ツアー・ダウンアンダーと並ぶシーズンの開幕レース、ブエルタ・ア・サンフアン。
平坦ピュアスプリントステージ、個人タイムトライアル、本格的な山岳山頂フィニッシュなど、非常にバランスの取れた7日間のレースは、グランツールを狙う選手たちも含めトップ選手たちが集まりやすい。
今年もアラフィリップ、エヴェネプール、サガン、ガビリア、ホッジなどの有力選手たちが集まったこの南米レースの全ステージを振り返る!
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- 第1ステージ サンフアン~サンフアン 163.5㎞(平坦)
- 第2ステージ ポシート~ポシート 168.7㎞(平坦)
- 第3ステージ ウリュム~プンタネグラ 15.2㎞(個人TT)
- 第4ステージ サン・ホセ・デ・ハチャル~ビージャ・サン・アグスティン 185.8㎞(平坦)
- 第5ステージ サン・マルティン~アルト・コロラド 169.5km
- 第6ステージ ビリカン・サーキット~ビリカン・サーキット 174.5km
- 第7ステージ サンフアン~サンフアン 141.3km
- 総評
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第1ステージ サンフアン~サンフアン 163.5㎞(平坦)
ブエルタ・ア・サンフアンの第1ステージは例年通りのピュアスプリンター向けステージ。
サンフアンの前身であるツール・ド・サンルイス時代の2015年から、5年連続でフェルナンド・ガビリアがこの開幕ステージを制し続けてきた。
ゆえに今年もガビリアが最大の有力候補。
だったのだが・・・
ゴール前3.5㎞で観客との接触をきっかけにした大落車が発生。
ステージ優勝候補クリストフ・ラポルトやレムコ・エヴェネプール、オスカル・セビリャなど有力選手たちも巻き込まれた中で、ガビリアもまた、マキリミリアーノ・リケーゼやフアン・モラノといったアシストたちとはぐれてしまった。
残り1.5㎞でボーラ・ハンスグローエが集団先頭を支配。
残り1㎞でドゥクーニンク・クイックステップが隊列を作ってボーラに横からぶつかりながら先頭を奪いにかかる。
残り600mでサガンがドゥクーニンクのトレインを利用する方針に切り替え、あとはドゥクーニンクが完璧なタイミングでホッジを発射すれば・・・と思ったが、その発射のタイミングは幾分か早かった。
残り250mで飛び出したホッジは伸びきらず、その背後につけていたサガンも同様だった。
混乱の中、番手を大きく落としていたガビリアは強烈な追い上げを見せるが先頭のステージ争いには加われず、代わりに集団の右手から飛び出してきたのは、昨年からイスラエルチームに所属するフランス人、ルディ・バルビエだった。
今回、イスラエルは3名のエーススプリンター候補を連れてきていた。バルビエとユーゴ・オフステテールとトラヴィス・マッケイブの3名だ。そのうち、バルビエだけがワールドツアーチームでの経験を持つ。その実績から言えば、たしかにバルビエが最強と言えるかもしれなかった。
それでも、勝利はこれまで1クラスのみで4回だけ。グランツール出場経験もなく、昨年はHCクラス以上でTOP5にも入れずに終わり、その意味ではエースを任されるかどうか、不安はあった。
しかし、しっかりと結果を出した。それも、ガビリアやサガンとあったトップスプリンターたちを相手取って。今年、ワールドツアー初挑戦となるチームに、勝利と総合リーダージャージを持ち帰った。
第2ステージ ポシート~ポシート 168.7㎞(平坦)
昨年・一昨年はこの第2ステージでパンチャー向けの「プンタネグラ・ダム頂上フィニッシュ」を迎え、昨年はアラフィリップが勝利した。
しかし今回は昨日に続くピュアスプリンターステージが用意され、昨日悔しい思いをしたトップスプリンターたちのリベンジの機会が訪れた。
残り1.2kmで、集団の左の方からアラフィリップがスティバル、ファンレルベルフを引き連れて集団の先頭の方へ。
このとき、ファンレルベルフについていかなければならなかったアルバロホセ・ホッジが、コフィディスの選手に阻まれてポジションを上げられず!
ファンレルベルフがそれに気付いてポジションを落としながら迎えにいくが時すでに遅し。サガンも同じく先頭のリードアウターたちから離れてしまい、後続に沈んでしまった。
ポジションが悪かったのはガビリアも同様だった。しかし彼は、残り200mで先頭から8番目(3列目)にまでポジションを上げ、そこからさらに渾身のスプリントを開始してライバルたちをすべてぶちぬいてしまった!
