りんぐすらいど

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東京オリンピック2020 ロード・TT・マウンテンバイク・トラック中距離全レース振り返り&レビュー

 

7/17に開幕し、8/8までの3週間にわたり繰り広げられた東京オリンピック。

その初日から最終日まで、自転車競技は連日開催され、そして熱い戦いが繰り広げられた。

 

今回は、そんなオリンピックの結果を振り返りつつ、簡単なレビューを記載していきたいと思う。

 

なお、取り扱うのはあくまでも自転車ロードレースとの関係が深いマウンテンバイクやトラックレースの一部くらいまでで、さすがにトラック短距離やBMXまでは取り扱わない。フリースタイル・パークとはものすごく面白かったけれど・・・。

また、トラックレースについてもとくにロードレース選手との絡みが多い中距離種目に絞って確認したいと思うので、ご了承のほど宜しくお願い致します。

トラックレース全体のレビューについてはシクロワイアードやモアケイデンスを確認するのがオススメ。

 

加えて、マウンテンバイクやトラックレースについて筆者は素人もいいところなので、ツッコミどころのあるコメントなどあれば指摘いただければと思います。

 

目次

 

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7/24 男子ロードレース

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レースレポートはこちら

 

直前のツール・ド・フランスで活躍した3名(総合優勝のポガチャル、総合3位のカラパス、ステージ3勝のファンアールト)が表彰台を独占。そして展開もまた、ツールの延長とも言うべき激しく、熱い展開であった。

コースは東京都府中市・武蔵の森公園から神奈川県の相模原市を経て、「道志みち」「山中湖」「富士山麓(南富士エバーグリーンライン)」そして「三国峠」を経て富士スピードウェイへ。総獲得標高4,865mに達する本格的なクライマー向け難関コースである。

スタート直後にできた8名の逃げは最大で20分以上のタイム差を許されたが、前回覇者のグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー)やヤン・トラトニク(スロベニア)による献身的な牽引により、勝負所の三国峠を前にしてこれをすべて吸収。

いよいよ、登坂距離6.8km・平均勾配10.1%という難関峠において、決定的な戦いが幕を開けた。

 

まず仕掛けたのがツール・ド・フランス覇者、タデイ・ポガチャル。このアタックに、マイケル・ウッズ(カナダ)やブランドン・マクナルティ(アメリカ)が食らいつく。

しかしポガチャルはツールで見せたような圧倒的な走りはここでは見せず、この攻撃は一旦吸収。三国峠を越えて山中湖畔に降り立った時点で、先頭は13名の精鋭集団に絞り込まれた。

この中から、残り25㎞地点、小刻みなアップダウンが続く基本的には平坦な区間において、ブランドン・マクナルティがアタックしたのに合わせ、ツール総合3位のリチャル・カラパスが飛びついた。

ポガチャルやワウト・ファンアールトら優勝候補たちがお互いが見合って牽制状態に陥ったことで、この2人の攻撃は見逃され、やはて最大で50秒近くまでタイム差が広がっていく。

籠坂峠を越え、最後の富士スピードウェイへと向かう道の途上でファンアールトが自ら集団を牽いてタイム差を一気に20秒近くまで縮めることには成功したが、それ以上は近づくことができなかった。

 

そしてラスト6㎞。富士スピードウェイ内での小さな登りを利用してカラパスがアタック。これにマクナルティがついていけない。

マクナルティを吸収したメイン集団も必死にこれを追いかけていくが、最後はカラパスがこれを振り切って感動的な勝利を成し遂げた。

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エクアドル人としては史上2人目の金メダリスト。

2019年のジロ・デ・イタリア制覇、そして今年のツール・ド・フランス表彰台に続く、世界の頂点としての栄光を母国に持ち帰ることに成功した。

 

メイン集団ではファンアールトとポガチャルとの一騎打ちが繰り広げられ、これをファンアールトが制する。

「最強」が勝つわけでは決してない。そんな実にロードレースらしい見事な展開を映し出してくれた、素晴らしいコースと展開であった。

 

