りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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2021シーズン 9月主要レース振り返り(前編)

 

クラシック風味のベネルクス・ツアー、パンチャー向きのツアー・オブ・ブリテン&ツール・ド・ルクセンブルク、そしてヨーロッパ選手権にイタリアやフランスで繰り広げられた「世界選手権前哨戦」。

明日繰り広げられる世界選手権に向けてどの選手が調子がいいのか、確認していこう。

 

目次

   

参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ

主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2019年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2020年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

主要レース振り返り(2021年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど

  

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ベネルクスツアー(2.WT)

ワールドツアー 開催国:オランダ~ベルギー 開催期間:8/30(火)~9/5(日)

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昨年まではビンクバンク・ツアーと呼ばれていた、オランダとベルギーを舞台にしたステージレース。それ以前はエネコ・ツアーと呼ばれ、ベネルクス・ツアーはさらにその前の呼び名でもある。ベネルクスとはベルギー・オランダ(ネーデルラント)・ルクセンブルクの3か国を合わせた呼び方だが、結局今大会はルクセンブルクは通らなかった。

前半は実にオランダらしい海沿いの平坦系のステージが続き、終盤は例年リエージュ~バストーニュ~リエージュ風ステージとロンド・ファン・フラーンデレン風ステージとを用意する、まさに「クラシック・ステージレース」といった特色をもつ。

バロワーズ・ベルギー・ツアーやポストノルド・デンマークルントも総合優勝し、直前のドライフェンクルス・オーベレルエイセやブリュッセル・サイクリングクラシックも勝利している絶好調のレムコ・エヴェネプールも出場し、余裕の総合優勝を決めてくれるかなと思っていたが——初日からメカトラブルに見舞われて大きくタイムを喪失。その後も挽回する動きも見られず総合争いに絡むこともなく第5ステージDNSで大会を去った。

第2ステージで勝利したビッセガーがしばらく総合リーダージャージを着用するも第5ステージで遅れ、代わりに第2ステージで20秒遅れの3位だったシュテファン・キュングが総合リーダーに。

しかし第6ステージの「リエージュ~バストーニュ~リエージュ風ステージ」でこのキュングも遅れる。代わりに、ウッファリーズを中心とするアップダウンの激しい周回コースの残り50㎞で抜け出したのはマルク・ヒルシ、マテイ・モホリッチ、そして「スプリンター」のソンニ・コルブレッリ。

残り25㎞でそこからさらにコルブレッリが独走を開始。ヴィクトール・カンペナールツやティム・ウェレンスなども追いかけていくが、チームメートのモホリッチがうまくローテーション妨害をしたこともあり、追いつけない。

最後は後続を40秒以上突き放し、しかもその追走集団の先頭もモホリッチが奪いボーナスタイムを最小限に抑えたことで、総合2位モホリッチに51秒差、総合3位カンペナールツに53秒差の総合首位に立った。

そして迎えた最終ステージ。「カペルミュール」を4回登らせる恐ろしいステージで、昨年大会はマチュー・ファンデルプールが独走勝利し逆転総合優勝を決めたステージだ。

残り50㎞ほどの2回目カペルミュールにてカスパー・アスグリーンやカンペナールツと共に総合2位モホリッチが抜け出す。一度吸収されたのち、残り26㎞ほどの3回目カペルミュールで今度はモホリッチが独走を開始。

そして前日とは逆に、今度はコルブレッリが追走集団を撹乱し、モホリッチの独走が続く。

残り5㎞でトム・デュムランが集団からアタックするがこれもすぐさまコルブレッリが貼りつき、最後はカペルミュールの登りでコルブレッリがデュムランを突き放す。

そして2日連続のバーレーン・ヴィクトリアスのワンツー。前日はコルブレッリとモホリッチ、そしてこの日はモホリッチとコルブレッリ。

今年のバーレーンの絶好調ぶりを象徴する勝利であった。

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ツアー・オブ・ブリテン(2.Pro)

プロシリーズ 開催国:イギリス 開催期間:9/5(日)~9/12(日)

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昨年はCovid-19の影響で開催できず、2年ぶりの開催となったイギリス最大のステージレース。

マーク・カヴェンディッシュなども出場したもののそこまでピュアスプリント向けのレイアウトは多くなく3位(第8ステージ)や5位(第5ステージ)は獲れたものの、勝利までは難しく、パンチャーや登れるスプリンター向けのレイアウトは、ワウト・ファンアールトとイーサン・ヘイターの2人によって完全に支配された。

