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ジロ・デ・イタリア2022 コースプレビュー第1週

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Class:ワールドツアー

Country:イタリア

Total km:3,445.6km

Altitude gain:50,580m

First edition:1909年

Editions:105回

Date:5/6(金)~5/29(日)

 

今年最初のグランツール、ジロ・デ・イタリアがやってくる。

今年は元々2020年に予定されていたハンガリースタートが2年ぶりに復活。移動日を挟んでシチリア島に上陸し、イタリアの南の端から北の端まで一気に縦断していく超ロングコースである。

今年の特徴は何と言っても「クライマー向き」。1967年以来最も短いとされる個人タイムトライアルの総距離と、総獲得標高50,580mと相変わらず厳しい山岳ステージの連続で、ピュアクライマーたちに大きなチャンスがもたらされることは必至。

どのチームも絶対の優勝候補と言えない中、予想のつかない3週間が繰り広げられることとなるだろう。

 

今回はその熱い戦いの第1週目、ハンガリーから始まりイタリア中部のアペニン山脈山中のブロックハウス決戦までの9日間のコースを徹底プレビューしていく。

単なるコース紹介だけでなく、同じコースを使った過去のレースの確認や地域の特徴などもできる限り記載しているので、観戦の際のお供にしていただけると幸いだ。

 

全22チーム176名のスタートリストと簡単なプレビューはこちらから

www.ringsride.work

 

目次

 

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第1ステージ ブダペスト 〜 ヴィシェグラード 195㎞(平坦)

「パンチャー向け」開幕ステージ

2年越しの実現となったハンガリースタート。

その初日は、(2年前には予定されていた)個人タイムトライアルでの開幕ではなく、昨年のツールのような「パンチャーズコース」。

普段はスプリンターやTTスペシャリストが優遇されがちな初日総合リーダーのチャンスを、短い登りの得意なアタッカーたちに与えるというのは、新しいトレンドとなっていくのかもしれない。

 

ラスト5㎞まではほとんど障害物のないオールフラットレイアウト。

だが、5㎞を切ってから訪れるヴィシェグラードの街中に立つ、ヴィシェグラード要塞へと登る登坂距離5.6㎞、平均勾配4.2%の登りで、並のスプリンターたちは打ち捨てられていくだろう。

最後に残るのはパンチャーか登れるスプリンターか。

優勝候補はキング・オブ・ジロにして現役で最もピュアなパンチャー、ディエゴ・ウリッシ。

その他、昨年ブエルタ3勝のマグナス・コルトやヘント〜ウェヴェルヘム覇者ビニヤム・ギルマイ、元U 23ロンバルディア覇者のアンドレア・バジョーリに、ジャパンカップ覇者バウケ・モレマ、アンドレア・ヴェンドラーメ、そして今年ブレイク中のアレッサンドロ・コーヴィなんかも・・・。

 

総合系ではリチャル・カラパス、ジョアン・アルメイダ、ギヨーム・マルタン、ペリョ・ビルバオなんかもスプリント力が高く可能性はある。

スプリンターでもカレブ・ユアンなどは十分こなせる可能性はある。昨年の悔しさを晴らす勝利を飾れるか。

もちろん、マチュー・ファンデルプールも最有力候補。実際、一番ありそうなのか、彼のいきなりのジロデビュー勝利と「ピンク・マチュー」の爆誕なのかもしれない。

 

 

第2ステージ ブダペスト 〜 ブダペスト 9.2㎞(個人TT)

小さな登りを含んだ個人TT

世界遺産にも登録されているハンガリー首都ブダペストの「英雄広場(Hősök tere)」を出発する。

初代ハンガリー王イシュトヴァーン1世や中世ハンガリーの最盛期を築いたマーチャーシュ1世らの像に見守られながら、最初の総合争いが始まる。

 

とはいえ、距離は9.2㎞。

ここでそれほど決定的な差が生まれることはないだろう。

それよりはマリア・ローザを狙うTTスペシャリストたちによる熾烈な争いが繰り広げられるか。

 

もちろん、そのためには前日の登りフィニッシュを生き残っておく必要がある。

そしてこの日もまた、最後は登り。

ブダ城がある王宮の丘の中心部に位置する「三位一体広場(Szentháromság tér)」へと向かう、登坂距離1.3㎞、平均勾配4.9%の緩やかな登りである。

 

