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サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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【全ステージレビュー】ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ2022

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スペイン北東部、フランスとの国境沿いに位置するカタルーニャ州。

美しい海岸線とピレネーに連なる厳しい山岳地帯とが織りなす、軽量級のクライマー・パンチャータイプの選手たちのための1週間。

それは例年、波乱に満ちた展開を呼びがちなレースではあるが、今年もそれは継続。横風分断、落車、体調不良の続出など、望ましくないアクシデントも交えながら展開していった7日間の戦いを振り返っていく。

 

目次

 

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第1ステージ サン・フェリウ・デ・ギホルス~サン・フェリウ・デ・ギホルス 171.2㎞(平坦)f:id:SuzuTamaki:20220320143309j:plain

中根英登も含む多くのロードレース選手が生活の拠点にしているというジローナ県に位置するサン・フェリウ・デ・ギホルスを発着する171.2㎞「平坦」ステージ。

実際、断面図ほどに高低差はなく、スプリンターたちが生き残って最終フィニッシュにまで辿り着くことは十分可能だが、最後が直登で結構登るレイアウトとなっており、同じレイアウトで行われた3年前の第3ステージも、マイケル・マシューズが優勝しアレハンドロ・バルベルデ、ダリル・インピー、マクシミリアン・シャフマンと続く、およそピュアスプリントステージとは思えないリザルトとなっていた。

 

今年はどうか。

途中、残り88㎞地点で横風による大規模な分断が発生し、バイクエクスチェンジ・ジェイコが7名全員を、イスラエル・プレミアテックも未出走のアレッサンドロ・デマルキを除いた6名全員を送り込み、一方でイネオス・グレナディアーズはパヴェル・シヴァコフただ一人、クイックステップ・アルファヴィニルに至っては一人も乗せることができなかったという30名弱の「先頭集団」が出来上がった。

 

ただ、この大分断は、ボーラ・ハンスグローエ、モビスター・チーム、AG2Rシトロエン・チームらが中心となって牽引するメイン集団によって残り50㎞地点で吸収。

壊滅的な結果につながることはなく、その後新たにできた6名の逃げも吸収し、集団スプリントへと突入することとなった。

 

そしてやはりこのフィニッシュは、決して「スプリント」といえるものではなかった。

まずは残り880mでロット・スーダルのシルヴァン・モニケがアタック。

これを追うためにイネオス・グレナディアーズのリチャル・カラパスが先頭に躍り出て、そのままモニケを捕まえると共にダンシングで加速していった。

総合優勝した2019年のジロ・デ・イタリアの第4ステージや、2020年ツール・ド・ポローニュ第3ステージのように、こういう局面で結構アグレッシブに登りスプリント勝利を狙ってくるのは実にカラパスらしいところである。

 

だが、このカラパスのスプリントも後続を千切ることはできず。むしろその背後にいるアンドレア・バジョーリ、ソンニ・コルブレッリ、マイケル・マシューズらのアシストをするような形に。

徐々に勾配を増していく中、次第にカラパスの勢いも衰えていき、残り300mを切って後続の集団も横に広がる。

これを見て残り200m。まずは前から3番目にいたコルブレッリが進路を左にとって加速。コース左の後方からスプリントを開始していたグルパマFDJのカンタン・パシェの前を塞ぐような進路を取る。

すると、一旦取り囲まれて進路を見失っていたマシューズの目の前が開ける。ここで彼は迷いなくアクセルを踏み、誰もいない空間を直進していった。

 

思った以上にきつい勾配で、残り200mが遠い。

真ん中からマシューズ、左からはコル

ブレッリ。コルブレッリの後輪にパシェ。

果たして、マシューズは力を残せるのか――いや、残し切った。

チーム移籍後初勝利。そして自身1年半ぶりの勝利に、両手を天に掲げた。

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なお、2位につけたコルブレッリはレース直後に意識を失い、心臓マッサージを受けたのちに緊急搬送。

一命は取り留めたが、現役の状態に戻れるかどうかは、現時点では予断を許さない状況となっている。

www.cyclingweekly.com

 

 

第2ステージ ラスカーラ~ペルピニャン 202.4㎞(平坦)

