略号:MTS
国籍:オーストラリア
GM:シェイン・バナン
創設年:2011年
使用機材:スコット
当初はサイモン・イェーツの出場も噂されていたが、結局は出場せず。よって、総合エースはエステバン・チャベスただ一人に委ねられた。
それはすなわち、チームとしても、彼が単独でグランツールのエースになれるまで復調しつつあるということに自信を持っているということだ。その期待に応えることができるか。ニエベ、そしてホーゾンといった強力なアシストも用意されており、彼らは本気である。
もう1つの軸としては、ここ最近調子を上げてきているルカ・メスゲッツによるスプリント勝利がある。とはいえ明確な発射台がいるわけでもなく、あくまでも第一優先はチャベスの総合だとは思われる。
ツールでも4勝という大きな成果を出したこのオージーチームが、ブエルタではどんな走りを見せてくれるか。
※年齢はすべて2019/12/31時点のものとなります。
※身長、体重はProCyclingStatsを参照しております。
- エステバン・チャベス(コロンビア、29歳)
- ダミアン・ホーゾン(オーストラリア、27歳)
- ミケル・ニエベ(スペイン、35歳)
- ニック・シュルツ(オーストラリア、25歳)
- ルカ・メスゲッツ(スロベニア、31歳)
- ディオン・スミス(ニュージーランド、26歳)
- スガブ・グルマイ(エチオピア、28歳)
- サム・ビューリー(ニュージーランド、32歳)
- 総評
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エステバン・チャベス(コロンビア、29歳)
クライマー、164㎝、55㎏、出場日数:52日
2011年ラヴニール覇者。そして2015年のブエルタで、最初のラインレースとなった第2ステージで優勝し、マイヨ・ロホもプントスもモンターニャもすべて手に入れた男。その後ももう1勝し、最終的にも総合5位で終える。その年のブエルタはトム・デュムランの躍進で沸いたブエルタだったが、もう1人の主役は間違いなくこの男、チャベスだった。
躍進は止まらない。翌年のジロ・デ・イタリアで、ステフェン・クライスヴァイクの大落車を経て、第20ステージをマリア・ローザを着て走った。最終的には全グランツール制覇者ヴィンツェンツォ・ニバリによって逆転されるも、限りなく頂点に近い位置でジロを終えた。同年のブエルタでは第20ステージでアルベルト・コンタドールを逆転して総合3位。誰もが、数年以内にグランツール頂点に立つ男と思っていた。
しかし、その後彼は苦難の時を過ごすことになる。
2017年シーズンは初頭で負った膝の怪我により、最大の焦点に置いていたツールも満足する走りができず、ブエルタでも個人TTで大きくタイムを失って総合11位で終わった。
2018年シーズンはサイモン・イェーツとのダブルエースで臨んだジロ・デ・イタリアでステージ1勝するも、休息日明けに体調を崩して総合争いから脱落した。
そしてその後は、伝染性単核球症と診断され、長期のレース離脱を余儀なくされた。
そんな彼が1つの「復活」を遂げたのが、今年のジロだった。昨年のリベンジに燃えるサイモン・イェーツを助けるべく、若きルーカス・ハミルトンと共に彼はアシストとして存分に働いた。
そして第3週。いよいよサイモンが総合争いを継続していくことが厳しくなったとき、チャベスは今度は彼自身のための走りを始めることとなった。
最初の挑戦は2位で終わった。それでも周囲は彼の「復活」を騒ぎ立てた。しかし彼はそれで満足していなかった。
「2位でゴールできたことは嬉しい。けど、まだ十分ではないという思いしかない。ジロが終わるまで、挑戦し続けるつもりだ」
その言葉通り、彼は挑戦し続けた。そして第19ステージ。彼は、5回に及んだアタックの末に、ついに1つのゴールに到達した。
「今日の最後の登りはまるで人生のようだった。どんな困難なことに直面しても、攻撃し続け、挑戦し続け、突き進み続ける必要がある。なぜなら、いつあらゆることが方向転換するかわからないから。そしてそのとき、僕は最初にフィニッシュラインを通過することができるんだ」
「僕の夢は再びかつてのようにグランツールを走ること」ーーそう語ったチャベスにとって、今回のブエルタは、その最大のチャンスと言えるかもしれない。
ダミアン・ホーゾン(オーストラリア、27歳)
オールラウンダー、188㎝、68㎏、出場日数:49日
オーストラリアの若手育成プロジェクト、Jayco-AIS World Tour Academy出身。のちにジャック・ヘイグやルーカス・ハミルトンといった強力な山岳アシストたちを生み出していっているこのプロジェクトのクライマーとしては初期の成功例である(それ以前はカレブ・ユアンなどのスプリンター系が中心だった)。
それを裏付けるようにして、彼は2016年のブエルタ・ア・エスパーニャにて、望外の活躍を見せることとなる。
すなわち、第20ステージ。総合3位のアルベルト・コンタドールとは1分11秒差で4位につけていたエステバン・チャベス。彼は残り40㎞で、逆転を狙うアタックを繰り出した。コンタドールも既に1人。互いに守る者がいない中での追走劇が始まったが、そんな中「前待ち」していたホーゾンが、チャベスのために降りてきたのである。
その後、コンタドールとのタイム差は少しずつ開き、最終的には1分24秒差で先行しゴールしたチャベス。見事、総合逆転表彰台を獲得したのである。
このとき、ホーゾンのツイッターアカウントには、コロンビア人ファンからの感謝のリプライが大量に飛んでいた。自転車ロードレースというスポーツが見せた素晴らしい瞬間の1つであった。
