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ツール・ド・フランス2021 コースプレビュー第3週

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2021年ツール・ド・フランス最終週は、プロフィールだけパッと見ると、そこまで厳しいステージが並んでいるようには見えない。

山岳ステージは2つだけだし、その2つも、前半が平坦基調で最後に2~3個の山が用意されているだけ。

今年のクイーンステージはアンドラ決戦となる第15ステージであると言えそうで、この週は比較的おとなしい戦いが繰り広げられることになりそう・・・果たして本当に?

 

実際には、この週に用意された山岳ステージはいずれも超級山岳「山頂フィニッシュ」。その前にも厳しい登りが数は少ないながらも用意されており、常に登っては下ってではないものの、十分に厳しいバトルが展開されそうである。

さらには、実質的な最終日にあたる第20ステージには、30km超の平坦基調個人TT。第5ステージと合わせ60㎞弱に達する今年のTTが、例年とは違った展開を生み出す可能性もありうる。

 

総合争いがまだまだ白熱しうる今年のツール・ド・フランス最終週を詳細に見ていこう。

 

目次

 

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第16ステージ パ・ド・ラ・カーズ〜サン・ゴダンス 169km(丘陵)

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登っては下って、また登って・・・決して標高が著しく高く、厳しすぎるわけではないものの、ジェットコースターのようなレイアウトは山岳逃げを得意とするエスケーパーたちにとっての大きなチャンスとなるだろう。

総合勢は休息日明けに無理することを嫌い、争う姿勢を見せないはずだ。翌日からまた厳しいステージが連続するだけに。

 

大きな登りとしては残り32.5㎞地点で2級山岳ポルテ・ダスペ峠(登坂距離5.4㎞・平均勾配7.1%)が重要だ。登りはもちろん、下りにも十分に注意したい。

何しろここは、かのファビオ・カサルテッリが悲劇の死を遂げた下りであり・・・そして2018年には、フィリップ・ジルベールが同じ下りで崖下に転落している。

この日のステージ優勝を狙いたいアタッカーにとっては勝負所となる下りだけに、無理はしないで欲しい。

 

そしてフィニッシュ前7㎞地点には登坂距離800mと短いながらも平均勾配8.4%の急坂が待ち構えている。

ここまで小集団で逃げ切っていた先頭集団にとって、最後のセレクションの舞台となりうるところ。それなりに登坂力があり、かつ加速力をもつパンチャータイプに有利と言えそうなステージだ。

それこそジルベールがあの日のリベンジを狙えるかもしれない? もちろん2018年に山岳賞ジャージを着てこの休息日明けのポルテ・ダスペ峠ステージを勝利したアラフィリップにもチャンスはある。

 

予習実況はこちら

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第17ステージ ミュレ~サン=ラリ=スラン(コル・ド・ポルテ) 178km(山岳)

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7月14日はツール・ド・フランスにおいてとりわけ特別な1日である。バスティーユ・デイ、すなわち「革命記念日」。2014年にはトニ・ガロパンがマイヨ・ジョーヌを着て走り、2017年にはワレン・バルギルが12年ぶりのフランス人勝利を飾った。

全フランス人ライダーにとってメモリアルなこの日に、今年のツール・ド・フランスは超級山岳山頂フィニッシュをぶつけてきた。

 

レイアウトは非常にシンプル。前半部分は平坦が続き、一生忘れられない勝利を目指して果敢なアタッカーたちが飛び出そうと激しく動くだろうが、それがひとたび確定すれば、あとは不気味なくらいに静かな時間が流れることだろう。

勝負に火がつくのはスプリントポイントを越えたあと残り50㎞台からだ。まずはピレネーの定番、1級山岳ペイルスルド峠を越える。

その後は1級山岳ヴァル・ルーロン・アゼ峠を越えて超級ポルテ峠の山頂フィニッシュとなるが、このヴァル・ルーロン・アゼ〜ポルテの道のりは、2018年ツールのあの「65㎞」超短距離ステージで使われた組み合わせである。

