りんぐすらいど

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2020-2021注目移籍情報まとめ

 

2021-2022最新の移籍情報はこちらから

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新型コロナウイルス問題での混乱もまだ続く中ではあるが、いよいよ8月1日から移籍市場が解禁。

例年のような展開にはならないかも、と予想していた中で、まったくいつもと変わらぬ・・・どころか見方によってはより一層激しい動きが巻き起こりつつある今年の移籍市場。

クリス・フルームを筆頭にロマン・バルデ、ファンアーヴェルマート、ウッズ、アダム・イェーツ、リッチー・ポート、ケルデルマン、中根英登など・・・

注目の移籍最新情報をここで要チェック!

※年齢はすべて2020/12/31時点のものとなります。

 

目次

 

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AG2Rシトロエン・チーム(フランス)

ファンアーヴェルマート、シェアー、ファンフッケを獲得 

2年前のBMCレーシング解散危機の際に、最後の最後まで他チームとの契約を留まり続け、ジム・オショウィッツを信じ続けていたグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、35歳)。今回の危機に際しては、さすがにチームを去ることを決めた。

そんな彼を受け入れたのが、バルデとラトゥールを放出し、ナーセンと3年間の契約更新を果たした「クラシック専門チーム化」を目指すAG2Rラモンディアル改めAG2Rシトロエン。

その本気度は、ファンアーヴェルマートだけでなく、彼のアシストとして同じくCCCチームからミヒャエル・シェアー(スイス、34歳)ハイス・ファンフッケ(ベルギー、29歳)を受け入れていることからもわかる。

もちろん、その体制でなかなかうまくいかなかったのが2019年のCCCチームなのだが、2021年のAG2Rにはナーセンもおり、下記にも記すように他チームからも強力なクラシックライダーを集め中。

ナーセンとファンアーヴェルマート。共に実力はありながらもイマイチ勝ちきれなかったこの2人が、新生AG2Rで光り輝くことはできるのか。くれぐれも、喧嘩しないことを期待したいが・・・。

その前に今年のこれから来るであろう「秋のクラシック」にて、トレンティン&ファンアーヴェルマートがチームに成果を残していってくれるかどうか・・・。

 

スタン・デウルフを獲得

「ロット・スーダルU23」出身でジュニア欧州選手権銀メダリスト、U23版リエージュ~バストーニュ~リエージュ6位、U23版パリ~ルーベ優勝など輝かしい戦績を重ね個人的に超・超・超期待していた若手スタン・デウルフ(ベルギー、23歳)がまさかのロット・スーダル離脱。ジルベールのもとで育ててもらってほしかったのだが・・・。

逆に、今まさにクラシックに向けた体制構築に本気で取り掛かっているAG2Rであれば、このデウルフがより重要なポジションに置かれる可能性も増してくるかもしれない。いずれにせよ、確実に芽を出してほしい。頑張れ、スタン!

 

マルク・サローを獲得

グルパマFDJにおける、アルノー・デマールに続くセカンドエーススプリンターだったマルク・サロー(フランス、27歳)がAG2Rシトロエンに。2022年までの2年契約。

かつてのサミュエル・デュムラン以来、スプリンターらしいスプリンターの(それこそオリバー・ナーセンくらいしか)いなかったAG2Rにとって、純粋に勝てるスプリンターとしての補強、という見方もできる。

一方で、サロー自身は北のクラシックへの適性も非常に高い選手。やはりここまでの移籍情報と同じく、クラシック班の大強化の一環と見ることもできるだろう。

いずれにせよ明確なワンデー強化。その狙いの真意は一体?

 

リリアン・カルメジャーヌを獲得

トタル・ディレクトエネルジーに移籍したピエール・ラトゥールと入れ替わるようにして、ディレクトエネルジー生え抜きの「ヴォクレールの後継者」リリアン・カルメジャーヌ(フランス、28歳)が電撃移籍。

2016年のブエルタ・ア・エスパーニャ、2017年のツール・ド・フランスと、立て続けに衝撃的な逃げ切り勝利を果たして見せたこの男。しかし近年はいまいち振るわない姿が目立っていた中で、今回の移籍。

AG2Rは今、急激に「ワンデー・ステージ優勝重視」に切り替えつつあるため、今回のこのカルメジャーヌの獲得も、山岳逃げでのステージ勝利を求められてのものだとは思われる。

本人にとっても、ワールドツアーのチーム体制の中でツール・ド・フランスをエースで走ることのできるチャンス。なんとか復活の2021年シーズンを迎えたいところ。

 

ボブ・ユンゲルスを獲得

2016年から5年間、クイックステップ・チームの一員としてジロ・デ・イタリアにおける2年連続の新人賞、ルクセンブルクロード・TT王者の連続獲得、各種ステージレースにおけるエーススプリンターのトレイン要員、そして昨年は北のクラシックにおける覚醒とも言うべき才能の発露――様々な活躍を見せ続けてきてくれた男、ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、28歳)が、ついにチームを去るときが来た。

たしかに、かつての「総合エース」という立ち位置は、着実に失われつつあった。その役割はやがて同年代のジュリアン・アラフィリップや、遥か下の世代であるレムコ・エヴェネプールらに奪われつつあった。

一方で、北のクラシックスペシャリストとしての才能が突如として目を瞠るものになったのだが――そこに目を付けたのが、驚異的な速度でクラシック強化に舵を切りつつあるAG2Rである。

これで、AG2Rはナーセン、ファンアーヴェルマート、サローときてユンゲルスも加わり、北のクラシックにおける戦力が一気に全チームトップクラスになってしまったようにも思える。

ユンゲルスにとっても、ドゥクーニンクにいるよりはチャンスを掴みやすいと判断したのか。そして、バルデ、ラトゥールの抜けたAG2Rは、彼にとって、もしかしたらもう一度、総合への夢を目指す可能性のある舞台となるかもしれない。

まだまだこれからが最も脂ののる時期に入るユンゲルスの行く末を見守っていきたい。

 

ベン・オコーナーを獲得

先日のジロ・デ・イタリアで一度は惜しくも勝利を逃したものの、翌日も果敢に逃げて見事リベンジステージ優勝を果たしたベン・オコーナー(オーストラリア、25歳)

それがきっかけというわけではないにしても、最後の一押しにはなったはずだ。バルデ、ラトゥールが去り「クラシック化」するAG2Rラモンディアルへの数少ない純粋クライマー候補として移籍が決定した。

役割はリリアン・カルメジャーヌと共に得意の山岳逃げか。それとも、2年前のジロ・デ・イタリアの第19ステージで落車リタイアしてしまうその瞬間まで総合12位と健闘していたときのあの可能性を伸ばす総合ライダー化を目指すのか。

いずれにせよその不屈の精神でこれからさらなる活躍をしてくれるのが実に楽しみだ。

 

 

アスタナ・プレミアテック(カザフスタン)

バティステッラ、デボード、ソブレロなどを獲得

長らく移籍市場において沈黙を保っていたアスタナ・プロチーム。

突如として来期の新ネーミングスポンサーとしてカナダの農園芸系グローバル企業「プレミアテック」(スポンサー自体は2017年から開始していた)を受け入れ、同時に6名の新規加入選手を発表した。

いくつかは育成系チームからの昇格だが、存続自体は決まりつつも縮小傾向にある旧NTTプロサイクリングチームからの移籍組も数名。

個人的にその中でも最も期待しているのは2019年のU23世界王者サミュエーレ・バティステッラ(イタリア、22歳)

今年は「幻の世界王者」ニルス・エークホフの方が活躍しているきらいがあったが、昨年同様に期待されながらもイマイチだったジーノ・マーダーが今年ようやく頭角を現してきているように、バティステッラも「2年目」に期待したいところ。

なお、今年最高順位はツール・ド・ランカウイの、中根が勝ったステージでの集団トップを獲ったときの3位。

また、ハビエル・ロモ(スペイン、21歳)は元トライアスリートで、2020年はスペインのアマチュアチーム「Baqué-Ideus-BH」に所属しつつスペイン国内選手権でU23王者に輝いた。

化ける可能性のある期待の若手という意味では、こっちのロモに注目してみるのもいいかもしれない。

 

  

バーレーン・ヴィクトリアス(バーレーン)

ジャック・ヘイグを獲得

オーストラリアの若手育成プロジェクトであるJayco-AIS World Tour Academy出身のオージークライマー、ジャック・ヘイグ(オーストラリア、27歳)

もちろんその未来はミッチェルトンの未来にも繋がっていると考えられていて、新型コロナウイルス流行前の本来の計画では、今年のブエルタ・ア・エスパーニャをもう1人のオージー若手有望クライマー、ルーカス・ハミルトンとダブルエースで臨む予定だった。

しかし、新スケジュールではジロとブエルタを共に出ることはできず、彼に与えられたのは、サイモン・イェーツのジロ制覇を支えるためのアシストという役割だった。

そんな中、このバーレーンへの移籍を決めた彼の心情はいかに。

なお、サイモンのアシストとしての活躍の印象が強く、ピュアクライマーという評価が一般的だろう。新チームでもミケル・ランダのアシストが期待されている様子ではある。

だが、昨年のブルターニュ・クラシックやカナダ2連戦での活躍を見てると、パンチャー気質というか、ワンデーレーサーとしての素質も高そうな選手ではある。

それはそれで、ワウト・プールスと被ってしまいそうだけど・・・。

 

マーダー、ミランを獲得

先日発表されたキュベカ・アソスの最終ロースターの中にその名が含まれず、その行方をひどく不安視していたジーノ・マーダー(スイス、23歳)が、バーレーン・ヴィクトリアスへの移籍を決めた。これは嬉しい。

2018年、タデイ・ポガチャルが総合優勝した年のツール・ド・ラヴニール総合3位の男で、区間でも2勝している間違いのない実力者。現チームで過ごしたプロ1年目は鳴かず飛ばずだったが、今年のブエルタ・ア・エスパーニャの3週目、第15・17ステージでは強い走りを見せていて、才能を感じさせた。

このままその可能性を摘んでしまうのはあまりにも勿体ない・・・と思っていた中でのこの契約。バーレーンが彼の才能をさらに花開かせてくれることを願う。

同時に獲得が発表されたのが、ネオプロのジョナサン・ミラン(イタリア、20歳)

出身チームはサイクリングチーム・フリウリ。今年のジロ・デ・イタリアで活躍したボーラ・ハンスグローエのマッテオ・ファッブロや、来年同じくボーラに加入する昨年のラヴニール総合2位ジョヴァンニ・アレオッティと同じ出身チームだ。

今年のU23イタリア国内選手権TT王者であり、ベイビー・ジロでもジェイク・スチュアートやジョルディ・メーウスなどの強豪選手を打ち破っている実力者。彼もまたマーダーと同じく、楽しみな若手選手である。

 

 

ボーラ・ハンスグローエ(ドイツ)

ニルス・ポリッツを獲得

昨年パリ~ルーベ2位、ロンド・ファン・フラーンデレン5位、E3ビンクバンク・クラシック6位などの実績を残した期待の若手クラシックスペシャリストニルス・ポリッツ(ドイツ、26歳)がボーラ・ハンスグローエへ。2023年までの3年契約。

母国籍チームへの移籍という意味では納得だが、やはり気になるのはクラシックにおけるペテル・サガンとの棲み分け。

ただし、そのサガンの現契約が2021年までであり、引退も囁かれている不確定な「その後」に向けて、マクシミリアン・シャフマンの契約4年延長と合わせたこのチームの狙いが透けて見えるかも?