 

7/25 女子ロードレース

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男子ロードレースと違い中盤以降の「富士山麓」「三国峠」などを除いた137㎞・総獲得標高2,692mのコース。

前回覇者で現世界王者のアンナ・ファンデルブレッヘンや元世界王者のアネミエク・ファンフルーテンなど世界トップクラスのライダーたちを揃えるオランダチームの一強体制と見られ、ライバル国たちがこれをどう倒すかがポイントとなっている、はずだったが・・・。

 

序盤にマイナー国を含めた5名の逃げが出来上がるのは男子と同様であった。そのタイム差も男子同様にどんどん開いていき、最大で10分以上にまでなったのも似たような展開であったが、問題は、男子と違って勝負所が比較的緩やかな「道志みち」しかないこと。そして、誰もがオランダを警戒し、オランダが牽かなければ誰も動こうとしなかったこと。

それでも、オランダが男子におけるグレッグ・ファンアーヴェルマートのような、献身的な牽引役を用意できていれば問題はないはずだった。

しかし女子オランダチームが選んだのは、デミ・フォレリング、ファンフルーテン、マリアンヌ・フォス、ファンデルブレッヘンといった、強力無比なエース級ライダーたちによる「波状攻撃」。

それは非常に強力ではあったがだからといって彼女らだけが集団から抜け出すということを成し遂げられたわけでもなく、ただ無意味にペースの上げ下げを行っただけに終わり、先頭5名とのタイム差は思ったほどには縮まらなかった。

そして最終的にはファンフルーテンが単独で抜け出すが、それでもタイム差はまだ6分近く残っている。

そしてその時点で、最大の勝負所であった道志みちは終わってしまった。

 

そして先頭の逃げ集団にはとんだ伏兵が潜んでいた。

オーストリア代表、アンナ・キーセンホーファー。現在は所属するプロチームもなく、数学の研究をする傍ら、国内選手権の個人タイムトライアルを3連覇するというアマチュア最強の女子ライダーであった。

 

そんな彼女が、道志みちあとの「籠坂峠」にて同伴者たちを振り切り、単独走に。

勢いはむしろ増し、残り18㎞地点でタイム差はなおも4分以上残っていた。

しかもオランダチームはさらなる失態を犯した。キーセンホーファーによって突き放された逃げ残りをすべて吸収した時点で、前には誰もいないと勘違いしてしまったのだ。

もちろん、気が付いていたとしても、すでに捕まえられる位置にキーセンホーファーはいなかった。

「権威あるものを過度に信じるべきではなく」「被害者の1人だった」と振り返る、数多くの(おそらく男子よりも遥かに過酷な女子ロードレース界における)苦悩と苦難を乗り越えてきたアスリートが掴み取った、「実力に相応しい」勝利であった。

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集団からは残り6㎞地点でファンフルーテンが単独で抜け出し、歓喜と共にフィニッシュ。しかしその歓喜は、誤った情報に由来するものであり、やがて真実を知らされた彼女は茫然とする。

それでも、5年前のリオでは落車という形で届かなかったメダルを掴み取ることはできた。年齢的に3年後のパリを狙うのは難しいであろう彼女にとっては、重要な一つの到達点ではあった。 

 

驚きに満ち溢れた女子ロードレース。しかしこれもまた、たしかに、ロードレースらしい1つの形ではあった。

 

 

7/26 男子マウンテンバイク

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昨年U23世界王者になったばかりのイギリスの新星、トム・ピドコックが早速世界の頂点を掴み取る。昨年のU23版ジロ・デ・イタリア覇者にして、シクロクロスにおいてもマチュー・ファンデルプールとワウト・ファンアールトと並ぶ3強の1人。ファンデルプールに次ぐ「自転車の天才」が、グランツールデビュー前に大きな花火を打ち上げることに成功した。

最大のライバルはもちろん、マチュー・ファンデルプールだった。しかし、この最大の優勝候補の1人は、まさかの「試走時にはあったスロープが本番時にもあると思っていた」という致命的な勘違いによって大きな落車。立ち上がり再スタートを切るも、やがて途中リタイアの道を選ぶこととなった。

