総合優勝候補たちに次いで、今度は今年のツールで活躍を期待したいスプリンターたちを抱えているチームを紹介していく。
今年のツールは、昨年出場できていなかった選手も含め、昨年とはまた違った頂上決戦を楽しめそうな状況となっている。サガン、フルーネウェーヘンに加え、今年はヴィヴィアーニ、そしてカレブ・ユアンなど。
一方、その中に交わることが期待されていたフェルナンド・ガヴィリアは不参加となり、クリストフもマシューズもやや不安の残る状態。
そういった、各チームのエーススプリンターたちの「状況」を、丹念に確認していこうと思う。
スプリントバトルもまた、ツール・ド・フランスの重要な華の1つ。
くれぐれも大きな怪我、トラブルなどが、彼らに巻き起こらないように。
※文中の年齢表記はすべて、2019/12/31時点のものとなります。
- ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)
- チーム・ユンボ・ヴィズマ(TJV)
- ボーラ・ハンスグローエ(BOH)
- ロット・スーダル(LTS)
- チーム・サンウェブ(SUN)
- UAEチーム・エミレーツ(UAD)
- バーレーン・メリダ(TBM)
- チーム・ディメンションデータ(TDD)
- コフィディス・ソルシオンクレディ(COF)
- アルケア・サムシック(PCB)
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ドゥクーニンク・クイックステップ(DQT)
期待度★★★★★
昨年、最も勝利数を稼いだ男はエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、30歳)であった。その勝ち方も鮮烈で、彼は「最強」を名乗るのに相応しい男だ。
しかしただ一点、それを名乗るのに躊躇われる部分があるとすれば、それは彼がツールに出ていない、という点だけだ。特に昨年のツールは世界トップスプリンターたちが集い、熾烈な争いを繰り広げた。ジロとブエルタでどれだけ勝利を重ねようと、やはりこのツールで勝ってこそ、真の最強スプリンターを名乗る資格があると思う。
よって、今年のツールはヴィヴィアーニにとって、「最強」を取り戻すための闘いでもある。今年のジロでは悔しい結果に終わった彼も、直前のスイスでは圧巻の2連勝。しかも、やや登り勾配のスプリントで、それを得意とするサガンに並ばせることすらしない勝ち方で。
そんなヴィヴィアーニを支えるのが最強のアシスト陣である。スイスでも活躍したアスグリーン+ランパールト+リケーゼ+モルコフの最強トレインがそのままツール入り。ランパールトあたりは当初は出場予定なかったはずだが、スイスでの大成功から一気に方針転換といったところか。代わりにユンゲルス、ジルベールあたりが外され、完全なるヴィヴィアーニ体制。マスもアシストになりそうなのはデヴェナインスくらい。
ところで平坦牽引役は誰? スイスもいなかったし、まあなんとかなるのか?
チーム・ユンボ・ヴィズマ(TJV)
期待度★★★★★
2017年ツールのシャンゼリゼを制したディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、26歳)は、瞬く間にトップスプリンターたちの頂点に登りつめた。昨年のツールでは勝利数こそ2勝とサガンには劣りガビリアとは並ぶ数字ではあったものの、その勝ち方という点でははっきりと言える。彼こそが「最強」だったと。
そんな彼の走りは今年も輝いている。5月も6月も、あえて大きなレースには出場しなかったことで、最近はそこまで目立っていないようにも感じるが、その実力は衰えることなく輝きを増している。とくに、今年は新たな右腕としてマイク・テウニッセンという存在がいる。彼とのコンビネーションの巧みさはシーズン初頭のレースでも確認でき、最近でもダンケルク4日間やZLMツアーでも遺憾無く発揮されている。
そして、このチームはもう1人の主役がいる。それが、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで鮮烈なる走りを見せた元シクロクロス世界王者ワウト・ファンアールト(ベルギー、25歳)。ドーフィネではチームメートたちの素晴らしい働きで最高のポジションを手に入れて勝利を掴んだ。