なお、上記ツイートのリンク先である公式ホームページにおいてはポリッツのことを「オールラウンダー」と形容。

実際、彼はクラシックだけでなく、登りを含んだステージでのスプリントにも強く、TT能力も非常に高い。山岳ステージでの逃げ切りにも期待ができる男だ。

 

マシュー・ウォルスを獲得

2018年のトラックワールドカップ・ロンドンでオムニアム金メダルを獲得。そして今年のトラック世界選手権でオムニアムで銅メダルを獲得しているマシュー・ウォルス(イギリス、22歳)が2021年からボーラ・ハンスグローエ入り。

オムニアム金メダリストから活躍している選手といえばまず思い浮かぶのがフェルナンド・ガビリア。この人物も、十分に期待してよい選手だろう。

実際、2019年はU23ジロ・デ・イタリアで1勝。すでにワールドツアーチームで活躍しているイーサン・ヘイターやカデン・グローブスらを退けての勝利である。

また同じ2019年のツアー・オブ・ブリテンではナショナルチームの一員として参戦して第5ステージで2位。勝ったのはディラン・フルーネウェーヘンだが・・・このウォルスの後ろでゴールしたのがトレンティンやボル、チモライといった錚々たる顔ぶれなのだから驚きしかない。

あれ、そういえばガビリアも、その頭角を現したのは2015年のツアー・オブ・ブリテンでの勝利だったような・・・

とにかく、2021年大注目の若手の1人だ。

 

ウィルコ・ケルデルマンを獲得

ラボバンクの育成チーム出身で2012年にトップチーム昇格によりデビュー。2017年に現在のチーム・サンウェブに移籍し、その年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合4位。

トム・デュムランの最高のアシストの1人として、そしてオランダの次を担う期待のオールラウンダーとして、注目を集めていたウィルコ・ケルデルマン(オランダ、29歳)がデュムランに続きサンウェブを去る。

近年は怪我で思うように走れないことが続き、チームのカラーも変化しつつあることを受け、進化し続けるボーラ・ハンスグローエへの移籍を決めた。

ボーラは昨年ツール総合4位のエマヌエル・ブッフマンが総合エースを務める。しかし現在のツール・ド・フランスではやや苦しんでいる彼に代わって、チームの総合エースの座を手に入れることも不可能ではない。

2020シーズンのここまでの成績は決して悪くない。UAEツアーで総合6位、ツール・ド・ポローニュで総合7位。先日のティレーノ~アドリアティコでも総合4位。

あとはこのあとのジロ・デ・イタリアでどんな成績を残せるか。そのキャリアにおいて最も重要な時期にいよいよ突入していく。

 

ジョヴァンニ・アレオッティを獲得

2019年ツール・ド・ラヴニール総合2位のジョヴァンニ・アレオッティ(イタリア、21歳)がボーラ入り。 2020年のブエルタ・ア・エスパーニャでも、2018年ツール・ド・ラヴニール総合2位のティメン・アレンスマンが活躍していただけに、「ラヴニール2位」にはぜひとも注目していきたいところ。

なお、このアレオッティは2020年もU23版ジロ・デ・イタリア(ベイビー・ジロ)でも総合4位、イタリア国内選手権U23ロードレースでも優勝するなど、引き続き活躍。

出身チームである「サイクリングチーム・フリウリ」は、2020年のティレーノ~アドリアティコ/ジロ・デ・イタリアで山岳エースアシストとして大奮闘していたマッテオ・ファッブロの出身チームでもある。

今回のアレオッティの加入は上記Twitterリンクにあるように、このファッブロの契約延長と同時に発表さえた。

ファッブロ同様に目覚ましい活躍を期待したいところである。

 

ジョルディ・メーウスを獲得 

若手の注目株としてはこちらも忘れてはいけない。今話題のSEGレーシングアカデミーのトップスプリンター、ジョルディ・メーウス(ベルギー、22歳)も2021年からボーラの一員に。 

ユンボ・ヴィズマ入りが決まっているダヴィド・デッカーの発射台役を務めることもある彼だが、彼自身も2020年にはチェコ・ツアーでステージ2勝とポイント賞、U23ジロ・デ・イタリアでは区間1勝、さらには直近のベルギー国内選手権ロードレースではU23王者に輝いてもいる。

十分に即戦力として活躍しうる存在であり、可能性としての「ポスト・サガン」を担いうる人材であると言えるだろう。

 

 

アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ(ベルギー)

ヒルト、コッホ、ツィマーマンを獲得

CCCチームからワールドツアーライセンスを買収し、2021年からのワールドツアー昇格を決めたサーカス・ワンティゴベール。

そのCCCチームから、3選手の獲得が発表された。

まずはプロコンチネンタルチーム時代からジロ・デ・イタリアで活躍していたヤン・ヒルト(チェコ、29歳)、2019年ブエルタでも3回のシングルリザルトを記録しているヨナス・コッホ(ドイツ、27歳)、2019年ツール・ド・ラヴニール総合5位のゲオルグ・ツィマーマン(ドイツ、23歳)

とくにヒルトとツィマーマンの存在は、どうしてもこれまでクラシック向きのロースターが中心だったワンティが山岳レースで活躍するうえでは重要になるだろう。

ヒルトもアスタナ時代はアシストとして活躍していたが、いよいよワールドツアーの舞台でエースとして実力を発揮する機会に恵まれるかも。

 

ルイ・メインチェスを獲得

かつて、ツール・ド・フランスにおける新人賞候補としても期待され、アフリカ勢として初めてシャンゼリゼで特別賞ジャージを着る人物になれるか、という時期もあったルイ・メインチェス(南アフリカ、28歳)。 

しかしランプレ(UAEチーム・エミレーツ)時代を経て南アフリカチームに戻ってからは鳴かず飛ばず。今やグランツールでもエースを任されることはめっきりなくなってしまった。

グランツールで戦えるクライマーの数が絶対的に不足しているワンティチームに入ることでその活躍のチャンスは増えるかもしれない。あとは結果を出せるかどうか。

 

レイン・タラマエを獲得

こちらもグランツールで総合を狙えるほどではないにしても、ステージ優勝であればコフィディス時代にブエルタで、カチューシャ時代にジロで成し遂げているレイン・タラマエ(エストニア、33歳)を獲得。不足する登坂力を着実に補完していく戦略だ。

 

 

コフィディス(フランス)

ルーベン・フェルナンデスを獲得

2013年ツール・ド・ラヴニール総合優勝者にして2016年のブエルタ・ア・エスパーニャではマイヨ・ロホを着用したこともある実力派クライマー、ルーベン・フェルナンデス(スペイン、29歳)。しかし他のラヴニール覇者と比べるとどうしても見劣りするリザルトが並び、今年はついにワールドツアーから脱落してしまっていた。

しかしそんな彼が再び2021年からはワールドツアーに。今年ギヨーム・マルタンでツール・ド・フランスにおける可能性を見出したコフィディスが、その山岳布陣のさらなる強化のためにフェルナンデスの力を借りることに。彼自身もまだベテランと呼ばれるには早い年齢ではあるが、「次の世代」のためにその経験を活かしてほしい。

 

トム・ボーリを獲得

スイスに多い屈強なる平坦ルーラーの一人、トム・ボーリ(スイス、26歳)。エリア・ヴィヴィアーニのための集団牽引役としての活躍も期待されつつも、もう1つ重要なのが、クラシックでの活躍。現在、クラシックでエースを張れる存在はファンビルセンやフェルモートくらいといった印象で、ボーリはそこでまだエースというところまではいかないにしても、重要なアシストとして活躍してくれるだろう。

コフィディスがワールドツアーとして多様な戦い方ができるためには必要不可欠な補強と言えそうだ。あとは、グランツールのTTでTOP10入りまであと一歩というところなので、そのあたりでも期待したい。

 

シモン・サイノックを獲得

今ポーランドの若手で最も個人的に期待しているスプリンター、シモン・サイノック(ポーランド、23歳)。 現所属チーム(CCCチーム)の消滅がほぼ確定する中、その移籍先がなかなか決まらず不安視していたが、ついにコフィディスへの移籍が決まったということで、非常に喜ばしく思う。

昨年のブエルタ・ア・エスパーニャの最終日マドリードで3位。今年も、直近のティレーノ~アドリアティコ開幕ステージで4位と、その実力とポテンシャルは間違いない。問題は、コフィディスにはエースのヴィヴィアーニとセカンドエースでマルチタレントのラポルト、そしてベルギーではめっぽう強いピート・アレハールトなど、実力派スプリンターたちが揃っていること。ヴィヴィアーニの発射台役の数も揃っているので、果たしてサイノックがどのような活躍をしてくれるのか、読めないところがある。

その才能は間違いないので、ぜひ使い余すことのないよう、コフィディスには何卒お願いしたい。 

 

イェーレ・ワライスを獲得

2018年ブエルタ・ア・エスパーニャの第18ステージでまさかの逃げ切り勝利を果たした逃げスペシャリストのイェーレ・ワライス(ベルギー、31歳)が2021年にコフィディス入り!

コフィディスもワールドツアー化し、ギヨーム・マルタンやエリア・ヴィヴィアーニによるツール・ド・フランスでの勝利も十分に狙える布陣を揃えてきてはいるとはいえ、やはりこのチームの本領は「逃げ」だと思っている。その意味で、ワライスの存在は決して違和感なくフィットするだろうとは思っている。

より自由に、いつだってスプリンターズチームをひやひやさせてほしい。 

 

ジャンピエール・ドリュケールを獲得

BMC時代はスプリンターとして、ボーラ時代はクラシックで存在感を示すパンチャータイプとして活躍。2020年はサバイバルレースと化したドリダーフス・ブルッヘ~デパンヌで5位。

とくにコフィディスはクラシック分野が手薄なので、そこではエースとして活躍できるチャンスが多くなりそうだ。

 

シモン・ゲシュケを獲得

「髭のゲシュケ」でお馴染みのシモン・ゲシュケ(ドイツ、34歳)。脚質としてはパンチャー寄りだが、過去にツール・ド・フランス山岳逃げ切り勝利の経験もあり。勝利者インタビューで見せた涙は印象的だった。

逃げにも山岳アシストにも活躍する万能選手。そして非常に「コフィディスらしい」選手であるのは間違いないのだが、コフィディスも結局、ワールドツアーになってもこういう選手を集めてしまうのか・・・。

 

 

ドゥクーニンク・クイックステップ(ベルギー)

ファウスト・マスナダを獲得

今年、アンドローニジョカトリからのワールドツアーチーム昇格を果たしたばかりであったファウスト・マスナダ(イタリア、27歳)。 CCCチームが来期存続が危うくなる中、移籍自由権を手に入れた彼はシーズン途中でのドゥクーニンク・クイックステップ入りを、両チーム同意のもとで実現させた。

実力申し分ないこのクライマーの存在は、アラフィリップ・エヴェネプールのためのクイックステップ「総合強化プロジェクト」の一環となるはずで、今年のジロ・デ・イタリアへの出場の可能性も高いとされている選手だ。

今年のジロは元々予定していた「エヴェネプール・ヤコブセン」体制がどちらも危うくなる中、アルバロホセ・ホッジをジロに持っていかない限りは、ジョアン・アルメイダなどを中心とした総合系狙いの態勢で臨むことになりそうだ。