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ピレネーを越えフランスへと渡る2国間ステージ。とはいえ最高標高地点は300mにも達せず、前日以上にちゃんとした平坦スプリントステージとなっている。

 

終盤までは平穏だった。3名の逃げも、残り30㎞をきったところですべて吸収。しかし、その後、残り17㎞を切ったところで集団分裂が始まり、その混乱の中で落車が発生。ここに、今大会最大の総合優勝候補であったサイモン・イェーツが巻き込まれる。

30名ほどの先頭集団にはリチャル・カラパス、ローハン・デニス、フアン・モラノ、ワウト・プールス、アレハンドロ・バルベルで、ナイロ・キンタナ、ユーゴ・オフステテールなどおおよそのトップライダーたちが入り込んでおり、とくにバルベルデとプールス(とバウハウス)を擁するモビスター・チームとバーレーン・ヴィクトリアスが中心となって牽引。

この集団とサイモン・イェーツ集団とのタイム差は徐々に開いていき、最終的には30秒以上に。

ラスト1㎞。クイックステップがアンドレア・バジョーリのためのトレインを作り先頭を牽き、最終右コーナーで前日覇者マシューズがリードアウトを開始。その背後にいたフィル・バウハウスが残り150mでスプリントを開始するが、そのさらに背後から残り75mでカーデン・グローヴスが発射。横に並びかける。

最後はギリギリでバイクを投げ、先着。しっかりとチームの大先輩の期待に応える本人にとってのワールドツアー初勝利、そしてチームとしても2連勝を成し遂げた。

今年、この「マシューズ&グローヴス」のコンビネーションはかなり高いクオリティを維持し続けており、今後も楽しみである。

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但し、チームの総合エースのサイモン・イェーツが33秒遅れでフィニッシュし、そのうえで復帰のためのチームカー使用によるペナルティを受け、本日終了時点でセルヒオ・イギータやナイロ・キンタナに対して53秒遅れの総合75位に転落。

本人曰く、このあとはステージ優勝に集中するとのこと。チームにとっては悲喜こもごもなステージとなった。

 

 

第3ステージ ペルピニャン~ラ・モリーナ 161.1㎞(山岳)

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昨年は登場しなかったが、2014年から2019年にかけては毎年登場していたボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャお馴染みの山頂フィニッシュ「ラ・モリーナ」。

2014年はホアキン・ロドリゲス、2015年はティージェイ・ヴァンガーデレン、2016年はダニエル・マーティン、2017年と2018年はアレハンドロ・バルベルデ、2019年はミゲルアンヘル・ロペスが優勝しており、その年の総合優勝者と重なることも多い、重要な登りだ。

 

体調不良者が続出しており、昨日はリッチー・ポートがレース中に大きく遅れたかと思えばそのままリタイア。この第3ステージでもトム・デュムランやトーマス・デヘント、ミハウ・クフィアトコフスキ、ファウスト・マスナダ、そしてマイケル・マシューズすらもDNFとなってしまう。

 

そんな中、過去3回このレースを総合優勝しているアレハンドロ・バルベルデ率いるモビスター・チームが集団を中心的に牽引。

そのうえで最後の登り「ラ・モリーナ」に突入する。

 

登坂距離12.2㎞・平均勾配4.5%。

決して厳しすぎるわけではないこの登りで、最初に集団をコントロールしていたのはサイモン・イェーツ擁するチーム・バイクエクスチェンジ・ジェイコ。

残り11㎞を切ってからカラム・スコットソンが先頭を牽き、残り8.7㎞で仕事を終えるとダミアン・ホーゾンが先頭に。その背後にはサイモン・イェーツ。

だが、2年前に勝者ミゲルアンヘル・ロペスがアタックした残り8.4㎞が近づくと、集団から飛び出したのは昨年ツール総合4位のベン・オコーナー。

先行してアタックしていたアンリ・ファンデナベーレ(チームDSM)を追い抜くとそのまま突き放して単独先頭に立った。

そのタイミングで集団先頭はイネオス・グレナディアーズの支配に代わる。ヨナタン・カストロビエホがダンシングで一気にギアを上げると、集団は一気に削られていく。

残り7㎞でカストロビエホが仕事を終え、先頭はリチャル・カラパスに。その背後にはカルロス・ロドリゲス。さらにペースが上がり、サイモン・イェーツがここで脱落する! パリ~ニース以降体調不良に見舞われていたとのことで、この日を最後にカタルーニャを去ることとなる。

