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サウジ・ツアー2022 プレビュー

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今シーズンJsports放映の最初のレースであり、Jspots初登場となる「サウジ・ツアー」。

そもそもどういうレースなのか? どんな選手が出るのか? といったところもご存じない方もいると思われるため、簡単に解説していこうと思う。

 

今年最初の生中継ロードレース、しっかりと盛り上がって、楽しんでいこう!

 

目次

 

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レースについて

サウジ・ツアーはその名の通り中東の産油国サウジアラビアを舞台としたステージレースである。

過去には1999年から2001年にかけて開催していたこともあったが、以来長らく開催されない期間を挟んで2020年に復活した。

が、昨年は新型コロナウイルスの影響を受けていきなり中止。今年、ようやく復活後2回目の開催にこぎつけることとなった。

 

カテゴリは1クラス。但し、中東マネーが入っていることと、このあとにくるツアー・オブ・カタールやUAEツアーといった中東の重要レースに向けての前哨戦ということで、集まっているメンバーは結構豪華。

サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)、カレブ・ユアン(ロット・スーダル)、ディラン・フルーネウェーヘン(チーム・バイクエクスチェンジ・ジャイコ)、フェルナンド・ガビリア(UAEチーム・エミレーツ)などなど・・・

この顔ぶれからもわかるように、このレースは基本的にはスプリンター向けのレースである。

前回の2020年大会については以下の記事で書いているが、マーク・カヴェンディッシュやフィル・バウハウス、ナセル・ブアニ、ニッコロ・ボニファツィオといったスプリンター勢が熾烈な争いを繰り広げている。

www.ringsride.work

 

いわば、かつて存在した(そして今はUAEツアーの中に組み込まれている)ドバイ・ツアーに近いレースと考えてくれればいい。

あのレースもカヴェンディッシュやエリア・ヴィヴィアーニ、マルセル・キッテル、ジョン・デゲンコルプなどが活躍したスプリンターズステージレースで、実際にスプリンターが総合優勝できる数少ないステージレースの1つであった。

 

とはいえ、今回は第4ステージに割と本格的な登りをフィニッシュ前に用意するなど、2020年大会と比べてもスプリンターたちにとって決して簡単ではない作りとなっている。

まずは今年の全5ステージのコースについて、簡単に確認していこう。

 

 

コース詳細

第1ステージ ウィンター・パーク~ウィンター・パーク 198㎞(平坦)

サウジアラビア北西部の町アルウラ。

メッカ巡礼の宿場町として古くから栄えているこの町は、2035年までに一帯を「世界最大の生きた博物館にする」という壮大な計画が立てられてもいる。

今回はそんなアルウラの、観光拠点となるウィンター・パークを中心に、「シャラン自然保護区(Sharaan Nature Reserve)」をぐるりと回るコースを辿る、自然豊かで雄大な風景を楽しめるコースとなっている。

この日はサッカー・ワールドカップ・アジア最終予選としてまさにこのサウジアラビアvs日本の重要な戦いが繰り広げられる中ではあるが、2022シーズン最初のワールドツアー級スプリント対決が楽しめるこのレースも絶対に見逃さないようにしよう。

(中継開始は20:00から)

 

なお、フィニッシュ前12.6㎞地点には「ボーナスタイムポイント」も。

基本的にスプリンター同士の秒差の争いになりやすいサウジ・ツアーでは、こういったボーナスタイムポイントでの争いも見逃せない瞬間となっていく。

 

第2ステージ タイバ大学~アブー・ラカ 163.9㎞(丘陵)

メディナにある2003年に設立された「タイバ大学」をスタートし、北西部の町アブー・ラカに至る。

この日はスプリントフィニッシュではなく、登りフィニッシュ。

それがどれくらいのものかはわからないが(少なくとも獲得標高は120mくらいはありそうな登りだ)、登りで遅れるようなピュアスプリンターにはやや厳しいかもしれない。

2020年大会では初日に登りスプリントがありルイ・コスタが勝利。マーク・カヴェンディッシュが15秒を失ったことで、彼の総合争いの可能性はなくなり、以後バウハウスをアシストする側に回ることとなる。

 

この日はフィニッシュ前21㎞地点にボーナスタイムポイント。逃げが捕まるかどうか微妙なラインではある。

 

第3ステージ タイマー・ハッダージの井戸~アルウラ旧市街 181.2㎞(平坦)

サウジアラビア北西部のオアシス都市タイマーにある、直径18mの「サウジアラビア最大の井戸」ハッダージの井戸をスタートし、第1ステージの発着地点となったアルウラの町へと戻っていく。

とくに難しいところのないスプリントステージだが、当然砂漠地帯を横切っていくため横風に注意。昨年のUAEツアー初日も横風によって大混乱が巻き起こっていたので、平坦ステージでも油断は全くできない。

ボーナスタイムポイントはフィニッシュ前15.7㎞地点。

 

第4ステージ ウィンター・パーク~ハラット・ウワイリド 149.3㎞(丘陵)

今大会のクイーンステージ。今大会の拠点として使用されているアルウラのウィンター・パークをスタートし、再び大自然の中をぐるりと回ってきた末に、ウィンター・パークの「裏側」に位置する火山ハラット・ウワイリドの一部に登っていくステージである。

