りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

スポンサーリンク

ツール・ド・フランス2019 コースプレビュー 第2週

Embed from Getty Images

ピレネーの誇る、雄大で美しきトゥールマレー。今年はこの山頂をフィニッシュ地点に定め、熾烈なる総合争いが繰り広げられる。「ピレネーの覇者」は誰だ。

 

「長い第1週」が終わり、「短い第2週」が始まる。

しかし短くとも、そこに含まれたバリエーション豊かなコースの数々は、様々なタイプの「勝者」を生むことだろう。

すなわち、トゥールーズでの最強スプリンター、ポーでの最強TTスペシャリスト、そしてエスケープスペシャリストと、最強クライマー、あるいはトゥールマレーにて現実的になってくる、今年のマイヨ・ジョーヌ候補たち。

 

濃密な第2週を確認していく。

 

↓第1週のコースプレビューはこちらから↓  

www.ringsride.work

 

 

スポンサーリンク

 

 

第11ステージ  アルビ〜トゥールーズ  167㎞(平坦)

f:id:SuzuTamaki:20190630201134j:plain

最初の休息日明けは平穏なスプリントステージ。距離も短く、体調の回復が遅れて大崩れする悲劇が避けられるという意味では的確なコース設定である。

そして、休息日明けで元気も有り余っているスプリンターズチームは無謀な逃げを許すことはないだろう。この日を終えれば、厳しい山岳ステージの連続が待ち受けており、残る平坦ステージは2つしかなくなる。マイヨ・ヴェールを狙うピュアスプリンターたちは何としてでもここで稼いでおかなければならない。さもなければ、山岳ステージで荒稼ぎするペテル・サガンやマイケル・マシューズに緑のジャージを奪われてしまうのだから・・・。

トゥールーズのフィニッシュ地点は、2008年にマーク・カヴェンディッシュが、自身2度目のツール勝利を成し遂げた地である。その年は4勝、翌年は6勝、その翌年は5勝、その翌年も5勝、その翌年から(初日リタイアの2014年を飛ばして)3勝、2勝、1勝と衰えを見せ始めるも、2016年には再び4勝。エディ・メルクスに次ぐツール30勝を記録する男は、間違いなく史上最強スプリンターの1人であった。

Embed from Getty Images

そんな彼が、今年のツールには出場しない。デゲンコルプも、キッテルも。

1つの時代が、終わろうとしている。

 

もちろん、若き才能の台頭は著しく、それは実に喜ばしいことである。

この日も新たな時代の最強トレインが戦場を支配するだろう。マーク・カヴェンディッシュの2012年以来の「ダブルツール」を達成したこのスプリンターが。

優勝予想:エリア・ヴィヴィアーニ(ドゥクーニンク・クイックステップ) 

 

 

第12ステージ  トゥールーズ〜バニエール=ド=ビゴール  209.5㎞(山岳)

f:id:SuzuTamaki:20190630201449j:plain

いよいよピレネーに突入する。この日のゴール地点バニエール=ド=ビゴールは、2013年ツールの第9ステージ、すなわち第1週最終日に訪れている。

その前日、アクス・トロワ・ドメール山頂フィニッシュで、クリス・フルームとリッチー・ポートが圧倒的な力でライバルたちをねじ伏せていた。しかし、2級山岳1つと4つの1級山岳が立て続けに登場するハードな山岳ステージとなったこの第9ステージで、ポートを含むチーム・スカイのアシスト陣は総崩れ。丸裸となったフルームが危機的な状況に瀕していた。

最終的に最後の登りの頂上付近でアタックしたダニエル・マーティンとヤコブ・フルサングが抜け出して、最後のスプリントをマーティンが制して彼のツール初優勝を成し遂げた。

Embed from Getty Images

そんな激動の争いとなった2013年のバニエール=ド=ビゴールだが、今大会ではそこからいくつかの山を取り除いた幾分か平穏なステージとなっている。ピレネー最初のステージというシチュエーションと、前半平坦、後半山岳というプロフィールから考えると、どちらかというと当時の第8ステージ、アクス・トロワ・ドメーヌに近いレイアウトと言えるだろう。

だから、今年のこのバニエール=ド=ビゴールでは、総合勢はまだ動きを見せないかもしれない。山岳もこなせる逃げスペシャリストが、あのときのマーティンとフルサングのように、1級ラ・ウルケット・ダンシザン(登坂距離9.9km、平均勾配7.5%)の頂上5㎞手前からのアタックを仕掛け、そのまま逃げ切るというパターンが一番多いかもしれない。

ただ、今年新設の「ボーナスクライム」の存在に旨味を覚える総合勢がいれば、そのエスケーパーたちの夢も儚く消え去ることだろう。足に余裕のあるトップクライマーたちの8秒を巡る争いも十分に考えられる。

やはりこのボーナスクライム、レースを単調にしないという役割には十分に資するシステムかもしれない。

 

優勝予想は、CCCチームの逃げ巧者デマルキで。ドーフィネでも勝てなかったが、積極的な動きを見せていた彼の動きには要注意だ。

優勝予想:アレッサンドロ・デマルキ(CCCチーム)

 

  

第13ステージ  ポー〜ポー  27.2㎞(個人TT)

f:id:SuzuTamaki:20190701222019j:plain

ツールではもはや定番の「ピレネーの玄関口」にて、今年唯一の個人タイムトライアルが開催される。距離は27㎞と実に短く、若干の登り勾配も含まれているという点で、TTの苦手なクライマーにとってはここさえ凌ぎきれば・・・といったステージとなっている。逆にTTが得意なオールラウンダーたちは、ここで少しでも稼いでおきたいところ。

