「ジロ&ツール前哨戦」ロマンディ、およびジロ・デ・イタリアの裏側で開催されたレースを中心に。
前半だけで区切るとレース数は少ないが、2月開催からコロナの影響で時期をずらしての開催となったヴォルタ・アン・アルガルヴェについては厚めに振り返る。
ツールも少しずつ近づいていくこの時期。
その有力選手たちの「今」の動向にも注目だ。
目次
参考:過去の「主要レース振り返り」シリーズ
主要レース振り返り(2018年) カテゴリーの記事一覧 - りんぐすらいど
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ツール・ド・ロマンディ(2.WT)
ワールドツアークラス 開催国:スイス 開催期間:4/27(火)~5/2(日)
スイスのフランス語地域圏(=ロマンディ地方)で1947年から開催されているステージレース、ツール・ド・ロマンディ。
今年もジロ・デ・イタリア開幕直前の4月末から5月頭にかけて、ジロ・デ・イタリアに向けての調整やツール・ド・フランスに向けて備えていく選手たちなど、様々な思惑をもった選手たちが集まる山岳ステージレースとなった。
初日のプロローグは終盤に激坂を含んだ4㎞の個人TT。全体の4分の1が登りということで、TTスペシャリストだけでなくある程度登りもこなせる選手にチャンスが与えられた結果、優勝はローハン・デニス、そして2位・3位をゲラント・トーマス、リッチー・ポートとイネオスが占める結果となった。
第1ステージ~第3ステージはスプリントステージとなったが、いずれも悪天候と終盤に用意された登りによってエリア・ヴィヴィアーニやマッテオ・モスケッティといったピュアスプリンターたちは早々に脱落。
勝ったのはペテル・サガンやソンニ・コルブレッリといった登れるスプリンターたち。パトリック・ベヴィンも上位に入り込んでいたのだが、第3ステージを体調不良でDNSとなってしまったのが残念。この第3ステージで集団先頭を取ったのはこれも登れるスプリンターであるマグナス・コルトだったのだが、この日は終盤でアタックしたマルク・ソレルが独走勝利。
バルベルデ、マスに続くチームへの3勝目をもたらしたのはマスと並ぶスペイン若手エース期待の星。パリ~ニース覇者とはいえそれ以外の実績をなかなか出せていない彼が、エースとして臨むジロ・デ・イタリアでは果たしてどんな結果を出せるのか。
そしてクイーンステージとなった第4ステージ。
標高500mから標高2,000mまで一気に駆け上がる長距離山岳登坂フィニッシュで、相変わらず強力なイネオス列車が炸裂する。
そこから残り5㎞で抜け出したのがルーカス・ハミルトン。そしてこれを追って、マイケル・ウッズとベン・オコーナーがアタック。
ウッズはさらに単独で抜け出し、残り4㎞で逃げ続けていたマグナス・コルトとシモーネ・ペティッリを追い抜いて先頭に立った。
後方ではゲラント・トーマスがファウスト・マスナダと共に抜け出し、2番手を走っていたオコーナーに追いつくとともにトーマスだけが単独アタック。
残り2㎞でウッズに追い付き、そのままフィニッシュ勝負となるはずだった。
だが、まさかの、残り50mでのトーマスの落車。
勝利と総合リーダーの座はウッズのもとに。そしてトーマスは、あまりにも悔しい敗北を味わってしまった。
それでも、ウッズとトーマスとのタイム差はわずか11秒。
最終日は16㎞の丘陵個人タイムトライアル。
プロローグでも区間2位を記録したトーマスにとって、この11秒をひっくり返して総合優勝を成し遂げることはまったく難しいことではなかった。
かくして、3年前のツール・ド・フランスでの衝撃の総合優勝から実に3年ぶりの勝利を果たしたゲラント・トーマス。チームメートのポートもこの個人TTで快走し、総合2位に浮上。イネオスでのワンツーを記録し、ツール・ド・フランスに向けてコンディションの良さを見せつけることができた。
ドゥクーニンク・クイックステップのファウスト・マスナダもTTで好成績を記録し、総合3位に。
マルク・ソレルも第4ステージではやや遅れ総合リーダーの座を失ってしまったものの、TTでは悪くなかった。ジロに向けて、着実に調子を上げてきていることが伝わる結果であった。
一方、このTTで失敗してしまったのがマイケル・ウッズ、ベン・オコーナー、そしてセップ・クスやルーカス・ハミルトン。今後の改善が見込まれる。
そして第5ステージでの優勝争いは前半の登り区間も後半の下り区間も安定した走りを見せることのできたレミ・カヴァニャ。シュテファン・ビッセガーも2位と、今期この2人の好調ぶりは実績ベースでデニス、フィリッポ・ガンナを超えている。
そのガンナは初日プロローグに続き、手痛い敗北。ティレーノ~アドリアティコ最終日にもワウト・ファンアールトに敗れており、彼にとっては、ジロ・デ・イタリアを前にして、やや不安の残る結果となってしまった。
フェスティバル・エルシー・ジェイコブズ(2.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:ルクセンブルク 開催期間:4/30(金)~5/2(日)
