グランデパールの地、ブリュッセルで毎年9月に開催される「ブリュッセル・サイクリング・クラシック」。2014年のポディウムは第2ステージでも訪れるアトミウム前に設置された。そのときはグライペル、ヴィヴィアーニ、デマールの順。このツールで、グライペルの復活は見られるか。
Class:ワールドツアー
Country:フランス
Region:-
First edition:1903年
Editions:106回
Date:7/6(土)~7/28(日)
いよいよ開幕目前となった世界最大の自転車ロードレースイベント、「ツール・ド・フランス」。今回はその第1週の10ステージについて詳しく紹介していきたいと思う。
至上最高「標高」のツールと呼ばれる今年。第1週からすでにしてヴォージュ山脈と中央山塊を通過するコースレイアウトとなっており、とくにラ・プロンシュ・デ・ベルフィーユは、例年以上の厳しさを用意して早すぎる洗礼をプロトンに浴びせかける。ここでマイヨ・ジョーヌ候補があらかた絞り込まれてしまうかもしれない。
そんな中、数少ないチャンスをめぐってトップスプリンターたちも凌ぎを削り合う。だが、スプリンターたちが残りづらい厳しい丘陵ステージも多数。
「最強」だけでなく、大金星をつかみ取る選手たちも現れてほしいものだ。
ツールの勝利は本当にそういう選手の人生を変えてしまうのだから。
↓第2週のコースプレビューはこちらから↓
- 第1ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 192㎞(平坦)
- 第2ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 28㎞(チームTT)
- 第3ステージ バンシュ〜エペルネー 215㎞(丘陵)
- 第4ステージ ランス〜ナンシー 213.5㎞(平坦)
- 第5ステージ サン=ディエ=デ=ヴォージュ〜コルマール 169㎞(丘陵)
- 第6ステージ ミュルーズ〜ラ・プロンシュ・デ・ベルフィーユ 160.5㎞(山岳)
- 第7ステージ ベルフォール〜シャロン=シュル=ソーヌ 230㎞(平坦)
- 第8ステージ マコン〜サンテティエンヌ 200㎞(丘陵)
- 第9ステージ サンテティエンヌ〜ブリウド 170.5㎞(丘陵)
- 第10ステージ サン=フルール〜アルビ 217.5㎞(平坦)
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第1ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 192㎞(平坦)
マイヨ・ジョーヌ100周年、そして伝説の選手エディ・メルクスが最初のマイヨ・ジョーヌを着た年から50年を記念する今大会は、メルクスの母国ベルギーの首都をグランデパールとした。
そして、ベルギーといえば、春のクラシックである。そのクラシックの頂点に立つ、ロンド・ファン・フラーンデレンの名物激坂「カペルミュール」ことミュール・ド・グラモン(登坂距離1.2km、平均勾配7.8%)、そしてそれに続く定番のボスベルグ(登坂距離1km、平均勾配6.7%)とを、大会最初の山岳ポイントとして贅沢にも設定した。
よって、この日の逃げはすなわち、カペルミュールの頂点を競う逃げとなる。今大会の最初の山岳賞ジャージ着用者は、カペルミュールの制覇者となるのだ。例年以上に、価値あるファーストエスケープとなることだろう。
しかし、この2つの「クラシック」はあくまでもこの日のスパイスであり、この日の勝者ーーすなわち、今大会最初のマイヨ・ジョーヌ着用者ーーを決める役割を果たすものではない。何しろ、ボスベルグの頂上を越えた後もなお、140㎞以上の平坦が待ち構えているのだから。
その途中には石畳区間も用意されてはいるのものの、それもまた勝敗を分けるものではない。最後は過去多くの場合と同様に、集団スプリントで決着がつくことだろう。
例年、初日のスプリント覇者が、その大会の最多勝利者となることが多い。昨年はフェルナンド・ガビリアが初日勝者となったが、その後のアルプスにて他の多くのライバルたちと共にリタイア。このジンクスが崩れてしまったわけだが、今年は果たしてどうなるか。
ただし、ラスト1㎞は勾配4%程度の緩やかな登り。これが意外な結末を呼び込むかも?