カーブは多くなく直線基調。ハイスピードな展開が期待される。残り15㎞あたりからの下りがやや長く、鋭角カーブを有している点に注意。TTの秒差の争いは、しばしば下りでのアグレッシブさがモノを言う。今年のジロの最終日のチャド・ハガの勝利や、2013年ツールのクリス・フルームの勝利のように。一方で、下りでの無謀さが悲劇に繋がることも多い。エドワード・トゥーンスはかつてツールのTTの下りで大怪我を負い、長い休養期間を経験することとなった。先日のフルームの大落車もまた、下りでの悲劇であった。

さて、この日のレイアウトおよび距離は、今年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ第4ステージと酷似している。そのときの記録を参考までに以下に記そう。

f:id:SuzuTamaki:20190616184742p:plain

今大会に出場する総合勢で言うと、 上記4位のクライスヴァイクを基準にして

  1. ステフェン・クライスヴァイク
  2. エマヌエル・ブッフマン(+2秒)
  3. アダム・イェーツ(+7秒)
  4. ヤコブ・フルサング(+18秒)
  5. リッチー・ポート(+30秒)
  6. ティボー・ピノ(+32秒)
  7. ナイロ・キンタナ(+47秒)
  8. ダニエル・マーティン(+49秒)
  9. ロマン・バルデ(+1分01秒)

 

ドーフィネ総合でも好調だったブッフマン、イェーツがタイムを稼ぐ一方、キンタナやバルデはやはり大きくタイムを落としかねない。

そして、本来は強いはずのポートが、この日までにどれだけ調子を取り戻しているか。

 

なお、出場していなかったスイス組については、ゲラント・トーマスやエガン・ベルナルがTTで上位に食い込んでいた。この辺りも「稼ぐ側」となることだろう。

 

優勝予想はこの人物で。今年、3年連続のスイスTTチャンピオンに輝いた男。ツールでのTT勝利は未経験。

ただし、ピノのアシストという重要な役割をもつ彼がどこまで本気で走れるかは未知数でもある。 

優勝予想:シュテファン・キュング(グルパマFDJ)

 

 

第14ステージ  タルブ〜トゥールマレー  117.5㎞(山岳)

f:id:SuzuTamaki:20190702223751j:plain

100年以上の歴史をもち、80回以上の通過を許した、フレンチ・ピレネーの象徴的な峠トゥールマレー(ツールマレー)。

しかしそれだけの歴史を持ちながら、この峠の頂上がゴール地点になったことは過去たったの3回しかない。

今年はこの伝説の峠を存分に堪能すべく、ひどくシンプルで、かつ短いステージが用意された。

f:id:SuzuTamaki:20190702223839j:plain

最も最近にこの峠をゴール地点にしたのは、峠通過100周年を記念した2010年の大会である。この年は、2つのステージでこの峠が使われ、2つ目となる第17ステージでこの山頂をフィニッシュ地点に置いた。

 

そしてこのとき、「最強」を巡って熾烈な争いを繰り広げていたのが、アンディ・シュレクとアルベルト・コンタドールという、2人の伝説的な名クライマーだったのである。

Embed from Getty Images

 

今年もまた、新たな「最強」の座を巡り、熾烈な争いが繰り広げられることだろう。この日は、今大会2度目の本格的山頂フィニッシュ。本当に強いチームの本当に強い選手が勝つに違いない。

と、いうことで、この日は、エガン・ベルナルに発射されたこの男が勝つと予想。

そして、ベルナル自身も上位でゴールできるだろう。ついてこれたのは彼とフルサングと、あと1~2名程度だ。

優勝予想:ゲラント・トーマス(チーム・イネオス)

 

 

第15ステージ  リムー〜フォワ・プラットダルビ  185㎞(山岳)

f:id:SuzuTamaki:20190702224230j:plain

前半は平坦基調だが、ラスト80㎞を過ぎてから、立て続けに3つの1級山岳が連続し、総獲得標高は4,700mにまで達する。

2週目のラストを飾るに相応しいハードなステージだ。

 

2012年の第14ステージに、ほぼ同じようなコースが採用されている。そのときはメイン集団に15分近いタイム差をつけて先頭はゴルカ・イサギレやジルベール、サガン(!)、そしてルイスレオン・サンチェスなどが逃げていた。最後はサンチェスが得意の「終盤抜け出し」を披露して優勝した。その顔はずっと若いが、今と変わらないポーズで。

Embed from Getty Images

 

だが、今回はそのときのコースの最後に、もう1つの1級山岳プラットダルビ(登坂距離11.8㎞、平均勾配6.9%)を用意した。よって、さすがに今回はサガンが2位になるようなステージではない。

f:id:SuzuTamaki:20190702224546j:plain

前日に激しいバトルが展開されていたこともあって、今回も7年前と同じくプロトンを大きく突き放した少数の逃げ集団によって最後の山岳バトルが繰り広げられることだろう。勝つのは単純なエスケープスペシャリストではなく、歴としたクライマーであるはずだ。

候補となるのは、前日で大きく遅れた実力派クライマー。

たとえばずっと不調で早々に総合争いから脱落していたこの男が、ようやく調子を取り戻してきて自身初のグランツール・・・どころかワールドツアー勝利、なんてのはどうだろうか。

優勝予想:ウィルコ・ケルデルマン(チーム・サンウェブ)

 

ところで、2012年にこのコースが採用された際、忌々しい「撒菱事件」が起きている。もう2度とあんな事態が起きないことを願いたいが、今もなお、命がけで走るライダーたちへのリスペクトの欠けた行為が繰り返されていることは間違いない。

 

次回はいよいよ、第3週。 

 

スポンサーリンク

 

 

スポンサーリンク