りんぐすらいど

サイクルロードレース情報発信・コラム・戦術分析のブログ

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パリ〜ニース2021 コースプレビュー

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Class:ワールドツアー

Country:フランス

Region:-

First edition:1993年

Editions:79回

Date:3/7(日)~3/14(日)

  

新型コロナウイルスの影響で、例年よりもずっとスロースタートとなった今年のサイクルロードレースシーズン。

しかし2月頭からのレース開始以降は怒涛の勢いで各種レースが開催されていった印象だ。開催レースが少ない分それぞれ小さなレースでも豪華なメンバーが集まり、1個1個のレースが濃密になったからかもしれない。

 

そんなこんなで、「もうパリ〜ニースか」という思いも正直ある。

 

だが今年はここまで調子の良い「イネオス山岳トレイン」と、他レースと比べてその主戦力のシーズン開始が遅くなっている昨年の「最強」ユンボ・ヴィズマとが激突する注目度の非常に高いレース。

果たして今年、最強のチームはどこなのか。

まずは全8ステージの詳細とポイントを確認していこう。

 

 

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第1ステージ サン=シル=レコール〜サン=シル=レコール 166㎞(丘陵)

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ヴェルサイユから西に4㎞、パリの南西約24㎞に位置する小さなコミューン。

1周約80㎞の周回コースを2周。その中に2つの山岳ポイントが含まれているため、計4つの3級山岳が用意されている。

それぞれ登坂距離は1㎞程度で、平均勾配も5%ちょっと。

 

その他、カテゴリのついていない細かなアップダウンがひたすら続き、最後はスプリントで決まるとはいえピュアスプリンターたちが全力を出せるレイアウトかというと微妙かもしれない。

優勝候補は昨年のジロ・デ・イタリアで4勝し、このパリ〜ニースと(とくに開幕ステージと)相性の良いアルノー・デマール。

ただ昨年はジャコモ・ニッツォーロ、ニッコロ・ボニファツィオ、イバン・ガルシアと割と意外な顔触れが勝利を掴んでおり、過去にもまだ台頭しきっていない時期のソンニ・コルブレッリやサム・ベネットが勝ち始めるその時期に勝利していることから、今年も若手には注目していきたい。

 

 

第2ステージ オワンヴィル=シュル=モンシアン〜アミリー 188㎞(平坦)

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パリ近郊のオワンヴィル=シュル=モンシアンから南下し、オルレアン近郊のアミリーまで。

イル=ド=フランスを抜け、いよいよ「太陽に向か」っていく。

 

特に前半は小刻みなアップダウンが続き、残り115.5㎞地点に3級山岳が1つ。

しかし中盤以降は平坦が続き、終盤にもスプリンターたちの足を止める要素は存在しない。

真っ当な集団スプリントでの決着となりそうだ。

 

もちろんそれは、穏やかな天気で展開した時の話。

例年吹き荒れる強い横風が予想を大きく超えたサバイバルレースを生み出すパリ〜ニース前半戦。

2017年に同じアミリーにフィニッシュした第2ステージでも、リッチー・ポートが分断の憂き目に遭い13分遅れで総合争いから脱落。ラストもあらゆるスプリンターが鈍重に走り出さざるを得ない中でタフネスさは随一のコルブレッリがワールドツアー初勝利を遂げた。

今年も荒れるのか。天気予報には注意が必要だ。

 

 

第3ステージ ジアン〜ジアン 14.4㎞(個人TT)

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前日のアミリーと同じサントル=ヴァル・ド・ロワール地域圏のコミューン、ジアンを舞台にした個人タイムトライアル。ジアン焼きで有名な町である。

TTのレイアウトは全体的には平坦基調ながら、ラスト400mが平均6.3%の登り基調。

基本的には純粋なTTスペシャリストが有利となり、昨年の優勝者セーアン・クラーウアナスンやバイクエクスチェンジに「出戻り」したマイケル・マシューズ、AG2R入りしたボブ・ユンゲルス、あるいはもちろん総合優勝候補であるプリモシュ・ログリッチやマキシミリアン・シャフマン、リッチー・ポート(あるいはテイオ・ゲイガンハート)、ペリョ・ビルバオなどの成績にも注目しておきたい。

一方でTTがそこまで得意でない総合争い勢であるダビ・デラクルスやアレクサンドル・ウラソフ、ギヨーム・マルタン、ダヴィド・ゴデュ、ジェイ・ヒンドレーなどがどこまで持ち堪えられるか。

 

 

第4ステージ シャロン=シュル=ソーヌ〜シルーブル 188㎞(丘陵)

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ワインで有名なブルゴーニュ地方を南下し、「ボジョレー」地方の村シルーブルへ。このシルーブルは村単独のAOCワインを生産しているという。

そんな、まさにブルゴーニュの「ワイン街道」を巡るこのステージは、それが故に宿命づけられた激しいアップダウンが特徴。

全部で6つの2級山岳とフィニッシュは登坂距離7.3㎞・平均勾配6%の1級山岳「山頂フィニッシュ」。

総獲得標高は3,500mを超える本格的なアルデンヌ系ステージだ。

 

残り21㎞地点に最後から2つ目の登り「ブルイイ(これもまたボジョレーワインの名産地である)」は登坂距離3㎞・平均勾配7.7%の登りでここで決定的なセレクションがかかる可能性も十分にある。

そして最後の山頂フィニッシュ。これもなかなかのプロフィールで総合勢によるバトルが繰り広げられる可能性は十分にある。

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当然逃げ切りもありうるステージで、予想はなかなかに難しい。

