2/20(日)〜2/26(土)の日程で開催された、アラブ首長国連邦を舞台とした7日間のステージレース、UAEツアー。
今年最初のワールドツアーレースとして、グランツール級のトップスプリンターたちやクライマーたちが集まる豪華な顔ぶれの中、アシストとして注目を集める男がいた。
彼の名はルーク・プラップ。
昨年のツアー・ダウンアンダー代替レースにて、ウィランガ・ヒルでリッチー・ポートを「勝たせた」男。
そして、直後の国内選手権個人タイムトライアルと、今年の同ロードレースとで、エリートの選手に混じっていずれも優勝してみせた、今年まだ21歳の若き才能。
その彼が、イネオス・グレナディアーズの一員として初めて挑む本格的な山岳レースがこの、UAEツアーであった。
果たして期待されたこの男が、山岳登坂においても十分な存在感を見せられたのか。
これまでの彼の歩みを振り返ると共に、このUAEツアーでの活躍を、確認していこう。
目次
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来歴
ルーク・プラップ、又の名をルーカス・プラップと呼ばれる彼は、2000年12月25日にメルボルンで生まれる。
彼のキャリア開始から2021年1月のオーストラリアでの活躍については、以下の記事で詳細を記載している。
ツアー・ダウンアンダー代替レースでの活躍、リッチー・ポートのウィランガ・ヒル「7勝目」をその背後から祝福したこと。
そして、その後開催された国内選手権男子エリート個人タイムトライアルにて、過去2年ローハン・デニスを打ち破っているオージー最強TTスペシャリスト、ルーク・ダーブリッジを打ち倒したこと。
上記で書かれている出来事の後にも、彼は世界選手権個人タイムトライアルで2位になるなど、相変わらずの強さを発揮していた。
そしてイネオス・グレナディアーズ入りを決めた今年の国内選手権では、個人タイムトライアルこそ新型コロナウィルスの濃厚接触者に指定されたことで出場が叶わなかったものの、ロードレースでは圧倒的な独走力でもって、見事な勝利を果たしてみせた。
期待通りの、素晴らしい活躍を見せてくれたルーク・プラップ。
このまま、今年引退するリッチー・ポートの後を継ぎ、カデル・エヴァンス以来となるオージーグランツール制覇者の期待を背負う存在となれるのだろうか。
だが、まだ懸念はあった。
たしかに昨年のツアー・ダウンアンダー代替レースでは、ウィランガ・ヒルを含む登り系のステージで素晴らしい走りを見せてくれた。
だが、いずれも「山岳」と呼べるほどの厳しさではなかったのも、また事実。
そして登坂の力量を確かめる絶好の機会であった昨年のツール・ド・ラヴニールでは、残念ながら序盤で落車(もしくは体調不良)によりリタイアとなっており、その力の程を確かめる機会がなかった。
ゆえに、未知数であった。彼がTTスペシャリストとして類稀なる実力を持っていることは間違いないながらも、果たして本当に登坂において、絶対的な力を持ち合わせているのか否か。
それを確かめる最初の機会が、このUAEツアーであった、というわけだ。
UAEツアー2022 第4ステージ
UAEツアーは2/20から2/26の7日間にわたり開催されたステージレースで、4つの平坦ステージと1つの個人タイムトライアル、そして2つの山頂フィニッシュで構成された、実にバランスの良いレースとなっている。
各ステージの詳細なレースレポートはこちらから
その最初の2ステージについては、期待されていた通りの集団スプリント。それぞれジャスパー・フィリプセンとマーク・カヴェンディッシュという、昨年ベスト1,2のスプリンターがそれぞれ勝利を飾ることとなる。
そして第3ステージの、9㎞個人タイムトライアル。元国内TT王者であり、昨年のU23世界選手権個人タイムトライアル銀メダリストのプラップもまた、上位入賞候補として大いに期待されていたがーースタートラインに立った彼は、まさかのノーマルバイク。