 

だが、このあとは各チームのエース級やセカンドエース級が散発的にアタックをしては引き戻されるという展開が続き、思ったよりも集団のペースが上がらない。イネオス体制も崩れ、どのチームも牽引の主導権を握らないまま、先頭オコーナーとのタイム差は20秒を超えて推移する。

 

残り1.5㎞でUAEチーム・エミレーツのマルク・ソレルが単独で抜け出すも、遅すぎた。

そのまま、間隙を縫った絶妙なタイミングでの独走で、オコーナーが今大会最初の山頂フィニッシュでの勝利を掴み取った。

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第4ステージ ラ・セウ・ドゥルジェイ~ボイー・タウイ 166.7㎞(山岳)

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今大会2つある山頂フィニッシュのうちの2つ目。総合争いにも大きな影響を及ぼしうる重要ステージで、ラスト13㎞から最後の登り(平均勾配6%)が始まる。

最初7名いた逃げも、登りが始まった段階で残るはブルーノ・アルミライル(グルパマFDJ)ただ一人に。

メイン集団は最初、アルケア・サムシックのアシストが2枚、トレインを組んで牽引。残り12.2㎞で一人目のウィネル・アナコナが脱落し、もう1人のエリー・ジェスベールが先頭に立って牽引していくと、その背後についたベン・オコーナーと2人だけで抜け出す場面も。

オコーナーの背後にいたAG2Rシトロエン・チームのアシストの策略であったが、ここにセルヒオ・イギータやリチャル・カラパスが飛びついてきてやや危険な逃げが出来上がる。

一旦はオコーナーを牽き上げてしまったジェスベールも集団に戻り、これを牽引。なんとか残り11㎞でオコーナーたちを引き戻すことに成功するが、これでジェスベールも力を使い果たし、脱落。キンタナは早くも1人になってしまった。

そしてこのタイミングでアレハンドロ・バルベルデが脱落。彼もまた、体調不良に襲われていたのか。その後、第6ステージDNSでレースからも去ってしまうこととなる。

 

残り10.9㎞で集団からジョージ・ベネットが単独でアタック。先頭のアルミライルと合流する。

メイン集団はカルロス・ロドリゲスを従えたヨナタン・カストロビエホを先頭に牽引。先頭のベネットとアルミライルとのタイム差は15秒程度を維持し、集団の数は3~40名程度。途中、残り6.3㎞地点でEFエデュケーション・イージーポストのディエゴ・カマルゴがアタックする場面もあったが、特に誰も反応せず、カストロビエホが淡々と集団を牽くだけでこれを引き戻した。

 

残り4㎞。ここでようやくカストロビエホが仕事を終了。

と同時に厳しくなり始める勾配区間を、先頭に立ったカルロス・ロドリゲスが一気に牽引。集団からどんどん選手が千切れていき、その中には昨年ステージ優勝しているエステバン・チャベスやディラン・トゥーンス、イバン・ソーサなども含まれている。

先頭を走っていたアルミライルとベネットもここで吸収。

残り3.3㎞。ロドリゲスが仕事終了。ちょっと一呼吸を置いたうえでリチャル・カラパスがアタック。ここにセルヒオ・イギータが食らいつき、2人で抜け出す。

 