その中で、4列目出走という実に不利な立場からのスタートとなっていたピドコックが、次々と番手を上げていく。前回リオオリンピック覇者で世界選手権では合計11枚の金メダルを獲得しているレジェンド、ニノ・シューターと、今年のワールドカップで最強の実績を残しているマティアス・フルッキガーのスイス人コンビが集団のペースを上げていく中で、4周目についにピドコックが先頭に躍り出た。

 

そのあとはひたすら独走態勢であった。しばらくはフルッキガーが数秒差で追いかけていたものの、徐々にそのタイム差も開いていく。

最終的には彼に20秒差をつけての勝利。

 

実際、ワールドカップでも、出場していた第2戦「ノヴェ・メスト」では、マチュー・ファンデルプールもフルッキガーも1分以上タイム差をつけて圧勝していたピドコック。

その実力はもはや、疑いようはなく、ファンデルプールが万全であったとしてももしかしたらこの結果は変わらなかったかもしれない。

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ワールドカップでフルッキガーに次ぐリザルトを残していたオンドレイ・シンク(チェコ、元バーレーン・メリダ所属)もメカトラによってリタイアするなど、波乱に満ちた展開となった男子マウンテンバイク。

最終的にはシューターを退けてバレロが3位に入るというのも驚きの展開であった。前回リオでは9位、その年の世界選手権では8位になるも、以後世界選手権でもシングルリザルトのなかった男の金星とも言える勝利だ。

 

ピドコックはこのあと、最強チーム・イネオスの一員として初のグランツールたるブエルタ・ア・エスパーニャに出場予定。

そこでは一体どんな「暴れ方」をしてくれるのか。実に楽しみである。

 

 

7/27 女子マウンテンバイク

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左からフライ、ネフ、インダーガンド。

 

台風の影響で雨に濡れぬかるんだ粘着質の地面、滑る石造りの急斜面など、難易度の高いコースがさらに難しくなった状況で始まった女子レース。

まずは今年のワールドカップでここまでの4戦全勝しているロアナ・ルコント(フランス)が抜け出す場面もあったが、メイン周回に入ると先頭は過去3回の世界王者経験をもつヨランダ・ネフと、現世界王者のポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)が支配。

しかしこのフェランプレヴォが濡れた石造りの登り返しで後輪をすべらせ落車。コース端のネットに引っかかり、自力ではなかなか登りづらい急坂を前に、大きくタイムロスをしてしまうことに。

その後はネフの独壇場であった。しかも、これを追いかけるのも同じスイスの2人。

最後はMTB強国スイスが、イギリスの新星に頂点を奪われてしまった男子レースの借りを返すかのように、その強さを明確に見せつけた。

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なお、4位にはシクロクロスでも強さを見せつけるカタ・ヴァス(ハンガリー)が入り込む。今年20歳になるまだ若手中の若手。まだロードレースでは存在感を示せていない彼女だが、MTB・シクロクロスで才能を見せつける若手という意味で、彼女の名前は今後、ロードレースファンも覚えておくべきものかもしれない。

 

 

7/21 女子タイムトライアル

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富士スピードウェイとその周辺を使用した全長22.1㎞のコースは登坂距離5㎞・平均勾配4.4%の登りを含む、総獲得標高423mのアップダウンコース。男子は2周するこのコースを、女子は1周する。

ここで、ロードレースではあまりにも悔しい思いを味わうこととなったアネミエク・ファンフルーテンが、それまで暫定1位の記録を保持していたグレース・ブラウン(オーストラリア)の記録を大きく塗り替えてフィニッシュ。30分13秒。平均時速43.87㎞という驚異的なスピードでこのアップダウンコースを制した(距離の違いがあるので単純には比較できないが、男子のトビアス・フォスやブランドン・マクナルティに匹敵する速度である)。