彼の強みは、ピュアスプリンターでは残れないような難局も乗り越えてゴールに到達できるということである。いわば、ペテル・サガンやマイケル・マシューズに近い部分があり、マイヨ・ヴェール候補とも言える。
その意味で、フルーネウェーヘンとの棲み分けは問題ない。フルーネウェーヘンが対応できない登りスプリントや丘陵ステージのゴールにおいて、彼が主役となることだろう。
ボーラ・ハンスグローエ(BOH)
期待度★★★★
ペテル・サガン(スロバキア、29歳)は今年、調子が悪いと言われていた。実際、年初にダウンアンダーで1勝を挙げて以来、5月のカリフォルニアまで勝利がなかった。
今期現時点でのチームの勝利数はすでに27にまで伸びているが、そのうちサガンの勝利数は3勝で、割合でいうと11%。ボーラ初年度となる2年前はチームの勝利数33勝のうち12勝を挙げ、3分の1以上の勝利数を稼ぎ出していた頃と比べると雲泥の差である。
ただ、だからと言って、その不調をツールまで引きずりそうかというと、そうでもなさそう。カリフォルニア、スイスと、彼にとって相性のよいステージレースでしっかりと勝利を重ねていくうちに、段々と本来の彼らしさを取り戻してきたような印象を覚える。
一流の選手はモチベーションコントロールも一流。きっとツール本番では、相変わらずの強さを発揮し、自身7度目のマイヨ・ヴェールを手に入れてくれそうだ。
チームとしてはブッフマンの総合も狙って行くことになりそうなので、発射台らしい発射台はおらず、ゴール前では単騎の戦いとなりそう。とはいえそれはサガンの得意技だし、大事なのはゴール前のベストポジションまで彼を運び上げること。そのための要員はブルグハートやガット、ボドナールあたりが入りそうなので、問題はないだろう。
ロット・スーダル(LTS)
期待度★★★★
カレブ・ユアン(オーストラリア、25歳)は今年、間違いなく絶好調な状態にある。登りスプリントという新たな(ある意味原点の)武器を手に入れ、かつジロ・デ・イタリアでは、自身初のグランツールでのダブルウインを手に入れた。直近のZLMツアーでも、フルーネウェーヘン相手に1勝をもぎ取っており、ツール前の状態としては完璧に近い。
ユアンの弱点は、集団内に埋もれてしまうとなかなか自力では前に上がれず一気に順位を落としてしまうこと。一方、しっかりと先頭でスプリントを開始すれば、ライバルたちを寄せ付けないパワーは十分にある。
よって、他のスプリンター以上に、彼を最適なポジションにまで運んでくれるアシストの存在が重要である。ジロでかなりの貢献をしてくれたトーマス・デヘントは今回も参戦予定。彼自身の逃げのチャンスを犠牲にしてでもユアンを助ける姿勢は感動的である。
他にもロジャー・クルーゲ、ジャスパー・デブイストなど、今期何度もユアンを助けてくれている名発射台も同行。
初出場となるツール・ド・フランスでのかけがえのない1勝を掴み取るチャンスは、確実に目の前にまで迫ってきている。
チーム・サンウェブ(SUN)
期待度★★★
2017年のマイヨ・ヴェール、マイケル・マシューズ(オーストラリア、29歳)は、状態がよく読めない選手だ。今年のここまでの調子は決して悪くない。ボルタ・シクリスタ・ア・カタルーニャではステージ2勝とポイント賞、ロンド・ファン・フラーンデレン、ブラバンツペイル、フレーシュ・ワロンヌではシングルフィニッシュ。
しかし、直前のツール・ド・スイスでは、安定して上位に入り込んではいたが、「勝てる走り」ではなかったように思える。サガンとヴィヴィアーニからは、水を開けられていたように思う。
さらに気になるのが、「デュムランの総合を助けるための準備をずっとしてきた」というマシューズの言葉。
登坂力とチームTTのためのTT能力の向上に力を傾けていたという彼は「自分のステージ勝利のためのスプリントの練習も何もしていない」とまで話している。本気で今回のツール、勝てる可能性がないのかもしれない。
とはいえ、もちろん彼もプロなので、デュムラン欠場が決まった瞬間から調整に入っているはずだ。逆に鍛えた登坂力を活かし、3週目の厳しい山岳地帯を誰よりもこなし、シャンゼリゼに賭けるというのもアリかもしれない。