最終的に優勝者シュテファン・ビッセガーから1分16秒遅れの区間102位でフィニッシュしたプラップ。
完全に、明確に、翌日の山岳ステージでのアシストに全力を尽くすための、意図的なセービングであった。
わずか21歳のネオプロにそこまでのことをさせるイネオスの本気度と、彼に対する信頼、そしてプラップ自身の強いプロ意識とこの最強チームの一員としてこの場にいることへの強い自負を感じさせる一幕であった。
そして第4ステージ。いよいよ始まる、今大会最初の山頂フィニッシュ。
ラアス・アル・ハイマ首長国にあるUAE最大の山ジャベル・ジャイスの登坂は、登坂距離21.1㎞、平均勾配5.4%、最大勾配9%の、決して厳しすぎはしないがひたすら長く、一定ペースの勾配が続く登り。
爆発的な登坂加速力よりも、淡々と連続してハイペースで登ることが求められる、チーム力が結果に出やすいタイプの登りとなっている。
この登坂が開始されてしばらくは、前日の個人TTで総合リーダージャージを手に入れたEFエデュケーション・イージーポストが先頭を牽引。
そして残り15㎞からは、この日最大の優勝候補タデイ・ポガチャル率いるUAEチーム・エミレーツがいよいよ牽引を開始していく。
まずは前日区間6位のTTスペシャリスト、ミッケル・ビョーグが牽引。そして残り12㎞からは最強山岳アシストの1人、ジョージ・ベネットが先頭を代わり、一気にハイ・ペースで刻んでいく。このペースアップにより、集団の数は40名未満に絞り込まれていく。
さらに、残り8.5㎞でベネットが仕事を終えると、今度はラファウ・マイカがアタックを仕掛ける。一度引き戻された後、残り7.1㎞でアンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオのレイン・ターラマエが抜け出すと再びここにマイカが反応。さらにクリス・ハーパー(ユンボ・ヴィズマ)やジーノ・マーダー(バーレーン・ヴィクトリアス)などがこれに連なり、総勢6名の実力者たちが抜け出す格好となる。
そして、イネオスはここに1人も乗せることができなかった。
故に、残された集団の牽引役を担わざるを得ないのが、彼らであった。
そしてその役割は必然的に、この男に託されることとなる。
ルーク・プラップ。
この日、長く淡々と踏み続ける本格的な登りで、この時点で残っていた25名の中に、彼はエースのアダム・イェーツと共にしっかりと残っていた。
そして、彼は先頭に立ち、抜け出した6名の追走を開始した。
残り4.3㎞。プラップの手により、6名は引き戻される。
このカウンターで再びクリス・ハーパーがアタックすると、今度もプラップがマイカと共に反応して引き戻す。
残り3.2㎞。
ターラマエが集団の先頭を牽き、チームのエース、ヤン・ヒルトのための全力牽引を開始。
これが残り2.9㎞で力尽きると、今度はヒルト自身がアタック。
そこにタデイ・ポガチャルが反応したことで、7名の精鋭集団が抜け出すこととなる。
ヒルト、ポガチャル、アダム・イェーツ、アレクサンドル・ウラソフ、ロマン・バルデ、ペリョ・ビルバオ、そして・・・ルーク・プラップ。
各チームのエース陣ばかりで形成されたこの強力な小集団の中で、唯一のアシストとして、プラップが入り込んでいたのである。
だが、UAEチーム・エミレーツはこの日、完全試合を望んでいた。
この小集団でポガチャルは積極的な動きは見せず、散発的なアタックを自ら潰す役に徹する。
そして後続集団の先頭はジョアン・アルメイダが牽き、この功あって残り1.3㎞で7名はメイン集団に飲み込まれる。
フラム・ルージュ。
集団の先頭はアルメイダによって長く引き伸ばされ、その後ろにマイカ、ポガチャル。
ライバルのアタックを許さない、徹底したUAEチーム・エミレーツの「トレイン」。
このまま、なすすべもなくポガチャルの勝利で終わるのか?