 

 

第5ステージ ビエンヌ〜ボレーヌ 203㎞(平坦)

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リヨンのすぐ南に位置する街ビエンヌから、ローヌ川沿いの渓谷道をまっすぐ南下してボレーヌに。

アルプス山脈を突き抜けて南仏に到達するコースでありながら、ひたすら渓流沿いを進むためにオールフラットな平坦スプリントステージに仕上がっている。

そしてこれは今年のパリ〜ニースにおける最後の集団スプリントのチャンスである。例年波乱に満ちており、サム・ベネットやソンニ・コルブレッリ、イバン・ガルシアなどのスプリンターたちがそのキャリア初期の大きな勝利の舞台にもなっているのがこのパリ〜ニースである。

今年ももしかしたら、意外なニューヒーローが生まれる可能性も。

 

 

第6ステージ ブリニョール〜ビオット 202.5㎞(丘陵)

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いよいよ舞台は南仏プロヴァンスへ。ブリニョールからカンヌを越えてニース近郊のビオットへ。後半に標高1,000m越えの山を越えてラストは2㎞にわたって5%前後の勾配が続く登りフィニッシュ。逃げ屋には最適なコースと言えるだろう。

一方で、逃げ切りにならないとしたら、後半の「登りの上」に設置された二つの中間スプリントポイントが、パリ〜ニースにおいては非常に重要になるボーナスタイム争いの舞台となりそうだ。

逃げ切りの場合にはコート・ド・ゴルドン山頂(残り46㎞地点)からの長い下りも勝負所になりそうだが、落車には注意。

 

 

第7ステージ ニース〜ヴァルドゥブロール・ラ・コルミアーヌ 166.5㎞(山岳)

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昨年の「最終ステージ」ーーもちろんそれは、新型コロナウイルスの影響による中断の結果ではあるがーーと全く同じルートを辿る今大会のクイーンステージ。

昨年はナイロ・キンタナが、そして同じ登りでフィニッシュした2018年大会ではサイモン・イェーツが勝利している。

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その「勝ち方」も確認しておこう。まずは2018年。残り7㎞からミッチェルトン・スコットが強力な牽引を開始し、最後はロマン・クロイツィゲルによって残り4㎞で発射されたサイモン・イェーツ。

ヨン・イサギレだけがこれに食らいつき、前年覇者セルヒオ・エナオも総合2位ジュリアン・アラフィリップも総合3位マルク・ソレルも脱落した。

残り1㎞でイサギレも突き放し、サイモン・イェーツがマイヨ・ジョーヌを手繰り寄せる勝利を飾った。

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昨年はどうか。

同じく残り4㎞でナイロ・キンタナが単独でアタック。

すでに総合争いからは脱落していたキンタナのアタックを押さえ込もうとする選手はおらず、そのまま最終的には2位に46秒差をつけてフィニッシュ。

総合12位から6位にまでジャンプアップを果たした。

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後続のメイン集団では総合2位ティシュ・ベノートが逆転を狙ってアタック。

これを追う総合首位マキシミリアン・シャフマンはニバリやピノ、セルジオ・イギータに集団牽引を任せながらなんとか総合リーダーの座を守り切った。

 

とにかく「残り4㎞」。ここが勝負所になるのは間違いない。

プロヴァンス、UAEツアーと強さを見せ続けているイネオスの山岳トレイン力が勝つか、いよいよ本格始動したユンボ・ヴィズマが今年も強さを見せるか。それとも第3軸が動き出すか。

今年のグランツールの行方を占う上でも重要なステージだ。

 

 

第8ステージ ニース〜ニース 110.5㎞(山岳)

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昨年は実は(ツール・ド・フランスでそれを使うからか)普段の「英国人の遊歩道」フィニッシュではなく、またちょっと違うコースを用意していた。

しかし結局それは、新型コロナウイルスの影響によりお披露目なしに。今年はまた、2年前・3年前と同じコースを踏襲することとなった。

 

すなわち、残り30㎞を切ってからエズ峠を越えて、一度ニースのフィニッシュ地点を通過したのちに、残り8㎞地点でエズ峠の中腹にあたるキャトル・シュマン峠へと登るレイアウトだ。

2018年は、その前年と前々年にアルベルト・コンタドールが目論んで惜しくも成し遂げられなかった大逆転劇を、マルク・ソレルが見事に実現した。勝ったのはダビ・デラクルス。

2019年は総合逆転劇は繰り広げられることはなかったものの、ヨン・イサギレが独走逃げ切り勝利を果たした。

また、昨年のツール・ド・フランスの第2ステージはほぼ同じレイアウトをフィニッシュに用意。そこではキャトル・シュマン峠への登りでジュリアン・アラフィリップがアタックし、ここにマルク・ソレルとアダム・イェーツが追随。最後はこの3名の逃げ切りでアラフィリップがスプリントを制した。

 

ツールの第2ステージとステージレースの最終日とはもちろん展開は異なるだろうが、とにかくエズ&キャトル・シュマンそれぞれでの攻撃とダウンヒル、追走劇と逃げ切り、最後のスプリントといった要素がこのレースを最高に面白くしてくれる。

今年は「逆転劇」はあるのか。それとも。

 

 

次回は全チームスタートリスト&プレビューを予定!

「太陽に向かうレース」。今年のロードレースシーズンの本格的な開幕を告げるこのレースを、楽しみにしていこう!

 

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