りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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ブエルタ・ア・エスパーニャ2020 注目選手プレビュー

 

前回のコースプレビューに続き、 今回のブエルタ・ア・エスパーニャで注目したい選手たち合計14名を紹介していく。

もちろん、これらは「活躍する選手たち予想」とはちょっと違う。個人的な趣味主観で選んだ選手たちである。

それでも、少しでも参考になれば幸い。

※年齢表記はすべて2020/12/31時点のものとします。

 

 

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総合系

プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、31歳)

チーム・ユンボ・ヴィズマ所属

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昨年総合優勝者。そして今年のツールの総合優勝候補筆頭、だったのだが・・・。

だが、彼の強さは、あの衝撃的な敗北から見事に立ち直ったことである。それどころか、直後のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで優勝し、このブエルタに果敢に挑戦してきている。

実力でこのログリッチに匹敵する選手は決して少なくはないだろうが、この精神性において並び立つものはそう多くはないように思える。

そして、チームもまた、そんな彼を支える最高のメンバーを再び揃えてきた。本来であればエースを張ることも十分に可能な(そして実際に緊急時にはセカンドエースとなるだろう)トム・デュムラン、ときにログリッチ以上の走りを見せることすらありうるセップ・クス、これもまたエース級の走りを見せるジョージ・ベネットを筆頭に、ベテランクライマーのロベルト・ヘーシンクに、頼れるルーラー役のレナード・ホフステーデなど。

あとは疲労がどこまで影響を及ぼしているか。

 

 

エンリク・マス(スペイン、25歳)

モビスター・チーム

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「アルベルト・コンタドールの後継者」にして2018年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合2位。

それ以降は肥大化し過ぎた期待にはあまり応えられずにいたように思えたが、今年のツールでは総合5位とかなり健闘していた。

だから今回のブエルタでは安心して総合優勝候補に挙げることができる。相変わらずブエルタらしい厳しい山岳ステージの連続には、一番合っているような気がする。

ちなみに結局今回もモビスターはトリプルエース体制。すなわち、アレハンドロ・バルベルデとマルク・ソレル同伴。

ソレルはジロに合わせてツールはあえてステージ狙いに絞っていた説も考えていたが結局ジロ出なかったし単純に不調だった?

今回のブエルタをマスではなくソレルで獲りに来る可能性はもちろん十分にありうるのだが、ソレルは今年は(そしてある意味では昨年はできなかった)ステージ狙いをツール同様集中してもらいたい思いはある。

 

 

ダニエル・マルティネス(コロンビア、24歳)

EFプロサイクリング

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今年のドーフィネ覇者。ツールでは序盤早々に総合争いから脱落していたが、第13ステージでマキシミリアン・シャフマンとレナード・ケムナという強力なボーラのクライマー2人を相手取り全く寄せ付けない横綱相撲を繰り広げてくれた。ケムナはのちにステージ優勝しており実力が劣っていたわけではないのは確かで、とにかくマルティネスの規格外振りを印象付けられた。

それがこのブエルタで今度こそ「グランツール総合」に発揮されるのか否か。正直未知数だが、期待はしたい。

もちろん、このチームにはマイケル・ウッズもいる。彼は2018年ブエルタの総合7位であり、ツールやジロの長くて一定の勾配の登りにはあまり向いていないものの、激坂の多いブエルタの山岳ステージならば相性は良い。

マルティネスかウッズか。読めないが、このチームが強いのは間違いない。

 

 

アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、24歳)

アスタナ・プロチーム

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元U23ジロ・デ・イタリア覇者。元々期待は高い選手ながら、その期待ほどには結果を出せてなかったという印象だったが、今年のアスタナ入りによってその成績を大きく飛躍させた。

すなわち、イル・ロンバルディア3位やジロ・デッレミリア優勝。ティレーノ〜アドリアティコではエースのフルサンを差し置いての総合5位。

よって、ジロ・デ・イタリアでは、ミゲルアンヘル・ロペスと並んでフルサンの筆頭アシストであるばかりか、そのセカンドエースの座にも並び兼ねない存在として大きく注目されていた。

が、胃腸系のトラブルにより第2ステージで早くもリタイア。

そんな彼が、体調を整え、このブエルタにリベンジで復帰。しかもほかにエースがいない中、単独エースとしての参戦で、大いに期待が持てる。

もちろん、(ジロはほぼ出ていないようなものなので実質的に)初のグランツール。全くダメという可能性も大いにあるが、最近の若手の無限の可能性に賭けてみたい。

 

 

ティボー・ピノ(フランス、30歳)

グルパマFDJ

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ある意味で2年連続の失望だった。昨年はシャンゼリゼ直前の第19ステージでの突然の悲劇。今年は第1ステージの落車を原因として、前半のうちに失墜。

ただ、その後自転車に乗ることもしばらく拒否したという昨年と比べると、今年は悲観的な言葉こそ吐いたもののこうしてブエルタのロースターに入ることを決めた。それは純粋に嬉しい。

