2年ぶりに本来のスケジュールで開催されたジロ・デ・イタリア。その裏側で、ツールに向けて徐々にコンディションを上げていくあの男の活躍も。今年3年ぶりのツール出場を目指すアルノー・デマールも、絶好調ぶりを発揮している。
目前に迫ったツールに向けた各チームの選手たちの5月下旬でのコンディションを再確認していこう。
女子レースでも5月はル・クルス、もしくはジロ・ローザといったビッグレースが控える中、現時点での各選手たちのコンディションを確認するワールドツアー、Proシリーズのレースを確認していこう。
目次
- ブエルタ・ア・アンダルシア(2.Pro)
- ブエルタ・ア・ブルゴス・フェミナス(2.WWT)
- ブークル・ドゥ・ラ・マイエンヌ(2.Pro)
- チューリンゲン・レディース・ツアー(2.Pro)
- ジロ・デ・イタリア(2.WT)
参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ
主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
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ブエルタ・ア・アンダルシア(2.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:スペイン 開催期間:5/18(火)~5/22(土)
スペイン南部アンダルシア地方で開催される5日間のステージレース。
こちらも5月前半のアルガルヴェなどと同様に、本来であれば2月中旬に開催されるレースだったのがコロナの影響でこの時期に延期。
ただ、アルガルヴェや、また1クラスなのでこちらには載せていないがマヨルカ・チャレンジ(スペイン東側の地中海に浮かぶマヨルカ島を舞台にした4つのワンデーレース群)も同時期にずれ込んだことで、ある意味いつもの2月前半に連続して開催されるスペインレース群を再現できているため、ツールを意識した選手たちにとってはちょうどいいレースとなったかもしれない。
今大会の目玉は何と言ってモビスターに移籍してきたばかりのミゲルアンヘル・ロペスの調子。
ツール・ド・ロマンディで遅めのシーズンデビューを飾りつつもあまり良い走りは見せられず、マヨルカ・チャレンジでも微妙だった彼が、果たしてどんな走りを見せるのか。
また、ヴォルタ・アン・アルガルヴェでは驚きの総合2位を記録したイネオスの「スプリンター」イーサン・ヘイターはまた今回も強さを見せつけられるのか。
ラスト1.5㎞に平均勾配5.8%の登りフィニッシュとなる第1ステージでは、昨年の第2ステージでも優勝しているゴンサロ・セラーノがチーム移籍後初勝利。
第2ステージは残り18㎞から始まる2級山岳(登坂距離8.2km、平均勾配5.6%)でミゲルアンヘル・ロペスが小集団で抜け出すが、これを捕まえたメイン集団の中から、最後の石畳激坂フィニッシュ(最大勾配11.5%)でイーサン・ヘイターが飛び出し、そのまま先頭でフィニッシュ。2位ロペスに7秒差をつけた。
だが、アルガルヴェでは見事な走りを見せてくれたヘイターも、さすがに本格的なクライマーしか生き残ることを許されないアンダルシアのクイーンステージ、第3ステージでは限界を迎えることに。
それはモビスターのチームの力でもあった。総獲得標高4,000m超えのこのステージの、残り22㎞から始まる2級山岳アルト・コラード(登坂距離6.7km、平均6.5%)。ここで初日ステージで勝利しているセラーノが全力で集団牽引を行い、ヘイターはここで脱落してしまった。
これを見て力尽きたセラーノを置いて飛び出したロペスには、前待ちしていたエクトル・カレテロがジョイン。最後の3級山岳(登坂距離4㎞、平均勾配5.8%)で最後にアントワン・トールク(ユンボ・ヴィスマ)とジェームス・ピッコリ(イスラエル・スタートアップネーション)も突き放し、見事な勝利を飾ることとなった。
これで決定的に。最終日もフィニッシュ前5㎞地点の3級山岳でイネオス・グレナディアーズが全力で牽引を図り集団をバラバラにするが、肝心のロペスはしっかりとここに貼りついていった。
最後は小集団スプリントで先行したヘイターにダリル・インピー(イスラエル・スタートアップネーション)とロバート・スタナード(チーム・バイクエクスチェンジ)が迫るが、横にずれたインピーとスタナードが接触し落車。結果としてヘイターは逃げ切って勝利を掴んだが、その表情には困惑も浮かんでいた。
総合優勝はミゲルアンヘル・ロペス。ツール・ド・フランスに向けて、まずは満足のいく走りを見せられたといった感じだ。次のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネは果たしてどうなるか。