 

もちろん今回は、それよりもずっと長い。さらにはペイルスルドが加わる。

あのときもナイロ・キンタナが勝利し、総合争いも動く白熱した展開が続いたが、今回はより厳しく激しい戦いが繰り広げられることになるだろう。

 

最後のポルテ峠のレイアウトは以下の通りである。

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登坂距離16㎞という長さで平均勾配8.7%という時点で十分に厳しいが、その最大の特徴は、これが一部区間が激烈に厳しいというわけではなく、16㎞延々と8%以上の勾配が続いているという点である。

厳しい1級山岳を2つ越えた先のこの凶悪な峠で、一体どんなドラマが描かれるのか。

 

 

参考までに3年前のこの登りでの展開を復習しておこう。

まず残り13.5㎞で、当時総合4位のプリモシュ・ログリッチがアタック。まだ彼が挑戦者であった時代だ。

これを総合2位のクリス・フルームがチェックし、マイヨ・ジョーヌを着るゲラント・トーマスのための重し役となった。

ゆえにこれを追いかける追走集団の先頭は総合3位のトム・デュムラン。淡々とハイ・ペースを刻むデュムランによって抜け出した2人は捕まえられるが、そのときにはすでに集団の数は10名程度に絞り込まれていた。

さらに総合7位のステフェン・クライスヴァイクがアタック。これを追いかける集団の先頭はエガン・ベルナルが牽引。するとここで総合5位ロマン・バルデが脱落した。

集団には総合1位から4位、6位のミケル・ランダ、そしてクライスヴァイクとベルナルだけが残った。

もう一度、ここでログリッチがアタック。ここでフルームが脱落する。

ベルナルがフルームのアシストに回るが、最終的にこれでフルームが総合3位に転落し、デュムランが総合2位に浮上することとなった。

 

今年もこの登りで激しい「最終決戦」が繰り広げられることになるのか。

しかし激戦が約束されたステージはここで終わりではない。

次もまた、シンプルかつ強力なステージである。

 

予習実況はこちら

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第18ステージ  ポー~リュス・アルディダン 129.7km(山岳)

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ひたすら登っては下って・・・というようなステージは実は第3週では存在せず、そういったステージは第2週最終日のアンドラステージに任されている。ゆえに今大会のクイーンステージはそのステージであるとも言われたりする。

しかし一方で第3週の第17ステージ、そしてこの第18ステージの、実にシンプルな作りながらも単純に凶悪、というステージもまた、大きなドラマを生み出すことが多い。

前半は平坦基調。もちろん序盤はアタック合戦で大荒れになる可能性はあるが、トップクライマーたちの足を必要以上に削ることはなさそうだ。

この日も残り50㎞を切ったあたりからが重要になる。

 

まずはピレネーの定番、超級トゥールマレー

登坂距離17.1km、平均勾配7.3%。これまでも数多くのトップクライマーたちを迎え入れてきた、晴れていれば非常に美しい雄大なる峠道である。

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これを越えて最後に訪れるのは、超級リュス・アルディダン山頂フィニッシュ。

登坂距離13.3㎞。平均勾配7.4%。

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ジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャに登場する山のように、異様な急勾配が登場するわけではない。

しかし10㎞以上にわたって、8~10%以上の勾配がだらだらと続く、真に強いクライマーでなければ生き残れないサバイバルな登り。

実にツール・ド・フランスらしい超級山岳を2つ詰め込んだ、今大会最後の山岳ステージである。

 

こういうレイアウトを見ると思いだすのは2015年のツール・ド・フランスである。

おそらく、クリス・フルームが最大の危機に陥ったツールだと記憶している。

あの年の第20ステージ。同じピレネーで行われた、最終決戦。

あのときはステージ中盤にガリビエ峠、ラストにラルプ=デュエズと、より豪華な組み合わせではあったものの、超級山岳が2つという構成は同様。

そしてこの最初の超級山岳で、ナイロ・キンタナがアレハンドロ・バルベルデのアシストを受けて飛び立った。

この攻撃の試みは結局のところうまくいかなかったものの、最後のラルプ=デュエズで再びキンタナが攻撃。ここでフルームが遅れ始めた。

 