2008年初開催のルクセンブルクでのステージレース。2019年までは1クラスのレースだったが、コロナでの中止となった2020年を挟み今年からProシリーズのレースに。
初日に2.2㎞の非常に短いプロローグ。続く第1・第2ステージはスプリントステージとなったが、いずれも終盤にアップダウンのある一筋縄ではいかないステージ。
よって、プロローグで優勝しスプリント力もあるロレーナ・ウィーベスが有利かと思われていた中で、第1・第2ともこのアップダウンで完全に脱落。
一方、プロローグでは7秒遅れの区間10位だったエマセシル・ノースガードが、この両方のステージでスプリント勝利したことによって、ボーナスタイムと合わせ圧勝に終わった。
とくに第1ステージでのスプリントは圧倒的。むしろアタック逃げ切りとすら思えるほどに後続を突き放しての勝利であった。
同じモビスター・チームに所属するマティアス・ノースガード(2019年ツール・ド・ラヴニール第1ステージ優勝者)の妹にして、U23個人TT3連覇を果たしたデンマーク最強の若きTTスペシャリスト、ミッケル・ビョーグ(UAEチーム・エミレーツ)の婚約者。
このエマ自身も非常に才能あるスプリンターだったのだが、今シーズンここまで5回の2位を記録するというなかなか勝ちきれなかった才能。
それをここでいきなりの2勝。いずれもエリートの壁にあたっている兄と婚約者とをある意味で越える成果をいきなり叩き出してくれた。
今年まだ22歳。これからが実に楽しみな、若手の1人である。
ヴォルタ・アン・アルガルヴェ(2.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:ポルトガル 開催期間:5/5(水)~5/9(日)
ポルトガル南部のアルガルヴェ地方を舞台に繰り広げられるステージレース。
2つのスプリントステージ、2つの山頂フィニッシュ、そして個人タイムトライアルと、5日間の短い日程の割にはバランス良くステージが配置された個人的にとても好きなレースである。
登りは比較的一定ペースで登れる緩やかなもので、TTの比重が大きいオールラウンダー向きのため、プリモシュ・ログリッチやタデイ・ポガチャル、レムコ・エヴェネプールなど、最近流行りのタイプの選手が活躍している。
今年は新型コロナウイルスの影響で開催日程が本来の2月中旬から移動。結果としてジロ・デ・イタリアと重なる時期となったため、総合系の選手は例年よりも薄め。
それでもスプリンターに関してはジロに出場しない有力勢がそれなりに集まっており、とりわけサム・ベネットとパスカル・アッカーマンの2大スターが集まったのは大きい。
そして大方の予想通り、2つあるスプリントステージはいずれもベネットの圧勝に終わる。
ミケル・モルコフの圧倒的なリードアウトも健在で、ベネットに勝たせつつ自らも6位・3位に入り込むなど強すぎる。そもそもモルコフの前の発射台がオンループ覇者ダヴィデ・バッレリーニなのだから反則すぎる。
一方、アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオのダニー・ファンポッペルも区間2位を2連続ということでかなり調子が良い。
逆に不安を感じさせるのがパスカル・アッカーマン。第1ステージはおそらく落車などに巻き込まれたわけではないはずだが58位。第3ステージも5位と、まったく振るわない。
アッカーマンにとっては盟友ともいうべきルディガー・ゼーリッヒを連れてきているのだが、昨年からどうも、このゼーリッヒとの連携がいまいち取れていないようにも感じる。
この夏はペテル・サガンと共にツール参戦する予定とのことだが、場合によってはサガンを差し置いてエースを務めるチャンスもあり得るこのツール、このコンディションのままでは、その機会も得ることなく終わってしまいかねない。
総合争いは第2・第5ステージの山頂フィニッシュ、および第4ステージの個人TTにおいて繰り広げられた。
まず第2ステージのフォイア山頂フィニッシュ。登坂距離7.7㎞・平均勾配5.8%の緩やかな登りは、一流のクライマーでなくともこなせる難易度ではあるものの、イネオス・グレナディアーズのセバスティアン・エナオとイバン・ソーサがハイ・ペースで刻んだ山岳トレインの最後尾につけていたのはまさかのイーサン・ヘイターであった。
2019年のツール・ド・ラヴニールでは、同じイギリス代表チームのトム・ピドコックと共にステージワンツーを取るなど活躍し、ピドコックより一足先に昨年からイネオス入り。初年度から1クラスとはいえジロ・デッラペンニーノというレースで勝利を飾る。
さらに今年は3月に行われたイタリアのステージレース、セッティマーナ・インテルナツィオナーレ・コッピ・エ・バルタリの第3ステージで、シェーン・アーチボルドやニック・シュルツを打ち破って勝利。最終的な総合順位も総合4位と健闘した。
タイプとしてはパンチャータイプ。登れないわけではないが、基本的にはスプリントに強いタイプのはずの彼が、この本格的な山頂フィニッシュで最後まで食らいつく見事な走り!