サガンもガビリアの番手を取って加速するが、その彼が完全につき切れしてしまうくらいに、ガビリアの加速は圧倒的であった。
それは、2017年のジロ・デ・イタリアで彼が見せた強さそのものだった。ここ2年、そのときの強さは感じられずにいた、と思っていた自分にとって、いよいよ、昨年のグアンシーでの2勝を経て、強いガビリアが帰ってきたぞ!という思いだった。
なお、個人的に注目したいのは4位に入ったピート・アレハールト。スポート・フラーンデレーンに所属していた昨年、ツール・ド・ユーロメトロポールでプロ3年目にして初勝利を遂げ、信じられないといった表情で頭を抱えながらフィニッシュしていたこの男。
今年からコフィディスに所属し、ワールドツアーチームの一員となった彼は、早速その実力を示したというわけだ。
今後もその活躍に注目していきたい。
第3ステージ ウリュム~プンタネグラ 15.2㎞(個人TT)
昨年優勝者のジュリアン・アラフィリップが前日からの腹痛によりDNS。となれば、今年の最大の優勝候補は昨年3位ーーからさらに大きく成長し、2019年ヨーロッパ選手権タイムトライアル優勝、同年の世界選手権タイムトライアル2位となったレムコ・エヴェネプール一択であった。
実際、圧勝だった。
2位のフィリッポ・ガンナは昨年の世界選手権3位。それだけの実力者でようやくギリギリその影の先端を踏める程度という、圧倒的な安定感と実力を発揮しているエヴェネプール。
このまま、今年のオリンピックも蹂躙してしまうのか?
そして、ここで圧倒的なリードを得たエヴェネプールは、そのまま総合優勝へと邁進していく。
第4ステージ サン・ホセ・デ・ハチャル~ビージャ・サン・アグスティン 185.8㎞(平坦)
レイアウト的には中盤結構登っているが、そこからゴールまでは長く緩やかな下り基調となっており、例年集団スプリントで決着しているこのステージ。今年も、その定番通りの決着となった。
そしてこの日は、UAEチーム・エミレーツが完璧に機能した1日だった。
ゴールが近づいてくる中(残り3〜2kmくらい?)、集団の先頭をオリヴェイロ・トロイアが単独で猛牽引。ここでのペースアップによって、ドゥクーニンク・クイックステップやボーラ・ハンスグローエは集団の先頭を支配できないまま残り1㎞が近づいていく。
そして残り2㎞くらいの右カーブで、トム・ボーリが強烈な加速を見せて集団先頭をキープ。縦に長く伸びた集団の先頭付近をがUAEが占領した。
次にバトンタッチしたのは総合エースのブランドン・マクナルティ。ここでイスラエル・スタートアップネーションが加速して先頭を取ろうとするも、TT能力の高いマクナルティとハイペース巡航はきっちりとこのイスラエルの動きを抑え込む。
続いて前に上がってきたボーラも、マクナルティの加速の前にはついていくのがやっとであった。
そして、完全にUAEが主導権を握る中、突入した残り1㎞。
ここで、フアン・モラノとマキシミリアーノ・リケーゼというガビリアにとっては最も信頼できる2人による最強リードアウト。最後の右カーブを終え、なおも先頭を取ったモラノが残り300mまで牽引。
そしてそこからリケーゼが全力のスプリントを見せ、周りが動こうとし始めたのを察知したガビリアは残り200mを切ったところで早めに飛び出した。
最後のガビリアの判断も良かった。まだリケーゼのリードアウトは続きそうだったが、あそこで待っていると周りのライバルたちに飲み込まれていたかもしれなかった。この日はホッジやバルビエの調子も良く、落ちていくリケーゼの後ろから飛び出したホッジと、その背中からさらに加速したバルビエは、今にもガビリアを捉えそうな勢いを持っていた。
が、結局はガビリアがしっかりと逃げ切った。
この天性の勘ーー絶頂期たる2017年に匹敵するーーとパワーに、2018年のツール・ド・フランスでガビリアに2勝をもたらしたリケーゼを含む最強のトレインとが合わさることで、今年のガビリアは復活の時を迎えそうだ。
第5ステージ サン・マルティン~アルト・コロラド 169.5km
今大会唯一の山岳ステージであり、第3ステージの個人TTと並び総合争いを大きく左右するステージ。とはいえ、総合首位のエヴェネプールと2位フィリッポ・ガンナのタイム差は33秒で、クライマーではないガンナにこの差をひっくり返すのは難しそう。
さらにクライマーとしては3位にオスカル・セビリャがいるけれども、彼も1分以上ものタイム差がついており、さすがにエヴェネプールの総合首位は安泰なんではないかーーと思っていた中での、まさかの波乱。
横風による分断で、ガンナを含む先頭集団とエヴェネプールの集団との間に1分以上のタイム差が。しかもガンナも、登りでもその足を緩めることがなくーー。
昨年まさかのアラフィリップ逆転敗北を喫したこの魔の第5ステージで、どのようにしてエヴェネプールが自らを守り抜いたのか。昨年の展開と共に振り返った記事は以下の通り。
最後は結局エヴェネプールもガンナもセビリャもマクナルティも含んだ小集団でフィニッシュ。
この混戦で最後に抜け出して勝ち切ったのは、アンドローニ・ジョカトリのコロンビア人、ミゲル・フロリス。
過去、このチームのコロンビア人といえばエガン・ベルナルにイバン・ソーサと立て続けに稀有な才能が輩出されている。このフロリスも、名伯楽ジャンニ・サヴィオにより発掘された天才なのだろうか?