そしてブエルタ・ア・エスパーニャとピノの相性は決して悪くない。2018年はステージ2勝と総合5位。その直後にはイル・ロンバルディアも制している。

今年も決して気負うことなく、もしあれなら総合エースはゴデュに任せてしまっても良いので、伸び伸びとした走りを見せて欲しい。

 

 

クリス・フルーム(イギリス、35歳)

イネオス・グレナディアーズ

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正直言うと、彼がもう一度復活するとはあまり信じられてはいない。それよりはツールでも良い走りをしていたリチャル・カラパスや、もしかしたら覚醒するイバン・ソーサにチャンスが訪れる方があり得るような気はしている。

それでもやっぱり、彼の復活した走りを見てみたいのが本音ではある。2010年代を間違いなく象徴するライダー。

その強さは今年、エガン・ベルナルがまさかの失速を見せたあのツールを目にしたあとだからこそ、より実感させられる。クリス・フルームという男は、スカイだから勝てたわけではない。スカイであることは重要であったと共に、クリス・フルームという男の類稀なさがなければあれだけの実績を残せなかったのだ、と。

だからこれは夢の話。一方でその夢を実現させてきたのもこの男でもある。

まだ10年代は終わりきってはいない。

 

 

その他注目選手:フェリックス・グロスチャートナー、ギヨーム・マルタン、ワウト・プールス、ダニエル・マーティン、ダビ・デラクルス

 

 

 

スプリンター

サム・ベネット(アイルランド、30歳)

ドゥクーニンク・クイックステップ

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初めて真正面からサガンを打ち破り、マイヨ・ヴェールを手に入れた男。だが、個人の力で彼が最強だったかというと、決してそうではなかったのではないかとも思っている。それはむしろカレブ・ユアンの方で、ツールにおけるベネットの2勝はいずれもミケル・モルコフを中心としたアシスト陣によって支えられていた。

今回もモルコフ、そしてツールではいなかった盟友のシェーン・アーチボルドを連れてきており*1、万全。だがブエルタはツールのようなアシストの力で勝てるようなオーソドックスなスプリントができる機会は少ない。果たして、うまくいくのか?

いや、そもそも昨年のベネットはそんなトレインがなくともこのブエルタで圧倒的な強さを見せていた。それも集団スプリントでのストレートな勝ち方というよりは、登りや混乱を利用したトリッキーな勝ち方で。今年のブエルタ・ア・ブルゴスでも似たような勝ち方をしていた。

今年はドゥクーニンクという最強のトレインを任されてツールに挑んだが故に彼の本来の野性味溢れる戦い方ができていなかったようにも思える。それでいてツール第1週があまり噛み合わず、勝ち星を挙げられなかったことが、第10ステージのあの異例の涙と「この勝ちは僕に相応しくない」という言葉に表れていた。

今回のブエルタも最強トレインを任されてはいるが、それこそ昨年のような、自由な走りによる勝利を目指してもいいように思う。果たして今年も彼は「最強スプリンター」でいられるか?

 

 

パスカル・アッカーマン(ドイツ、26歳)

ボーラ・ハンスグローエ

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プロコンチネンタルチーム時代からの叩き上げであるサム・ベネットと、チームのワールドツアー化に伴い移籍してきたアッカーマン。

アイルランド人のベネットと、チーム国籍であるドイツ人のアッカーマン。

チームを去ったベネットと、チームに残ったアッカーマン。

宿命付けられたライバルであるこの2人が、ついに真正面からぶつかるときが来た。

 

とはいえ、正直今年の実績だけでいえばずっとベネットに分があるようにも思える。シャンゼリゼ含むステージ2勝とマイヨ・ヴェールを手に入れたベネットに対し、アッカーマンはどこかうまくいかない状況が続いている。

強い、強くはある。しかし2位が多い。直近のビンクバンクツアーでも、ラスト1㎞まではかなり良い状態だったのに、そこからの駆け出しが早すぎて失速してしまった。

ある意味、チームメートとのコンビネーションもうまく行ってないとも言えるかも? 今回は盟友ルディガー・ゼーリッヒとジェイ・マッカーシーも連れてきている。アンドレアス・シリンガーもいて、体制はかなりアッカーマン向けだ。ただし純粋なスプリントステージの少ないブエルタでそれがどこまで通用するか・・・。

本来の実力であればまず見てみたいベネットvsアッカーマン。まずは今回はアッカーマンが不調から抜け出すことだ。

 

 

ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、22歳)

UAEチーム・エミレーツ

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ガビリア、クリストフに次ぐUAEエーススプリンターの3番目。そしてその位置に甘んじることなく、その有り余る才能をより発揮できる場所として、来季はマチュー・ファンデルポールのいるアルペシン・フェニックスへ。

とはいえ、UAEもだからといって彼をシーズンの残りの期間蔑ろにするつもりがないことは、直近のシュヘルデプライスでアレクサンダー・クリストフにフィリプセンを牽かせたことからも分かるだろう。ベネット・アッカーマンの2大巨頭に入り込める実力と実績を持つものは、今回のメンバーでは彼だけだろう。

とはいえ、まだグランツールは未勝利。ここで確実に1勝を稼ぎ、飛躍していきたい。

 