もちろん、マイヨ・ヴェールを逆に狙いやすい脚質になってるかもしれない。勝てなくとも上位に入れることはスイスでも証明はしているので。
あとはまあ、ケルデルマンのサポートを、というのも・・・。
UAEチーム・エミレーツ(UAD)
期待度★★★
昨年開幕ステージを含めた2勝という鮮烈なるツールデビューを果たしたフェルナンド・ガビリアが、今年まさかの欠場。4月にトラック競技で負傷した膝が回復しきっていないことが原因。ジロもそれで早期リタイアしている。
UAEツアーで見せてくれた、アレクサンドル・クリストフ(ノルウェー、32歳)との最強コンビが幻に終わったことはあまりにも残念だ。
逆にクリストフにとってはチャンスが広がった・・・と言いたいところだが、そのクリストフが直前のスイスを見ている限り、あまり調子が良くなさそう。4つのスプリントステージでシングルフィニッシュが1度だけ。それも6位。
スイス直前にスイスで開催されたワンデーレース「グランプリ・ドゥ・カントン・ダルゴヴィ」では2年連続優勝しているし、5月末のツアー・オブ・ノルウェーでもステージ1勝&総合優勝と絶好調ではあったのだが。
昨年のツールでも念願のシャンゼリゼ獲得を果たしたものの、それは並み居る強豪スプリンターたちがアルプスで去り、3勝していたペテル・サガンもピレネーで落車・負傷したうえで、ライバルがデマールやラポルテくらいしかいない状態で、というものだったので。
2014年には2勝しているクリストフ。2016年にもバイク投げの差でサガンに負けているが惜しいところまではいったクリストフ。なんとかそのレベルにまで、再び戻ってほしいという思い。
バーレーン・メリダ(TBM)
期待度★★★
ちょっと前まではプロコンチネンタルチームの選手だったソニー・コルブレッリ(イタリア、29歳)は、本来、ツールで勝ちまくるような強豪選手たちと並んで走れるような存在ではない。2017年に初出場したときには、それまでの勢いはどこへやら、まったく存在感を失ってしまうような状況だった。
そんな中で、昨年は、着実にそのプレゼンスを増しつつあった。
第5ステージ、サガンが勝った登りスプリントでは、あらゆるピュアスプリンターが姿を失う中、早駆けで一時はサガンよりも前に出る姿を見せつけた。あともう少し、といったところで最後にはサガンに抜き去られてしまうが、それでも彼の後ろにはジルベール、バルベルデ、アラフィリップといった錚々たるメンバーが。コルブレッリという男の底力を感じ取った瞬間だった。
今大会も、勝てるとは思っていない。ここまで紹介したトップスプリンターたちをツールという舞台で出し抜けるとは思っていない。
が、その潜在力は十分にある男。ぜひ、感動的なツール初勝利を成し遂げる瞬間を、最も見てみたい男でもある。
なお、雨が降ると実力が1.5倍増しになる。最盛期のキッテルですら敵わなかった。
雨の降るスプリントステージでは注目すべき男だ。
チーム・ディメンションデータ(TDD)
期待度★★
2007年にツール初出場を果たしたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、34歳)は、翌年にいきなりの4勝を挙げ、さらに翌年は驚異の6勝。その翌年もまた翌年も5勝。そのあとは3勝、初日リタイア、2勝、1勝とやや衰えを見せつつも、2016年には再び4勝を果たす復活劇も見せ、エディ・メルクスに次ぐツール30勝を記録している。彼は間違いなく史上最強スプリンターの1人であり、歴史に名を刻み込んだ男であった。
そんな彼が、2017年の落車以来、その栄光に紛れもない陰りを落とし始めている。それでも昨年は、不運に見舞われ続けたがゆえ、という見方ができなくはない。しかし今年に至っては、年初のブエルタ・ア・サンフアンで見せた、「ベストなポジションでスプリントに参加しながらも加速することもできずにずるずると落ちていく」という決定的な姿を見せてしまった。
ハンマー・スタヴァンゲルで解説の飯島氏が述べていたように、スプリンターはゴール直前までにどれだけ体力を残しているかが意外と重要で、その点においてカヴェンディッシュはそれがもう成しえない状態になっているのかもしれない。