そしてフィニッシュ前まできてしまえば、そのスプリント力に敵うものはいない。 W52/FCポルト(ポルトガル籍コンチネンタルチーム)のジョアン・ロドリゲスもスプリント力がない選手ではないが、ヘイターは相手が悪すぎた。
ステージレースの山頂フィニッシュで勝利するヘイター。彼もまた、ピドコックやアルペシン所属のベン・トゥレットらと並び、若きイギリス新世代を代表する注目選手である。
さて、トラック出身のヘイターはTTも得意であり、対するロドリゲスは決して得意とは言えないタイプ。第4ステージのTTでさらにヘイターがリードを伸ばすことになるだろう、と思っていた。
が、このTTでヘイターがまさかの落車。それでもロドリゲスに対して12秒早い記録を叩き出すという驚きの走りを見せはしたものの、これで最終日の総合争いの行方がどうなるかわからなくなってしまった。
最終日はマルハオに向かう定番の山頂フィニッシュ。
逆転を狙う W52/FCポルトが強烈な牽引を見せ、集団が次々と引き千切られていく。
そんな中、前日の落車の怪我も影響し、ヘイターの走りがあきらかに精彩を欠く。
ソーサが懸命にアシストしようとするが、残り2㎞でついにヘイターは千切れ、これを見て集団から先頭にブリッジを仕掛けたチームメートのアマーロ・アントゥネスと共に、ロドリゲスはフィニッシュに向けて爆走していく。
総合優勝のためにほかを顧みずペースを上げていくロドリゲスの背中に張り付いていたエリー・ジェスベールが最後はステージを獲るが、ロドリゲスはそのまま逆転総合優勝。
地元コンチネンタルチームがまさかの大金星を達成することとなった。
なお、北のクラシックではE3サクソバンク・クラシックとロンド・ファン・フラーンデレンを制し最高の活躍をしてみせたカスパー・アスグリーン。
TT能力は申し分なく、登りについても2019年のツアー・オブ・カリフォルニア総合3位と健闘していたため、TT能力も重要なこのアルガルヴェの総合優勝候補になるかも・・!と期待していたが、さすがに北のクラシックにフォーカスしすぎた身体で戦うのは厳しすぎたようだ。最終日マルハオフィニッシュでも区間8位と頑張ったが、最終的にロドリゲスが28秒遅れの総合3位に終わる。
ただ、フォイア山頂フィニッシュのステージで後半ひたすら集団を牽いていたあの動きがなければもう少しいけたのでは・・? ほかに登れる選手がいない中、彼が集団を牽引した理由がいまだに不可解ではある。
また、昨年ツールで山岳逃げ切り勝利し、登りはもちろんTTも強いはずのレナード・ケムナ(ボーラ・ハンスグローエ)が全然ダメだったのが悲しいところ。TT5位のニルス・ポリッツの方が調子が良さそうではあった。
アッカーマンの不調といい、ボーラ・ハンスグローエの状態に不安を覚える5日間でもあった。
トロ=ブロ・レオン(1.Pro)
UCIプロシリーズ 開催国:フランス 開催期間:5/16(日)
フランス北西部ブルターニュで行われる「プティ・パリ~ルーベ」。石畳というよりはあぜ道といった感じの独特な農道を使用したレースで、過去のリザルト的にはパンチャータイプの選手も上位に入っている、パリ~ルーベよりはむしろブルターニュ・クラシックに近いタイプのレース。
今大会も各クラシックハンター以外にもワレン・バルギルなどのパンチャータイプの選手たちにも注目が集まったが、今年のレースに関しては割と純粋な北のクラシックのような展開となった。
最初に形成されていたアレクシス・ブルネル(グルパマFDJ)やエドゥアルド・グロス(デルコ)などが含まれていた6名の逃げは残り40㎞を切るあたりですべて捕まえられ、カウンターで飛び出したのがスウィフト、アレハールト、ルガックたちであった。
一部の選手たちは入れ替わりつつも、この4名はとくに集団とのタイム差をなかなか縮めることなく逃げ続け、残り20㎞を切ってメイン集団でもジョン・デゲンコルプやケヴィン・ゲニッツなどが慌ててアタックするも、捕まえることは叶わず。
唯一プランカールトだけが集団から抜け出して、先頭とジョインすることに成功する。
結局最後までこの逃げ集団をメイン集団を捕まえることができず、のちに追い付いてきたティレルを加えた5名でのスプリント。
元英国王者スウィフトが先行し両手を挙げるが、ギリギリで左手からスプリンターのアレハールトが入線。
一瞬、これは「やっちまった」か? と思ったものの、ギリギリでスウィフトが先行していたことが発覚。
チームメートと共に不安と後悔が入り混じった表情を見せていたスウィフトは、その報を受けてフィニッシュした瞬間以上に爆発的な喜びをチームメートたちと分かち合っていた。
見ているこっちも嬉しくなる瞬間なので、ぜひ以下の動画をどうぞ。
We love it ! 🔥
— Team Arkéa Samsic (@Arkea_Samsic) May 16, 2021
(But stressful 😅)#TroBroLeonWinner @SwiftConnor pic.twitter.com/9girXUFRmE
ただまあ、ガッツポーズは慎重に行こうね。逃げ切りとかでない限り。
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