両チームとも、最近ではちょっと珍しくなったチームタイムトライアルにおいても優位なチーム。トニー・マルティンとワウト・ファンアールトという世界最強級のTTスペシャリストで構成されるユンボ・ヴィスマは、しかしフィニッシュ直前に(タイム計測で必要な)4人目の選手がパンクでタイムロス。結果、ローハン・デニスやリッチー・ポート、ミハウ・クフィアトコフスキなどで構成されたイネオスがユンボから20秒奪い取っての優勝。ヘイターが総合リーダージャージを手に入れる。

その後はファンアールト、ヘイターともに勝利を重ね、激しいつばぜり合い。

最終的には第7ステージ終了時点でヘイターがファンアールトを4秒上回っての総合首位となり、最終日フィニッシュのボーナスタイムでの最終決戦が期待された。

 

だが、その最終日。肝心のヘイターが集団の中で番手を沈めてしまう。

逆にファンアールトはここをきっちりと勝ちきり、11位フィニッシュとなってしまったヘイターはボーナスタイムを得られず。

結果として、6秒逆転してのファンアールト総合優勝となった。

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前回大会の2019年大会はマチュー・ファンデルプールが制したこの大会。

今年はファンアールトが圧勝。世界選手権に向けて、しっかりと調子を上げてきているのが見て取れる結果となった。

 

 

ヨーロッパ大陸選手権

開催国:イタリア 開催期間:9/8(水)~9/12(日)

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北イタリアのトレントで開催された今年のヨーロッパ選手権。大陸選手権の一種ではあるが、実質的には世界選手権に次ぐ存在感を見せているといってよく、数年前からのプロ解放以来、重要なレースと位置付けられている。

勝者は上記の通りだが、ロードレースの展開だけ確認すると、コースは特徴としては「ポーヴォ(登坂距離3.6km、平均勾配4.7%)」という登りを含んだ周回コースで展開され、リエージュ~バストーニュ~リエージュ風のクライマー~パンチャー向けの丘陵レイアウトとなっており、女子エリートでは残り60㎞からイタリアのソラヤ・パラディンらと共に抜け出したエレン・ファンダイクがそのまま独走に持ち込んで勝利。集団内ではデミ・フォレリングやアネミエク・ファンフルーテンらオランダのチームメートたちがしっかりとコントロールし、相変わらずのオランダ無双ぶりを発揮した形だ。

男子U23ではジロ・ローザ覇者フアン・アユソーやツール・ド・ラヴニール総合3位フィリッポ・ザナなどを含んだ6名の小集団の中から、これだけの丘陵レイアウトでこれだけのクライマーたちに囲まれながらしっかりと生き残った「スヴェン・ネイスの息子」ティボー・ネイスがスプリントで勝利。ジュニア時代のシクロクロスではレムコ・エヴェネプールさながらに圧倒していた才能の塊が、コロナの影響でU23カテゴリが消えた昨年のエリートシクロクロスでは苦戦していたものの、今回こうやってロードにおいてしっかりと存在感を示してくれた。今後、シクロクロスだけでなく、ロードでも強さを見せ続けてくれることを期待したい。

そして男子エリートロードレースでは、サバイバルな展開の中で残り60㎞でツール覇者タデイ・ポガチャルがアタック。そこにマッテオ・トレンティン、マルク・ヒルシ、ブノワ・コヌフロワ、そしてコルブレッリとエヴェネプールといった強豪たち8名だけが先頭に残り、勝負権はこの8名にだけ許される形に。

そして最後から2番目の「ポーヴォ」でエヴェネプールが加速するとコルブレッリとコヌフロワだけが残り、最後のポーヴォでも今度はコヌフロワが突き放された。

しかしコルブレッリはここで引きちぎられなかった。そうなればもう、彼の勝ちは固い。しっかりと最後までエヴェネプールに貼りつき、最後はきっちりとスプリントでこれを降す。エヴェネプールとしては他に選択肢がなかったとはいえ、悔しい結末となってしまった。

しかし今年のコルブレッリは本当に強い。コルブレッリすら突き放すエヴェネプールのアタックになぜついていけるのか。

このまま世界選手権を獲ってしまっても不思議ではないくらいに、今年の彼は本当に強いぞ。

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グランプリ・ド・フルミー(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:9/12(日)