昨年のTT世界王者アンナ・ファンデルブレッヘンはこのファンフルーテンの記録に1分以上引き離されての3位フィニッシュ。今年のスイス国内選手権ロード&TT両制覇を果たし、昨年の世界選手権でもファンデルブレッヘンに次ぐ2位を記録しているマーレン・ローセルが銀メダル。ローセルもファンフルーテンに56秒突き放されているので、いかにファンフルーテンが驚異的なタイムを叩き出したかがよくわかる。

 

ブラウンは4位。そして、2019年世界選手権TTを制した若き才能、クロエ・ダイガード(アメリカ)は昨年の世界選手権での怪我からの完全復活とは言えず7位。あるいは、この先に控えるトラックレースに照準を合わせていたのか。

 

ファンフルーテン、ロードでは逃した悲願の金メダルを獲得。表彰台の感極まる姿が、その価値を如実に示していた。

 

  

7/21 男子タイムトライアル

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女子レースがファンフルーテンによる「リベンジ」であったと同時に、この男子タイムトライアルもまた、ログリッチによる「リベンジ」が成し遂げられた。昨年のツールであまりにも悔しい敗北を味わった直後にリエージュ~バストーニュ~リエージュで優勝したときのように、今年もまた、ツールである意味昨年以上に悔しい途中リタイアで終わったあとに、まさかの金メダル獲得。

しかも、直前のロードレースでは、まるで暑さに完全にやられていたかのように、補給を慌てて行うような姿も見られていた。話によるとスロベニアチームも驚きの結果だったというこの勝利。プリモシュ・ログリッチという男の、おそらく現役選手最強のメンタルの強さ・集中力の高さがもたらした栄光であったのだろう。

 

復活という意味では、トム・デュムランの銀メダルもあまりにも驚きである。

シーズン冒頭で突如宣言された「休止宣言」。しかし、そこから半年後、彼はチームや周囲の支えの中で再び自転車にまたがり、そしてこの大舞台でかつてのような走りを見せてくれた。

もちろん結果は、5年前と同じ銀。その意味では悔しいだろうが、ここからまた彼が彼なりのペースでその強さを見せ続けてくれることが楽しみだ。

 

世界最強の呼び声も高いフィリッポ・ガンナ(イタリア)は5位に沈む。ただ女子のクロエ・ダイガード同様に、これはこのあとのトラックに焦点を合わせていたことが、結果的には判明することとなる。

これも一つ注目を集めていたワウト・ファンアールト(ベルギー)は6位。さすがにツール、ロードレースの疲れがたまり過ぎていたか。レムコ・エヴェネプール(ベルギー)も9位に終わるが、これはまだ、彼の実力のすべてではないと思われる。その完璧な復活のときが楽しみだ。

 

 

8/3 女子チームパーシュート

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4名1組で先頭交代しつつ、1周250mのトラックを16周(4,000m)し終えたときの、3番目の選手がフィニッシュしたタイムを競うチーム競技。ロードレースで言えばチームタイムトライアルに近い競技。

決勝はドイツとイギリスが激突。前日の予選でイギリスが世界新記録を叩き出したかと思えばすぐにドイツがこれを塗り替えるなど熾烈な争いを繰り広げていた両国。この決勝戦でも、1周目はイギリスがリードを保って通過するも、2周目からわずかにドイツが先行。

そして4周目(1,000m)ではそのタイム差が1.316秒にまで拡大。あとはもう、ドイツの独壇場であった。

最終的には自ら更新していた世界記録をさらに2秒近く更新する4分04秒249。イギリスに対しては6秒以上という圧倒的なタイム差をつけて、最後はその背中を目の前に捉えるレベルでの圧勝となった。

 

元世界王者で今年のロンド・ファン・フラーンデレンでも2位、さらにロード国内選手権のロード&TT両制覇を果たしているドイツ最速のTTスペシャリスト&スプリンター、リサ・ブレナウアーが同じくドイツの最強格TTスペシャリスト、リサ・クレインらと共に世界の頂点を獲得。5年前のリオ・オリンピックでは8位と全く表彰台にも届かなかったドイツが、ついにオリンピックの最高位を手に入れた。ブレナウアーは5年前にもメンバーの1人だっただけに、その感慨は深いであろう。

