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Astana Pro Team 2020年シーズンチームガイド

 

読み:アスタナ・プロチーム

国籍:カザフスタン

略号:AST

創設年:2007年

GM:アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン)

使用機材:ウィリエール・トリエスティーナ(イタリア)

2019年UCIチームランキング:5位

(以下記事における年齢はすべて2020年12月31日時点のものとなります) 

 

参考 

Astana Pro Team 2018年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

Astana Pro Team 2019年シーズンチームガイド - りんぐすらいど

 

 

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2020年ロースター

※2019年獲得UCIポイント順。

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2019年はこのチームが非常に強く、まとまりのあるシーズンだった。2015年にファビオ・アルとミケル・ランダがジロ総合2位・3位を独占し、アルがブエルタ・ア・エスパーニャを制した、あの年に匹敵するだけのリザルトと存在感を示しうる年だった。

残念ながらグランツールの総合表彰台こそ逃したものの、フールサンによるモニュメント制覇と、年間12個のステージレース総合優勝という、類稀なる実績を残すこととなった。

その結束の鍵となったのは、ロペスとフールサンのダブルエースに、それを支えるイサギレ兄弟やルイスレオン・サンチェスといったスペイン人オールラウンダーたち。そして、ゼイツ、ヴィレッラ、ヒルト、フライレ、コルトニールセン、カタルド、ビルバオといった、強力無比な山岳アシストたちの存在である。

 

だからこそ、2020年は怖い。この強力なアシスト陣の大半が、失われてしまう。代わって加わるのは、実力はあるが若手のクライマーと、パンチャーたち。

同じような走りは望めない体制をもって、2020年のアスタナはどこを目指していくのだろうか。

 

 

注目選手

ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、26歳)

脚質:クライマー

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2019年の主な戦績

  • ジロ・デ・イタリア総合7位
  • ブエルタ・ア・エスパーニャ総合5位
  • ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ区間1勝、総合優勝
  • コロンビア2.1総合優勝
  • 世界ランキング29位

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今やチームの絶対唯一のエース。今のアスタナでグランツールを獲れるとしたら、この男しかいない。

本人もその自覚はあり、2019年はジロで観客に手を上げた場面や、ブエルタで最後までアタックを繰り出し続けた姿など、勝利への執念を感じさせる熱い走りを見せていた。

ただ、チームの体制は完璧だった中で、彼自身はまだ、2019年はベストではなかった。いや、むしろ、ログリッチェやカラパス、ポガチャルやバルベルデなど、周りが強すぎたのか。表彰台に値する走りは見せながらも、届くことはなかった。

2020年はチーム力が2019年より落ちることは必至。その中で、どれだけ彼自身が踏ん張っていけるか。

 

 

ヤコブ・フールサン(デンマーク、35歳)

脚質:オールラウンダー

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2019年の主な戦績

  • リエージュ~バストーニュ~リエージュ優勝
  • クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝
  • ストラーデ・ビアンケ2位
  • ラ・フレーシュ・ワロンヌ2位
  • ティレーノ~アドリアティコ区間1勝、総合3位
  • アムステルゴールドレース3位
  • イル・ロンバルディア4位
  • イツリア・バスクカントリー総合4位
  • ブエルタ・ア・アンダルシア総合優勝
  • 世界ランキング3位

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2019年はフールサンの年でもあった。シーズン初頭から調子が良く、ブエルタ・ア・アンダルシア総合優勝、ティレーノ〜アドリアティコ総合3位、イツリア・バスクカントリー総合2位、そして2度目のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝。

クラシックにおいてはより顕著で、ストラーデ・ビアンケでは絶好調のジュリアン・アラフィリップのアタックに唯一食らいつき、最後は勝てなかったものの2位。同じような構図はアムステルゴールドレースでも繰り返され、こちらは最後にアラフィリップを抜いて3位。フレーシュ・ワロンヌでは2年連続優勝のアラフィリップの背後にぴったりとくっついていたのがフールサンであった。

常にアラフィリップがライバルで、彼を出し抜くことはできない。そう思っていた中で、アルデンヌ・クラシック最終戦のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。ここで最後の勝負所であるラ・ロッシュ・オ・フォー・コンにおいて、フールサンのアタックにアラフィリップがついていけない姿を見せた。

 

かくして、初のモニュメント制覇。続くドーフィネ総合優勝と合わせ、今年はこの男がツールを制するのではないか、と本気で囁かれたほどであった。

しかしそのツールでは、初日からいきなり落車。その後もその影響があったのかどうかはわからないが、ドーフィネのときのような勢いは感じられないままタイムを失い、やがて第3週の初日にリタイアにつながる落車を引き起こしてしまった。

ブエルタでも序盤でタイムを失い、早くも総合争いから脱落。結局、彼にグランツールの表彰台は難しいのだろうか。

それでも、このブエルタでステージ優勝も獲得。シーズン終盤のイル・ロンバルディアでも4位に入るなど、やはりワンデークラシックへの強さを発揮し続けたシーズンであった。