その際にはこのマスナダは重要な山岳アシスト(もしくは逃げ切り勝利)要員となりそうだ。チームとしても、まずはお手並み拝見といったところか。

 

ヨセフ・チェルニーを獲得

今年のジロ・デ・イタリアの第19ステージで、残り23㎞から1発のアタックで勝利を決めたヨセフ・チェルニー(チェコ、27歳)。後続からは同じTTスペシャリストのヴィクトール・カンペナールツが追いかけてきていたものの、しっかりと逃げ切った。

その独走力の高さ、勝負勘の良さこそ、ドゥクーニンクが最も欲するタイプの才能。この移籍は、チェルニー自身にとってもチームにとってもメリットの大きいものになるだろう。

同じチェコ人のスティバルとのコンビネーションは見てみたい。

 

マーク・カヴェンディッシュを獲得

2009年〜2012年の4年連続シャンゼリゼ制覇を含めたツール・ド・フランス30勝は、エディ・メルクスの34勝に次ぐ伝説的な記録である。一時代を築いた世界最高峰のスプリンターは、かつての走りが明確にできなくなっても諦めることなく、走り続けることを選んでいる。

そんなマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、35歳)に手を差し伸べたのが、2013年〜2015年の間在籍していたクイックステップ。おそらくはフィリップ・ジルベールのとき同様、「給与(もしかしたら大幅?)ダウン」は免れないだろうが、それでも彼はこのチームで走ることを決断した。

この選択は、ファンにとっては大きな希望であろう。「ウルフパック」の中でそれこそジルベールのように「復活」することができるのではないかと。そうでなくとも、アシストとして輝ける可能性がありうるのではないかと。

実際、2020年のサウジ・ツアーではそういったアシストとしての可能性を匂わせる走りを見せてくれた。

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どんな形でも良い。彼がまだ我々の前で走り続け、そしてそこで存在感を示してくれれば。

 

 

EFプロサイクリング(アメリカ)

中根英登を獲得

スペイン・バスク地方で開催された1クラスのワンデーレース「プルエバ・ビリャフランカ・オルディジアコ・クラシカ」で、20位に入った宇都宮ブリッツェンの増田成幸が東京オリンピック選考ランキングで中根を逆転し、オリンピック代表権を獲得した。

最後の僅かな可能性に果敢に挑戦し、そのチャンスを執念で見事掴み取った増田と宇都宮ブリッツェンの走りに感動すると共に、その状況下でも当初のチームオーダー通りにアシストに徹し、結果、チームメートのサイモン・カーを勝利に導いた中根英登(日本、30歳)の走りもまた、素晴らしいものであった。

そして、そんな彼の走りが認められたのか。ワールドツアーチームのEFプロサイクリングへの移籍が確定した。国外での走りに積極的にこだわってきた愛三工業レーシング出身で、NIPPOチームを経験した中での海外ワールドツアーへの移籍は、これまでの新城別府や入部ともまた違った道筋ということもまた、意義あることのように思われる。

なお、プレスリリースによると、ヴォーターズGMに中根の獲得を決心させたのは昨年のジャパンカップでの走りだったという。

今年は残念ながら中止となってしまったジャパンカップだが、その中での走りというのは間違いなく世界へと繋がっていく。

今後も若手の日本人選手たちの、まずはジャパンカップでの活躍に期待したいところだ。

さて、EFにおける中根にはどんな走りが期待されているか。今年で30歳。来年は31歳となる中根だが、EFは今も30歳以上の渋い選手たちが活躍している。トム・スカリー、イェンス・クークレール、アレックス・ハウズ、サイモン・クラークなど・・・。

そして総合やスプリントに絶対的なエースが多くない分、伸び伸びとした走りによってジロ・デ・イタリアでも大活躍を見せてもいる。

中根もまた、チームメートをアシストしつつ、その得意の逃げでこれまでのEFの選手たち同様チャンスを狙って欲しい。

そして、日本人男子初のグランツールでのステージ優勝。これもまた、十分に可能性のある出来事だと感じている。

 

ミケル・ヴァルグレンを獲得

2018年にオンループ・ヘットニュースブラッドとアムステルゴールドレースの両方を制しているフランドル/アルデンヌ両方に強いクラシックハンター、ミケル・ヴァルグレン(デンマーク、28歳)

翌年には同じくアルデンヌハンターのロマン・クロイツィゲルとエンリーコ・ガスパロットと共にディメンションデータ(現NTTプロサイクリング)に移籍するも、大方の予想通り、振るわない2シーズンを過ごす結果となった。

ゆえに、今回の移籍は彼にとっても復活の大きなチャンスとなるだろう。何しろ昨年、アルベルト・ベッティオルという似たような脚質をもつ男にロンド・ファン・フラーンデレンを勝たせたチームだ。とくに来年はセップ・ファンマルクもマイケル・ウッズもチームを去る中で、そのあたりの脚質を埋められるヴァルグレンは重要な存在となるだろう。

クライマー・パンチャー向けの世界選手権で7位、ロンド・ファン・フラーンデレンでも4位。

まだまだ可能性が無限大に広がるこのデンマーク人を見事に復活させてほしい、頼むぞEF!

 

ウィリアム・バルタを獲得

「ウィル・バルタは才能ある男で、チームに大きな利益をもたらすことになるだろう」とティージェイ・ヴァンガーデレンがプッシュする、同国の才能豊かなTTスペシャリスト、ウィリアム・バルタ(アメリカ、24歳)がEFプロサイクリングに! バルタ自身もヴァンガーデレンに憧れをもって育ってきたということで、これは夢のような移籍だと言えるだろう。

1年前彼の名を知らなかった者でも、今ならその名を記憶に刻み付けていることだろう。2020年のブエルタ・ア・エスパーニャ。その第13ステージにあたる個人タイムトライアルで、わずか1秒でプリモシュ・ログリッチに敗れた悲哀の才能。

その実力にも関わらずいまだ行先の決まらなかった彼を引き上げたのが、このアメリカンドリームチームであった。

出身も名門アクセオン・ハーゲンスバーマン。まだまだその埋もれた才能は無際限。

果たして、ヴォーターズは彼に更なる進化を導くことはできるのだろうか。

 

別府史之を獲得

別府史之(日本、37歳)が中根と同じEFに。この発表の数日前に宮本あさかさんによるNIPPOデルコ・ワンプロヴァンスの内紛を伝えるニュースが広まり、その去就を案じていた一人だったために、数日後にこの発表があってまずは安心した。これで今年は、ワールドツアーチームに3人の日本人選手が所属することに。

全モニュメントの出場経験があり、ワンデーでもステージレースでも集団の牽引役などに定評のある別府。ヴァルグレンのアシストとして各種クラシックへの出場も期待したい。

あとはデルコ・ワンプロヴァンスに残る2名の日本人の今後が気になるところ・・・。

 

 

グリーンエッジ・サイクリング(オーストラリア)

※旧ミッチェルトン・スコット。名称はUCI公式サイトより。変更可能性有。

マイケル・マシューズを獲得

カレブ・ユアン、マッテオ・トレンティン、ダリル・インピーと、チームの顔となる主力スプリンターたちを次々と放出していったミッチェルトン・スコット。

それはすべてこの伏線だったのか。4年前までこのチームにいたオージースプリンター、マイケル・マシューズ(オーストラリア、30歳)が古巣復帰を果たすことに。

もちろん、チームの状況は当時とは違う。同じオージースプリンターとしてのユアンも、パンチャー的な脚質で被っていたサイモン・ゲランスもいない。

そしてマシューズもこの4年間で、着実に成長してきた。ツール・ド・フランスでは計3勝とマイヨ・ヴェール、かつてゲランスも得意としていたカナダ2連戦でも計3勝。今年はさらに絶好調で、ミラノ〜サンレモでは集団先頭となる3位に、先日のブルターニュ・クラシックでも優勝。

ただ絶好調でありながら、今年のツールには出られなかった。先に移籍の予定があったからなのか、それがあったから移籍が決まったのか。チームのスポンサー国であるオランダのケース・ボルが優先される中、マシューズは実績を提げて母国チームへと舞い戻る。

ちょうど、契約期間中の2022年にはオーストラリアでの世界選手権も待ち構えている。まだまだ30歳。ここからさらなる伝説を創り上げてくれることを願っている。

 

アムンドグレンダール・ヤンセンを獲得

直前のクライスヴァイク負傷により急遽今年のツールメンバー入りを果たした元ノルウェーチャンピオンのアムンドグレンダール・ヤンセン(ノルウェー、26歳)。 結果的に山岳アシストは余り気味になったし、ワウト・ファンアールトが予想以上に山岳アシストとして機能してしまったことで平坦でのトニー・マルティンの仕事量が増えかねなかった中で、ヤンセンの存在は絶妙に功を奏したような気がする。

そんな平坦ルーラーとして活躍したヤンセンだが、元々はスプリンター、あるいはその発射台としての走りを得意とする選手。ミッチェルトン・スコットでは新エースのマイケル・マシューズにとってのアシストとして十分に機能するだろう。インピーもいなくなる中、スプリンター枠の補強として期待できる存在だ。

また、昨年のトレンティン離脱なども踏まえ少し手薄になりつつあるクラシック班の強化という意味でも期待できるかも。2019年のZLMツアーおよびダンケルク6日間レースでは、ともにマイク・テウニッセンに次ぐ総合2位を記録している。

 

 

グルパマFDJ(フランス)

ヴァルター、バディラッティを獲得

2019年のツール・ド・ラヴニールで区間1勝を果たしているアッティラ・ヴァルター(ハンガリー、22歳)

2020年は母国ハンガリー開幕のジロ・デ・イタリアへの出場、という大きな夢があったが、新型コロナウイルスによって白紙に。

それでも出場したジロ・デ・イタリアの最後の山岳ステージとなる第20ステージで9位に入るなど、実力の高さを見せつけた。

また、母国開催のツール・ド・ハンガリーでも総合優勝。

同時期にプロデビューを果たしたミッチェルトン・スコットのバルナバス・ピークと共に、自転車界におけるハンガリーの存在感を高めていくことができるか。

また同時に、2020年はイスラエル・スタートアップネーションで走っていたマッテオ・バディラッティ(スイス、28歳)を獲得。1クラス~UCIプロシリーズクラスの山岳レースで総合上位に入ることの多い典型的なクライマーで、ピノやゴデュのための山岳アシストの一員として地味ながらも重要な役割を果たしてくれそうだ。

 

ジェイク・スチュアートを獲得

育成チーム所属で、特別ルールによる「トップチームの一員として参加」できる資格を利用し、グルパマFDJのメンバーとして2020年のツール・ド・リムザンに参戦したジェイク・スチュアート(イギリス、21歳)

そのチャンスを見事モノにして、2度の区間2位と最終的な総合2位を獲得。直後、シーズン途中でのトップチーム昇格を確定させることとなった。

純度の高いフランスチームであるFDJにとっては実に珍しいイギリス人ライダー。ベイビー・ジロでも区間上位を連発していたその実力の高さでもって、実質的なプロ1年目となる2021シーズンにおけるいきなりの活躍を期待している。 

 

 

イネオス・グレナディアーズ(イギリス)

アダム・イェーツを獲得

驚きの移籍。ミッチェルトン・スコットのイェーツ兄弟の1人、アダム・イェーツ(イギリス、28歳)が、母国イギリスのチームへの移籍を決めた。以前から噂はあったものの、まさか実現するとは。また、双子の兄弟サイモン・イェーツがミッチェルトン・スコットへの残留を決めた直後の発表だっただけに、驚きは2倍である。 