総獲得標高150m。全体に占める割合は決して多くなく、登れないTTスペシャリストにチャンスがないわけではないが、多少なりとも影響はあるだろう。

短さも相まって一般的にはパンチャータイプに有利とも言え、ペリョ・ビルバオ、ジョアン・アルメイダ、あるいはマグナス・コルトなんかにも可能性はありそうだ。

マチュー・ファンデルプールも昨年のツールTTで好成績を出していただけに侮れない。少なくともこの辺りのメンバーが前日と合わせマリア・ローザ候補となるだろう。

 

なお、三位一体広場には、18世紀にペスト流行の終焉を記念して建てられた三位一体像や、イシュトヴァーン1世の騎馬像なども建てられており、この辺りを観る「観光」もこの日の楽しみである。

 

 

第3ステージ カポシュヴァール 〜 バラトンフュレド 201㎞(平坦)

今大会最初の集団スプリント

ブダペスト南西180㎞に位置する街カポシュヴァールからスタートし、その北方に位置するバラトン湖の北岸バラトンフュレドに至る。

後半はほとんどバラトン湖のほとりを移動するフラットステージで、今大会最初の大集団スプリントが期待される1日だ。

 

昨年はカレブ・ユアンが2勝。一昨年はアルノー・デマールが4勝。

今年の陣容はというと、デマールが「親衛隊」をこれでもかというほど引き連れてきた完璧な布陣である一方、ユアンはロジャー・クルーゲこそいるものの、もう1人の盟友ジャスパー・デブイストの不在は不安要素。新加入リュディガー・ゼーリッヒがどこまで機能するか。

代わりに、クイックステップのマーク・カヴェンディッシュが、「最強」ミケル・モルコフとダヴィデ・バッレリーニ、ベルト・ファンレルベルフを引き連れて4勝すら狙えそうな体制だ。そこに新鋭ビニヤム・ギルマイやマチュー・ファンデルプールらがどう絡んでくるか。

今年も熱くなりそうなスプリンター頂上決戦。まずその第一戦となるジロを制するのは果たして、誰だ。

 

 

第4ステージ アーヴォラ 〜 エトナ 172㎞(山岳)

エトナ山頂フィニッシュ!

ハンガリーからの移動日を挟んで用意されたのがいきなりのエトナ山頂フィニッシュ。

エトナの登りはジロ・デ・イタリアでこれまで6回使われており、2017年以降だけでも今回で4回目である。そしてその直近4回のいずれもが異なるルートを使用している。

 

今回のフィニッシュ地点は2017年と同様だが、そのアプローチはやはり違う。

登坂距離22.8㎞、平均勾配6.6%。

残り9㎞地点に最大勾配14%区間が設定され、そこから残り6㎞地点までは平均勾配9%弱の難関エリアが続いていく。

とはいえ、ここで大きく総合が動くことはないだろう。

直近3回もそれぞれヤン・ポランツ(2017)、エステバン・チャベス(2018)、ヨナタン・カイセド(2020)といずれも逃げ切りが決まっており、メイン集団で抜け出してやろうという動きはあまり起きてはいない。

 

むしろ、ここではまず脱落しないことが重要だ。

2年前はスタート直後のアクシデントでゲラント・トーマスが大幅にタイムを失い、冷たい雨の中で体調を崩したサイモン・イェーツも試合終了。

ジョアン・アルメイダもトップライダー層からわずかにタイムを落としている。

 

もちろんアルメイダはその後、14日間にわたりマリア・ローザを着用してはいる。

挽回可能な程度ならまだいいが、ここでいきなり悲劇的なドラマは流石に見たくない。

 

 

第5ステージ カターニア 〜 メッシーナ 174㎞(平坦)

ヴィンツェンツォ・ニバリの生誕地へ

シチリア島の東岸、エトナ山の麓の、島で2番目に大きな都市であるカターニアから出発し、ヴィンツェンツォ・ニバリの生誕地メッシーナへと至る。

フィニッシュ地点付近では、「メッシーナの鮫」を迎えるファンの熱い応援を見ることができるだろう。

 