クロエ・ダイガード含むアメリカは最終的な3位決定戦でカナダを打ち破り銅メダルを獲得。

 

 

8/4 男子チームパシュート

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女子同様4,000mでのタイムを競う男子チームパシュート。

インディヴィジュアル(個人)・パーシュート世界記録保持者のフィリッポ・ガンナを始めとするイタリア代表と、ロードレースでも台頭著しいデンマークとの対決となった決勝ラウンド。

序盤はイタリア優勢に進む中で、徐々にデンマークがペースアップ。2,750mの段階で0.574秒、そして3,125m段階で0.831秒差と、目で見てはっきりと分かるくらいに圧倒的にデンマークがリードしているように見えた。

しかしここから、イタリアが持ち直していく。最後の1周のジャンが鳴る3,750mではそのタイム差は0.285秒まで縮まり、最後の半周(3,875m)では0.055秒差に。

そして最後は0.171秒差でイタリアが大逆転勝利。平均時速64.856kmの3分42秒032という記録は当然、世界新記録。そもそも敗北したデンマークもまた、前日までの世界記録を塗り替えるペースであり、まさに頂上決戦の様相を呈することとなった。

 

カラパス、ピドコックに続く、イネオスから3人目の金メダリスト。

個人タイムトライアルでは5位に沈んだガンナだったが、しっかりとこのチームパーシュートに焦点を合わせていたということをここで証明してみせた。

 

 

8/5 男子オムニアム

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スクラッチ、テンポレース、エリミネーション、ポイントレースという4種類のレースを次々行い、その最終的なポイントで順位を決める個人種目。

 

第1戦のスクラッチは40周(10㎞)を走り終えた際の順位でポイントがつくというシンプルな種目。ポイントがつくのはフィニッシュのみとなるため、そこまでは通常のロードレースのように先頭交代を繰り返しながら足を貯めライバルの様子を窺う。そんな心理戦と最後の一瞬の加速が勝負を決める種目だ。

ただし、これは全種目共通だが、集団から抜け出して1周し、集団に後ろから追い付き周回遅れにする(ラップする)ことでより大きなポイントを得ることができる。

マシュー・ウォルスや昨年のオムニアム世界王者バンジャマン・トマ(フランス)などがこのラップを成功させ、ポイントをリード。最終的なフィニッシュラインではサム・ウェルズフォード(オーストラリア)が先頭でフィニッシュするものの、総合成績ではウォルスが1位。40ポイントを獲得した(このときスチュアートは7位の28ポイント、ヴィヴィアーニは13位の16ポイント)。

 

第2戦のテンポレースは第1戦同様40周回するが、5周目以降は毎周回先頭通過した選手に1ポイントが与えられるという忙しいレース。とくに集団から抜け出して逃げを形成すれば、連続してポイントを獲得できるチャンスを得られるということで、一時は日本の橋本英也もトマやウェルズフォードと共に逃げ、その中で1ポイントを獲得することができた。

また、このレースでもトマ、ウォルス、そしてエリア・ヴィヴィアーニなど数名がラップダウンに成功。それらの第2戦内でのポイントを総合し、最終的に1位になったのがヤンウィレム・ファンシップ(オランダ)。40ポイントを獲得し、ウォルスは3位で36ポイント。スチュアートは12位で18ポイント、ヴィヴィアーニは8位の26ポイントを獲得した。

 

第3戦のエリミネーションは、2周ごとにそのラップの最後尾だった選手が除外されていくサバイバル・レース。イン側にいすぎると身動きがとれなくなり何もできないまま最後尾に追いやられたり、逆にアウト側からポジションを上げれば風の抵抗を受けて体力を奪われる。毎周回の位置取りとタイミング、そして運とですべてが決まる、4種目の中で最も「何が起こるか分からない」緊張感のあるレースだ。