追走はジョアン・アルメイダが先頭。そこにナイロ・キンタナ、オコーナーが食らいついていくが、オコーナーは残り2㎞で落ちる。

残り1.3㎞の時点でカラパスとイギータにアルメイダとキンタナが追いつき、先頭は4名に。

残り1㎞。左からキンタナがアタックし、すぐさまイギータが反応して二人で抜け出す。

キンタナはイギータに「牽け」とサインを送るが、イギータは反応せずキンタナも足を止めてしまう。

そしてアルメイダが加速。カラパスを突き放し、イギータとキンタナに追い付いて先頭に。

先頭はアルメイダ、イギータ、キンタナの3名。少し遅れてカラパスと、そこに追い付いてきたプールス。

完全な牽制状態に陥る先頭3名。最後は残り200mくらいから先頭にいたアルメイダが加速し、キンタナがこれを一旦追い抜いて先頭で最終コーナーを曲がる。

そしてホームストレート。最後の最後はスプリント力もあるアルメイダがもう一段階加速し、ギリギリでこれを制した。

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ジョアン・アルメイダ、移籍後初勝利。UAEツアー、パリ~ニースでは思うように走れない様子のときもあったが、エースとして挑むジロ・デ・イタリアに向けてしっかりと調子を上げてこれているようだ。

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第5ステージ ラ・ポブラ・デ・セグル~ビラノバ・イ・ラ・ジャルトル 206.3㎞(平坦)

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今大会最長ステージ。内陸から離れ、海岸沿いへとフィニッシュするスプリントステージである。

元々例年、あまりピュアスプリンター向きではないレイアウトが多く北のクラシックとも重なるということで、そこまで強力なスプリンターが揃わない傾向のあるボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャ。今年も最有力候補のマイケル・マシューズもソンニ・コルブレッリもすでにリタイアしており、この日はもう1人の有力候補フアン・モラノもDNS。

残った優勝候補としては第2ステージ優勝者のカーデン・グローヴス、および同日2位のフィル・バウハウスに絞られたような様子であった。

残り2㎞を切って、予想通りバイクエクスチェンジ・ジェイコのマイケル・ヘップバーンやカラム・スコットソンが強力にトレインを牽引。だがそのタイミングでエウスカルテル・エウスカディの選手がアタックし、しかも直後にクイックステップ・アルファヴィニルのイラン・ファンヴィルダーが単独落車するなど混乱。

その中でラスト1㎞を切ってバイクエクスチェンジのアシストもすべていなくなり、集団は混沌。唯一アシストを残したアルケア・サムシックが、ユーゴ・オフステテールを率いて先頭で残り400mを通過する。

その背後、3番手にいたのが、クイックステップ・アルファヴィニルのイーサン・ヴァーノン。残り200mを切って、ギヨーム・ボワヴァンがスプリントを開始すると、それに釣られるようにしてヴァーノンも真ん中に陣取り、そのままボワヴァンを抜き去って先頭でフィニッシュラインを通過した。

フィル・バウハウス、カーデン・グローヴスも遅れて加速してきていたが、ギリギリで間に合わなかった。昨年のツール・ド・ラヴニールでも1勝している気鋭の新人イギリス人の、早くも成し遂げたプロ1勝目となった。

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第6ステージ サロウ~カンブリス 167.6㎞(中級山岳)

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海沿いの街を発着するが、途中1級山岳を含む標高1,000m近い山岳地帯を駆け抜けるため、一番可能性のある展開は逃げ切り、そうでなければスプリント、といったところが大方の予想であった。

が、展開は全く予想と違う事態を引き起こした。すなわち、この最初の1級山岳レブレス(登坂距離10㎞、平均勾配6%)にて、イネオス・グレナディアーズのルーク・プラップが超強力に牽引。

ここまでの山岳ステージでは早めのアシストに徹し、最終盤までは仕事をしなかった彼は、この日のために足を貯めていたのか。総合首位ジョアン・アルメイダや総合2位ナイロ・キンタナらを軽々と突き放すほどの加速力で駆け上がった彼についていけたのは、27秒遅れの総合9位リチャル・カラパスと、7秒遅れの総合3位セルヒオ・イギータの2人だけだった。

プラップはその後、続く2級山岳まで牽引の仕事をこなし、脱落。彼はその日、フィニッシュ地点にまで辿り着かなかったという。かつてのミハウ・クフィアトコフスキの姿を思い出させるような、これぞイネオスの山岳アシストという働きを見せつけたプラップを置いて、カラパスとイギータはプロトンに対し最大で3分半まで広げる大エスケープを敢行した。

 

当然、プロトン側も、総合リーダー擁するUAEチーム・エミレーツが中心となって牽引。だが、彼らもすでに限界を迎えており、残り47㎞地点ではマルク・ソレルすらも脱落。