途中登坂距離19.5㎞、平均勾配4%の2級山岳を登らせるが、その頂上からフィニッシュまでは100㎞近く残っている。

2020年の第4ステージも同じスタート地点から同じ登りを利用し、そのときはボーラ・ハンスグローエのペースアップによってフェルナンド・ガビリアやエリア・ヴィヴィアーニらが脱落し、最終的にガビリアは復帰できずに終わるが、そのときよりも32㎞も平坦部分が長いため、今回は脱落者は出ずに純粋な大集団スプリントになるはず。

 

最新のメッシーナフィニッシュは2017年。

これを制したのは、その年のマリア・チクラミーノを得ることになるフェルナンド・ガビリア。

2019年以来ジロでの勝利のないガビリアの「復活」はあるか。

 

 

第6ステージ パルミ 〜 スカーレア 192㎞(平坦)

本土開幕戦

イタリア半島の「つまさき」に位置するパルミからティレニア海沿いをひたすら北上し、2000年のヤン・スヴォラーダの勝利以来実に22年ぶりのフィニッシュとなるカラッブリア州のスカレアフィニッシュ。

22年前と同様、ほぼオールフラットの典型的大集団スプリントステージである。

 

なお、そのとき4位に入ったのがファッサ・ボルトロ時代のマッテオ・トザット。そのトザットが今大会もイネオスのチームカーのハンドルを握る。

イネオスは今回、元々予定していたはずのエリア・ヴィヴィアーニも連れてきていないためこの日の優勝争いには加わらないだろうが、余計なトラブルにより総合エースのタイムを失わないよう、気をつけていきたいところ。

 

ラストはひたすらストレートのフィニッシュ。トレイン力でいえばクイックステップ、あるいはグルパマFDJが今回最も強いだろう。

マーク・カヴェンディッシュは最強リードアウターのミケル・モルコフとファンレルベルへ、バッレリーニらに導かれて昨年ツールのような勝利を連発するのか、それとも2020年最強スプリンターのデマールが彼のための完璧な布陣を用意したチームに報いる2回目のチクラミーノを狙うか。

 

 

第7ステージ ディアマンテ〜ポテンツァ 196㎞(丘陵)

総獲得標高4,500m超のハードステージ

ティレニア海沿いの街ディアマンテから、「イタリアの背骨」アペニン山中の町ポテンツァへと至る。

200㎞弱のロングコースの最初の40㎞以外はひたすらアップダウンが続き、総獲得標高は4,510mに達する。

これはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュを超え、イル・ロンバルディアにも匹敵するハードさである(それらよりも総距離は短いにも関わらず!)。

 

3級、1級、2級、3級の4つの山岳ポイントが用意されているが、それ以外にもカテゴリのついていない登りが無数に存在する。

とくに厳しいのが残り69.5㎞地点の(ノンカテゴリの)モンテ・グランデ・ディ・ヴィッジャーノ(登坂距離6.6㎞、平均勾配9.1%)と、直後の残り60.2㎞地点の2級山岳モンテ・スクロ(登坂距離6.1㎞、平均勾配9.7%)の2連続登坂。

 

そしてフィニッシュ前7㎞地点にも登坂距離2.3㎞・平均勾配4.9%の小さな登りが用意され、さらにラスト350mは平均勾配8%・最大勾配13%の激坂フィニッシュ。

基本的には総合争いというよりかは、山岳賞と逃げ切りステージ勝利を狙うエスケープスペシャリストの舞台となるだろう。

ただしプロフィールから分かるように生半可なエスケーパーでは勝利は得られず、しっかりとしたクライマーである必要がある。

そのうえで、ラストの激坂で競り勝てるだけのパンチ力が必要となる。

 

その最有力候補は、昨年も積極的に逃げ続け、ジロでは勝てなかったもののツールでは見事勝利を掴んだバウケ・モレマ(トレック・セガフレード)。

あるいはトーマス・デヘント(ロット・スーダル)やレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)、ナン・ピータース(AG2Rシトロエン・チーム)などの山岳逃げスペシャリストにも期待したいところ。

 

最後の激坂は総合勢でも秒差がつく可能性も。ペリョ・ビルバオのような激坂も得意なパンチャークライマーにはチャンスと言えるだろう。

 

 