 

2020年はどうなるのか。チームの総合エースがロペスであることは間違いないが、彼の出場しないグランツールで誰がエースになるのか、を考えると、やはりフールサンが最も可能性がありそうだ。そうでなければヨン・イサギレ。

だが、2020年も彼の最大の目標がクラシックに向けられるのではないかとも考えている。とくに注目したいのが東京オリンピックロードレース。同じクライマー向けのレイアウトであった2016年のリオ・オリンピックで、最後スプリントで敗れたものの、ファンアーフェルマートに次ぐ2位銀メダルを獲得している。彼自身もインタビューで、2020年の最大の目標がグランツールでないことは明言しており、ジロに出た後にオリンピックのためにツールをスキップする可能性についても言及している*1

今度こそ、4年に1度の栄冠を母国に持ち帰ることができるか。

 

 

アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン、28歳)

脚質:オールラウンダー

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2019年の主な戦績

  • ツアー・オブ・オマーン総合優勝
  • アークティックレース・オブ・ノルウェー総合優勝
  • オンループ・ヘット・ニュースブラッド4位
  • ドイツ・ツアー総合4位
  • 世界ランキング22位

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かつてはエスケープスペシャリスト。パリ〜ニースやブエルタ・ア・エスパーニャで逃げ切り勝利を果たし、2019年はティレーノ〜アドリアティコでも、2度の落車を経て最後には総合優勝候補たち数名に捕まえられながらも、執念のスプリントで勝利を飾った。

ツアー・オブ・オマーンでは2年連続となる総合優勝。しかも、ミゲルアンヘル・ロペスやヤン・ヒルトの力を借りて手に入れた2018年と違い、2019年はアシスト不在の中自らの力だけで2度目の総合優勝を手に入れた。着実に、登坂力も身につけているようだ。

全体として総合系に偏りを見せるこのアスタナ・プロチームにおいて、パンチャー向けのレースでの強さを発揮する彼は貴重。2020年はパンチャー勢が強化されるので、彼らと協力し、より大きな成果を目指していけそうだ。

 

 

その他注目の選手

アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、24歳)

脚質:クライマー

ロシア籍プロコンチネンタルチーム「ガスプロム・ルスヴェロ」のエース。2019年シーズンの実績としてはブエルタ・ア・アンダルシア総合8位、ツアー・オブ・ジ・アルプス総合10位、ツアー・オブ・スロベニア総合3位など。いずれも、ワールドツアーチームの有力選手たちも数多く出ているHCクラスのステージレース。それに加えてロシア国内ロード王者となり、ワールドツアーチームへの昇格は時間の問題であった。

アスタナにおいては流出した山岳アシストたちの代役を務めることと、未来のアスタナのエース候補として経験を務めることが重要課題。同じロシアのシヴァコフ(イネオス)とは良いライバル関係になりそうだ。

 

 

オスカル・ロドリゲス(スペイン、25歳)

脚質:クライマー

2018年のブエルタ・ア・エスパーニャの激坂山頂フィニッシュで優勝。その名を轟かせた。

そしてその実力がフロックではないことを、2019年のブエルタ・ア・ブルゴス総合2位で示してみせた。残念ながらブエルタ・ア・エスパーニャ本戦では2019年はそこまで結果を出せなかったが、いずれにせよ金の卵であることは間違いなし。チーム解散が発表されたときも、彼が行き先に困ることはないだろうとは思っていた。

なお、純粋なクライマーというよりは、激坂に強いパンチャーという印象もある。前述のウラソフと後述のアランブルの間ってところか。

 

 

アレックス・アランブル(スペイン、25歳)

脚質:パンチャー

ロドリゲスと並ぶバスクの至宝。こちらはより純粋なパンチャータイプ。

バスクの激坂レース「シルキュイ・ドゥ・ゲチョ」を2018年に制し、2019年も2位。2019年のブエルタ・ア・ブルゴスでは区間1勝と区間2位が1回で、ポイント賞も獲得。ブエルタ・ア・エスパーニャでも、アルントが勝ったステージで本職のスプリンターに食らいつく2位に、ビルバオにフィニッシュする激坂ステージで、フィリップ・ジルベールに次ぐ2位と、勝てはしなかったが才能を見せつけた。

将来的にはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュや、もちろんクラシカ・サンセバスティアンでの勝利に期待したい。2020年は、フルサングと共にアルデンヌ・クラシックでまずは経験を積んでいこう。

 

 

総評

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グランツールでは実質的なエースがロペスただ一人と見ることもできるので、そこまで大きな期待はできない。北のクラシックは少なくとも2019年は散々だった

一方、アルデンヌ・クラシックについては、今年大活躍のフールサンに加え、新加入のアランブルやフェリーネにも期待することができるので、2020年もここが最注目と言えるだろう。

 

ステージレースは2019年に関してはとくに序盤で絶好調だったが、その一角を支えた協力無比なアシスト陣が多く移籍してしまったことがどう影響を及ぼすのか。 

 

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