ただ、この2人は決してセットの存在ではない。話によると、あえて代理人も別々の人物を選んでいたようでもある。これまではたまたま一緒だったけれど、いつかこの時が来ることは互いにわかっていたようだ。

ミッチェルトン・スコットのエースとしてこれからもグランツールを狙っていくサイモンに対して、アダムはまた別の目標を持っているようにも思う。今年のツール・ド・フランスも、ステージ優勝狙いで走るという彼は、どちらかというと、3週間のグランツールよりも、長くても今年総合優勝したUAEツアーのような1週間のステージレース、そしてあるいは、昨年4位のリエージュ~バストーニュ~リエージュのようなワンデーレースにこそ、関心があるのかもしれない。

彼を獲得したイネオスの狙いの1つも、本来であればクウィアトコウスキーで狙いたいところだったアルデンヌ・クラシックを、より専門的に狙わせる要員としてのものかもしれない。

そしてもう1つ。彼のように、「3週間を闘い抜くほどの安定性はないながらも、一発の破壊力が大きい」タイプのクライマーは、過去のワウト・プールス、そして現在のミハウ・クウィアトコウスキのような存在になれる可能性がある。

すなわち、グランツールにおける最強格の山岳アシストの存在である。もちろんそれは、ネガティブな意味ではない。イネオスという、グランツール最強であることが求められ続けるチームにとって、欠かせないキーとしての価値を、アダムは見出されたのである。

もちろん、期待されてイネオスに来てすぐ出ていく選手も少なくない。アダムがここでどんな経験をして、今後の彼の未来にどんな影響を与えてくれるのか。

それが喜ばしいものになることを願っている。

 

デプルス、マルティネス、ピドコック、ポートを獲得

兼ねてより噂はあった注目選手たちの移籍を一気に発表したイネオス。

まずは昨年のユンボ・ヴィズマ最強の山岳アシストとしてその名を轟かせていたローレンス・デプルス(ベルギー、25歳)。今年は怪我か病気か詳細は不明だがUAEツアー第2ステージを見出走になって以来一切レースに出場せず、その詳報もなし。だが、噂通りイネオスが獲得したということは、今後の競技人生に影響する何かがあったというわけではないとは思う。その実力は間違いなく、イネオスでも第一線で活躍できるはずだ。

アシストと言えば、かつてこのチームの黎明期、初代王者のブラッドリー・ウィギンスと2代目クリス・フルームを共に支えた名宰相リッチー・ポート(オーストラリア、35歳)が戻ってくる。かつてエースを求めチームを飛び出し、各種ステージレースでは圧倒的な実力を示しながらも、ことごとくツールでは不運にも見舞われ、結果、グランツールの総合表彰台を1度も手に入れられないままキャリアの終盤を迎えていた。

今年、「これが最後のエースとして臨むツールになるだろう」というやや悲観的な面持ちで参加したツールだったが、そこでかつての実力を取り戻したかのような走りを見せ、ツール総合3位。大会終了後には「来年をエースで走るかどうかはまだわからない」と前向きになった様子である。

とはいえ、やはりもうベテランの域に達している彼が、イネオスで少なくともツールのエースは難しいとは思われる。ただ、若手ばかりで臨んだ今回のツールでうまく回らなかった部分をしっかりと支えてくれる、チームになくてはならない存在にはなるだろうと思われる。この「帝国」を立て直してくれ、リッチー!

そして、若手でも期待の存在が。2016-2017シクロクロス欧州選手権ジュニア部門で優勝し、過去2年の国内選手権エリート部門でも優勝しているイギリスの最強シクロクロッサー、トム・ピドコック(イギリス、21歳)

ロードレースでも昨年のツール・ド・ラヴニールで、現イネオスで今年すでに1勝しているイーサン・ヘイターとタッグを組んで前半ステージを暴れ回っており、彼と同じスプリンターあるいはパンチャー的な選手というイメージを持っていた(それこそマチュー・ファンデルプールやワウト・ファンアールトなどのような)。

しかし、今年のベイビー・ジロでまさかの総合優勝。山岳もバリバリ行ける実力の高さを見せつけ、そしてある意味予定通りのイネオス入りを果たした。元チーム・ウィギンス所属で、そのウィギンスからはイネオス入りするべきではないと言われていたらしいが・・・。

レッドブルともスポンサー契約を結んでおり、シクロクロス以外にもマウンテンバイクなど様々なタイプのレースにチャレンジするアグレッシブさを持つ彼が、イネオスの中でどんな役割を任され自由を許されるのか。期待と不安とが入り混じる。

そして、これはまったくの噂がなく驚きの移籍となったのが、今年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ総合優勝およびツール・ド・フランス第13ステージで「圧倒的」な走りを見せて勝利したダニエル・マルティネス(コロンビア、24歳)

EFプロサイクリングとの契約はあと1年残っている中で、それを破棄しての電撃移籍。ヴォーターズGMの血の涙が見えるようだ。

正直、2年前のツアー・オブ・カリフォルニアでベルナルと鎬を削った良きライバルであり、着実にEFの新エースとしての実力と実績を積み上げつつあった彼が、ベルナルのライバルとしてではなくその相棒として移籍することになるのは残念ではある。

ただ、今年苦しい戦いを強いられたベルナルにとっては、同国人・同年代の実力者ということで安心できる存在になるだろう。また、ベルナルのコンディション次第では、むしろマルティネスがエースとして走る展開もありうる。

まだまだ実力も未知数で伸びしろのあるマルティネスの存在は、ある意味で来年のイネオスを支える最も重要な存在となるかもしれない。

 

  

イスラエル・スタートアップネーション(イスラエル)

クリス・フルームを獲得

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今年からワールドツアーに昇格したばかりのイスラエル・スタートアップネーション。これまでもダニエル・マーティンやアンドレ・グライペルなどの注目選手たちを獲得してきた同チームだが、2021年、衝撃的なニュースが巻き起こった。

すなわち、ツール・ド・フランス4勝、ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャを1勝ずつ。近年においてアルベルト・コンタドールと並ぶ世界最強のグランツールライダーとして常に注目を集め続けてきた男、クリス・フルーム(イギリス、35歳)の獲得である。

2018年ジロの歴史的な大逆転勝利もまだ記憶に新しいフルームだが、その代償かその年のツール・ド・フランスは総合3位。翌年は前哨戦クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで生命の危機すら危ぶまれるほどの大事故を起こし、2017年以来のツール勝利はなし。

チーム内でもエガン・ベルナルの台頭もあり、確実と思われていた「5勝クラブ入り」も暗雲立ち込めつつある今年35歳のイギリス人は、2010年以来所属し彼を育て上げてきてくれた英国チームを去ることを決意した。

もちろん、この選択が本当に彼の目標達成のための適切な選択であったかどうかは現時点ではまったく不透明だ。

それでも、この動きは間違いなくファンを「わくわく」させてくれる。2021年ツールにおける、フルームとベルナル、あるいはトーマスとの対決が今から楽しみだ。

 

カールフレドリク・ハーゲンを獲得

28歳の「ネオプロ」として出場した昨年のブエルタ・ア・エスパーニャでいきなりの総合8位。数少ないロット・スーダルの総合系要員だったカールフレドリク・ハーゲン(ノルウェー、29歳)が、イスラエル・スタートアップネーションにクリス・フルームのアシスト要員として移籍確定。2022年までの2年契約。

フルームにとっては心強い補強となるも、ティシュ・ベノートも移籍し、期待のランブレヒトも悲しみの中で喪ってしまったロット・スーダルにとっては、かなり手痛い流出ではないだろうか。

まあ、クラシックとスプリントでは十分すぎる戦力がいるし、ロットにとってはそれでいいのかもしれないし、総合系として輝くのであればハーゲンにとってもチーム移籍は必須だったのかもしれないが・・・。

 

ダリル・インピーを獲得

スプリントも山岳逃げもできてTT能力も高いまさに「スーパードメスティーク」なダリル・インピー(南アフリカ、36歳)がフルームのアシスト役としてイスラエル・スタートアップネーションと契約。2022年までの2年契約。昨年もさいたまクリテリウムのあと一緒にラグビーの南アフリカ戦を観に行った仲であり、元々「バルロワールド」でもチームメートだったという縁から、フルームより熱いラブコールを受けていたようだ。

 しかし、カレブ・ユアン、マッテオ・トレンティンに続き、ダリル・インピーまで失うとなると、本格的にミッチェルトン・スコットのこの後が不安になってくる・・・。まあまだ、ルカ・メスゲッツとカデン・グローヴスがいるんだけど・・・。

 

ベヴィンとバーウィックを獲得

世界選手権でも上位に入り込めるほどのTT能力をもつCCCチームのエースの1人パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、29歳)。 イスラエル・スタートアップネーションと2年間の契約を締結。

意外と山岳ステージでの逃げにも積極的で、彼もまた、フルームのアシスト役としても活躍する可能性も。スプリント力も高く、インピーと共に登りスプリント系ではエース格になりうる存在。ツアー・ダウンアンダーではインピーと共にダブルエースになるか?

そして、同じく南半球からは、今年のヘラルドサン・ツアーで衝撃的な走りを見せて総合2位に食い込んだセバスティアン・バーウィック(オーストラリア、21歳)が新加入。しかも2023年までの3年契約とのことで、イスラエルが本気で彼を育成しようとしている様子が見受けられる。

www.ringsride.work

 

とにかく多彩かつマニアックで有望な選手たちを集め続ける来年のイスラエル。若干、統一感がないような気もするが、チームとしては本当に面白くなりつつある。

 

マイケル・ウッズを獲得

唐突に驚きの移籍が! 「遅れてきた新人」の1人でありながら、元マラソンランナーとしての基礎能力の高さを遺憾なく発揮し、めきめきと戦績を積み重ねてきているマイケル・ウッズ(カナダ、34歳)がまさかのイスラエル・スタートアップネーション入りへ。 

フルームとしては、ここまでの移籍情報の選手たちと比べてもより信頼感の高いクライマーであり歓迎すべき事態。また、ウッズにとっても、実力ある若手が台頭しつつあるEFにいるよりは、自らの夢に近づける可能性が高いと言えるかもしれない。

とはいえ、ダニエル・マーティンもいて、何よりもフルームもいるこのイスラエルで、ツールを夢見るウッズはどう立ち回っていくか。ジロのエースあたりは任せてもらえるだろうが・・・。

一応、イスラエル・スタートアップネーションのオーナーはカナダ系ユダヤ人。その意味では、チャンスもあるかも?