また、唯一のピュアスプリンターステージではここ数年なかなか勝ちきれなかったアンドレ・グライペルが、アレクサンダー・クリストフ(UAEチーム・エミレーツ)やマッズ・ピーダスン(トレック・セガフレード)を打ち破ってマヨルカ・チャレンジ最終日(トロフェオ・アルクディア~ポート・ダルクディア、5/16)に続く今期2勝目。Proシリーズ(旧HCクラス)以上のレースとしては3年ぶりの勝利であった。
ツアー・オブ・ターキーで4勝を飾ったマーク・カヴェンディッシュと並び、若手だけでなく彼らベテランもまた、再びトップレースで活躍する姿を今後も見ていきたい。
ブエルタ・ア・ブルゴス・フェミナス(2.WWT)
ウィメンズ・ワールドツアー 開催国:スペイン 開催期間:5/20(木)~5/23(日)
スペイン北部のブルゴス県(カスティーリャ・イ・レオン州)で行われるスペインらしい山岳ステージレース。男子レースはブエルタ・ア・エスパーニャの前哨戦として8月頭に開催されているが、女子レースでは例年この時期に。
また、2年前までは1クラス、昨年はProシリーズだったが、今年からウィメンズ・ワールドツアーに。男子レースはProシリーズのままなので、女子レース側がより高いランクになるというあまりないパターンである。
今年最初のウィメンズ・ワールドツアー・ステージレースとなったこの大会で、最初に総合リーダージャージを着用したのは初日に得意の逃げ切り勝利を決めたブラウン。
共に逃げ切った28歳スイス人エリーズ・シャベイ(キャニオンスラム)が2日目の、20歳ニュージーランド 人ニアム・フィッシャーブラック(SDワークス)が3日目の総合リーダージャージを着用するものの、ボーナスタイムのない今大会で得られたタイム差はわずか数秒。
その状態で迎えた最終日は超級山岳ラグナス・デ・ネイラ(登坂距離11.9㎞、平均勾配6.3%)の本格的山頂フィニッシュ。
残り50㎞から逃げ続けたクララ・コッペンバーグ(ラリー・サイクリング)とカトリーヌ・アレルド(モビスター・チーム)は残り700mまで耐え続けるも、デミ・フォレリングの献身的なアシストによってこれらはすべて捕まえられ、フォレリングの意志を継いだファンデルブレッヘンが発射した。
アネミエク・ファンフルーテン(モビスター・チーム)がここに食らいついていった。しかし、ファンフルーテンとしては本来このタイミングで独走に持ち込みたかった。ファンデルブレッヘンと並んでフィニッシュに向かうようでは、勝ち目はなかった。
最後は並ばせることなくフィニッシュ。そしてそのまま、総合優勝もポイント賞も山岳賞も持っていった(新人賞は総合12位のフィッシャーブラック)。
今年引退を信じられないくらいまだまだ強いファンデルブレッヘン。
そしてその後継者フォレリングも、あれだけアシストして区間3位に入ってるあたり、その安定感の高さが凄い。
「最強チーム」SDワークスの天下はまだまだ終わらないのか。
ブークル・ドゥ・ラ・マイエンヌ(2.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:5/27(木)~5/30(日)
フランス北西部、ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏で開催されたステージレース。
2019年までは1クラスでマチュー・ファンデルプールやブライアン・コカール、アントニー・テュルジなどクラシックレースに強いタイプの選手たちが総合優勝している。起伏の多い平坦ステージで構成された、クラシック系スプリンター向けステージレースである。
初日からいきなりの逃げ切り。ドイツ国内で1,2を争う現役シクロクロスライダーでもあるワルスレーベンが勝利するも、ボーナスタイムを含んでもこのとき集団先頭を取ったアルノー・デマールに対しては22秒のアドバンテージでしかなく、ここからデマールが3連勝。ボーナスタイムを積み上げて、見事逆転総合優勝を果たした。
総合2位はワルスレーベン。総合3位は、4位(集団内2位)→3位→2位→7位と上位に入り続けた元スカイのノルウェー人スプリンター、クリストファー・ハルヴォルセン(Uno-Xプロサイクリングチーム)。総合4位にはB&Bホテルス・p/b KTMのブライアン・コカールが入っており、いずれも今年好調なスプリンターである。
とくにデマールのこの完全勝利は、ライバルのカレブ・ユアンがジロからの連戦であることや、同じくライバルのサム・ベネットが練習中の膝の怪我で急遽ベルギー・ツアーを欠場するなど不安要素がある中で、今年のツールの制覇を予感させる好材料となっている。
今年はツールで2勝以上を重ねられるか。
チューリンゲン・レディース・ツアー(2.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:ドイツ 開催期間:5/25(火)~5/30(日)
2019年までは1クラス。リサ・ブレナウアーが2回総合優勝していたりと、スプリントと独走力を兼ねそろえたタイプの選手が活躍するレース。