結局、元々の総合上位の選手たちは(モビスターのネルソン・オリベイラを除いて)ほとんど先頭集団でゴール。
この登りを終えて総合成績が大きくシャッフルされることはなく、ほぼほぼタイムトライアルの結果がそのまま最終リザルトに反映される結果となりそうだ。
第6ステージ ビリカン・サーキット~ビリカン・サーキット 174.5km
今大会4度目の集団スプリントが見込まれたステージ。
昨年・一昨年のプンタネグラダムフィニッシュがない分、今年のサンフアンはやや単調な7日間になりそうだな・・・と思っていた中で、まさかの展開が。
スタート地点でもありゴール地点でもあるビリカン・サーキットに入ってきた集団を支配していたのは、第4ステージでついにその結束力を見せ始めたUAEチーム・エミレーツの南米トレインであった。
残り500mで彼らはなおも先頭を支配し、そのままエースのガビリアを最高の位置で発射する準備は整っていた。
だが、そのとき、彼らの左手から、弾丸のような勢いで飛び出す青き狼の姿が。
ゼネク・スティバル。今大会はホッジのリードアウターとして参戦していたはずの彼が、この日は北のクラシックにおける「ファーストアタッカー」としての実力を遺憾なく発揮した。
しかし、集団スプリント目前のおよそ人間が自力で出せる最高速度で突き進んでいくトレインの先頭からさらに逃げ延びることのできるアタックって、いったい何なんだ・・・。
ゼネク・スティバルといえば、自分の中でのイメージは、北のクラシックにおける「先鋒役」である。何枚も勝てるカードを持ち合わせているのがドゥクーニンクの強みだが、その一撃目をこのスティバルが浴びせ、これが捕まえられれば別のエースが勝利を狙う、といったパターンが定番だった。
もちろん、スティバルも十分に強いため、その「最初の一撃」が見事に決まり、そのまま勝つパターンも多い。昨年のオンループ・ヘット・ニュースブラッドなんかはそのパターンだ。
今回も、ある意味似たようなパターンだったのかもしれない。アルバロホセ・ホッジはここまで位置取りに苦戦してトレインからの発射がうまくいかないことが多かったが、第4ステージなんかは自分たちのトレインを諦めてUAEチーム・エミレーツのトレインの後ろからスプリントして良いところまでいった。
混戦に強いタイプ、というのが今のホッジかもしれない。ならば、無理してトレインで攻めるのではなく、今大会最強のトレインをもつUAEの動きに対し、これをかき回すような動きで牽制すれば、混戦の中でホッジの勝機を見出せるかもしれないーーそんな風に、スティバルは考えたのかもしれない。
だが、結果的に、誰もが予想した以上に鋭すぎたスティバルのアタック。そのまま彼は、まさかの集団スプリントステージの残り500mからの逃げ切りという、前代未聞な勝ち方を成し遂げてしまう。
レムコ・エヴェネプールだけじゃない。
今年もドゥクーニンク・クイックステップは、「誰もがエース」を地でいく最強チームであることをやめないようだ。
第7ステージ サンフアン~サンフアン 141.3km
最終日はサンフアンからサンフアンまでの完全周回コースで純粋スプリントフィニッシュ。
残り1㎞を切って先頭を支配したのは、今大会最強のトレインを誇るUAEチーム・エミレーツ。
しかし、残り600mで少し後ろにつけていたベルト・ファンレルベルフがホッジを引き連れながら気合で先頭へ。このときの彼の力強さは目を瞠るものがある。
そうしてドゥクーニンクの2人の後ろにつける形となったUAE。
残り400mで、マキリミリアーノ・リケーゼがガビリアを先導するべく左から抜け出そうと加速するが、ガビリアはここで彼についていくことを選ばず、ホッジの後ろに待機することを決めた。
そして残り250m。ホッジのスプリント開始を待たず、まだまだフィニッシュまで遠いこの位置から、ガビリアはスプリントを開始した。慌ててホッジも追いかけようとするが、まったく間に合わず。