ここまで76ポイントと、ウォルスと並んでトップの合計ポイントを保持していた世界王者バンジャマン・トマは15番目の脱落者に。最後はウォルスとヴィヴィアーニの一騎打ちとなり、これを制したヴィヴィアーニが40ポイントを獲得。ここまで44ポイントしか獲得できていなかった彼が一気に84ポイントを獲得し総合6位の位置に。一方ウォルスは114ポイントとなり、金メダルに向けて圧倒的に有利な立場を手に入れる。なお、スチュアートはトマの次の脱落者となり5位。合計78ポイントとなっている。

 

最終戦ポイントレースは、100周走る中で10周ごとにポイント周回が設けられ、それぞれ1位5ポイント、2位3ポイント、3位2ポイント、4位1ポイントが与えられる。ゴールはそのポイントが2倍に。

もちろん、ラップダウンに成功することで得られる20ポイントも存在。ヴィヴィアーニも1度これに成功するが、キャンベル・スチュアートが何とこれを2回成功。最終的にはヴィヴィアーニを逆転し、総合2位銀メダルに輝いた。

ヴィヴィアーニはわずか5ポイント差で銅メダルに沈む。一方、総合首位でこの最終戦に挑んだウォルスは危なげなくポイントを重ね、最終周回も2位フィニッシュし、金メダルを掴み取った。

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今年ボーラ・ハンスグローエでロードレースにおけるプロデビューを果たしたばかりのウォルス。シーズン緒戦のツール・ド・ラ・プロヴァンスの初日スプリントステージでいきなりの区間5位。シビウ・サイクリングツアーのパスカル・アッカーマンの勝ったステージでも区間3位に入るなど、早速トラックレースで培った脚力を見せている彼が、今後ロードレースシーンでも活躍していく姿が楽しみである。

 

なお、橋本は15位。本人としても悔しい結果に終わった。

 

 

8/6 女子マディソン

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6日間レースなどでは花形競技として知られるマディソン。今大会から女子もオリンピックの正式種目として新たに加わったこの競技は、2人1組で「交代」しながら女子120周・男子200周を走り、5周毎にポイントレース形式(1位5ポイント、2位3ポイント、3位2ポイント、4位1ポイント)でポイントを獲得し、最終周フィニッシュはそれが2倍になるというルール。

交代の際はその手を掴んで相手を思い切り加速して発射させるという、見事なチームワークが試されるという点で個人種目にはない魅力があり、一方で落車も多い激しい種目でもある。

 

全てのポイント周回で4位以内に入りポイントを獲得し続け、さらにはデンマーク、ロシアと共にラップダウンでもさらにポイントを重ね、合計78ポイント。2位デンマークに対し2倍以上のポイントを獲得したイギリスのコンビが圧勝。悔しい敗北を味わったチームパシュートへのリベンジを果たした。

一方、日本の金メダル候補梶原悠未と中村妃智のペアは周回遅れによって降ろされ、最下位15位に沈む結果となってしまった。

 

 

8/7 男子マディソン

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120周の女子種目に対し、200周(50㎞)の長距離を走らせる男子マディソン。

昨年のオムニアム世界王者バンジャマン・トマ率いるフランスコンビと、今回のオムニアムで金メダルを獲得したウォルスと昨年からイネオス入りしロードレースでも今年ヴォルタ・アン・アルガルヴェ総合2位になるなど目を瞠る活躍をしているイーサン・ヘイターとのイギリスコンビが序盤は鎬を削る。

そこに「最強アシスト」ミケル・モルコフとラッセノーマン・ハンセン、昨年のマディソン世界王者コンビが徐々にポイントを重ねていき、110周目についにイギリスと並び首位に立ち、120周目には単独首位となった。

さらに、この110周目に入るころからフランスが集団を抜け出して独走を開始。ラップダウンには至らなかったが、130周目まで先頭通過。140周目もドイツに追い付かれ先頭は奪われるが2位。その4周回での18ポイントが生き、150周目の段階で首位デンマークの33ポイントに1ポイント差の2位につける形となった。このときイギリスは26ポイントでしかなく、徐々に上位2か国に引き離されていくこととなる。