小さな起伏を特徴とする初日に優勝したのは、月初のフェスティバル・エルシー・ジェイコブスでも区間3勝と総合優勝と大ブレイクしたノースガード。ノースガードはその後も第2・第3ステージで2位を連発し総合首位の座を守り続けるも、ラスト1.1㎞に平均勾配8.3%の激坂が待ち構える第4ステージで、ルシンダ・ブラントに6秒差をつけられて総合3位に転落。
ブラントは翌第5ステージでさらに独走勝利したことで、最終的には総合2位コペッキーに9秒差、総合3位ノースガードに18秒差をつけての総合優勝を果たした。
昨年シクロクロスで圧倒的な力を発揮して女子シクロクロス界では初となる「グランドスラム(シクロクロス3大シリーズ戦+世界選手権の同年制覇*1)」を達成。
女子シクロ世界最強の座を手に入れた彼女が、ロードでもしっかりと実力を証明してみせた。
また、ベルギー王者コペッキーも最後は届かなかったが、最終日もウィーベスに次ぐ2位に入り込み最後まで抵抗し続けてみせた。今年から最強チームSDワークスに移籍した彼女は今年もル・サミン優勝やヘント〜ウェヴェルヘム2位など好調で、このあとのシーズン後半戦も期待していけそうだ。
ジロ・デ・イタリア(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:イタリア 開催期間:5/8(土)~5/30(日)
全21ステージのレースレポートはこちらから
蓋を開けてみればエガン・ベルナルの総合優勝という、それだけ見れば何の不思議もないようなリザルト。
しかしそれは、彼の昨年のツールリタイアからの、背中の痛みとの戦いのことを考えれば、実に感動的な勝利でもあった。
そしてそれは決して彼一人の力ではなく、チーム(スタッフも含めた)一丸となっての勝利であった。
ベルナルとイネオスがいかにしてジロを制したか、については以下の記事を参照のこと。
そして、彼らだけでなく、とにかく数多くのドラマに彩られた3週間であった。
その1人が総合2位のダミアーノ・カルーゾ。
エースのミケル・ランダが序盤でまさかのリタイアを喫したあと、常に静かにタイム差を守り総合順位の上位に居続けた彼を、本当の意味での脅威だと思う者は少なかったはずだ。
それはあるいはベルナルにとってみても。
しかし第20ステージで、彼を最後に脅かしたのはこのカルーゾだった。
名アシストとして尽くし続けてきた男の、一世一代のアタック。それを支えたペリョ・ビルバオが最後に落ちるとき、カルーゾは彼だからこそできる気遣いをビルバオに与え、そのシーンはこの10年の自転車ロードレースにおける10本の指に入る名場面の1つとなったであろう。
そして最後はTTのフィニッシュと共に掲げられた小さなサムアップ。
彼にとってはもしかしたら二度と訪れることはないかもしれない、栄光の瞬間だった。
↓カルーゾについては以下の記事も参照のこと↓
サイモン・イェーツもまた、あの悲劇の2018年ジロ以来3度目のリベンジだったが、結局はまたも頂点には届かなかった。
しかしボロボロの第1週を乗り越えてゾンコランでは他を圧倒する走り。第3週では幾度となくベルナルを脅かし、最後は第19ステージで、それこそ3年ぶりのジロ・ステージ勝利を果たした。
この勢いのまま今年のツールでは何かを残すことができるか。
8ヶ月ぶりのレース復帰となったレムコ・エヴェネプールと、エースという立場とエヴェネプールのアシストという立場とを行ったり来たりしたジョアン・アルメイダもまた、ドラマチックな3週間を過ごした。
最終的にはエヴェネプールはレースを途中で去ることになってしまったが、第3週でアルメイダがさらに調子を上げていく。
どんなにサイモン・イェーツがアタックしてもマイペースな走りでこれに食らいつき、平坦では逆に強烈な加速でライバルたちを突き放す。
最終日のTTでも衰えない強さを発揮して最終的には総合6位に浮上。一時は48位まで落ちていたにも関わらず、見事な復活を遂げて見せた。
来年はチームを離れることがほぼ確定しているアルメイダ。
新たな舞台での活躍を期待したい。
スプリンターでも最初のスプリントステージでのいきなりのティム・メルリールの勝利、ジャコモ・ニッツォーロがついに手に入れたグランツール初勝利、そしてペテル・サガンの久々のグランツールでのスプリントでの勝利とポイント賞の獲得。
もちろん、 全21ステージ中13ステージで実現したグランツール初勝利。
今年のジロ・デ・イタリアはまさに「ドラマ」の3週間であった。
ここでは語り尽くせないほどのボリュームのある今年のジロ・デ・イタリアについて、以下の記事でも色々と語っているので、ぜひ参照していただきたい。
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*1:その定義については異論もあり、その点も下記リンクで言及。