ロングスプリントでも一切失速することのなかったガビリアは、そのまま今大会3勝目を飾った。
昨年の不調から一転。大復活を遂げたフェルナンド・ガビリア。
今年こそ、ツール・ド・フランスの舞台で、ガビリアとユアンという名ライバル同士が、本気のぶつかり合いを見せてくれるのだろうか。楽しみだ。
そして、この日は、ペテル・サガンの異様な位置取りについても注目が集まった。
Olha a briga de Sagan no sprint da última etapa da #VueltaSJ2020 pic.twitter.com/naSUGacIgt
— País do Ciclismo (@DoCiclismo) February 3, 2020
黙々とライバルたちを押し除けながら、大会最強のスプリンターであるガビリアの背後をきっちりと捉えたサガン。
この辺りはさすがとしか言いようがない。
ここまでは完璧だったサガンだが、しかし今日のガビリアはあまりにも強すぎた。スリップストリームに入っているのに、まったく手も足も出せなかったサガンは2位こそ死守するものの、ツアー・ダウンアンダーも回避しながらエースとして挑んだこのサンフアンで、結果を出せないまま帰ることになったのである。
今年ジロ初出場のサガン。彼もまた、昨年は決して成功とは言えないシーズンでもあった。
彼の「復活」はあるのか。
総評
今年は例年よりもピュアスプリンター向きのステージも多く、やや盛り上がりに欠けるかもしれないとも思っていたが、スプリントでも意外な勝者が現れたり、クイーンステージでは波乱の展開を見せたり、そして第6ステージではスティバルによるまさかのサプライズアタックが見れたりと、まさにレースは人が作るというか、予想し得ない面白さを常に発揮し続けてくれたのが今年のサンフアンだった。
アラフィリップのリタイアは残念だったが、ルディ・バルビエ、ミゲル・フロリス、あるいはリードアウターとしてのファンレルベルフ・・・意外な「強者」たちの発見も、こういった非ワールドツアーレースの楽しみでもある。彼らの今年の今後の活躍にも注目していきたい。
最終的な総合リザルトは以下の通り。
クイーンステージがどちらかというと横風による混乱に終始し、肝心の登りでは向かい風ということもあってそこまで大きな動きには発展しなかったため、ほぼほぼ第3ステージの個人タイムトライアルが最終成績に影響を及ぼす。
ただ、2位のフィリッポ・ガンナがなんだかんだ第5ステージで遅れなかったのも確かにすごくて、もしかしたら彼も、昨年のファンバーレ同様、イネオスでの「2年目」となる今年、オールラウンダーとしての才覚を発揮してしまうのかもしれない。
そしてオスカル・セビリャの相変わらずの安定ぶり。これで4年連続の総合表彰台である。今年は個人TTでも非常に強かったのが印象的だった。
もちろん、昨年のクイーンステージに続き活躍した、セビリャのチームメートで今回の山岳賞となったニコラス・パレデスも・・・このサンフアン以外ではあまり見ることのない彼らについても、今後どこかで見たときには注目をしていくことにしよう。
そして、レムコ・エヴェネプール。
わずか20歳での、総合優勝。
しかしもはや、誰もこれを驚く人はいないだろう。
今年はジロ・デ・イタリアにてグランツールデビューを果たすというこの男。
それどころか、オリンピックのタイムトライアルあたりでいきなりの金メダリストになってしまってもおかしくはない・・・
そんな、果てしなく高い期待すらもきっと軽々と超えてしまうんじゃないかと思えるこの青年の活躍を、今年も楽しみにしていよう。
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