登り勾配ということで、ProCyclingStatsのGameではペテル・サガンが一番人気。
ただ、個人的には、ツール・ド・スイスでのヴィヴィアーニの活躍を見るに、勢いも合わせ彼の勝利に期待したい。
優勝予想:エリア・ヴィヴィアーニ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
第2ステージ ブリュッセル〜ブリュッセル 28㎞(チームTT)
ブリュッセルの中心地に立つブリュッセル王宮を出発し、時計回りに南下して、市街南端の「カンブルの森」脇を通過。そこから北上し、市街北端の「アトミウム」へと向かう。ブリュッセルの観光名所を堪能できるチームTTだ。
コースには4つの登りが待ち受ける。しかしその全てを合わせても登坂距離は2.5㎞程度で、すべて平均勾配は4%程度と、決して厳しいものではない。むしろ直線も多く道幅も広いため、どのチームもかなりの高速で駆け抜けることができるだろう。
チームによってはこの時点で大きなビハインドを抱える危険性のある重要なステージ。失敗は許されない。
チームTTに強いチームとしてはチーム・イネオスやミッチェルトン・スコット、ユンボ・ヴィズマなどに期待したいところだが、第1ステージのヴィヴィアーニ勝利の勢いを受けて、第2ステージもこのチームが掻っ攫うと予想。
事実、アラフィリップ、ランパールト、アスグリーンなど、ここ最近より強くなりつつあるTT巧者たちが揃う。
優勝予想:ドゥクーニンク・クイックステップ
第3ステージ バンシュ〜エペルネー 215㎞(丘陵)
毎年秋に開催されるスプリンター向けクラシック、バンシュ〜シメイ〜バンシュの舞台として知られるバンシュの街をスタートし、フランスに突入してシャンパーニュ地方の中心地、エペルネーへと至る。
ワインの産地として有名である、ということはそれだけ起伏の激しい土地であるということを示す。実際、ラスト50㎞はパンチャー好みのアップダウンが続き、スプリンター勢は早々にやる気をなくすだろう。その中でも生き残ったペテル・サガンやマイケル・マシューズのような登れるスプリンター(というよりはほぼパンチャー)たちが、最後の緩やかな登りスプリントで火花を散らすこととなりそうだ。
なお、この日は、今大会導入された新システム「ボーナスクライム(仮)」が初登場する。ゴール前15㎞地点に用意された3級山岳コート・ド・ミュテニー(登坂距離900m、平均勾配12.2%)の頂上を最初に通過した3名には、8秒、5秒、そして2秒という、やや大きめなボーナスタイムが付与される。
後半の超級山岳ステージにも用意されているようで、昨年の「ボーナスタイムポイント」よりもずっと存在感を放ちそうなこのボーナスクライム(仮)。総合勢がどこまで本気でこれを狙ってくるか、注目しておきたい。
この日はいよいよサガンが勝利。「序盤の登りスプリント」にめっぽう強い彼が今年も相性の良さを見せつける。そして、マイケル・マシューズも強いが、ここで2位に食い込むのがワウト・プールス!・・・と予想。
優勝予想:ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
第4ステージ ランス〜ナンシー 213.5㎞(平坦)
シャンパーニュからヴォージュ山塊へと向かう、平坦移動ステージ。2014年ツールでも、エペルネーからナンシーという、ほとんど同じルートのステージが採用されていた(第7ステージ)。そのときは、マッテオ・トレンティンがわずか数ミリの差でもって、ペテル・サガンを差しきっている。とにかくサガンが勝てない、2位ばっか、といった時期であった(その状態は2015年のアルカンシェル獲得まで続いた)。
トレンティンとサガンの対決だった、ということからもわかるように、当時は登れるスプリンター向きのレイアウトだった。それは、ラスト5㎞に4級山岳が設置されていたからで、まるでミラノ〜サンレモのようなレイアウトだったのだ。
