りんぐすらいど

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クラシカ・サンセバスティアン2019  プレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:スペイン

Region:バスク地方

First edition:1981年

Editions:39回

Date:8/3(土)

 

スペイン・バスク地方の丘陵地帯を使用して行われるワンデーレース。その登りは実に厳しく、登れるスプリンターやパンチャーの類が生き残れるものでは決してない。

最終的にはグランツールで総合争いも演じられるようなクライマーたちだけが残り勝敗を争う、本格的なクライマーズクラシック。今回はこれを簡潔にプレビューしていく。

 

 

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コース&展開プレビュー

コースおよび予想される展開については下記のゲームプレイも参考にしていただきたい。

www.ringsride.work

 

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いくつかの登りが設定された総獲得標高4,000m近くのレースだが、本格的に集団が削られていくのは残り80km辺りから登り始める1級山岳エライツから。

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登り始めに最大13%近い勾配が待ち受けるこの登りで、少しずつプロトンの足は削られていく。

 

だがもちろん、まだまだここで決定的な動きになるわけではない。

残り40km辺りから登り始める「1回目ムルギル・トントーラ」および2級山岳メンディゾロッツでさらに集団にダメージが加わっていく。

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だが、これらはいわばラ・フレーシュ・ワロンヌの道中のユイの壁のようなものだ。たしかにダメージは与えるだろうが、集団のペースはまだそこまででもなく、セレクションがかかるというほどではない。みんな分かってるのだ。あくまで勝負所は、ラスト10kmだということを。

 

 

そして、ラスト10km。いよいよ始まる、真打、2回目の「ムルギル・トントーラ」。

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ラスト1.8kmの平均勾配は11%。最大勾配は19%近くに達するという、正真正銘の激坂。ここで一気に勝負は動き、単独かもしくは数名の抜け出しが発生する。

この頂上からゴールまでは8km。激坂をこなすパンチ力と、残り8kmを逃げ切るだけの独走力と、そして最後の小集団スプリントを制するだけのスプリント力とが総合的に重要になる。

個人的には最も好きなタイプのレイアウトである。

 

 

昨年もこのムルギル・トントーラで動きが巻き起こった。まず動いたのは、ロットNLユンボ(現ユンボ・ヴィズマ)のアントワン・トルホーク。今年もツール・ド・スイスの山頂フィニッシュで逃げ切り勝利を果たしている若き才能が、このときにもその実力を示していた。

これに食らいついていったのが、グルパマFDJのリュディ・モラール。そしてバウケ・モレマ、グレッグ・ファンアーフェルマート、ヨン・イサギレ、ジュリアン・アラフィリップの4名がこれを追いかけ始めた。

その中から抜け出した2016年覇者モレマが先頭2名を追い抜いて先頭に立ったが、このときアラフィリップだけがこれに食らいついていた。

このときこの世界最強クラスのパンチャーを振り切れなかったことが、モレマの唯一にして絶対の敗因であった。モレマ自身も決してスプリント力の低い選手ではないが、トップスプリンターに混じって優勝争いをしてしまうアラフィリップを前にしてはさすがに敵いようがなかった。

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今年も絶好調なアラフィリップが最大の優勝候補。果たして、彼を打ち破るニューヒーローは現れるか?

 

 

注目選手

ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)

昨年優勝者。パンチ力、独走力、スプリント力全てにおいて高いレベルを誇り、このレースにパーフェクトマッチした脚質をもつ。それでいて今年のツールでよりクライマーとして進化したことを考えると、連覇を果たせない理由はない。

もちろん、ツールでの疲れというのは絶大なその理由にはなってしまうだろう。特に今年は、彼にとっても限界を超えた走りを続けていただけに、閉幕からわずか1週間のこの戦いでパフォーマンスを発揮できるかは、大きな不安要素となる。