そうはさせない、と動いたのがプラップだった。
残り600m。
アルメイダがハイ・ペースで牽き倒す高速列車の後方から、彼はさらに速いスピードでアタックし、集団から一気に抜け出す。
当然、これを逃すわけにはいかない。すでに個人タイムトライアルでも時間を失っており、総合では恐れるような存在ではないが、地元UAE最大のレースで課せられたUAEチーム・エミレーツの使命は勝利以外の何者でもなかった。
故に、アルメイダはさらなるペースアップを仕掛け、プラップは引き戻される。
だが、この無理ある動きによりアルメイダはここで脱落。
前日区間5位で総合でもアダム・イェーツを7秒先行しているアルメイダを落とすことは、チームにとっても大きな価値をもつものであり、プラップは最後の最後まで、アシストとしての完璧な仕事を果たしてみせたのである。
最後は結局ポガチャルが区間優勝したものの、アダム・イェーツはアルメイダも抜いて総合4位に浮上。
ルーク・プラップの山岳1日目は、実に上出来の仕上がりとなった。
UAEツアー2022 第7ステージ
ジャベルジャイス山頂フィニッシュのあと、2つの平坦ステージを経てついに最終日。
アブダビ・ツアー時代から恒例となる、アブダビ首長国の名峰ジャベルハフィートへと至る山頂フィニッシュである。
登坂距離な10.8㎞、平均勾配は6.6%。ジャベルジャイスよりも短いが、その分8%以上の勾配区間が長く続くなど、全体的な難易度はジャベルジャイス以上と言ってよいだろう。
過去エステバン・チャベス、ルイ・コスタ、アレハンドロ・バルベルデ、アダム・イェーツ、そしてタデイ・ポガチャルと数多くのトップクライマーたちを優勝者として迎え入れたこの山頂フィニッシュで、今大会の総合争いが決着を迎える。
この登りの途中におけるプラップの活躍は、ジャベルジャイスほど派手ではなかった。残り6.8㎞でラファウ・マイカが飛び出したときに、先頭に躍り出てこれを引き戻したくらいか。ただ、このときすでに20名近くにまで絞り込まれていた集団の中で、彼はこの日もしっかりと、アダム・イェーツの唯一のアシストとして傍に仕えていた。
実際、展開はジャベルジャイスより厳しく、そして早かった。
ジャベルジャイスで区間7位だったジャイ・ヒンドリーも残り4.2㎞で脱落し、同6位のロマン・バルデも残り3.8㎞で脱落。
その時点で先頭にはわずか8名しか残っておらず、3名も残しているUAEチーム・エミレーツを除けば、この時点で唯一残っているアシストがプラップであった。
そして、残り3.2㎞でアダム・イェーツがアタック。その先は、タデイ・ポガチャルとの一騎打ち。後続のプラップの仕事は終了だ。
それでも、最終的に16秒遅れの区間5位でフィニッシュ。総合3位だったアレクサンドル・ウラソフも遅れていく中での上位フィニッシュで、最終的な総合順位は12位。もしも、第3ステージの個人TTで失った1分16秒がなければ、ジョアン・アルメイダと同じ総合5位でフィニッシュとなるところであった。
もちろん、あくまでも所詮はUAEツアーの山である。最後だけ一発どかんと登らせるタイプであり、その登りも決して勾配は急すぎず、プラップのようなTTスペシャリスト系のクライマーには得意なタイプの山でもある。そして、オーストラリア選手権などの影響で、ヨーロッパの選手たちよりも比較的コンディションの面で有利であることも確かだろう。
あとは、3月以降本格化していくレースシーンでどんな活躍を見せてくれるのか。
今のところまだ次のレースの予定は未定のようだが、個人的な期待としては、リッチー・ポートのキャリア最後のグランツールであるジロ・デ・イタリアに、アシストとして出場してくれたら・・・と思っているが、果たして。
ルーク・プラップ。まだまだ無限の可能性を秘めた若き才能について、これからも追っていこうと思う。
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