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フランス北東部、ベルギー国境に位置するオー=ド=フランス地域圏・ノール県の町フルミー。のどかで小さなこの町で1928年から続くスプリンター向けのワンデークラシックである。

過去にはロビー・マキュアンやナセル・ブアニ、マルセル・キッテルなども勝っているこのレース。昨年は新型コロナウイルスの影響で中止となっているが、2018年から2大会連続でパスカル・アッカーマンが勝利を飾っている。

今年もアッカーマンが3連勝目を記録するか——と期待されていたが、リュディガー・ゼーリッヒに率いられていい形で先頭に躍り出たアッカーマンを、背後から単独で抜き去って勝利を奪い取ったのがエリア・ヴィヴィアーニであった。

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コフィディス移籍後、全くと言っていいほど結果が出せず、チーム首脳陣からも辛らつな言葉を投げかけられて今期末での移籍が確定的となっているヴィヴィアーニ。

だが、その移籍が決定的になったあと、8月末のツール・ポワトゥーで立て続けに2勝、そしてこのGPド・フルミーと1週間後のグランプリ・ディスベルグ(1クラス)で勝利し、突如として息を吹き返している(上の写真もディスベルグでの勝利)。

とはいえ、いずれも1クラスかProシリーズ。間に挟まったワールドツアーのベネルクスではやっぱりまったく結果が出せず。

果たして来季のヴィヴィアーニはどこで、どんな結果を出すことができるのだろうか。

 

 

ツール・ド・ルクセンブルク(2.Pro)

プロシリーズ 開催国:ルクセンブルク 開催期間:9/14(火)~9/18(土)

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シュレク兄弟やボブ・ユンゲルスなど、小国ながら次々と才能を輩出し続けているルクセンブルク。このルクセンブルクを舞台にした同国最大のステージレースがこのツール・ド・ルクセンブルクだ。

例年、超短距離プロローグから始まるのが通例となっているツール・ド・ルクセンブルクだが、今年はラインレースから開幕。さらに第4ステージに25.4㎞とそこそこ長めの個人タイムトライアルが用意され、趣が少し変化した。

しかし全体的には厳しい山もなくパンチャー向けのアップダウンステージが中心となる構成は変わらず、この丘陵とTTの組み合わせから見ても、先日のツール・ド・ポローニュでも圧勝したジョアン・アルメイダが、今大会も最大の総合優勝候補であると見られていた。

そしてその予想は全くもってその通りとなった。勝利こそ第1ステージのみだが、そのあとの第2・第4・第5ステージはすべて2位。第2ステージを勝利したヒルシも今シーズン前半の不調ぶりからの完全復活を感じさせる絶好調ぶりを発揮したものの、最終的な総合成績ではアルメイダから46秒も差をつけられての2位となった。3位には個人TTで勝利したアルメイダのチームメート、マッティア・カッタネオがついた。

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今大会印象的だったのは第3ステージのモドロの勝利。ブエルタ・ア・エスパーニャでも、ジャスパー・フィリプセンリタイア後のエースを任されたものの、良い走りはできず、発射台のアレクサンダー・クリーガーが頑張っていた中でそこについていけないということが多々あった。

元ランプレ、そしてUAEチーム・エミレーツやEFエデュケーションとチーム変遷を繰り返してきたイタリアンスプリンター。その、実に3年ぶりの勝利は、彼に涙すら流させた。

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勝つことが宿命づけられたスプリンターというのは本当に辛い立場だと思われる。命を懸けて挑み勝利を掴んだ瞬間はヒーローでも、その全盛期は決して長くなく、やがて苦しさが喜びを増していくときもあるだろう。マルセル・キッテルを引退に追い込んだのもそういった境遇であったはずだ。

だからこそ、そこでも耐え抜き勝利を掴んだ瞬間の彼らの姿を見るのは嬉しい。これからも、チャンスを掴み続けてほしい。

 

 

コッパ・サバティーニ(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:イタリア 開催期間:9/16(木)

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イタリア・トスカーナ地方で開催された、1952年から開催される伝統あるワンデー丘陵レース。開催前年に病死したジュゼッペ・サバティーニの名を冠する。
過去にディエゴ・ウリッシやエドゥアルド・プラデス、アンドレア・パスクアロン、フアン・ロバトなど有力なパンチャー勢が勝利を掴み続けており、昨年も好調だったディオン・スミスが勝利している今レース。