 

アレッサンドロ・デマルキを獲得

またイスラエルがマニア受けするいぶし銀を獲得した。逃げスペシャリストのアレッサンドロ・デマルキ(イタリア、34歳)だ。その登坂力と丘陵制圧力で着実に集団の先頭付近に待機し、絶妙なタイミングで抜け出して独走を開始したら最後。そのままフィニッシュまで走り抜いてしまう、そんなミサイルのような男だ。 ブエルタ・ア・エスパーニャでステージ3勝、2018年にはジロ・デッレミリアでも華麗な逃げ切り勝利を果たしている。

補強を重ねてもまだどこかプロコンチネンタルチーム感をぬぐえないこのチームで、着実に勝利数を積み上げてくれる存在となってくれそうだ。

 

セップ・ファンマルクを獲得

各分野の才能を集め続けるイスラエル・スタートアップネーションがまたも大型移籍。パリ~ルーベ2位を1回、4位を3回、ロンド・ファン・フラーンデレン3位を2回・・・「無冠の帝王」セップ・ファンマルク(ベルギー、32歳)を獲得した。しかも3年契約。

ベテランから若手まで、しかしこれまではフルームを中心にクライマー系を揃えてきた感のある中で、ここでクラシックのエース格を手に入れた幅広い勝利を目指す姿勢を明確にした。2020年をこのチームで走った2019年ルーベ2位のニルス・ポリッツが2021年にはボーラへ移籍してしまうその穴を埋めるという理由もあるだろう。

後は果たして勝てるのか、ということ。

 

 

ユンボ・ヴィズマ(オランダ)

ダヴィド・デッカーを獲得

現役最高の「才能の発掘場」であるSEGレーシングアカデミーから、今年のル・サミン3位でかつ現オランダU23ロード王者という才能しか感じさせない男ダヴィド・デッカー(オランダ、22歳)がユンボ・ヴィズマ入りを決定。2022年までの2年契約。

てんげるまんさん、あきさねゆうさんの情報により、2004年のパリ~ツールで227㎞を逃げて最後0秒差という最高の逃げ切り勝ちをしてみせたエリック・デッカーの息子さんであることも判明。彼は元ラボバンクであり、かつ元ロットNLユンボ監督でもあるということで、今回のユンボ・ヴィズマ入りにも全く疑問の余地なし。

次々と才能ある若手を獲得していくユンボ。今でなお最強クラスのこのチームは、今後もさらに強くなり続けるのか・・・。 

 

エドゥアルド・アッフィーニを獲得

2018年ヨーロッパ選手権U23個人TT部門の覇者エドゥアルド・アッフィーニ(イタリア、24歳)をユンボ・ヴィズマが獲得。2023年までの3年契約。

現在のワウト・ファンアールトやトニー・マルティンと同様の働きを期待できる男で、ドゥクーニンク・クイックステップで言えばカスパー・アスグリーンやイヴ・ランパールトの同等の強みを持っていると言えるだろう。

正直な話、旧チームであるミッチェルトン・スコットでは、その才能を持て余しているように感じていただけに、この移籍は個人的には嬉しい。カチューシャ・アルペシンで燻っていたトニー・マルティンに再び日の目を浴びさせたのもこのチームだと感じているだけに。

マルティンももう今年で35歳。8月13日現在では2021年以降の契約も不確定だけに、その代替という意味合いももしかしたらあるかもしれない。

 

サム・オーメンを獲得

オランダの若き才能溢れるクライマーの1人、サム・オーメン(オランダ、25歳)がユンボ・ヴィズマへと移籍を決めた。元々ラボバンク(ユンボ・ヴィズマの前身)・ディヴェロップメントチーム出身でもあり、母国籍のチームへの移籍という点でも不思議ではないという見方もあるが、サンウェブもメインスポンサー含め実質的なオランダチームでもあり、トム・デュムランが去ったこのチームにとっては、次期エース候補として最も注目されるべき存在のはずだった。

しかし昨年も長期的な怪我の影響で6月以来のレースに出場できずにいたりと、その存在感はやや薄れてきた中で、今シーズン冒頭にこの移籍話がまずは噂として持ち上がっており、今回はそれが実現した形だ。

ユンボ・ヴィズマにおける彼の役割はまずはプリモシュ・ログリッチ、もしくは同国の偉大なる先輩たるトム・デュムランのアシストだろう。ユンボからは強力な山岳アシストたるローレンス・デプルスが離脱するなどの噂もあり、その穴を埋める存在となることは間違いないだろう。

 

オラフ・クーイを獲得

現在ユンボ・ヴィズマ・ディヴェロップメントチームに所属するジュニア上がりのスプリンター、オラフ・クーイ(オランダ、19歳)が2021年の7月からユンボ・ヴィズマ昇格が決定。すでに今年、2クラスのレースで3勝しており・・・しかも、9/1のセッティマーナ・コッピ・エ・バルタリ(1クラス)でついに(早くも)プロ初勝利を実現!

3位にはフィル・バウハウス、4位にはジャンニ・フェルメールシュといったトップチームの選手たちがしっかりと入っているレースでの19歳のこの勝利はあまりにも偉大。上記デッカーと共に期待しかない選手だ。

なお、2位は2日前のメモリアル・マルコ・パンターニでも2位になったイーサン・ヘイター。彼もまた今年からチーム・イネオス入りを果たしたばかりの若手期待のライダー。いずれも、2020年代のニューヒーローたちである。

 

 

ロット・スーダル(ベルギー)

ハリー・スウィーニーを獲得

2021年のロット・スーダルは自前の育成チームからの昇格組が非常に多い。このハリー・スウィーニー(オーストラリア、23歳)もその一人だ。 元はミッチェルトン・スコットの育成チーム。エヴォプロレーシングを経て、2020年はロット・スーダルU23に。そして、ピッコロ・ロンバルディア(U23版イル・ロンバルディア)を優勝している。

昨年のピッコロ・ロンバルディア優勝者はアンドレア・バジョーリで、こちらはもちろん活躍しており、2年前はロバート・スタナード。今年のブエルタ・ア・エスパーニャで強さを見せていた。

それ以前にもファウスト・マスナダやジャンニ・モスコン、ダヴィデ・ヴィレッラなどなど・・・このスウィーニーも、将来が楽しみである。

なお、同様にピッコロ・ロンバルディア優勝者のハーム・ファンフッケ(ベルギー、23歳)も同じタイミングで契約延長。

彼は今年のブエルタ・ア・アンダルシアで突然頭角を現し、そしてジロ・デ・イタリアの第1週は常に総合4位~7位をキープし続けた男でもある。

今まさにその才能が覚醒しつつあるこのファンフッケも引き続き注目していきたい選手だ。

 

フェルフールセンとモニケを獲得

サンウェブ育成チーム出身のクサンドレ・フェルフールセン(ベルギー、20歳)とFDJ育成チーム出身のシルフェイン・モニケ(ベルギー、22歳)をそれぞれ獲得。フェルフールセンは2020年はちゃんとロット・スーダルU23所属だけど。

フェルフールセンは過去にアンドレア・バジョーリやパヴェル・シヴァコフなどが総合優勝しているロンド・ド・リザールを総合優勝している。

モニケの方はスウィーニーが勝ったピッコロ・ロンバルディアで4位。フェルフールセンが勝ったロンド・ド・リザールで最終日までは総合リーダージャージを着ながらも最終日に大失速し総合7位となっている。

このあたりのU23系レースで活躍した選手は全員が全員エリートで大成するわけではないだけに、判断は難しいが、若手採用に力を入れる2021年のロット・スーダルの選択が正しかったか否かは、これらの選手たちの活躍次第である。

とはいえ、たとえば2019年に加入したヘルベン・タイッセンが2020年のブエルタでその才能の片鱗を見せつけたように、1年目から結果が出ないことの方が多いのも事実。

あまり期待しすぎないように優しく2年は見守るのが大事か。 

 

アンドレアス・クロンを獲得

こちらは逆にロット・スーダルの育成チームからではなく、 デンマークのUCIプロチーム「リワル・セキュリタス・サイクリングチーム」からの移籍。ただこのチームも元はデンマークの育成チーム的な位置づけで、カスパー・ピーダスンやマグナス・コルトニールセンらを輩出している。

そしてこのアンドレアス・クロン(デンマーク、22歳)も実力は十分で、2020年はUCIプロシリーズのツール・ド・ルクセンブルク最終ステージで、ディエゴ・ウリッシを退けてステージ優勝を果たしていたりする。

2019年にもベルギー・ツアーで総合5位。2018年にはU23版ヘント~ウェヴェルヘムで4位など、クラシック系スプリンターとして即戦力になりうる実力で、デゲンコルプやジルベールと共に、早速2021年の北のクラシックから活躍してくれそうだ。

 

 

モビスター・チーム(スペイン)

イバン・ガルシアを獲得

かつてツアー・オブ・ジャパンにも出場した経験があり、その年のブエルタ・ア・エスパーニャでグランツール初出場ながら終盤に逃げに乗るなど才能を見せつけていたイバン・ガルシア(スペイン、25歳)。 最近はツアー・オブ・カリフォルニアでの勝利など、起伏のあるステージでのスプリントでの強さも見せており、その意味で、スプリンターには常に不足しているモビスターにとってはのどから手が出るほど欲しかった移籍獲得の1つだろう。

もう1個、彼とチームの目標がある。それは1980年の創設以来このチームが達成していない数少ない栄光の1つであるパリ~ルーベでの勝利である。確かに未舗装路でも強さを見せている彼であればその可能性は確かにあり、このチームにとって、イマノル・エルビティ以来の可能性を見せてくれる存在となるだろう。

ではそのアシストは? 期待したいのは昨年新加入の23歳デンマーク人TTスペシャリストのマティアス・ノルスガード(イェルゲンセン)と、21歳アメリカ人マッテオ・ヨルゲンセン。共に昨年のツール・ド・ラヴニールで活躍しており、前者は第1ステージでの逃げ切り勝利、後者はポイント賞を獲得している。

同じく昨年新加入で2016年にネイションズカップのヘント~ウェヴェルヘム3位の24歳イギリス人ガブリエル・クレイなんかもその候補の1人。

昨年から変貌しつつあるこの新生モビスターは、果たして未来に希望を架けられるのか。

 

グレゴール・ミュールベルガーを獲得

これも驚きの移籍だった。 ボーラ・ハンスグローエのプロコンチネンタルチームからの生え抜きの一人だったグレゴール・ミュールベルガー(オーストリア、26歳)がモビスターに。昨年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネやツール・ド・フランスでジュリアン・アラフィリップやサイモン・イェーツなどのトップクラスの選手たちとフィニッシュまで競り合った「いつ勝ってもおかしくない」隠れた実力者。過去にはビンクバンクツアーでも1勝しており、今年はシビウ・サイクリングツアーで区間2勝と総合優勝を果たしている。

今年、エンリク・マスがツール総合5位と健闘していたモビスター。いろいろと揶揄されることもあるが、これからジロを走る予定のマルク・ソレルと共に、スペインの若手が活躍しうる土壌は着実にできつつある。そこにこのミュールベルガーがアシストとして参画することは大いに意義があることと言えるだろう。

 

ゴンサロ・セラノを獲得

2020年のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ最終ステージでフィニッシュ1㎞手前でアタックしながらも飲み込まれてしまったゴンサロ・セラノ(スペイン、26歳)。 

その直後のブエルタ・ア・アンダルシアでは第2ステージで同じく1㎞手前でアタック。最大17%の激坂勾配で、ひたすらダンシングを続けながら残り500mの地点で12秒のタイムギャップを作ることに成功し、そのままプロ初勝利を遂げた。

一度の失敗で諦めず、繰り返し挑戦し、成功に結び付けるその執念、実力がワールドツアーの舞台で同様に結果につながることを期待している。

 

ミゲルアンヘル・ロペスを獲得

2018年のジロとブエルタでそれぞれ総合3位。2020年にツール初挑戦でクイーンステージを制し、一時は総合3位にまで上り詰めるが、TTで大きくタイムロスし、最終的には総合6位に。

「スーパーマン」と呼ばれた才能ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、26歳)は、財政難で苦しむアスタナを離れ、スペインの雄モビスターへと移籍した。

ただ、もちろんこのチームにはすでにエンリク・マスとマルク・ソレルというスペイン人ダブルエースの存在が。

これまで同様に「トリプルエース体制」を堅持するのか? その中でロペスの立ち位置は?