UAEチーム・エミレーツの牽きだけではタイム差が縮まらないと悟ったUno-Xプロサイクリングや、ワウト・プールスの総合を守りたいバーレーン・ヴィクトリアスらが集団を牽引すると徐々にタイム差は縮まっていくが、それでも残り25㎞地点でまだタイム差は1分40秒以上残していた。

 

集団からはフアン・アユソーがアタックする場面も見られたが、肝心のアルメイダはなかなかそこから飛び出せない。結局抜け出したアユソーもチームの指示を受けたのか?集団に復帰し、最終的には1分は切ったものの先頭2人には追いつけないまま、フィニッシュへと到達する。

そして、ギリギリまで協調体制を続けたカラパスとイギータの最終決戦。ラスト1㎞までは総合タイム差をよりギリギリまで稼ぎたいカラパスが中心となって牽いていたが、そこからはカラパスも徹底して前を牽かない体制に。

最後は残り100mでスプリントを開始したイギータを、ライン直前でギリギリで差し切ったカラパスが勝利。130㎞以上に渡るコロンビア人とエクアドル人との逃避行の決着は、エクアドル人の勝利で終わった。

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48秒遅れで雪崩れ込んできたメイン集団の先頭を獲ったのはカーデン・グローヴス。

ピュアスプリンターという印象だった彼だが、フィル・バウハウスも千切れたこの展開の中で生き残り、スプリントができるとは・・・今大会は、彼の大きな成長も見ることのできた7日間であった。

 

 

第7ステージ バルセロナ~バルセロナ 138.6㎞(中級山岳)

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カタルーニャ州の州都バルセロナを発着するカタルーニャ恒例の最終ステージ。登坂距離2.4㎞、平均勾配4.7%の「モンジュイックの丘」を含む周回コースを6周回するコースは、過去アレハンドロ・バルベルデやサイモン・イェーツ、ダヴィデ・フォルモロなどが勝利を掴み取っている、なかなかハードなアルデンヌ・クラシック風ステージとなっている。

今大会はこの日が開始された時点で総合首位セルヒオ・イギータと総合2位リチャル・カラパスとのタイム差は16秒。総合3位ジョアン・アルメイダと総合4位ナイロ・キンタナも1秒差など、僅差の戦いとなっており、この日だけで大逆転が起こる可能性も考えられた。

 

最初に形成された逃げは12名。最初のモンジュイックの丘を越え、残り39㎞地点の最初のフィニッシュライン通過直前にこの12名の中からステフェン・クライスヴァイク(ユンボ・ヴィズマ)とカンタン・パシェ(グルパマFDJ)の2人だけが抜け出す。

登りではクライスヴァイクが先頭を牽き、平坦ではひたすらパシェが牽きながら、2人はメイン集団とのタイム差を1分から40秒程度で維持し続けながら残り距離を消化していく。

メイン集団は2回目のモンジュイックの丘登坂の頃からUAEチーム・エミレーツが先頭を牽引。一時はジョージ・ベネットを含む8名ほどの小集団が抜け出す場面もあったが、3回目の山頂直前までの間にコフィディスが中心となって牽引して吸収。

3回目のフィニッシュライン通過前に新たな4名の第2集団が形成されるも、これもイネオス・グレナディアーズがヨナタン・カストロビエホを先頭にトレインを作ってペースアップを図ったことによって、4回目の山頂前までに吸収してしまう。

 

出入りの激しい展開を繰り返しながらも、先頭2名とのタイム差はなかなか縮まらない。

そんな中、大きくレースが動き始めたのは最後から2つ目、5回目のモンジュイックの丘山頂を目前とした残り13.2㎞。

ここで逃げ2人の背後にいよいよUno-Xプロサイクリングが牽引するメイン集団が近づく。残り13㎞で逃げ2人が吸収され、と同時に総合2位リチャル・カラパスがアタック。

当然、すぐさま総合首位セルヒオ・イギータがこれを引き戻すが、今度はカウンターで総合8位、昨年ツール・ド・ラヴニール総合優勝者の22歳トビアスハラン・ヨハンネセンが飛び出し、山頂を先頭通過。

ここにカラパス、イギータも少し遅れながらも追いついてきて、7名の先頭集団が形成される。カラパス、イギータ、ヨハンネセン、バジョーリ、アユソー、オコーナー、ブイトラゴ。総合3位アルメイダも総合4位キンタナの姿もない!