登りの獲得標高は少なく見積もっても300mほどあり、それをおそらく2~3㎞で登る必要があり、かなり厳しい登りであることが見て取れる。

一応その山頂(ボーナスタイムポイント)からフィニッシュまでは8.6㎞ほど下り基調の道が続いてはいるものの、このステージの存在ゆえに、今年のサウジ・ツアーは「スプリンター向き」とは言い切れない部分が出てくるかもしれない。

今大会出場予定メンバーの中で登れる選手としては、2020年もステージ優勝しているルイ・コスタ(UAEチーム・エミレーツ)、U23版イル・ロンバルディア覇者でもあるアンドレア・バジョーリ(クイックステップ・アルファヴィニル)、ラ・プランシュ・デ・ベルフィーユで区間3位の経験も持つクサンドロ・ムーリッセ(アルペシン・フェニックス)、あるいは昨年のツアー・オブ・ターキーで登れる姿を見せていたアントン・チャーミン(Uno-Xプロサイクリングチーム)などか。

昨年の勢いを継承し、バーレーン・ヴィクトリアスからサンティアゴ・ブイトラゴなどが突然活躍する可能性もありえるかもしれない。

 

今大会の趨勢を決める重要なステージである。総合優勝を狙うスプリンターたちは果たしてどれだけ残ることができるのか。

 

第5ステージ アルウラ旧市街~アルウラ旧市街 138.9㎞(平坦)

アルウラを中心にぐるりと砂漠の中を駆け巡ったあと、旧市街に入りそこで短い周回(10.3㎞)を3周してフィニッシュする。ボーナスタイムポイントは2回目のフィニッシュライン通過時なので、つまりは残り10.3㎞地点である。

最後の最後まで秒差争いでもつれ込んだときは、このボーナスタイムポイントを巡る各チームの思惑のぶつかり合いも非常に魅力的なものとなるだろう。

この先に控える今年最初のワールドツアーレース、UAEツアーに向けての足の確認という意味でも、非常に重要なステージだ。

 

 

全体的にはやはりスプリンター中心ながら、登りスプリントフィニッシュの第2ステージや、フィニッシュ前8㎞地点に本格的な登りを用意する第4ステージなど、なかなか一筋縄ではいかないコース設定である。

 

そんな中、今年のこの大会で注目すべき選手たちは誰か。

以下、いくつか気になる選手をピックアップしていこう。

 

 

注目選手

※年齢表記は2022/12/31時点のものです。身長/体重はPro Cycling Stats記載のもとなります。

サム・ベネット(ボーラ・ハンスグローエ)

アイルランド、32歳、178㎝、73㎏。

Embed from Getty Images

残念ながら出場はなくなりました! しかし初日のスプリントステージではエストニア人のマーティン・ラースがエースとして走り2位を獲得。

2020年ツール・ド・フランスのマイヨ・ヴェール。すなわち、その年の「最強スプリンター」と言っても良い存在。その彼が、ボーラ・ハンスグローエへと出戻りをする。

元々ボーラ時代はツアー・オブ・ターキーやブエルタ・ア・エスパーニャで、それなりの起伏をものともせず集団を突き放して優勝する姿なども見せてきており、本来は一定の登りにも適性のある選手ということで、登りへの対応が重要になる今年のサウジ・ツアーにおいても総合優勝する可能性は十分にあるだろう。

問題は、これまでクイックステップを離れた選手たちが、元々登りに適性があったり単独でも強かったタイプの選手であっても、純粋なトレインでないとなかなか勝てない体になってしまって調子を落とす、というパターンが良く見られること。

さらにベネットは昨年、怪我の影響もあり振るわないシーズンを過ごしてしまっている。

そういった悪条件を踏まえて、今シーズンの緒戦でどんな走りを見せることができるのか。

なお、ダニー・ファンポッペルとジョルディ・メーウス、マーティン・ラースといった、チームの他のスプリンター勢も連れてきている。

一つは、新生ボーラトレインにおいてそのコンビネーションを試すという側面もあるだろうが、もしかしたら、ベネットがあまり調子が出ないときのリカバリー役としても意味をもつかもしれない。

とくにファンポッペルは昨年ベネット以上に成績を出しているのと、「登れるスプリンター」的な素質も持つことから、ダークホースになりかねない。

その他、マヨルカ・チャレンジで積極的なアタックを見せていた18歳のシアン・エイテブルックスの活躍や、いざ第4ステージでクライマーが総合を争う展開になったときのレナード・ケムナなどにも注目したい。

 

カレブ・ユアン(ロット・スーダル)

オーストラリア、28歳、167㎝、69㎏。

Embed from Getty Images

こちらもピュアスプリンターの印象も強いが、昨年のミラノ~サンレモなどでは、登りでもジュリアン・アラフィリップやワウト・ファンアールトに食らいつき先頭集団に残る強さを見せた。元々「登りフィニッシュ」へは割と適性のある選手で、過去にはドバイ・ツアーのハッタ・ダム山頂フィニッシュでも勝利している。