その意味で、ダークホースとなるのはチームメートのレムコ・エヴェネプール。わずか19歳の、小さなエディ・メルクスである。すでに今年各種レースで実績を積み重ねており[リンク]、少しの休養を挟んで復帰した先日のアドリアティコ・イオニカレースでも得意の独走勝利を果たしている。状態は申し分ない。

もちろんこれまで出場したレースと比べてもこのクラシカ・サンセバスティアンは遥かにグレードの高いレースだ。が、もはや彼に常識は通用せず、不可能はないもののようにも思えてしまう。せめて挑戦する姿は見てみたい。

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サイモン・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)

今年のジロは失意の結果に終わったが、ツールでは序盤に戦略的にタイムを落としたうえで後半で徐々に調子を上げていき、まさかの2勝。強いサイモンが帰ってきた。

第20ステージでも終盤で山岳賞逆転獲得のために飛び出すシーンが見られ、これは結局成功しなかったものの、まだまだ力が有り余っている様子が見受けられた。そしてその矛先はこのクラシカ・サンセバスティアンにあるのではないか、というわけだ。

なお、アダム・イェーツの方が2015年に制している。彼も出場するが、彼の方はツールでの不調からまだ立ち直れていない感はあるので、微妙かも。

まあアタックしてもどっちなのかわかんないけどね!

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アレハンドロ・バルベルデ(モビスター・チーム)

クラシカ・サンセバスティアンの、「登って、下ってしばらく走って最後は逃げ切りかもしくは小集団スプリント」という(私の大好きな)コースレイアウトは、他にもミラノ~サンレモ、ロンド・ファン・フラーンデレン、イル・ロンバルディア、ブルーノ・ベゲッリ、そしてインスブルック世界選手権なんかが類似していると思っている。

その意味で、昨年インスブルックを制しているこの男も、今大会の最有力優勝候補の1人であるのは間違いない。

ツール・ド・フランスでは序盤にアシストに徹するような動きを見せていたかと思えば後半にかけて徐々に順位を上げていき、ランダキンタナと並んでちゃっかりと総合TOP10に入り込んでいた。しかも第20ステージの終盤ではなぜか頑張って区間2位。しかもランダを突き放して区間2位。なんだったんだアレは。

とりあえず、元気はまだまだ有り余っている様子。チームのエースはバスク人のミケル・ランダが務めるが、そういう忖度とかなしで普通に勝ってしまいそう。

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タデイ・ポガチャル(UAEチーム・エミレーツ)

ベルナルに負けないくらい急成長している昨年ラヴニール覇者。すでに今年、ヴォルタ・アン・アルガルヴェ総合優勝、イツリア・バスクカントリー新人賞、ツアー・オブ・カリフォルニア総合優勝、スロベニア国内選手権個人TT優勝など、圧倒的な実績を積み重ね続けている。

今回は6月末以来、休暇を挟んでの参戦。しかしバスクカントリーで見せたアグレッシブな走りを思えば、今大会の優勝候補として挙げることに何の違和感もないだろう。

なお、今大会、エヴェネプールとベルナル、そしてこのポガチャルといった世界を揺るがす若き才能たちが(もしかしたら初めて?)結集する(そこにイバン・ソーサを加えてもいいかもしれない)。

彼らがムルギル・トントーラでバチバチにやりあう姿をもしも見れたら、メチャクチャ熱いんだけどなぁ。

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マイケル・ウッズ(EFエデュケーション・ファースト)

 

インスブルック世界選手権優勝者のバルベルデに注目するならば、3位だった彼にも注目しておきたい。今年のツール・ド・フランスではウランと共に総合を狙う可能性もあったが途中の落車で完全にそのプランが消滅。しかし後半の山岳地帯でも積極的に逃げに乗るなど、元気が余っている姿は見せていた。

トップ選手たちが集まる中で彼の勝利の可能性は決して高くないかもしれない。しかし今年のEFには勢いを感じる。可能性を信じ、そして昨年のインスブルックのリベンジを果たせ!

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バスクの「山岳王」の座は果たして誰の手に?

 

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