリンピック、あるいは世界選手権3連覇。メリダのバイクとの相性は良くなったという彼が、ピナレロとの相性はどうなるか。

また、もう1つの道が、オールラウンダーへの進化である。そもそもイネオスは、ヴァシル・キリエンカやヨナタン・カストロビエホ、そしてディラン・ファンバールレなど、平坦系だと思われていた選手たちを次々と登れる最強山岳アシストにしていく天才である。デニスはもともと比較的登れる選手ということもあり、イネオスの「改造手術」を受けたときの進化の仕方には末恐ろしいものがありそうだ。

また、やがて彼自身がグランツールライダーになるということも、近い将来の彼の目的ではあった。それを志向する上で、このイネオスほど最適なチームはないことだろう。

ただ、イネオスは「2年目のジンクス」がある。上記のような進化が明確に出るのはもしかしたら2021年かもしれない。そもそも、その「2年目のジンクス」をもたらすイネオスの「改造手術」を、デニスが素直に受け入れてくれるかどうか・・・。

 

 

その他注目選手

リチャル・カラパス(エクアドル、27歳)

脚質:クライマー

もともと才能のある選手であることは間違いなかった。2018年はパリ〜ニースにおけるマルク・ソレルの総合優勝を支え、その後のジロ・デ・イタリアでは総合4位、ブエルタ・ア・エスパーニャでもキンタナとバルベルデを強力に支えるアシストとして活躍した。

2019年もソレルと並びグランツールでの最強アシストとしての活躍を期待されながら、まさかのジロ総合優勝。それを支えたのは、彼の積極的な走りと比較的適性を見せたTT能力であった。

だが、そんな彼も、モビスターを去ることが決まった。原因の1つは、彼の代理人を務めるジュゼッペ・アクアドロとモビスターとの不仲かもしれない。

いずれにせよ、これでイネオスには、ツール王者が3名(うち1名はジロとブエルタも制している)に加え、ジロ王者が加わることに。これまで以上に「みんながエース」な状態を、果たしてイネオスはどう捌くのか。

 

 

タオ・ゲオゲガンハート(イギリス、25歳) 

脚質:パンチャー

コロンビア人やエクアドル人の若手が存在感を示す中、イネオスのイギリス人の「次」を担うのがこの男だ。エースを担ったツアー・オブ・ジ・アルプスで総合2位。ツール・ド・ポローニュも総合5位で、急遽エースを任されたブエルタ・ア・エスパーニャへの挑戦も、周囲からの期待は大きかったに違いない。

しかし結果は、決して満足のいくものではなかった。早々に総合争いからは脱落し、終盤は積極的な山岳エスケープに挑んだが、成功には届かなかった。

だが、この経験は着実に、彼の未来を形作るだろう。あと2〜3年、じっくりと経験を積みながら、やがて本気で最強ブリティッシュグランツール ライダーとなってほしい。

また、彼の脚質はどちらかというとパンチャー寄りだ。ワンデーレースでの活躍も期待したい。

 

 

フィリッポ・ガンナ(イタリア、24歳)

脚質:TTスペシャリスト

今最も飛躍しつつある若手TTスペシャリストとは、もはやステファン・クンではなくこの男なのかもしれない。UAEチーム・エミレーツ時代はまだそこまででもなかった彼が、イネオス入りしたこの1年で、世界選手権の表彰台に立つほどにまで成長した。その事実は、ローハン・デニスにとっては安心できる材料かもしれない。

今後の目標はもちろん、東京オリンピックおよび世界選手権での世界の頂点。また「2年目」となる2020年は、もしかしたらこの男がグランツール で欠かせない山岳アシストになってる姿を見るかもしれない。

 

 

イバンラミーロ・ソーサ(コロンビア、23歳)

脚質:クライマー

未だその爪を隠しているような気がするコロンビアの才能。いずれにせよ「2年目」はこれから。2020年、いきなりジロを総合優勝してもおかしくはない。

ただ、エースでしか活躍しないわけではもちろんない。パリ〜ニースとボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャでは、ベルナルにとって最も信頼できるアシストであった。

2020年はプールスを失ったイネオスだが、その最強布陣に陰りは見られない。

 

 

パヴェル・シヴァコフ(ロシア、23歳)

脚質:クライマー

2017年ベイビー・ジロ総合優勝者。ラヴニール覇者ベルナルと共にイネオス入りし、当初は何かと比較されることに。しかし結果として、2018年はあまりにも強すぎたベルナルとの差を一気につけられることに。

だが、「2年目」を迎えた彼はしっかりと才能を発露しつつある。結局ベルナルには届かないけれど、ツアー・オブ・ジ・アルプスとツール・ド・ポローニュを総合優勝にジロ・デ・イタリア総合9位など、チームの次期エース候補であることは間違いない。2020年のジロはフルームもトーマスもベルナルも出ないとしても、カラパス、ソーサ、そしてこのシヴァコフがいるという、相変わらずのチートである。

 

 

総評

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グランツールに関しては当然の如く最強チーム。ただ、クラシックに関しては、決定打にかける。ファンバールレはもちろん有力候補だが、実績はまだない。クファトコフスキはフランドルもアルデンヌもいける才覚を持つが、2020年が彼にとっての「当たり年」になるかどうか。

そんな中、ベルナルやゲオゲガンハートなどがワンデーでどれだけ実績を積み重ねられるかは注目ポイントだ。エディ・ダンバー、クリス・ローレスなど、ここでは紹介しきれていない若手選手たちの活躍も鍵を握る。 

 

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