それはもしかしたら、そこまで彼を守り続けることのできていないチームに問題があるのかもしれない。ドーフィネ第1ステージで、ボアッソンハーゲンの近くに誰一人チームメートがいなかったことなどを含めて考えても。
そのエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、32歳)もまた、このチームの選択肢の1つだ。2年前のツールでは逃げに乗って終盤で巧妙な抜け出しの末に逃げ切り勝利を決めた。ドーフィネ第1ステージも、混戦の中たった一人で集団の中に残った末に勝利を掠め取った。イレギュラーな状況に強い男だ。
ただ、ピュアスプリントにおいてももちろん可能性は持っている。なにせ、2017年にマルセル・キッテルに対して、本当にごくわずかの差で惜敗した男でもあるのだ。あの年のキッテルは5勝している、かなり絶好調だった時のキッテルだ。
もう1人、注目すべき男がいる。カヴェンディッシュが沈む中、ピュアスプリントにおいてジャコモ・ニッツォーロと並び上位常連となっている男、レイナルト・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ、30歳)。直近のカントン・ダルゴヴィで3位。ツール・ド・スイスでもシングルフィニッシュを連発した。
過去のツール・ド・フランスでは最高8位(2015年)。勝利は厳しいだろうけれども、カヴェンディッシュがやはり厳しい、となったときに、代わって目指すはTOP5入りである。
コフィディス・ソルシオンクレディ(COF)
期待度★★
昨年ブアニからツール出場権を勝ち獲った男、クリストフ・ラポルテ(フランス、27歳)。多少の登り良し、石畳良し、TTも良しと器用な男。昨年ほどではないが今年も調子はよく、年初のエトワール・ドゥ・ベセージュで区間2勝と総合優勝、ツール・ド・ルクセンブルクで区間2勝。きっちり勝ち星を稼いでくれる男だ。ブアニは今年も厳しいか?
ただ、だからといって昨年のツールでラポルテが良かったかといえばそうでもない。第18ステージで2位になっているが、それはすでに強豪スプリンターたちがあらかた去ってしまったあとでのお話である。かつてのコカールほどの活躍もまだ見せられていないといったところだろう。
だからこそ今回出場できたとしたら、さらなる結果が求められる。可能性は十分持っている男なので、ツール・ド・フランス本番の中で、さらなる成長を目指していってほしい。
アルケア・サムシック(PCB)
期待度★★
彼の笑顔が見れないことがこんなにも悲しいなんて。アンドレ・グライペル(ドイツ、37歳)。一時代を築いたカヴェンディッシュ、キッテルと共に、同じタイミングで沈みつつある男。彼もまた、スプリントにすら参加できない状態が続いている。今年の勝利はたったの1つだけ。シーズン初頭の、西アフリカで開催された1クラスの小さなレースでの1勝だけ。
まずはとにかく、彼をゴールまで、力を残した状態で運び上げてくれるチームメートの存在が欠かせない。しかし現在名前の出ている選手たちの中には、本気でグライペルを助けてくれるような存在はほぼ見当たらない。バルギル、デュラプラス、ジェスベール、ブエ・・・それぞれ逃げでの活躍やステージ優勝には期待のできる存在かもしれないが、グライペルを守り、そして最後に発射させる役割を担う存在を、しっかりと準備しなくていいのだろうか?
5月から急遽のチーム加入となった18年英国ロード王者コナー・スウィフトは、グライペルの発射台を務めるための加入だったとも噂されていたが、今回のメンバーの現時点での暫定リストには名前がない。果たして。
とにかくも、グライペルを本当に生かせるかどうかはチームの戦略次第。生かせないなら、言ってしまえばグライペルを連れてくる意味などないくらいだ。
それくらいスプリンターというのは、本当は孤独ではいられない存在なのだ。ゴール前数百メートルの位置では孤独でいてもいいかもしれないが、そこまでの200kmを支える存在を、チームが用意してあげなければならない。とくにツールほどの規模であれば。
もう一度ゴリラが吼える姿を見たい。だからアルケア・サムシック。彼のための体制を、よろしく頼む――。
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