 

さらに終盤、180周目を前にして、ベルギーが単独で集団から抜け出す。180周目、そして190周目を先頭通過したベルギーは逆転でのメダル獲得の可能性が浮上してくる。

だが、イギリスも負けていない。190周目では集団の先頭をイギリスが獲得し、さらにベルギーを捕まえたうえでポイント2倍の最終周もイギリスが先頭で通過。

これによりイギリスはフランスすら逆転し銀メダルを獲得。

世界最強マディソンコンビのデンマークは、危なげなく金メダルを掴み取った。

 

フランスは中盤の独走を成功させて一時有利に展開を進めることができたが、それで体力を使い切ってしまい、終盤に全くポイントが取れなかったことが敗因と言えるだろう。

 

 

8/8 女子オムニアム

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東京オリンピック最終日、全自転車競技の最終戦として開かれたのがこの女子オムニアム。そして日本にとって、昨年オムニアム世界王者の梶原が参戦し、唯一金メダルを本気で狙える種目となった。

第1種目のスクラッチではポジションを前方でキープし、終盤に発生した大落車にも巻き込まれることなく、ヴァレンテに次ぐ2位でフィニッシュ。まずは38ポイントを獲得した。

つづく第2種目のテンポレースではなかなかポイントを得られずにいたが、1ポイントだけ手に入れたことで全体の5位。これで32ポイントを獲得し、合計は70ポイント。1位はヴァレンテのままだが、ワイルドと同ポイントでの総合2位を維持した。

そして第3種目のエリミネーション。ポジションを後ろに下げてしまうことも多かったが、アウトから力を使ってしっかりとポジションを上げてエリミネーションを回避し続ける梶原。同点2位につけていたワイルドは9番目の脱落者となり20ポイントにとどまり、また総合1位のヴァレンテも最後から4番目の脱落者に。梶原は最後の2人にまで残り続け、最後はスプリントでクララ・コッポーニ(フランス)に敗れたものの、2位の38ポイントを獲得。ヴァレンテは34ポイントに留まっただめ、第3戦を終えて合計108ポイント。ヴァレンテにはわずか2ポイント差にまで迫った形で、最終戦ポイントレースへと突入した。

 

だが、エリミネーションでは神がかった走りを見せていた梶原も、そこで足を使いすぎていたのかこのポイントレースではなかなか前に上がれずにポイント獲得を逃し続ける。

一度ヴァレンテが落車するチャンスもあったものの、これも活かすことができないままその周回は無得点に終わり、逆に梶原自身が終盤で落車してしまう事態に。

その間に18点差の総合3位だったワイルドが着実にポイントを重ねていき、梶原まで2ポイント差にまで迫る。

そのまま最終周回。ここでワイルドが4位以内に入ってしまえば、梶原の銀メダルも失われる――といったところで、最後はアマリー・ディデリクセン(デンマーク)らが奮闘し、ワイルドのポイント権を奪い取る。

最後は他力本願でなんとか銀メダルを守り切る形となった梶原だったが、いずれにせよそこまでの3レースでの好成績が最後に実を結び、銀メダル獲得とあいなった。

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決して勝てない戦いではなかっただけに銀メダルでも悔しい思いはあるものの、最後はヴァレンテやワイルドに力負けしていた印象はあり、仕方ないとも言える。

3年後のパリ五輪を彼女がどうするかは不明だが、やはりこの3年で更なる力をつけ、ぜひとも金メダルに向けたリベンジを果たしてほしい。

 

 

これまでは正直ルールもよく分からずたまになんとなく見ているだけだったトラックレースだったが、今回取り上げていない短距離種目も含め非常に楽しめた。

マウンテンバイクと合わせ、これをきっかけに、今後もできるだけしっかりと見ていきたいと思った。

 

とくにマディソン、オムニアムあたりの長距離レースは、とにかく毎周回の戦略や逆転劇の連続がハラハラして見ごたえがある。

今後もこのブログなどでも取り上げていくことも考えてみたい。

 

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