不安もあるが、まずは慎重に様子を見ていきたい。

昨年のブエルタでの熱い走りを見てこの選手をすごく好きになっただけに、うまくいってほしいと思うばかり・・・。 

 

 

チーム・キュベカ・アソス(南アフリカ)

※旧NTTプロサイクリングチーム

クラーク、フランキーニー、クレイスを獲得

なんとかギリギリで新スポンサー「アソス(スイスのサイクルアパレルメーカー)」を獲得し、チーム・キュベカ・アソスとして存続することが決まったこの南アフリカチーム。

早速、去就の決まっていなかったメンバーをかき集めるかの如く新獲得選手を発表。

ただし、悪い選手ではない。

まずは元EFプロサイクリングのサイモン・クラーク(オーストラリア、34歳)。息の長い選手で、2020年はプロ12年目ながらしっかりとドローメ・クラシックで優勝。それもヴィンツェンツォ・ニバリやワレン・バルギルをスプリントで打ち破って。

2019年はアムステルゴールドレースでマチュー・ファンデルポールに次ぐ2位、2018年はブエルタ・ア・エスパーニャでステージ優勝など、コンスタントに勝利を重ねていける実力派パンチャーである。

2021年にもグランツールでの勝利含む大きな成果を出しうる選手だけに、新生キュベカの中心になりうる存在だ。

グルパマFDJからやってくるキリアン・フランキーニー(スイス、26歳)は今年のジロ・デ・イタリアのデマール親衛隊の1人だった。

第13ステージなどでは登りで遅れるデマールを懸命に牽いてなんとか復帰させようとするなど、得意な登り局面でのアシストに精を出していた。ゲレイロの勝った第9ステージ山頂フィニッシュでは4位。まだ若く、可能性が十分にある男だ。

最後に、コフィディスからのディミトリ・クレイス(ベルギー、33歳)。2018年にはダンケルク4日間レースで総合優勝し、2020年はなんとロンド・ファン・フラーンデレン6位!

もうベテランの域に達しつつはあるが、ヴァルグレンも抜けて北のクラシック要員に不安しかないキュベカ・アソスにとっては神に等しき存在である。

これからまだまだ新たな契約更新や新規獲得は発表されるだろうが、絶望の淵に立たされていたこのチームが、少しずつ希望を見出せる発表をしてくれることに期待している。

 

ヴィシニオウスキー、ベネット、ヴァツェクを獲得

新スポンサー獲得が決まり、早急にチーム立て直しを進めるキュベカ・アソス。次なる補強戦力の1人目は元チーム・スカイ→CCCのクラシックライダー、ルーカス・ヴィシニオウスキー(ポーランド、28歳)。スカイ所属時の2018年にはオンループ・ヘットニュースブラッドで2位を獲得している実力者で、CCC時代にはファンアーヴェルマートの右腕として期待されたが、そこまでの成績は残せずにいた。

2人目はEFプロサイクリング所属のショーン・ベネット(アメリカ、24歳)。どちらかというとスプリンターに近い脚質だが登りもいけるパンチャータイプか。ハーゲンスバーマン所属の2018年にはツアー・オブ・カリフォルニアのスクインシュが逃げ切り勝ちしたステージで2位。悔しそうなベネットの姿が印象に残った。同じ年のベイビー・ジロではロバート・スタナードを破って区間1勝しており、将来有望な選手だっただけに今回のEF離脱は意外。キュベカ・アソスはしっかりと育てられるか。

有望といえばこの3人目のカレル・ヴァツェク(チェコ、20歳)も非常に有能。彼も2年前はハーゲンスバーマンに所属していたが、ジュニア時代のレムコ・エヴェネプールに数少ない敗北を2度も味わわせた男でもある。

決して悪くない補強。化ける可能性のあるメンバーたちだ。

 

ブラウン、タンフィールド、ヴィンイェボを獲得

育成チーム「NTTコンチネンタルサイクリングチーム」からの昇格となるコナー・ブラウン(ニュージーランド、22歳)、デンマークの有力プロチーム「リワル・セキュリタスサイクリングチーム」からエミル・ヴィンイェボ(デンマーク、26歳)を獲得。「一家に一台デンマーク人」のヴィンイェボは2018年のデンマークルントで総合6位、2019年のドローメクラシックで4位、トロブロレオンで3位などそこそこの実績を出しており、独走力の高いパンチャー/ルーラー系として、クラシックの主力になりそうだ。

そして、コンチネンタルチームの「キャニオン・アイスベルク」所属の2018年ツール・ド・ヨークシャーでまさかの逃げ切り勝利を果たし、翌年にはカチューシャでワールドツアーチームデビューを果たした元トラックレーサー、ハリー・タンフィールド(イギリス、26歳)。個人的に非常に期待していたが、デビューしたカチューシャがその年に解散。AG2Rに拾われたものの大きな成果を出せないまま、本来は2021年に母国イギリスのコンチネンタルチームに戻る予定だった。

しかし、そこに突然降って湧いたキュベカ・アソスからの誘い。

そしてすでに契約していたリブル・ウェルドタイトもこれを歓迎。なかなかいい話である。

タンフィールドは間違いなく才能のある男。ぜひ、今回のこのチャンスをしっかりと結果に変えていってほしい。

 

ファビオ・アルを獲得

これも非常に驚きのニュースである。元アスタナ所属で2015年ジロ・デ・イタリア総合2位、ブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝、2017年にはマイヨ・ジョーヌも着用した、ヴィンツェンツォ・ニバリの次に来るイタリア人エースと言われた男。

しかしその後身体的な不調に苦しまされ続け、出口のない闇の中を走り続けているファビオ・アル(イタリア、31歳)が、UAEチーム・エミレーツとの契約終了に伴い行き先が不明になっていたところを、今回ついにキュベカ・アソスが拾い上げた形に。

元はイタリアのUCIプロチームへの移籍の噂も囁かれていた彼だが、今回(キュベカ・アソスが無事審査を通れば)ワールドツアーチームに残ることができることに。

ただ、それは決して楽な道ではない。むしろ、ここからが本当に大変である。果たして彼の復活はあるのか。好きな選手だけに、頑張ってほしい・・・。

 

セルヒオ・エナオを獲得

2012年から2018年にかけてチーム・スカイに所属し、ゲラント・トーマスの2016年パリ〜ニース制覇を強力にアシストし、翌年は自らがエースとしてこれを制覇。そしてもちろん、ツールやジロでクリス・フルームの信頼厚いアシストとして活躍したセルヒオ・エナオ(コロンビア、33歳)

2019年からはUAEチーム・エミレーツに所属し、ダニエル・マーティンやタデイ・ポガチャルの(このチームでは非常に希少な)山岳アシストとして期待されたがーーてんで、奮わなかった。

今回はある意味アルと共にキュベカ・アソス行き。かつての強さを取り戻し、やはりキュベカ的にも不足している山岳アシストとして活躍してほしい。

あるいはこのチームの層ならば、ステージレースのエースとしての走りも期待できる。

 

アルメ、シュミットを獲得

ロット・スーダルの数少ないクライマーで2017年のブエルタ・ア・エスパーニャではチームメートのトマシュ・マルチンスキーと共にステージ優勝を果たしているサンデル・アルメ(ベルギー、35歳)がキュベカ・アソスの24番目の選手として移籍確定。

チーム残留したポッツォヴィーヴォをはじめ、先日移籍が発表されたセルジオ・エナオ、ファビオ・アル、キリアン・フランキーニー、さらに次節で紹介するロバート・パワーなど、なんだかんだ登れる選手がそれなりに揃ったキュベカ・アソスである。

もちろん、グランツール総合を狙えるレベルかといえばそんなことはない。UCIランキングでは相変わらず低迷するだろうが、なんとかステージ優勝はしっかり狙っていきたいところ。

そして同じタイミングでもう1人。レオパード・プロサイクリングから移籍してきたネオプロ、マウロ・シュミット(スイス、21歳)である。

今年のツール・ド・ルクセンブルク総合11位、スイス国内選手権U23個人タイムトライアル4位など。目覚ましい活躍はまだしていないものの、スイス人らしい独走力の高いパンチャータイプ(シルヴァン・ディリエのような?)の雰囲気が漂い、これからの進化に期待だ。

 

パワー、リンデマンを獲得

ミッチェルトン・スコットに所属していた2018年にジャパンカップで勝利。翌年からチーム・サンウェブで活動し、今年のヘラルド・サンツアーではジェイ・ヒンドレーの総合優勝を支えた男の1人。そしてブエルタ・ア・エスパーニャではアグレッシブな山岳エスケープを繰り広げたロバート・パワー(オーストラリア、25歳)がキュベカ・アソスに。

サンウェブを出るイメージのなかった彼の突然の移籍に些か驚いたものの、逆にこれは彼に取ってチャンスを広げるものになるかもしれない。期待したい。

一方、こちらもユンボ・ヴィズマから放出は確定していて行き先の決まっていなかったベアトヤン・リンデマン(オランダ、31歳)がキュベカ・アソス最後の選手として選ばれた。

自分の中での彼のイメージは、「若き積極的なエスケーパー」。なんというか、自分の知っている2015年〜2016年くらいの「チーム・ロットNLユンボ」を象徴するようなライダーで、とにかくよく逃げていたイメージがある。イメージなので、実際はそんなことはなかった可能性もあるが。

とにかくそんなイメージなので個人的にはとても好きな選手だった。そんな彼が6年間過ごしたチームを去るというツイートを数週間前に見かけて、引退してしまうのかと不安になった。しかしこうしてワールドツアーチームにて継続ということで、一安心。

かつてはツール・ド・ラン総合優勝やブエルタ山岳ステージの逃げ切り勝利経験もある男。なんだかんだでまだそこまで年でもないし、また大きな勝利を挙げてくれることを期待したい。

 

 

チーム・DSM(ドイツ)

※旧チーム・サンウェブ

ロマン・バルデを獲得

今年の目玉移籍情報の1つ。プロデビュー以来9年間を過ごしてきたAG2Rを抜け出して、元ツール・ド・フランス総合2位のロマン・バルデ(フランス、30歳) がチーム・サンウェブの総合エースとして移籍が確定。

ここ数年、チームとしては彼のための万全の体制を用意しながらも、肝心の本人がなかなかうまい具合に走れずにいたバルデだが、ここで心機一転か。とはいえ、少なくとも8/13段階でのサンウェブは、いろんな選手が活躍しうる魅力的なチームであるのは間違いないものの、一人のエースを確実に勝たせる軍隊のようなチームとしては機能しづらいというのが正直な感想である(それがゆえにトム・デュムランが離脱した経緯もある)。

果たして、チームはバルデをどう生かすつもりなのか。そしてバルデはこのチームに何を求めているのか。

今後の動向が見逃せない。

 

ケヴィン・ヴェルマーケを獲得 

才能の発掘場ハーゲンスバーマン・アクセオンからまた2000年生まれ――エヴェネプールと同世代――の才能がワールドツアーにやってくる。

彼の名はケヴィン・ヴェルマーケ(アメリカ、20歳)。先日のツール・ド・ランにも出場し、チーム最高位となる総合38位でフィニッシュしている男だ。

特筆すべき成績は、2019年のU23版リエージュ~バストーニュ~リエージュでの優勝(U23初年度で、である)。かつて、このレースを優勝し、その後、ワールドツアーで素晴らしい走りを見せてくれていたのがビョルグ・ランブレヒトである。彼は非常に残念なことにはなかったが・・・この若きアメリカ人には、同じように期待していきたいところ。