最終的にはクリス・フルームに1分12秒差までキンタナが迫る結果に。2017年のツール・ド・フランスではリゴベルト・ウランが1分未満のタイム差で総合2位にはなっていたものの、「よりフルームが追い詰められた」印象が強いのはこの2015年のレースだった。

今年もこの「2つの超級山岳」で彩られた山岳最終決戦で、予想のつかない激戦が繰り広げられる可能性がある。

それはおそらく、最初の超級山岳トゥールマレーから開幕することだろう。今年のジロ・デ・イタリア第20ステージのダミアーノ・カルーゾの「ベルナルを最も慌てさせた攻撃」が繰り広げられたのもまた、最後から2つ目の登りからであった。

 

 

あとは、この第3週に待ち受ける勝負所となる第17・第18ステージが「山頂フィニッシュ」であることが素直に嬉しい。

近年、下りフィニッシュがトレンドと化し、変化を求める主催者の思惑が伝わってくる。

しかし、トップクライマーたちによる手に汗握る勝負はやはり山頂フィニッシュでこそ見出せる気がしている。最後の最後まで、誰がいつ崩れ落ちるか分からないという、あのハラハラ感・・・。

 

オールラウンダー向きに舵を切りつつも、この点は「原点回帰」しつつある今年のツール・ド・フランス。

クイーンステージはアンドラのステージなのかもしれないが、一方でこの第3週のシンプルな2つの山頂フィニッシュステージにこそ、個人的には一番期待している。

 

 

なお、このリュス・アルディダンは2011年大会にも登場した。そのときもトゥールマレーとのセットであった。

このとき勝ったのはトゥールマレーの下りでアタックしたサミュエル・サンチェス。

メイン集団による総合争いは、このリュス・アルディダンの登りの最後の4㎞でのアンディ・シュレクのアタックで幕を開けた。

すかさずこれを抑え込んだアルベルト・コンタドール。しかしアンディの兄フランク・シュレクがカウンターでアタック。

これに反応したイヴァン・バッソのペースアップによって、集団の数は一気に10名程度にまで絞り込まれることとなった。

そして残り2.5㎞で再びアタックしたフランク・シュレク。

それまでの様子見と違った、本気のアタック。これに誰もついていけない。

残り1.8㎞でパッソがペースアップを図るが、カデル・エヴァンスによってこれは抑え込まれる。

残り1.5㎞でエヴァンスが自ら仕掛けるも、ライバルたちを突き放すことはできなかった。

 

そしてフランク・シュレクが先頭サミュエル・サンチェスから10秒遅れのステージ3位でフィニッシュ。

そこから20秒遅れでバッソ、エヴァンス、アンディ・シュレク。25秒遅れでダミアーノ・クネゴ、33秒遅れでコンタドールがフィニッシュとなった。

そして40秒遅れでピエール・ローランに守られながらフィニッシュしたのが、このときマイヨ・ジョーヌを着ていたトマ・ヴォクレール。

この日の粘りによって、彼は引き続きマイヨ・ジョーヌを着続けることとなった。

 

 

当時はまだ中盤の第11ステージで行われた戦いだけに、まだそこまで激烈ではないものの、確かな総合争いが繰り広げられたこのトゥールマレー~リュス・アルディダンステージ。

今年は最終決戦の舞台となったことで、より激しい戦いが繰り広げられることだろう。

この日を終えれば、あとはもう、第20ステージの個人TTで全ての決着がつくこととなる。

 

予習実況はこちら

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第19ステージ ムランクス〜リブールヌ 207km(平坦)

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ピレネーを後にして、ボルドーに向かってまっすぐ北上する今大会最後の移動ステージ。小さな起伏はあれど、基本的にはオールフラット。