 

残り10.8㎞。ブイトラゴがアタック。サウジ・ツアーで区間1勝&総合2位と躍進した22歳のコロンビア人。しばらく独走を続けていたブイトラゴだったが、残り5.5㎞。最後のモンジュイック山頂を前にして集団に吸収。

カウンターで飛び出したトビアスハラン・ヨハンネセンが再び山頂を先頭通過。さらにジョアン・アルメイダが総合5位の19歳フアン・アユソーを引き連れて全力で加速し、先頭はヨハンネセン、アルメイダ、アユソー、イギータ、オコーナーの5名に。今度はカラパスがいない!

 

最後の最後まで目まぐるしく入れ替わる展開。だが最終的には――キンタナもカラパスも追いついてきて、20名弱の中集団がフィニッシュラインへとなだれ込んできた。

 

その混乱の中、先頭を掴み取ったのは——アンドレア・バジョーリ。

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U23版イル・ロンバルディア勝利という実績を引っ提げてジョアン・アルメイダと共に2020年にクイックステップでデビュー。新型コロナウィルス長期中断期間明けのツール・ド・ランでいきなりプリモシュ・ログリッチらを打ち破っての小集団スプリント勝利を果たすなど、華々しいネオプロ初年度を過ごした。

だがその後は良い走りを見せながらも、なかなか勝ちきれないことが続いた。今年のサウジ・ツアーでも、落車の影響でブイトラゴに勝利を奪われていたりもした。

そんな、実力はありながらも抜けきれなかった男が、再び「トップライダーたちとの小集団スプリントを制する」という形で、念願のワールドツアー初勝利を果たす。

これからもまだまだ伸びていくこと間違いなしのこの男の、さらなる飛躍のきっかけになれば幸いだ。

 

 

最終総合成績

 

第6ステージの大逆転劇。そして最終日の激しい展開をも耐えきって、今年ボーラ・ハンスグローエに新加入のセルヒオ・イギータが見事、自身初のワールドツアー・ステージレースの総合優勝を飾った。

年初のコロンビア国内選手権ロードレース優勝に始まり、ヴォルタ・アン・アルガルヴェでのダニエル・マルティネスとの一騎打ちを制してのステージ勝利など、ここ数年の不調を吹き飛ばすかのような調子の良さを見せ続けており、今後の可能性を感じさせる1週間であった。

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総合2位リチャル・カラパスも、今年ここまで走ってきたエトワール・ド・ベセージュ、ツール・ド・ラ・プロヴァンス、ティレーノ~アドリアティコといったステージレース全てで完走できず、という調子の悪さを見せており、今回のこのカタルーニャにおいても、第5ステージまでは正直、良い状態とは言えない状況であった。

だが、第6ステージでの、ルーク・プラップの捨て身のアシストに応える大逃げと勝利。そしてこの結果は見事というほかない。例年、シーズン序盤はどこか不安に感じる走りをしながらも、結果だけ見ればチームの中でも随一の成績を残しがちな男。だが、今年は、ジロ・デ・イタリアで表彰台の頂点に立ちたいところ。

 

総合3位ジョアン・アルメイダも、第4ステージでチーム移籍後初勝利。こちらも今期、ここまで決して実力通りとはいかない結果に終わっていた印象があっただけに及第点。

とはいえ、まだまだいけるはずだ。ジロ・デ・イタリア総合優勝に向けて、もう一段階、調子を上げていきたいところ。

 

 

その他、アユソー、ヨハンネセンと、若手がワールドツアーでも堂々とトップライダーたちと渡り合っていたり、オコーナー、マルタンなど、トップライダーたちからは一段は劣るとみなされがちな選手たちが安定した強さを発揮していたりと、なかなか味わい深いリザルト。

彼らはこの後も、今シーズン中に何かドラマを巻き起こしてくれそうな気がしているので、実に楽しみだ。

 

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