まだ若く脚質を決めるのは決して正しい方法ではないが、LBLのようなレースやステージレースに強いのであれば、新加入のロマン・バルデにとっても重要な存在となるだろう。

8/1からサンウェブとトレーニー契約も結んでいるため、今期、サンウェブのジャージを着て走る姿を見ることもできるかもしれない。

 

マルコ・ブレナーを獲得

ドイツ若手最高の至宝とも呼べる男、マルコ・ブレナー(ドイツ、18歳)

2019年シーズンにおいてジュニア向けのレースで20勝を稼ぎ出し、ドイツ国内選手権ジュニア部門ではロードとTTの2冠を達成。

世界選手権ジュニア部門のTTでも3位。2020年のヨーロッパ選手権ジュニア部門のTTでは2位。さらにシクロクロスのドイツ国内選手権でもジュニア王者となっている。

そんな男だからこそドイツのワールドツアーチームは黙ってはいられない。チーム・サンウェブは2019年からドイツ自転車連盟と協力してサンウェブのコーチをつけ、ボーラ・ハンスグローエも開発チームの中に彼を入れるなど手をつけていた。

つまり、サンウェブとボーラという2大ドイツチームが互いに獲得競争に勤しんでいたわけだが、最終的に彼を獲得できたのはサンウェブの方だった。

そして近年のサンウェブにおける若手の自由な走りとその才能の発露を見ていると、これは彼にとっても悪くない選択だったように思う。

最後までサンウェブにいるかどうかはともかく・・・まずは2021年からもしかしたら圧倒的な強さを見せてくれる可能性すらある。

マルコ・ブレナー。今最も注目すべき若手である。

 

アンドレアス・レクネスンドを獲得

こちらもまた才能の塊である。

昨年トビアス・フォスを輩出したUno-Xサイクリングチームから、直近2年のノルウェー国内選手権「エリート部門」のTTで2連勝しており、2020年はヨーロッパ選手権のU23部門TTでも優勝、その他地元ノルウェーの2クラスレースを含め2020年だけで7勝している常勝の男、アンドレアス・レクネスンド(ノルウェー、21歳)

勝ち方も全般的に逃げ切りなどが多い。すでにエリートで活躍しているクレモン・シャンプッサンやシュテファン・ビッセガーなどに対しても勝利しており、2020年はオコロ・スロベンキア(1クラス)でエリートの選手たちに混じって総合4位を記録するなど、即戦力に値する人物だ。

今年のブエルタのアレンスマンのような自由な走りを許されたときに真価を発揮しそうな男である。

 

 

トレック・セガフレード(アメリカ)

スケルモースイェンセン、ゲブレイグザブハイアー、ティベリを獲得

NTTプロサイクリング所属でジロ・デ・イタリアの山岳ステージの逃げなどで存在感を示していたアマヌエル・ゲブレイグザブハイアー(エリトリア、26歳)と、今年のトレックのトレーニーであったマティアス・スケルモースイェンセン(デンマーク、20歳)アントニオ・ティベリ(イタリア、19歳) の獲得を発表。

とくにティベリは2019年のジュニア世界選手権TTで、スタート直後にチェーン落ちのトラブルに見舞われながらも後半追い上げて見事優勝を飾ったという実力の持ち主。2020年の国内選手権U23TTでも3位となるなど、その実力を着実に伸ばしつつある。

登りもいける選手で2020年ベイビー・ジロ最終ステージでも区間10位。将来のオールラウンダー候補として、可能性しか感じさせない男である。

2020年のクイン・シモンズ獲得と合わせ、トレックの才能の青田買いが止まらない・・・ただし、若手の精神的なケアや育成も怠らないように。

 

ヤコブ・イーホルムを獲得

トレック・セガフレードの2021年ロースターに向けての最後の獲得者として直近で発表されたのがこの2016年ドーハ世界選手権男子ジュニアロード世界王者のヤコブ・イーホルム(デンマーク、22歳)である。 

正直、その後の「目覚ましい」戦績があるわけではないものの、今年のジロ・デ・イタリアでも注目を集めたハーゲンスバーマン・アクセオンに2年間在籍していたという事実が期待できる要素と言えそうだ。

おそらくはスプリンタータイプの脚質。まずはそのタフな身体を活かして、道中のアシストやスプリントトレインの中で経験を積みながらじっくりと実力を伸ばしていってほしい。 

 

 

UAEチーム・エミレーツ(アラブ首長国連邦)

マッテオ・トレンティンを獲得

共に単独エースで苦しんでいたグレッグ・ファンアーヴェルマートと合流し、いよいよクラシックでの大暴れを・・・と勢い勇んだ移籍直後のまさかのチーム消滅。

そんなマッテオ・トレンティン(イタリア、31歳)が新たに移籍先として選んだのは、同じくクラシックエースのアレクサンデル・クリストフがいるUAEチーム・エミレーツ。クリストフもまた同等のチームメートがいない中でクラシックで苦しんでいる感もあったので、これはこれでよい移籍。問題は、ファンアーヴェールマート以上に脚質が被ることだが・・・まあ、なんとかなるだろう。

近年は山でもかなり登れるようになってきたトレンティン。場合によってはポガチャルに対する万能アシストとして活躍する可能性もあるだろう。

そろそろベテランの域に達しつつあるトレンティン。名スプリンターかクラシックハンター、そしていぶし銀のアシストへと、その走り方に変化が訪れていく頃だろう。 

 

ラファウ・マイカを獲得

元々はティンコフ・サクソ(サクソ・バンク)系列のチームに所属し、アルベルト・コンタドールの良きアシストとして活躍していた時代もあるラファウ・マイカ(ポーランド、31歳)

2014年・2016年のツール・ド・フランス山岳賞と、2度のツール区間勝利。2015年にはブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位と輝かしい成績を引っ提げ、2017年にはペテル・サガンと並ぶ目玉選手としてワールドツアー昇格を果たしたボーラ・ハンスグローエに迎え入れられた。

しかし、その後は伸び悩む時期が続いた。イル・ロンバルディア7位やジロ・デ・イタリア総合6位など、決して悪くないリザルトを積み重ねてはいくものの、エマヌエル・ブッフマンやマキシミリアン・シャフマンなど、チームの国籍であるドイツ人の若手が台頭してくる中で、かつてのような筆頭エースの立場は維持できなくなっていった。

そうした中で彼が選び取ったのは、UAEチーム・エミレーツにおける、若き才能タデイ・ポガチャルのアシストという立場。

なかなかチーム一丸となって彼を支える体制を作りきれていないUAEにとって、元コンタドールのアシストでもあるマイカの存在は貴重であった。

もちろん、ポガチャルに次ぐチームNo.2の座は十分に狙える位置にある。ダビ・デラクルス、ダヴィデ・フォルモロなど、実力はあるがグランツールでの実績はまだまだマイカが上。

国籍に拘らないUAEの風土がこのポーランド人に新たなチャンスを与える可能性は十分にあるだろう。

 

ライアン・ギボンスを獲得

かつてツール・ド・ランカウイ総合優勝を経験し、ジロ・デ・イタリアでも区間3位に入るなど、着実に才能を発揮していた若き南アフリカ人スプリンター、ライアン・ギボンス(南アフリカ、26歳)

今年はダリル・インピーを打ち破り南アフリカロードチャンピオンにも輝いた彼は、NTTプロサイクリングにおける「起伏あるステージのエーススプリンター」としての地位も確かなものとしていた。

だが、ここに来てトレーニー時代から彼を育て上げてきてくれたこのチームの未来が不安なものへと変わりつつある。

そんな中、フェルナンド・ガビリア&アレクサンダー・クリストフ体制へのアシスト及びジャスパー・フィリプセンに代わる「第3の軸」としてUAEチーム・エミレーツへと迎え入れられた。

個人的にはその力を伸ばしていけばミラノ~サンレモも狙える男だと踏んでいる。

今年で26歳。ここからの2~3年が最もキャリアハイになりうる年代だけに、その進化を楽しみにしている。

 

フアン・アユソーを獲得

近年青田買いを成功させつつあるUAEチーム・エミレーツが、ドゥクーニンクのエヴェネプールやトレックのシモンズ・ティベリ、そしてサンウェブのブレナーなどに続き、「U23をすっ飛ばしてのワールドツアーチーム入り」要員として現スペインジュニアロード&TT王者のフアン・アユソー(スペイン、18歳)を獲得した。正式な加入は2021年の8月1日からではあるが、2025年までの5年契約。この流れはもはや既定路線になりつつあるようだ・・・。

ちなみにこの人物、2020年に津田悠義が7位に入り込んだスペインのジュニア1クラスレース「ギプスコア・クラシカ」で優勝している選手でもある。昨年の優勝者カルロス・ロドリゲスはすでに今年イネオス入りしており、まさに若手の登竜門。

津田悠義は2021年からAG2Rの下部育成チーム「シャンベリー・シクリズム・フォルマスィオン」への加入が決まっており、着実にステップアップしつつある。

アユソーも津田悠義も、注目し続けていきたい才能だ。

 

 

アルペシン・フェニックス(ベルギー)

ジャスパー・フィリプセンを獲得

www.cyclingnews.com

元ハーゲンスバーマン・アクセオン。2018年のツアー・オブ・カリフォルニアではフェルナンド・ガビリアと肩をぶつけ合う恐れを知らない若手スプリンターとして注目を集めたジャスパー・フィリプセン(ベルギー、23歳)

2019年のUAEチーム・エミレーツでのプロデビュー直後からその才能を発揮し、緒戦のツアー・ダウンアンダーではカレブ・ユアンのヘッドバットによってポジションを落としながらも冷静にその後輪を捉え、2位に入ったことでユアンの降格後「初勝利」を飾った。

以後は1クラスのツール・ド・リムザンでの勝利くらいで大きな勝利には巡り合えていないが、常にトップレースでの上位には食い込む才能を発揮し続けている彼が、形上はセカンドティアーながらその存在感はワールドツアー級のアルペシン・フェニックスへの移籍を決めた。

このチームは当然マチュー・ファンデルポールがエースではあるものの、彼はピュアスプリントにはあまり参加しない印象で、そのポジションでは現在、ティム・メルリエがチームの2人目のエースというような強さを発揮している。そこにフィリプセンが加われば、今以上にワールドツアーレースでも活躍が期待されるチームとなるだろう。

チームとしても「ベルギーチーム」としての存在感をもっともっと出していきたいという思いもあるだろう。このチームの将来的なワールドツアー化の可能性すら感じさせる、意欲的な獲得だ。

 

シルヴァン・ディリエを獲得

2018年のパリ~ルーベで、最初に形成された逃げに乗りながら最後の最後まで逃げ続け、のちに集団からアタックしてきたペテル・サガンと合流しながらも千切られることのないままベロドロームまでたどり着き、最後にサガンとの一騎打ちに敗れて2位となった男、シルヴァン・ディリエ(スイス、30歳)。 

そのときのサガンの仕掛け方を見ても、ディリエのことを決して軽んじることなく本気で集中してスプリントをしていたことがわかるだけに、ディリエはまさにルーベの頂点に届くごくわずか手前まで迫っていたことは間違いなかった。そんな才能が、クラシック強化に努めるAG2Rに残るのではなく、2020年フランドル覇者マチュー・ファンデルポールのいるアルペシン・フェニックスを選んだ。

もちろんこれは、アルペシンにとってもマチューで本気でルーベを取りに行く宣言であろう。またディリエ自身は石畳専門というよりはパンチャー的な脚質も持っているため、ロンド・ファン・フラーンデレンやアルデンヌ系のクラシックでもマチューを助け、ときに自ら勝利を狙える存在であることは間違いない。

さらにアルペシン・フェニックスは2021年のグランツール含めた全ワールドツアーレース出場権も得ている。2017年ジロでのステージ優勝経験のあるこのディリエの存在は、アルペシンにとってはまさに理想的な獲得であると言えるだろう。

 

クサンドロ・ムーリッセを獲得

2019年のツール・ド・フランス初日の山岳賞争いでグレッグ・ファンアーヴェルマートに食らいつき、その後のラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユでは逃げに乗ったまま40秒後方に迫りくるメイン集団を振り切り区間3位。 最終的には総合21位と飛躍を遂げたクサンドロ・ムーリッセ(ベルギー、28歳)

2020年にはブエルタ・ア・ムルシアで総合優勝するなど、グランツールでも十分に活躍しうる登坂力をつけつつあるこの男が、2020年にはアルペシンに。

シクロクロスにも出場しているので、そこでもマチュー・ファンデルポールをサポートする立場になる可能性も?