 

マッテオ・モスケッティ(イタリア、24歳)

トレック・セガフレード

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元ポーラテック・コメタ。昨年はジロ・デ・イタリアに出場し、4位や5位に入るなどその実力の高さを見せつけた。

そして今年の冒頭。スペインで行われたマヨルカ・チャレンジで、パスカル・アッカーマンを相手取り2勝。アッカーマンの不調を示すリザルトであるとともに、このモスケッティがまたその才能を伸ばし続けていることを示すレースでもあった。

今回のブエルタで勝てるかというとまだ微妙だとは思うが、それでも良い走りはしてくれるはず。

 

 

その他注目選手:ロレンツォ・マンザン、トッシュ・ファンデルサンド、ジョン・アベラストゥリ、ディオン・スミス、マックス・カンター

 

 

 

その他ステージ優勝候補

アンドレア・バジョーリ(イタリア、21歳)

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ドゥクーニンク・クイックステップ

ホアン・アルメイダと並び、レムコ・エヴェネプールの右腕の1人と目されている人物。私が勝手にそう思っているだけの可能性もある。

より純粋にクライマー向けのアルメイダに対し、こちらはパンチャータイプ。そこは兄と同様か。ツール・ド・ランの第1ステージではトム・デュムランに発射されたプリモシュ・ログリッチの前に出てプロ初勝利を掻っ攫ったほか、ジロ・デッレミリアでも鮮烈な走りをみせたうえで5位。

そしてその後のセッティマーナ・コッピ・エ・バルタリでも1級山岳の(ややパンチャー向けの)登りフィニッシュで優勝。最終的にも総合2位と、アルメイダに負けない活躍ぶりを見せている。

今シーズンをこのままで終わらせる男ではないと確信している。今回のブエルタ、きっとどこかで1勝をもぎ取ってくるだろう。

なお、このチームには他に、昨年トレーニーでありながらいきなりレイトアタックからの逃げ切り勝利を決めたヤニク・ステイムル(ベルギー、24歳)と、今話題のハーゲンスバーマン・アクセオン出身で昨年のアメリカ国内選手権の「U23とエリートの両方で」TT王者に輝いた男イアン・ギャリソン(アメリカ、22歳)など、才能しか感じさせない若手が大量に参戦している。

急遽参戦が決まったレミ・カヴァニャも今年絶好調なのは明確で、ベネットと合わせ今回のブエルタ8勝くらいしちゃおう、ドゥクーニンク。

 

 

クレモン・シャンプッサン(フランス、22歳)

AG2Rラモンディアル

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昨年のツール・ド・ラブニール総合4位。そしてピッコロ・ロンバルディア(U23版イル・ロンバルディア)2位。

さらに言えば、AG2Rのトレーニーとして参戦したグラン・ピエモンテでもいきなり9位と、しっかりとその才能を見せつけた、フランスの次代を担う男。

とはいえ、ネオプロ1年目でブエルタ・ア・エスパーニャのエースナンバーを与えられるとは、予想していたものはあまりいなかっただろう。それもこれも、ロマン・バルデ、ピエール・ラトゥールの両名がチームを去ることになってしまったから・・・。

ゆえにこれは、チームとしての意思の表明だろう。

実際には結果を出すことはない・・・と思いきや、ジロ・デ・イタリアのブランドン・マクナルティのように、期待にしっかりと応える走りをしてみせる可能性も。

 

 

マイケル・ストーラー(オーストラリア、23歳)

ロバート・パワー(オーストラリア、25歳)

チーム・サンウェブ 

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ツール・ド・フランス、そしてジロ・デ・イタリアでも余人の想像を超えて活躍し続けるチーム・サンウェブ。

ならばブエルタも、ということでこの2名をピックアップ。ストーラーは今年のヘラルドサン・ツアーで今回のジロで活躍中のジェイ・ヒンドレーのための強力なアシストをパワーと共にしていた。

www.ringsride.work

 

そしてロバート・パワーは上記ヘラルドサン・ツアーに加えて、その前のツアー・ダウンアンダーのクイーンステージの1つ「パラコーム」にて、リッチー・ポートの次ぐステージ2位を記録している。

いずれも才能確かなオージー若手であり、そして若手が次々と実力を発揮していくサンウェブの一員。今回のブエルタで結果を出すのに十分すぎる存在である。

サンウェブはほかに昨年のツール・ド・ラヴニール総合3位のイラン・ファンヴィルダー(ベルギー、20歳)や2年前のツール・ド・ラヴニール総合2位で今年の7/1からサンウェブ正式加入している元SEGレーシングのサイメン・アレンスマン(オランダ、21歳)など、控えめに言ってヤバい若手を大量に連れてきている。

相変わらず平均年齢がぶっちぎりで低いロースターなのに、今やそれが「弱さ」を意味しない。

サンウェブというのは実に不思議なチームであり、そしてワクワクさせてくれるチームだ。

 

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*1:直前でアーチボルドの欠場が決まり、代理でレミ・カヴァニャの出場が決まった。

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