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さながらクラシックレースのよう!? 各チームの戦略が光ったクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ2019 第1ステージ

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今年のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネの第1ステージは、序盤に1級山岳、終盤に2級山岳を含む周回コースを2周するという、逃げ切りも十分に可能なレイアウト。

とはいえ最後の2級山岳はそこまで厳しい登りではないことと、山頂からゴールまで18kmあることから、ピュアスプリンターには厳しくても多少登れるスプリンターであれば最後まで残り、集団スプリントを狙える、そんなレイアウトであることを読み取ることができた。

 

↓各ステージの詳細な解説は以下の記事を参照↓

www.ringsride.work

 

序盤に生まれた逃げは6名。危険な逃げ巧者はアスタナ・プロチームのマグナス・コルトニールセンくらいであり、集団はこの日のステージ優勝を狙うボーラ・ハンスグローエが中心となって牽引。

エースのサム・ベネットをしっかりと最後まで守り抜くことができれば、かなりの確率で勝利を得られるだろう――それはライバルチームにとっても十分にわかっていたことで、それがゆえに彼らと共に集団を牽引しようと積極的に動くチームはほかにほとんどいなかった。

 

そして、だからこそ、彼に勝とうと考えるライバルチームたちにとっては、サム・ベネットのふるい落としこそが、この日最も行うべきミッションだった。

 

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まず動いたのが、ドゥクーニンク・クイックステップ。

 

残り22km。最後の2級山岳の登りを前にして、「トラクター」ことティム・デクレルクが全力で集団を牽引。それは戦いのゴングが鳴り響いたことを示していた。

そして残り21km。登り始めに入るとただちに、ゼネク・スティバルがジュリアン・アラフィリップを引き連れてペースアップ。

これによって彼らが集団から抜け出すことに成功――はしなかったが、それで十分だった。彼らの最大の狙いは達成された。

サム・ベネットはここで大きく遅れることとなった。

 

あとは、ティレーノ~アドリアティコでも「スプリント」で優勝している(そしてかつてこのドーフィネでも「スプリント」で2位につけている)アラフィリップが残っていれば、彼らの勝率はぐっと上がる。

この狙いは十分に達成され、絞り込まれた2~30名程度の小集団の中には、ベネットだけではなくグライペルもブアニも残ってはいなかった。それはのちに下りで追い付いて60名程度にまで膨れ上がった集団の中にさえ、である。

 

この攻撃に成功したドゥクーニンクは、スティバルが仕事を終え脱落したのも踏まえ、一度足を緩めることにした。

代わって集団コントロールを担ったのはチーム・イネオス。先頭はジャンニ・モスコン。クウィアトコウスキーの後ろに、エースナンバーを着るクリス・フルームが配置されている。

 

しかし、イネオスはこの日、そこまでステージ優勝にこだわりはなく、ゆえに、一時は15秒程度にまで迫っていた先頭3名(コルトニールセン、ナーセン、ランブレヒト)とのタイム差はまた徐々に開いていく。

これを嫌ったのがミッチェルトン・スコットだった。

幸いにも彼らのエースであるダリル・インピーはこの日、まだプロトンの中に生き残っていた。昨年も1勝しているインピーはドーフィネとの相性も悪くない。ベネット不在で最もチャンスをもつスプリンターは彼であると言ってもよく、このチャンスを失うわけにはいかない。

万が一にもベネットたちに追い付かれるのを防ぐため、そして、このタイミングでさらにペースアップを図り逃げ切りの可能性を掴みかけている先頭3名を逃さないためにも、残り14km辺りの平坦区間で次々と選手を先頭に送り込み、集団のペースアップを図った。

エーススプリンターのダリル・インピーの前に3名。ジャック・ヘイグ、ダミアン・ホーゾン、ニック・シュルツ。本来はアダム・イェーツのために働くはずのクライマーたちも総動員しての、大作戦である。

Embed from Getty Images

先頭の髭はホーゾン。独走力もそれなりにある彼もこの日全力を賭した牽引を見せ、最終的にはシュルツと共に30秒近く集団から遅れてのゴールとなった。それだけ出し切ったのだ。 

 