ところで彼に「水瓶座」教えたの、誰だ。

 

 

ガスプロム・ルスヴェロ(ロシア)

イルヌル・ザカリンを獲得

ルスヴェロからチーム・カチューシャへ。母国ロシアのプロコンチネンタルチームから同じくロシアのワールドツアーチームへと見事な「昇格」を果たしたのが2015年だった。

そこから彼は「期待の選手」として注目を浴び続けた。初年度にツール・ド・ロマンディを総合優勝し、ジロ・デ・イタリアで区間1勝。

2016年にはツール・ド・フランスで区間勝利を挙げ、他にもリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ5位やブエルタ・ア・エスパーニャ総合3位など。

しかし2018年頃から思うように結果が出せず、苦しい時期が続く。自分より若い世代が次々と台頭し、ロシア色々を失いつつあったチームも混迷期に入る中、今年はCCCチームへの移籍を決めていた。

その中でのコロナ禍。そしてチームの消滅危機。

岐路に立たされたイルヌル・ザカリン(ロシア、31歳)が選び取ったのは、古巣への復帰であった。

 

しかし、これで良かったのだと思う。

ガスプロム・ルスヴェロは決して悪いチームではなく、トップレースへの出場権を得ることもしばしばある。

その中で彼が彼の実力を存分に発揮し、また輝かしい成績を残してくれることを期待している。

同じチームには元NIPPOのマルコ・カノラやチーマ兄弟もおり、彼らと共にさらなる活躍を見せてくれることが楽しみだ。

 

ロマン・クロイツィゲルを獲得

NTTプロサイクリングからの放出組、ロマン・クロイツィゲル(チェコ、34歳)が行先として選んだのは、ザカリンも移籍したガスプロム。

ツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアで総合5位の経験もある世界トップクラスのクライマーであり、アムステルゴールドレース優勝を始めとしたアルデンヌ・クラシックへの適性も高い男。

ミケル・ヴァルグレンなどと共にアルデンヌを支配すべくディレクトエネルジー(NTTプロサイクリング)に買われたが、その後結果を出すことはできず。

UCIプロチームへの「降格」にはなるものの、比較的RCSスポルトのレースに呼ばれやすいこのチームで、ザカリンと共に存在感を示していってほしい。

 

 

ラリー・サイクリング(アメリカ)

ベンジャミン・キングを獲得

2016年のツアー・オブ・カリフォルニアでの鮮烈な逃げ切り勝利、2018年にはブエルタ・ア・エスパーニャの第1週の2つの山岳ステージで立て続けに逃げ切り勝利。

まさに山岳エスケーパーの華であるベンジャミン・キング(アメリカ、31歳)。そんな彼が、かつて彼を育ててくれた古巣ラリー・サイクリングに出戻りに。

ザカリン、ハルヴォルセンなど、この手のパターンがコロナ禍を経た2021年には多くなっている印象だ。それは決して、彼ら自身にとっては悪くない結果につながりうるとは思っているが・・・。

しばらくはその活躍を大手メディアでは見ることができなくなるかもしれないが、着実に戦績を積み上げてくれることを期待している。

あるいはもちろん、これまでの経験を生かした、後輩の育成にも期待している。

セップ・クスなど、アメリカの若手は今かなり熱くなってきているように感じるので。

ラリー・サイクリングはほかにも同じくアメリカの実力者ジョセフ・ロスコフも獲得している。

TT能力の高さだけでなく山岳でも積極的に逃げる姿勢をもつ、地味ながらも個人的に好きな選手だけに、彼もまた、活躍の機会を与えられることを期待している。

 

 

チーム・アルケア・サムシック(フランス)

アモリー・カピオを獲得

まだ公式ツイートなどの情報が見つけられていないが、話題にはなっていて、基本公式情報しか取り扱わないはずのProCyclingStatsでも記載されていたので紹介するが、ある意味ベルギー最強のスプリンターであるアモリー・カピオ(ベルギー、27歳)をアルケアが獲得することに。

本当にベルギーでは異様な安定性を誇る。プロ勝利こそまだないものの、ベルギー周辺の1クラス~プロシリーズクラスのレースであればピュアスプリントでも起伏付きの荒れた展開となるスプリントでも安定してTOP10入りを重ねてくれるため、ProCyclingStatsのGameでは重宝している。直近のツール・ド・ルクセンブルクでも開幕3ステージで2位、5位、7位。

アルケアもまだ将来的なワールドツアー昇格を諦めていないのであれば、今のコフィディスのように国際化もどんどん進めていく必要はある。まずはこのベルギーの至宝の獲得からだ。

 

 

トタル・ディレクトエネルジー(フランス)

ピエール・ラトゥールを獲得

これは驚きの移籍だった。AG2Rラモンディアルの「バルデの次」と目されていたオールラウンダー、ピエール・ラトゥール(フランス、27歳)がまさかのUCIプロチーム、トタル・ディレクトエネルジーへの移籍を決めた。2022年までの2年契約。

リリアン・カルメジャーヌが総合争いにおいてはやや不安がある中、トタルはピエール・ローラン以来の明確な総合エースを手に入れたことになる。

ただ、可能性としては、トタルの雰囲気に飲み込まれ、ラトゥールもまたカルメジャーヌのような「逃げ屋」になる可能性も・・・。

昨年のブエルタ・ア・エスパーニャなどを見ていると結局は彼はそういう走りの方が向いているし彼自身も楽しいのかもしれず・・・果たして。

 

アレクサンドル・ジェニエスを獲得

FDJ、AG2Rといったフランスのトップチームを渡り歩き、ツール・ド・ラン総合優勝やブエルタ・ア・エスパーニャ区間3勝など輝かしい戦績を残し続けてきた古き良きクライマーといった感じのアレクサンドル・ジェニエス(フランス、30歳)。彼もまた、急速なクラシックチーム化を進めるAG2Rを抜け出し、似たタイプのラトゥールと共にディレクトエネルジーへ。たしかに、ディレクトエネルジーはかつてのAG2Rっぽさを残したチームではあり、ラトゥールもジェニエスも幸せになれる道かもしれない。

もちろん、ただ単に山岳で逃げてステージ勝利するだけでなく、ぜひラトゥールのグランツール総合を支えてあげてほしい。

 

アレクシー・ヴュイエルモを獲得

2015年ツール・ド・フランスに登場した「ユイの壁」で3位、そして同年のツールの「ブルターニュのユイの壁」とも言うべきミュール・ド・ブルターニュステージで優勝。

新時代の激坂ハンターとして注目を集めた、「ピカチュウ」かとアレクシー・ヴュイエルモ(フランス、32歳)がトタル・ディレクトエネルジー行きを決めた。

一時期は単純なパンチャーとしてではなく、ロマン・バルデのツール制覇を支える重要な山岳アシストとして共に5月の高地トレーニングに出かけたりもしていた。

だがそのバルデもチームを去る中で、ヴュイエルモもまた、本来の自由な走りを追求すべく、ラトゥール、ジェニエの後を追ってこのトタルへ。

もしかしたらラトゥールの山岳アシストも担うかも?

 

エドヴァルド・ボアッソンハーゲンを獲得

これまた驚きの移籍。ツール・ド・フランス区間3勝、ヘント~ウェヴェルヘム優勝、エネコツアー(現ビンクバンクツアー)総合優勝2回、プロ通算81勝の男エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、33歳)が将来の不透明さをもつNTTプロサイクリングから逃れてトタル・ディレクトエネルジーに。

スプリントはもちろん、高い独走力を生かした不意打ち気味のアタックからの逃げ切り勝利などその攻め手の多彩さが特徴で、トタルの戦い方には結構向いているタイプなのは間違いない。

ここまでも数多くの有力選手の獲得に精を出しているトタル。2020年はUCIプロチームランキング5位というあまりにも苦しい結果に終わった彼らが、2021年は全力でリベンジを狙おうとする姿勢が伝わってくる。

果たして1位の座を奪還することはできるのか。

 

クリス・ローレスを獲得

元アクセオン・ハーゲンスバーマン所属でその後イネオスで3年間を過ごしたスプリンターのクリス・ローレス(イギリス、25歳)

やはりイネオスでスプリンターは育たないのか、前年にEFに移籍したクリストファー・ハルヴォルセンに続くかの如くチームを離脱し、トタル入り。2017年ツール・ド・ラヴニールでそれぞれ区間1勝ずつを分け合ったライバル同士の2人の「クリス」が共にUCIプロチームへと移籍することになったわけだ・・・。

とはいえ、トタルは2021年の本気度は相当なものなので、決して哀しい移籍ではない。むしろ、イネオスにいるよりはよいかもしれない。

なおこのローレスはハルヴォルセンと比べると、純粋なスプリントだけではなく、比較的アップダウンにも強い、それこそボアッソンハーゲンと好パートナーを組めそうな脚質だ。実際それで2019年にはツール・ド・ヨークシャーでも総合優勝している。

まだまだ化ける可能性のある男だけに、うまく軌道に乗った育成をされてほしいところ。

 

 

チーム・NIPPO・プロヴァンス・PTSコンチ(スイス)

聖を獲得

突然発表された、NIPPOが新たにスポンサードするチームの発足。どうやらEFプロサイクリングの育成チーム提携も結んでいるらしく、中根英登移籍発表時少し噂になった「NIPPOがEFに行くかも」という噂の真意はここか。

運営会社はツール・ド・スイスやツアー・オブ・グアンシーの運営にも関わっているプロタッチ・グローバル社で、その取締役社長を務めているのが元選手のロバート・ハンター。EFの監督なども務めていた。

日本人からはシクロクロス元ジュニア王者の織田聖(日本、22歳)が加入。近年は弱虫ペダルサイクリングチームに所属してロードレースでも修善寺など厳しいコースでも上位に入る実力をもつ。日本でもシクロクロス出身の若い才能が輝く可能性を持つか。

一方、NIPPOデルコ・ワンプロヴァンスに取り残される形となった岡篤志や石上優大らのこれからに不安もある。

彼らのサポートを誰がどのようにしていくのか。

 

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