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ジロ・デ・イタリア2019 コースプレビュー 第3週

例年以上の混沌に満ち溢れたジロ・デ・イタリアは、ついに最終週に突入する。

2600mを超えるガヴィア峠はキャンセルされたものの、それでも4000m、5000mを超える獲得標高のステージが連続する。

 

厳しい山岳と、そして最後に待ち受ける17kmの個人TTを経て、栄冠のマリア・ローザを手に入れるのは果たして誰か。

そして、その中を生き残り、最後の第18ステージでの最終決戦においても勝利し、マリア・チクラミーノを手に入れる最強スプリンターは誰か。

そしてジュリオ・チッコーネは、最後までマリア・アッズーラを守り切ることはできるのか。

 

あらゆる展開が、可能性が待ち受ける激動の第3週をプレビューしていく。 

 

↓全チームスタートリストと簡単なプレビューはこちらから↓ 

www.ringsride.work

  

 

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第16ステージ  ローヴェレ〜ポンテ・ディ・レーニョ  194㎞(山岳)

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元々用意されていたのは、220㎞超えのロングステージに、標高2600m超えのガヴィア峠とモルティローロの凶悪なデュオ。

獲得標高は5700mに達するはずだった。

 

しかしいつものことと言えばいつものことだが、積雪による雪崩の危険を鑑みてガヴィアのルートがキャンセル。

代わりに3級山岳を通るルートに変更され、距離も200㎞未満に短縮された。

 

とはいえ、イージーなステージでは決してない。ガヴィアが失われてもなお、獲得標高は4800mにも達する。

厳しさで言えばガヴィア以上のモルティローロもまだ残っている。

 

いずれにせよ、最後の休息日明けのこのステージが、混沌とする総合争いに大きな影響を及ぼすステージとなることは変わりない。

 

 

ガヴィアがなくなったため、勝負所は残り39.6㎞から登り始める1級山岳モルティローロにほぼ絞られた。

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全長11.9㎞、平均勾配10.9%。

 

本当の地獄は残り36㎞地点から現れ、そこからは平均12%の勾配が延々と続く。

最も厳しい区間は残り34.6㎞。

最大18%の急勾配区間が、あらゆる展開をも生み出しかねない破壊的な影響を及ぼすことだろう。

 

モルティローロの山頂からは13㎞ほどの下りと、14㎞ほどの緩やかな登りが待ち構えている。

よほどのことがない限りはモルティローロで今日の勝負は決まることになる。

 

 

4年前のこの舞台で起きた伝説的な走りのことをよく覚えている人も多いだろう。

アルベルト・コンタドール、怒りのモルティローロ30人ごぼう抜き。

メカトラによって大きく遅れた最強の男が、鬼気迫る走りでこの凶悪な登りを見事に征服してみせた。

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今回もまた、同様の伝説的な走りを見ることはできるのか。

今のところ、ニバリやログリッチェにそういった破天荒な走りを期待するのは難しそう。

やるならば、一発逆転を狙わざるを得ない、サイモン・イェーツやミゲルアンヘル・ロペスなどであろうか。

 

 

第17ステージ コンメッツァドゥーラ~アンテルセルヴァ 181km(山岳)

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当然山がちな地形ではあるが、第3週のその他のステージと比べれば、随分とゆるやかなステージのようにも感じられる。

総合勢にとって勝負所は、フィニッシュの3級山岳アンテルセルヴァに限られるだろう。

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残り5㎞地点からフラム・ルージュ(ウルティモキロメトロ)に至るまでが最も厳しい勝負所。

とくに残り3.5㎞からの500mは最大12%の急勾配区間。

今日最大の動きはここで巻き起こることになるだろう。

 

総合勢がそこまで本気にならないことが予想されるため、逃げ切り勝利を狙う選手たちにとっては大きなチャンスとなる日でもある。

とくに前週の最後の日に掴みかけたチャンスを失ってしまったマッティア・カッタネオにとっては、最後のリベンジのチャンスとなるかもしれない。

昨年の第18ステージでも3位と悔しい思いをしている、しかし何度くじかれても諦めずに戦い続ける男、カッタネオ。

今度こそ、掴み損ねた栄冠を手に入れられるか。

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第18ステージ ヴァルダーオラ~サンタ・マリア・ディ・サーラ 222km(平坦)

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まったく山がないわけではないが、しかし終盤はほぼほぼオールフラット。

ここまで厳しい山岳地帯を耐え抜いてきたマリア・チクラミーノ候補ーーそれはほぼ、アルノー・デマールとパスカル・アッカーマンに絞られているだろうーーにとって、最終決戦の舞台となることは間違いない。

 

ラスト2km弱も完璧なストレート。

しっかりと舗装された7.5m幅で、今大会最強のスプリンターが誰なのかが決定付けられることだろう。

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第19ステージ トレヴィーゾ~サン・マルティーノ・ディ・カストロッツァ 151km(山岳)

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いよいよ今大会の山岳ステージもあと2つ。

その1つ目は山頂フィニッシュながら、全体的に平均的で緩やかな登りとなっており、壊滅的な事態を生み出すことはなさそうだ。

大きな勝負所は、残り5㎞付近のヘアピンカーブからである。

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翌日の破壊的なステージに向けて足を貯めるか、それだけでは足りないと感じるライバルたちが、もしかしたらこの最後の登りよりも前に早めの攻撃を仕掛けるか。

 

残り90㎞から始まる3級山岳「パッソ・サン・ボルド」も、ヘアピンの連続する登りとなっており、本気の早めアタックの舞台にはなりうるかもしれない。

 