ジロと比べるとツール・ド・フランスは「3週目の平坦ステージ」はあまり多くない印象。2014年にはラムナス・ナヴァルダスカスが、2017年にはエドヴァルド・ボアッソンハーゲンが、昨年は(正確には平坦ステージではないが)セーアン・クラーウアナスンが逃げ切っている。ただし2018年にはアルノー・デマールが普通に集団スプリント勝利をしていたりと、必ずしも逃げ切りばかりで決まるわけではない。

とはいえ2018年も厳しいアルプスの山岳地帯によってグライペルやキッテルやガビリアやフルーネウェーヘンがすでにツールを去っており、サガンも落車で負傷する中でのデマールの勝利だった。同じく集団スプリントで決まるにしても、ここまでの厳しいアルプスとピレネーを経た上での戦い。一筋縄ではいかないだろう。

もちろん、山岳ステージを越えるほどの足は持っていないながらも逃げ足だけは早いエスケーパーたちにとっては、大きなチャンスである。「ツールの勝利」は何ものに替え難い。歓喜の涙を見せる選手は現れるか。

 

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第20ステージ  リブルヌ~サン=テミリオン 30.8km(個人TT)

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最近ではすっかり定番となった、「最終日」TT。

今大会は第5ステージのTTと合わせ、合計58㎞。しかも、両方ともほぼほぼ平坦基調でのTTということで、ここまでTTの比重が大きいツール・ド・フランスはどれくらいぶりだろうか・・・それこそ、2012年とか、それくらいまでさかのぼるかもしれない。

とはいえ、今大会最有力の2人――タデイ・ポガチャルとプリモシュ・ログリッチ、あるいはそこに続くゲラント・トーマスやリッチー・ポートなど――は皆、平坦TTですら武器にしがちな純粋オールラウンダーたちである。総合優勝争いにおいては、もしかしたら大きな意味を持たないかもしれない。

逆に純粋クライマータイプの優勝候補たち――ギヨーム・マルタンやサイモン・イェーツ、ダニエル・マーティンやナイロ・キンタナなど――にとっては、厳しいステージとなってくる。

リチャル・カラパスやウィルコ・ケルデルマン、ヤコブ・フルサンらもTTは決して苦手ではないものの、平坦TTを得意とするというほどではないため、ログリッチやポガチャルたちにさらに差を付けられてしまうリスクはある。

彼らが上位に来るチャンスをつかんでいたとしたら、この日逆転されないよう、前日までにしっかりとアドバンテージを確保しておく必要があるだろう。

 

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第21ステージ シャトゥ〜パリ・シャンゼリゼ 108.4km(平坦)

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毎年恒例、最終日シャンゼリゼ・フィニッシュ。

スプリンターたちの世界選手権とさえ呼ばれる、最高の栄誉の舞台が待ち受ける。

石畳のやや登り基調のフィニッシュは意外な選手が2位に入ったりといったことは多いものの、勝利はその時代を代表する選手によって成し遂げられることが多い。

過去の勝者は以下の通り。

 

マーク・カヴェンディッシュ(2009~2012)

マルセル・キッテル(2013・2014)

アンドレ・グライペル(2015・2016)

ディラン・フルーネウェーヘン(2017)

アレクサンドル・クリストフ(2018)

カレブ・ユアン(2019)

サム・ベネット(2020)

 

今年もここまで絶好調のサム・ベネットか。しかし直近の膝の怪我が不安要素ではある。

今大会全グランツール制覇を目指すユアンは、このツールも途中リタイアする可能性がある。

となれば――可能性としては、アルノー・デマールが2003年のジャン・パトリック・ナゾン以来18年ぶりとなるフランス人シャンゼリゼ勝利を成し遂げる可能性も?

 

そして、栄光のマイヨ・ジョーヌを手に入れるのは?

ポガチャルとログリッチが抜けているように見えながらも、何が起きるのかまったく予想のつかない今年の(今年も)ツール・ド・フランス。

果たして3週間の果てに我々はどんな景色を見ることになるのか。

 

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