今回、苦しい時を経て、エステバン・チャベスが再びグランツール総合争いの舞台に立とうとしている。それも、彼にとって思い出深いこのブエルタの地にて。
そのアシスト筆頭としてホーゾンが選ばれた。これは、彼にとっても重要な戦いとなるはずだ。
ミケル・ニエベ(スペイン、35歳)
クライマー、173㎝、62㎏、出場日数:52日
元エウスカルテルのエース、そしてチーム・スカイの最強山岳アシスト陣の1人。昨年からはミッチェルトン・スコットの頼れるベテランクライマーとなった。
昨年のジロ第19ステージでサイモン・イェーツが力尽きたときも、最後まで彼を引っ張り上げようとペダルを緩めながら傍らに仕え続けていた姿が印象的だった。ジャック・ヘイグらも有能な山岳アシストではあるが、まだまだ若い。ニエベの存在はチームにとっても重要なものとなるに違いない。
さらに彼の凄いところは、アシストの任から外れた翌日にすぐさまステージ優勝を掴み取ったこと。アシストでさえなければ、十分にエース級の働きができるのだということを身をもって示してくれた。同じようなことを2016年のジロ・デ・イタリアでも行っており、このときはエースのミケル・ランダが早々にリタイア。その中でステージ1勝と山岳賞をチームのために持ち帰っている。
今大会も、チャベスのための最高のアシストであり、かついざというときの「結果持ち帰り役」となってくれるはずだ。
ニック・シュルツ(オーストラリア、25歳)
クライマー、180㎝、68㎏、出場日数:40日
2016年にトレーニーとして参加しながらも、正式加入はせずスペインのプロコンチネンタルチーム・カハルーラルに2年間所属していた。そして今年、ついにこのオージーチームに正式加入。同時に、地元オーストラリアのステージレース、ヘラルド・サンツアーにて嬉しいプロ初勝利。
今回は3年連続となるブエルタ出場。ただし、ワールドツアー、それも本気で総合を狙うチームのアシストとしての参戦は初めて。
ルカ・メスゲッツ(スロベニア、31歳)
スプリンター、183㎝、72㎏、出場日数:56日
2013年にアルゴス・シマノ(現チーム・サンウェブ)でプロデビューを果たし、翌年のボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャで立て続けに3勝したことで、デゲンコルブ、キッテルに次ぐ同チーム第3の男として注目を集めた。その後しばらく大きな勝利には恵まれず、近年はマッテオ・トレンティンの発射台というイメージが強かったが、今年のツアー・オブ・スロベニアで1勝、そしてツール・ド・ポローニュで2勝、登りをものともしないパワーと判断力、スピードに、かつての勢いを取り戻したような印象を覚えた。
そういう意味で、今回のブエルタでも、スプリントには期待したくなる。とはいえ、チームの第一の目標はチャベスによる総合。実際、メスゲッツのための発射台などは用意されていない(スミスが一応、その役割か?)。平坦アシストなどに従事する役割が中心となるかもしれない。
それでも、可能性は信じたい。最終日マドリードなども、その1つのチャンスであるはずだ。
ディオン・スミス(ニュージーランド、26歳)
パンチャー、179㎝、67㎏、出場日数:46日
昨年まではワンティ・グループゴベール所属。今年からミッチェルトン入り。過去にはスパルカッセン・ミュンスターラント・ジロ5位など、スプリンターとしての実績もあるが、ツアー・オブ・ユタでの山越えの後のスプリントでの上位や、今年のカデルエヴァンス・グレートオーシャンロードレースでの終盤の飛び出しへのチェックなど、どちらかというと起伏のあるステージでの活躍が中心となっている。スプリンターとしては軽量であることも、その役割の理由となっているだろう。
今大会も、もしかしたらメスゲッツのための発射台という役割を担っているかもしれないが、それ以外にも山岳ステージでの前待ちや平坦アシストなどが大きな任務となるかも。同国の先輩ルーラー、ビューリーなどに学びつつ、経験を重ねていってほしい。
スガブ・グルマイ(エチオピア、28歳)
ルーラー、175㎝、63㎏、出場日数:45日
MTNクベカ、ランプレ・メリダ、バーレーン・メリダ、そしてトレック・セガフレードとチームを転々としながら黙々と仕事に勤しむ、珍しいエチオピアの選手。今年3年連続5回目の国内TT王者に輝いており独走力は大きな武器。今年のツール・ド・ポローニュでは、その力を活かした積極的な逃げで活躍し、今回のブエルタメンバー内定の決め手となったのかもしれない。
山岳も軽々とこなせる脚質なので、平坦牽引役というよりはやはり逃げを中心に、前待ちなどで活躍してくれるかも。
サム・ビューリー(ニュージーランド、32歳)
ルーラー、出場日数:55日
ニュージーランド人ながら、チーム創設当初からの最古参。プロ勝利は1度もなし。TT能力の高さを生かした牽引役が中心という地味な役回りながら、毎年グランツールのメンバーに選ばれるだけの信頼を勝ち得ているいぶし銀だ。初日のチームTTでも機関車役を担ってくれることだろう。
総評
合計:19点
チャベスのコンディションが本当に十分なのかどうかは未知数だが、アシスト自体は揃っている。不安をひっくり返すような結果を期待している。
メスゲッツはスロベニア、ポローニュで実に素晴らしい走りをしてくれたものの、やはりグランツールで確実に勝てるというわけではないこと、そして専属の発射台がいないことは不安要素。
この2つの軸がうまく機能しなかったときの勝ちを狙える軸として、ニエベ、そしてグルマイにはぜひとも頑張ってほしいところ。
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