 

何しろ、第19ステージというのは、2016年・2018年において奇跡の大逆転を生み出した曰く付きの舞台なのだ。

何事もなさそうなこのステージにも、もしかしたら魔物は潜んでいるかもしれない。

 

 

第20ステージ フェルトレ~クローチェ・ダウネ 194km(山岳)

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最終決戦の舞台にふさわしい、山、また山の難関ステージ。総獲得標高は5000mを超える。

スタート直後から登り始め、ここでかなりの規模の逃げ集団が形成されるだろう。

その中には、危険な存在も多数含まれる可能性はある。

どこかのチームがプロトンをきっちりコントロールできていればいいが、今大会にそれは望むべくもないだろう。

 

もしかしたらありえないような大逆転の可能性がスタート直後に生まれ、190㎞に渡る大混乱が巻き起こりかねないステージだ。

観る側も最初から最後まで気が抜けないだろう。

 

 

最初の2級山岳での逃げをめぐる大混乱を経た後に、長いダウンヒルを危なげなく過ごし、いよいよこの日最初の1級山岳「パッソ・マンゲン」に。

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山頂からゴールまではまだ116㎞もある。

しかしそんなことお構いなしに、総合勢による熾烈な攻撃が繰り広げられそうだ。

 

勝負所は残り129㎞地点から。

アスタナやモビスターが前待ち要員を置いた上で強烈な攻撃を仕掛けそうだ。

 

なお、ガヴィア峠がキャンセルされたことで、この山の山頂がチマ・コッピ(大会最高標高地点)に。

山岳ポイントもボーナスがつくため、山岳賞を狙う選手たちーー現時点ではジュリオ・チッコーネが頭1つ2つ飛び抜けているーーは何としてでもとっておきたいポイントだ。

昨年は第20ステージで大量に山岳ポイントを獲得したチッコーネだったが、チマ・コッピを獲得したクリス・フルームには届かず、マリア・アッズーラ獲得を逃している。

今年はここまで圧倒的な数字をもって山岳賞首位を走っているチッコーネ。

しかしこの第3週でその勢いを止めてしまい、かつこの日のチマ・コッピを誰かに取られるという事態になれば、再び失望のまま3週間を終えてしまいかねない。

 

この日以前にジャージを確定できていればそれでよいが、そうでなければこの日の走りはチッコーネにとって人生を賭けるほどのものとなるかもしれない。

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2級山岳を1つ経て、あまりにも長い長いダウンヒルーーユンボチームにとっては苦い思い出だーーを経て、そしていよいよ最後の登り、クローチェ・ダウネ2連続登坂が待ち受ける。

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ゴールまで残り14㎞から、最初の2級山岳の最も厳しい区間が始まる。

大会最後の登坂バトルのゴングが、ここで鳴り響く。

 

 

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そのあとは4㎞のダウンヒルを経て、ラスト7㎞は勾配のある程度一定した中難易度登坂。

3週間の戦いの疲労、そしてこの日の190㎞の疲労の果てに、レイアウトからだけでは想像のできない激しい攻防、ドラマが待ち受けていることだろう。

 

 

ログリッチェ以外の選手にとって、この日はただマリア・ローザを手に入れれば良い日ではない。

翌日に1分以上のタイム差をつけられてしまうことを予想しながら1秒でも多くタイムを稼いでおく必要がある。

 

逆にログリッチェにとっても、この日までにどんな状態であるかによって、走り方を変えていく必要がある。

たとえば第2週終了時点のように、40秒50秒以上のタイム差をつけられて誰かにマリア・ローザを奪われている状態であれば——最終日にそのタイム差をひっくり返せるという確証がない限り、彼もまた、勝負に出る必要があるだろう。

 

今年のジロは例年以上に、最後まで全く、予想がつかない。

ただ一つ言えるのは――この日、山岳最終決戦。

3週間の戦いの結末の全ての鍵は、間違いなくこの日に凝縮されることとなるだろう。

 

 

 

 

第21ステージ ヴェローナ 17km(個人TT)

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ツール・ド・フランスやブエルタ・ア・エスパーニャ、あるいは昨年のジロ・デ・イタリアのように、最終ステージはスプリンターたちのための日であり、総合優勝候補たちにとっては平穏なパレードランのような日となる――なんてことはない。

最後に待ち構えるのは、2年前のジロのようなTT決戦。あのときは、前日までの山岳ステージでナイロ・キンタナやヴィンツェンツォ・ニバリらに逆転されたトム・デュムランが、最後にきっちりと「予定通り」に51秒差を逆転し返した。 

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第2週終了時点で、今大会最強のTTスペシャリスト、プリモシュ・ログリッチェは総合首位リチャル・カラパスに対して47秒差。

たとえこのタイム差がこのまま縮まらなくとも――2年前と同じ逆転劇が起こる可能性は、もちろん・・・ある。

 

しかし、である。

29.3kmあった2年前と違い、今年は17kmでしかない。

しかも、ほぼ下り基調のハイスピードレイアウトであった2年前と違い、今年はクライマーにとっても絶対的に不利ではない丘陵レイアウト。

 

2年前と同じ展開が期待できるとは言えない。

47秒差がこれ以上開かなかったとしても――絶対に安全とは、決して言えないのだ。

 

 

いずれにせよ、前日までにどんな展開になっているか、である。

そして、どんな状況であったとしても、この難しい17kmの道のりもまた、どんなことが起きてもおかしくない1日である。

 

すべての選手が古代ローマの円形競技場、アレーナに到達したとき、果たしてその栄冠を手中に収めているのは、果たして誰か。

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