だが今回は、その最後の登りが取り除かれ、その1つ前の4級コート・ド・マロン(登坂距離3.2km、平均勾配5%)を越えたあとは、10㎞の平坦がゴールまで待ち受けているレイアウトとなっている。よって、5年前のような決着ではなく、第1ステージに続く集団スプリントによる結果となるだろう。
ここで「最強スプリンター」のフルーネウェーヘンが最初の1勝。ヴィヴィアーニは惜しくも2位だ。
優勝予想:ディラン・フルーネウェーヘン(ユンボ・ヴィズマ)
第5ステージ サン=ディエ=デ=ヴォージュ〜コルマール 169㎞(丘陵)
いよいよヴォージュの他に足を踏み入れたプロトン。この日は、翌日に控える今大会最初の勝負所ラ・プロンシュ・デ・ベルフィーユに向けての足慣らしステージとなるだろう。
すなわち、逃げスペシャリストにとっては最適なステージだ。立て続けに現れる最後の山岳3連戦のラスト、3級コート・デ・サンクシャトー(登坂距離4.6㎞、平均勾配6.1%)の頂上(からさらに少しだけ登るけれども)からゴールまでは約20㎞。ピュアスプリンターたちは残っていないであろう絞られたプロトンだけで、チャンスを掴もうとする数名のエスケーパーたちを果たして捕まえることはできるか。
逃げが捕まえられたと仮定して、残された集団の中から勝つのは・・・2年ぶりのボアッソンハーゲン! 今年ドーフィネで勝った勢いをそのまま継承していこう。
優勝予想:エドヴァルド・ボアッソンハーゲン
第6ステージ ミュルーズ〜ラ・プロンシュ・デ・ベルフィーユ 160.5㎞(山岳)
ヴォージュ山塊の誇る難関峠ラ・プロンシュ・デ・ベルフィーユは、初登場が2012年と比較的歴史が浅い。しかしこれまでにすでに3度フィニッシュ地点として選ばれてきており、その都度、劇的な勝者を生み出し続けてきた。
2012年はカデル・エヴァンスとブラッドリー・ウィギンスを突き放してクリス・フルームがツール初勝利を遂げた。
2014年はヴィンツェンツォ・ニバリが、その年のツールで4つ挙げる勝利のうちの1つとして、絶対的な実力を見せつけた。
2017年はファビオ・アルが、出場できなかったその年のジロ(100回記念大会であり、彼の出身地サルデーニャをスタート地点とした大会だった)の鬱憤を晴らすかのような鮮烈な抜け出し勝利を飾った。
いずれも印象的な勝利だった。そして今回も、同じように印象的な勝利が演出されることだろう。
しかし今回のラ・プロンシュ・デ・ベルフィーユは、これまでの3回とは少しバージョンを変えている。これまでと同じ登坂距離5.9㎞、平均勾配8.5%の登りを終えたあとに、さらに1㎞の厳しい登りを加えているのだ。それも、未舗装路の!
生まれ変わった「王の山」の頂上で、最初の戴冠を享けるのは誰だ?
さすがに総合勢によって争われるであろうこの日、最初の決定的な勝利を手に入れるのは今最も勢いのある男、アダム・イェーツとみる。ただしマイヨ・ジョーヌに関してはチームTT次第といったところか。
優勝予想:アダム・イェーツ(ミッチェルトン・スコット)
第7ステージ ベルフォール〜シャロン=シュル=ソーヌ 230㎞(平坦)
ヴォージュでの早めの決戦を終え、プロトンは次なる山「中央山塊」へ。移動ステージとなるこの日は、今大会最長コースとなる。
ブルゴーニュワインの産地でもあるフィニッシュ地点、シャロン=シュル=ソーヌは、2017年のパリ〜ニース第3ステージのフィニッシュ地点にも選ばれている。
そのときは、クリストフ、デゲンコルプ、キッテル、マシューズ、デマール、グライペルといった錚々たる面子を全て力でねじ伏せて、サム・ベネットが衝撃的なワールドツアー初勝利を成し遂げた瞬間であった。
今や当然のようにトップスプリンターの座に
収まっていた彼が、その実力の高さを見せつけた瞬間であった。同時に、その年に誕生したボーラ・ハンスグローエが、サガンのためだけのチームではないことを証明した。
ピュアスプリンターのためのステージ。フルーネウェーヘンvsヴィヴィアーニ対決の第2幕は・・・ここもフルーネウェーヘンが勝利。やはりこの男の壁は厚いのか。
優勝予想:ディラン・フルーネウェーヘン(ユンボ・ヴィズマ)
第8ステージ マコン〜サンテティエンヌ 200㎞(丘陵)