残り50㎞を切って14名の先頭集団が形成され、その中には過去2回このレースを勝利している現ヨーロッパ王者ソンニ・コルブレッリ、ハーマン・パーンシュタイナー、ジャンニ・モスコンなど強力な優勝候補たちが入り込む。

その中に、EFエデュケーション・NIPPOが今年のクラシカ・サンセバスティアン勝者ニールソン・ポーレスとミケル・ヴァルグレン、ルーベン・ゲレイロを入り込ませていた。

さらに数を減らしていく集団の中でもなおポーレスとヴァルグレンが生き残り、波状攻撃を仕掛けていく。

最終的にラスト1.2㎞から始まる最終登坂でポーレスがアタックすると、そこにモスコンが食らいついていったものの、これを捕まえた集団の中で、しっかりと足を残していたヴァルグレンが一気にアタックした。

そこにコルブレッリも食らいつく。先日のヨーロッパ選手権でエヴェネプールのアタックに食らいついていった彼の足はこの日も本物であった。しかし、3年前にオンループ・ヘットニュースブラッドとアムステルゴールドレースを同年に制覇したあのときの強さを取り戻したかのようなヴァルグレンの勢いに、ついにはコルブレッリも諦めざるを得なかった。

最後はヨーロッパ王者を突き放し堂々たる勝利。前日のジロ・デッラ・トスカーナで涙の3年ぶり勝利を実現したばかりのヴァルグレンが、その勢いが本物であることを示す連勝を達成。世界選手権に向けても、十分に期待できる強さを見せつけてくれた。

 

 

プリムス・クラシック(1.Pro)

プロシリーズ 開催国:ベルギー 開催期間:9/18(土)

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ヘラーツベルヘンにもほど近いブラーケルの町を出発し、スタート直後に「テンボッセ」の登りをこなす。

そこからフランドル世界選手権の重要地域オーベレルエイセの街を通過し、世界選手権でも使用される「モスケストラート」や「スメイスベルフ」もこなす、まさに前哨戦の中の前哨戦。ゆえに出場選手たちも豪華で、先日のポートエピックを優勝したばかりのマチュー・ファンデルプールや、現世界王者のジュリアン・アラフィリップなどが参戦していた。

残り40㎞を前にしてマチュー・ファンデルプールがアタック。ここにすぐさまアラフィリップが反応。東京オリンピック以来、腰の痛みがひどくこの時点で世界選手権への出場自体も確定していないという状況のファンデルプールだが、当然アラフィリップはそんなことお構いなしに全警戒モードである。

そして2人が抜け出すがアラフィリップは先頭交代を拒否。彼は一人で戦うのではなく、チームで戦っているのだから。

実際、その後集団に捕まえられたあとにもアラフィリップが積極的にアタック。一連の動きで集団の数は絞り込まれていき、精鋭のみが先頭に残る形に。11名。その中にドゥクーニンク・クイックステップが5名。圧倒的優位を築き上げた。

さらに残り20㎞前でファンデルプールがパンク。アラフィリップも追走集団に吸収されるが、その後彼はローテーション妨害によって先頭集団に残るチームメートのために尽力することとなる。

最終的に先頭はホノレとセネシャルとストゥイヴェンの3名に。ストゥイヴェンももちろん強いが、先日のブルターニュ・クラシック3位のホノレと、ブエルタ・ア・エスパーニャで1勝しているセネシャルという好調の2人を前にしては、成す術はなかった。ストゥイヴェンお得意のレイトアタックも、ホノレが先行して動くことによって完全に封じ込められた。

牽制の末に追い付いてきたトッシュ・ファンデルサンドらと合流しつつ、最後はホノレが最初にスプリントを開始してストゥイヴェンらを誘い出し、しっかりとセネシャルがベストタイミングでスプリント。問題なく勝利を掴み取った。

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これでドゥクーニンク・クイックステップは(9/19の1クラスレース、グーイクス・パイルでのファビオ・ヤコブセンの勝利と合わせ)62勝目。2019年の64勝もすでに目前に迫っており、相変わらず強すぎるウルフパック。

世界選手権もこの勢いで制することができるか?

 

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