実際、彼らのこの牽引がなければ、コルトニールセンたちは逃げ切っていた可能性が高い。残り8kmの時点で30秒弱。

その後、いよいよ残り5kmを切ってから、先頭3名も疲れが出てきて足並みが揃わなくなってきたのと、集団の方でも主にシュルツが中心になって牽引していた体勢から、ローテーションを回してホーゾンやヘイグもしっかりと前を牽く体制に切り替えたのが功を奏した。

タイム差は一気に縮まっていき、 残り3kmでタイム差は12秒。

残り1km、フラム・ルージュを越えて、ついにミッチェルトン・スコットはすべての仕事を終えた。もはや、逃げ3名は目の前。捕まえるのは時間の問題だった。

 

 

残り500m。ナーセンの最後のあがきも意味をなさず、あえなく吸収される3名。

と、同時に、再びドゥクーニンク・クイックステップが動いた。

今度はアラフィリップが先頭に出て、ジルベールを牽引。あのときのアタックでアラフィリップは足を使ってしまっていたのか。最初からこの日はジルベールで行くと決めていたのか。

いずれにせよこの動きにしっかりと反応し、ジルベールの番手を取ったのがインピー。その右隣にワウト・ファンアールト、後ろにCCCチームのヨナス・コッホとボーラ・ハンスグローエのグレゴール・ミュールベルガー。

 

ボアッソンハーゲンはこのとき、前から9番手。列の右側から、まさに加速を開始しようとしていたところだった。

しかし、一人で風にさらされながら8人分を追い越していくのはさすがに厳しい。

そんな中、残り250mで強烈な加速を見せる男がいた。

カチューシャ・アルペシンのニルス・ポリッツ。

今年、ロンド・ファン・フラーンデレンやパリ~ルーベで活躍した彼の、恵まれた体格を生かしたパワースプリントの背中に飛び乗ることで、ボアッソンハーゲンは最高の位置にまで自らを引き上げることに成功したのだ。

 

残り150mの左カーブで、アラフィリップから発射されたジルベールが先頭でゴールに向かって突き進んでいく。

ずっとジルベールの番手を取っていたはずのインピーは――ここで失速。完全につき切れをしてしまった。

 

残り250mからコッホの後ろについていたニルス・ポリッツが一気に加速。今年ロンド・ファン・フラーンデレンでも高いスプリント力を見せていた彼の一撃。

これに最も助けられたのがボアッソンハーゲンだった。

ジルベールはほぼパーフェクトなスプリントだった。パリ~ルーベのベロドロームのように、追いすがるポリッツを決して前には出させない強烈なスプリントだった。

しかし、そんなポリッツの背中から完璧なタイミングでボアッソンハーゲンが飛び出してきた。

 

最高速度はジルベールが60km/hで最も速かった。

しかし飛び出しのタイミングがやや早く最後に失速したジルベールに対し、ポリッツという「船」に乗ってベストなタイミングを掴み取ることのできたボアッソンハーゲンが、最高速度59km/hでゴールラインに先着した。

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実はこの日、ボアッソンハーゲンのチームメートは一切彼の近くにはいなかった。ボアッソンハーゲン以外で最も早くゴールしたのがネオプロのステファン・デボードの3分40秒遅れ。おそらく全員、残り21kmのドゥクーニンクのペースアップで、引きちぎられてしまったようだ。

そんな中、たった一人で集団の中での位置取りを行い、目の前に訪れたチャンスを逃すことなく捕まえて勝負を仕掛けることのできたボアッソンハーゲンは、まさに執念によって勝利を掴み取ったのだ。

 

これでチームとしても今期初のワールドツアー勝利。ボアッソンハーゲン自身にとっても、2年前のツール以来、2年ぶりとなるワールドツアー勝利だった。

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ドゥクーニンク・クイックステップは、サム・ベネットという最大のライバルを引きちぎるミッションには成功した。

ミッチェルトン・スコットも、エースのために危険な逃げをすべて捕まえるという難しいミッションをしっかりとこなした。

 

彼らはチームとして最高の働きを見せ、クラシックレースのような激しい今日の展開を乗り切ったのである。

 

しかし、最後はチームの助けを得られなかった男が、展開と自らの判断を信じて奇跡のような動きで勝利を掴んだ。

まさにロードレース。

今日は8日間のステージレースのたった1つの日であり、総合における大きな動きがあったわけではないが、それでもロードレースとしての面白さが十分に詰まった1日であった。

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↓今大会の全チームスタートリストと簡単なプレビューはこちらから↓

www.ringsride.work

 

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