道中のアップダウンには弱いが、サウジ・ツアーはそこまで道中の難易度は高くないため、十分に勝負できる可能性はある。それでも第4ステージの登りはやや厳しすぎるかもしれないが・・・。

とはいえ、今年の世界選手権は母国オーストラリア。イモラ世界選手権のような2~3㎞程度の登りが重要なポイントになってきそうなコースで、ここで勝利を掴むためにも、今年は登りへの対応が鍵となりそう。もちろん、ミラノ~サンレモにおいても。それを踏まえたうえでの今大会の走りには注目だ。

また、総合は狙えなくても、ピュアスプリントステージでどこまで強さを見せられるか。今年初のワールドツアーレース、UAEツアーに向けての前哨戦という意味でも重要になるだろう。

その意味で、ジャスパー・デブイストやロジャー・クルーゲといったいつものメンバーに加えての、ルディガー・ゼーリッヒやジャラド・ドリズナーなどの新加入メンバーとのコンビネーションにも注目しておきたい。

 

ディラン・フルーネウェーヘン(バイクエクスチェンジ・ジャイコ)

オランダ、29歳、177㎝、70㎏。

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2020年ツール・ド・ポローニュでの大事故の後、サスペンド期間を経て昨年のジロ・デ・イタリアで復帰。そこでは勝利はなかったものの、7月のツール・ド・ワロニーで2勝、8月のツアー・オブ・デンマークで1勝など細々と勝利を重ねつつ、今年、ツール・ド・フランス出場を求めてチーム・バイクエクスチェンジ・ジャイコへと移籍を決めた。

そんな新生フルーネウェーヘンの第1戦。ベネットやユアンといった世界トップスプリンターたちを相手取り、果たして勝利を奪えるのか。今年の彼の調子と、ルカ・メズゲッツやアレックス・エドモンドソンといった新たなアシストたちとの連携に注目である。

なお、彼は2018年のツール・ド・フランスのアルプスで早々にリタイアするなど、基本的には全くといっていいほど登れないタイプに近く、総合優勝は厳しいものとは思われる。このあたりはいきなり変わったりもするので何とも言えないけれど。

 

フェルナンド・ガビリア(UAEチーム・エミレーツ)

コロンビア、28歳、180㎝、71㎏。

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昨年はツール・ド・ポローニュでの1勝だけだが、ジロ・デ・イタリアはじめ上位に入ることはかなり多くあり、実は実績としてはベネットやユアンよりも上だったガビリア。ただ、やはりマッチスプリントでの勝利こそスプリンターの華であり、その辺りが復活できているかどうか。中東との相性は良い選手ではあるので、復活の兆しを見たい。盟友マキシミリアーノ・リケーゼとの、最後のシーズンも楽しんでほしい。

なお、絶好調だった2017年ジロ・デ・イタリアなどではかなり登れる姿を見せていたが、昨今はそういった印象はあまりない。総合優勝を狙う姿はあまりイメージできなさそうだ。

総合という意味では過去アブダビ・ツアー(現UAEツアー)も総合優勝しており、2020年のサウジ・ツアーなどでも区間優勝するなど、中東との相性は高いルイ・コスタに注目したいところ。第4ステージでスプリンターたちを振り落とし、タイム差をつけられるか。

 

アンドレア・バジョーリ(クイックステップ・アルファヴィニル)

イタリア、23歳、176㎝、60㎏。

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密かに期待しているのがこの男。元U23版イル・ロンバルディア(ピッコロ・ロンバルディア)覇者であり、2020年にはジロ・デッレミリアで5位など、登りへの適性は十分に持ち合わせている。とくに今回のサウジ・ツアーくらいの短い登りであればかなり得意な領域と言えるだろう。

さらにスプリント力も高い。2020年にはツール・ド・ラン第1ステージでトム・デュムランから発射されたプリモシュ・ログリッチを差して勝利しているほか、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャ第12ステージではマグナス・コルトが勝利したステージで2位。マイケル・マシューズを後ろに従えている。

第2ステージの登りスプリントなんかでは優勝候補の1人だし、第4ステージでピュアスプリンターたちが削られたあとのスプリントにおいてもかなり強いだろう。途中でしっかりとボーナスタイムを稼いだうえでチームとしても第4ステージでサバイバルな展開を持っていくことができれば、総合優勝候補と見て良い選手である。ダヴィデ・バッレリーニも登れるスプリンタータイプではあるが、本当に厳しい登りのときにはバジョーリに軍配が上がる。

 

 

ほか、ピュアスプリントではアルベルト・ダイネーゼ(チームDSM)、ニッコロ・ボニファツィオ(トタルエナジーズ)、ピエール・バルビエ(B&Bホテルス・KTM)、ヤコブ・マレツコ(アルペシン・フェニックス)らに期待。

第4ステージの勝者については上記コース紹介の際に触れたが、彼らが総合優勝候補になる可能性もある。

 

何しろシーズン序盤。本来であれば強い選手たちもまだ本調子でない可能性もあり、横風含め荒れる展開が期待できもする。

 

今シーズン最初の中継レース、実に白熱したものになることを願っている。

 

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