7つも(本来のアップダウンの数からすれば7つしか?)の山岳ポイントを乗り越え、3,750mもの総獲得標高を誇るハードコース。
ゴール地点のサンテティエンヌは2014ツールの第12ステージでもフィニッシュ地点に選ばれた。そのときはクリストフが優勝し、続いてサガン、デマール、アルバジーニと続く登れるスプリンター向けのステージであった。しかし今回は登れるスプリンターですら生き残るのは難しいかもしれない。山岳賞獲得を望む丘陵逃げスペシャリストーーたとえばカルメジャーヌとかーーが逃げ切るか、それともゴール直前のボーナスクライムを狙った動きに誘われて総合系が小さな争いを巻き起こすか。
優勝予想:リリアン・カルメジャーヌ(トタル・ディレクトエネルジー)
第9ステージ サンテティエンヌ〜ブリウド 170.5㎞(丘陵)
ツール・ド・フランス2019の第9ステージは「7月14日」、すなわち「フランス革命記念日(パリ祭/バスチーユ・デイ)」である。しかも日曜日。全フランス的に大きな盛り上がりを見せることは間違いない。
さらに言えば、この日のゴール地点はロマン・バルデの故郷。この日バルデがステージ優勝する・・・というのはちょっと難しそうなので、狙いたいのは、第6ステージのラ・プロンシュ・デ・ベルフィーユにて彼がマイヨ・ジョーヌを獲得し、この日のフィニッシュまで着続けること。直前のドーフィネではそこまで良い調子を見せることのできなかったバルデだが、なんとかこの日までに調子を取り戻し、感動的なゴールを演出してほしいところ。
コース自体は前日に引き続き難易度高めのアップダウンステージ。エスケープスペシャリストたちにとってはチャンスを掴みうる日の1つである。
ここはやはり、フランス人による逃げ切り勝利に期待したいところ。2017年にワレン・バルギルがフランス人として革命記念日での勝利を成し遂げたが、その前は2005年まで遡る。カルメジャーヌ、コズネフロワ、ルー、そしてアラフィリップあたりに期待したいところである。
ラストが下り基調というのも予想のうえでは重要な要素かもしれない。
優勝予想:ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
第10ステージ サン=フルール〜アルビ 217.5㎞(平坦)
例年であれば第9ステージまでで終わるはずの第1週が、今年は第10ステージまで。2014年以来となる。
中央山塊を抜けたプロトンは、ピレネーへと向かいまずはオクシタニー地域圏へ。
移動ステージということもあって、スプリンター向けのレイアウトではあるが、とはいえ前半戦は中央山塊の残り香が強烈に漂う。10日間の疲労が蓄積したプロトンが、十分に追走を仕掛けられずに逃げ切られてしまう、ということもありうるだろう。
その際、最もやる気のある男は誰かといえば、アルビ生まれのリリアン・カルメジャーヌ。故郷に錦を飾れるか。
とはいえこの日はそこまで彼向きじゃない。前日までの丘陵ステージで山岳賞ジャージを着ての凱旋、というパターンもアリだ。
なお、アルビフィニッシュは2013年の第7ステージ以来。そのときは途中の2級山岳でピュアスプリンターたちを引き千切ったキャノンデールチームが、そのまま集団スプリントでエースのサガンを勝たせることに成功した。
今回はそこまでの厳しいステージではないだろうが、それでもピュアスプリンターが難なく勝利する、というのは難しいかもしれない。
なお、ゴール地点の近くには有名な石灰岩地帯が広がっているらしく、もしかしたら綺麗なカルスト台地などを空撮で見ることができるかも。
優勝予想については、あえての逃げ切りを予想してみる。長すぎる第1週に疲れを残したプロトンは逃げを捕まえきれない――との予想だ。
2~3名の小規模な逃げにのっていたコズネフロワが、最後のスプリントを制して大金星!・・・なんて展開は激熱だね。
優勝予想:ブノワ・コズネフロワ(AG2Rラモンディアル)
上記の予想がすべて実現すればフランス人3連勝。まあ、そう単純にはいかないよね。
次回は第2週をプレビュー。
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