第8ステージ ナポリ 〜 ナポリ 153㎞(丘陵)

一筋縄ではいかない周回コースステージ

イタリア第3の都市ナポリにジロ・デ・イタリアのプロトンが訪れるのは、意外にもグランデ・パルテンツァ(グランデパール)となった2013年以来9年ぶり。

その2013年はクリテリウム形式のレースとなり、マーク・カヴェンディッシュがエリア・ヴィヴィアーニとナセル・ブアニを下して勝利を掴んでいる。

 

今回も9年前と同じくクリテリウム形式。

ただし9年前よりずっとアップダウンは激しく、残り100㎞近くから始まる1周19.1㎞の周回コースの中には、登坂距離2.1㎞・平均勾配6%・最大勾配11%のモンテ・ディ・プローチダを含んでいる。

 

残り34.3㎞で最後の周回を終え、スタート地点のナポリに向かうが、フィニッシュ前7㎞地点の位置にも、登坂距離3㎞程度で平均勾配5%程度の登りが用意されている。

そこから下ってナポリ市街にある海沿いの遊歩道「フランチェスコ・カラッチョロ通り」へ。

 

ナポレオン戦争時代のナポリ共和国の英雄で、最後はネルソンによって処刑された提督の名を取ったこの通りはとても美しいが、ラスト1㎞で180度カーブを迎えたあとにストレートでフィニッシュへと導いていくトリッキーなレイアウト。

激しいアップダウンとこの最後のレイアウトは、単純なスプリント決戦以外の可能性を大いに想像させる。

 

レイトアタッカーの名手と呼べる選手は今回来ていないが、たとえばディエゴ・ウリッシやエドワード・トゥーンス、マウリ・ファンセヴェナントなどに注意したい。

プロチームの選手たちにとっても、大きな栄光を掴むチャンスとなりそうなステージだ。

 

 

第9ステージ イゼルニア 〜 ブロックハウス 191㎞(山岳)

総獲得標高5,000mの超重要ステージ

今年のジロ・デ・イタリアの第1週目を締め括るのは、5年前の2017年大会の第9ステージでも用意され、ナイロ・キンタナが鮮やかな独走勝利を飾った「ブロックハウス」山頂フィニッシュ。

しかし今年はそのときよりもさらに厳しい。

何しろ、このアペニン山脈の雄、ブロックハウスを、この日は別方向から実質的に「2回」登ることとなるのだから。

その総獲得標高は5,000mに達し、今大会最初の本格的な総合山岳バトルになることは間違いないだろう。

 

まずスタート直後に3つの山岳ポイントが登場。そのうちの一つ、2級山岳ロッカラーゾは、2020年の第9ステージのフィニッシュとなった山(当時とは登るルートが反対側かもしれないが)。

ここで結構な数の逃げ集団ができるだろうが、彼らがこの日逃げ切れるかは怪しい。それだけ、終盤に用意された2つの山は厳しく、そして総合勢にとってはライバルたちに差をつけるチャンスとなるのだ。

 

残り43.3㎞地点に1級山岳パッソ・ランチャーノ。2020年の第9ステージでも道中に用意されていたこの登りは、ブロックハウスと同じ山を使った別のルートのよう。

登坂距離10.3㎞・平均勾配7.6%。

 

そして勾配7%近い急な下りを経て、残り25.8㎞地点から緩やかな登りが始まる。

本格的なスタートはスプリントポイントの用意された残り13.5㎞地点から。

この距離で平均勾配8.4%というプロフィールが厳しさを物語っている。

最大勾配14%区間は残り5㎞地点に。

そして5年前、ナイロ・キンタナがアタックして独走を開始したのがまさにこの地点であった。

 

最終的にキンタナはティボー・ピノとトム・デュムランを24秒差、バウケ・モレマを41秒差、そしてヴィンツェンツォ・ニバリを1分突き放してフィニッシュした。

キンタナは今年出場していないが、そのキンタナに劣らぬ登坂爆発力を見せるサイモン・イェーツがここで一気にタイムを稼ぐか。

そしてデュムランばりの高出力ペース走行を見せるジョアン・アルメイダが失うタイムを最低限に抑えられるか。

 

今年の総合優勝争いを占う重要な戦いがここで繰り広げられることだろう。

 

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